「——妾たちはもう船に戻る……」
「ああ。 我らの様な穢れた者たちは、学園祭と言う楽しい場にいる資格などないからな……」
「だから美月や。 後は美月たちだけで楽しんでくれ……」
ムーンたちはそう口にすると、身を翻してこの場を去ろうとした。
——その時だった。
『——話は聞かせて貰ったよ!!』
すると、突如聞こえて来た御霊の声と共にそんな彼女……ではなく、妹の御影とカロンがこの場に現れた。
一方で御霊は、そんな御影のマジカルウォッチが空中に映し出したモニターの向こうにいた。……何か夏祭りの時もこうだった気がする……。
『すみません……御霊は極度の人見知りの為、学園祭を回るのは無理で……また画面越しに失礼します』
「
画面の向こうにいるプルートと、この場にいるカロンは息ぴったりに説明した。
どうやら理由も前回と大体同じらしい。
すると、そんな御霊が気を取り直した様に口を開いた。
『サン君とムーンさんが、陽太君たちを助ける為とは言え、自爆紛いの行動をした時から、危うい雰囲気があると思っていたが……成程、そう考えていたんだね……』
ムーンたちが自爆紛いの行動を??初耳なのだが??
『罪の意識……確かにそれは決して忘れてはいけないものだ……。 だが、しかし! 二人の陽太君とサン君。 そして、美月さんとムーンさんが、こうして再び巡り会えたのに、また離れ離れになっては意味がない! 私はそんな誰も望まない展開の為に、この二ヶ月間、死に物狂いで頑張った訳ではないのだ! 故にすまないが……皆これから私のラボに来てくれないか?』
御霊の言う通りだ。
こうしてせっかく自分とサターンは死から蘇って、操られていたムーンとサンも取り戻せたのに、このまま距離を置かれるなんて絶対に嫌だ。
だから、美月とサターンはその提案に乗ることにした。
「分かりました……わ……! 御霊先輩……!」
「ああ! ……すまない、御影。 御霊ちゃんのところへ案内を頼む!」
「お任せ下さい! その為に、私ちゃんはお姉ちゃんの代わりにこの場に馳せ参じたのですから!」
*****
——御霊のラボにて。
「——やあやあ、ようこそ、皆! 私のラボへ!」
御霊は自信満々に自身のラボ……寮の自室へと美月たちを迎え入れた。
メカニカルウィッチ学園では、生徒個人の立場と事情を試みて、特別な対応を取って貰えることがある。
例えば美月の場合は、明日斗博士の娘と言う立場と、ワールドユニオンとスタースピリットから狙われていると言う事情から、寮の最上階を丸々貸し切って、セキュリティが万全な専用の部屋を用意して貰った。
その一方で御霊の場合はと言うと……。
そもそも御霊は、アースと一緒にたった2ヶ月で簡易版の『擬似集合無意識システム』?なるものを作った様に、メカニカルウィッチの開発者である明日斗博士の匹敵するレベルの頭脳を持っていた。何でもワールドユニオンからもスカウトされたことがあるらしい。
それに加え、美月が仮死状態になっている間に行われた、九月の全国大会大学生の部で優勝したことで、大学生チャンピオンバディの称号を三年連続で獲得し、校内の方でも大学部の学園リーグランキングの一位の座を維持していた。
しかし、そんな立場にいる御霊は、極度の人見知り……それも割と日常生活にも支障が出るレベルのものを患っており、その事情を試みた学園側からこうして寮の地下のワンフロアを丸々貰い、そこからリモートで授業を受けているそうだった。勿論、テストやバトルの時は流石に部屋を出るらしいが……。
そして、御霊はそんな寮の自室を、学園リーグランキング一位の特権を使って、自身のラボへと大改造していた。
「煌めき凄いや〜!」
「へ〜! 御霊先輩が天才なのは聞いていたけど、凄いね〜」
「ああ! 大手メーカーが使っている最新モデルの機械まで置いてあるし……どこかの企業のラボと言っても信じてしまいそうなレベルだ!」
「僕も生徒会長として話には聞いていたけど……これは本当に驚きだよ……」
焔たちはそんな御霊のラボを見て、驚きの声を上げていた。
美月も同じだ。自分には専門的な知識こそはないものの、御霊が明日斗博士と同レベルの天才だと言うことを改めて思い知らされた。
だけど今は……。
すると、そんな美月の考えを読んだ様に、御霊が口を開いた。
「——さて、では改めて問わせて貰おう……。 サン君、ムーンさん、君たちは本当に陽太君たちと黒土美月さんの相棒を辞めるつもりなのかい?」
「ああ……。 罪人である我らにその資格などもうないからな……」
「そうじゃ……。 こんな妾と一緒にいたら、美月までもが穢れてしまうのじゃ……」
「サン……」
「ムーン……」
ムーンたちが改めて口にしたその言葉に、美月たちは言葉を失った。
しかし、御霊は臆することなく問い続ける。
「しかし、陽太君たちと黒土美月さんはそんなことは決して望んでいない……。 それに、君たちにだって未練はないのかい……」
「「それは……」」
その問いに、ムーンたちは言葉を詰まらせた。
一方で御霊は畳み掛ける様に言葉を続けた。
「このまま相棒の座を捨てれば……君たちはもう陽太君たちと黒土美月さんと一緒にウィッチバトルができなくなってしまう。 それでも本当にいいのかい?」
御霊はそう言うと、パチンと指を鳴らして、空中に映像を映し出した。それも一つじゃなく、八つも……。
ちなみに、今のは御霊が行った様に見えたが、美月の魔力が見える目によるとプルートが行っていた。なんて自然な連携だろう。
そして、その八つの映像には、今メカニカルウィッチ学園の地下にある八つのスタジアムで行われている、学園祭エキシビジョンマッチの映像が流れていた。
学園祭エキシビジョンマッチ。それは普段の学園リーグランキングとは切り離されたお祭りの様な行事だ。
飛び入り参加が可能で、個人戦でも、タッグ戦でも、チーム戦でも、集団戦でも、バトルロワイヤルでも何でもあり。それでも、明確なルールが一つあった。それは、
映像の中では、学園リーグランキングに名を連ねる生徒まちも、そうじゃない生徒たちも、高等部の生徒たちも、大学部の生徒たちも、皆楽しそうにバトルをしていた。
そんなバトルの映像に美月たちも目を輝かせる中、ムーンとサンも思わず目を惹かれている様だった。
それを見た御霊が思わず笑みを溢した。
「私は知っているよ……陽太君たちとサン君がウィッチバトルが大好きだったことを……。 だって私は、君たちからメカニカルウィッチの楽しさを教えて貰ったからね……。 そして、そんな君たちが、
「「……!!」」
御霊のその言葉に、サターンとサンは大きく目を見開いた。
「私は十年前の事件についてはあくまでも、アース博士から聞いたことしか知らない……。 きっとそこには、陽太君の私を含めた多くの悲劇があったのだろう……。 だけど、それでも陽太君とサン君は、こうして奇跡的にまた巡り会えたんだ! もう一度約束を叶えるチャンスを手に入れたんだ! それなのに、それを捨てることができるのかい?」
「……」
サンはその問いに答えられなかった。
しかし、その代わりにサターンが口を開いた。
「そうだよ! 今の僕は美月の相棒でもあるけど……今でも変わらずサンの相棒でもあるんだ! だから僕は、美月とも、サンとも世界で一番の相棒であるチャンピオンバディになりたいんだ! 欲張りだけど……これだけは絶対に譲れない!」
「陽太……」
そんな陽太の叫びを聞いた御霊は、座っていた椅子から立ち上がると、プルートをその手のひらの上に乗せた。
「サン君……君もきっともう一度、陽太君たちと一緒にバトルをすれば……自分の本当の気持ちに気づく筈だよ……。 だから、私とプルートとバトルして欲しい! プルート!」
「ええ。
すると、プルートは変身魔法でバトル用の姿になった。
「陽太君……覚えている? 昔、いつか全国大会の舞台で本気のバトルをしようと約束したことを……」
「うん、覚えているよ、御霊ちゃん」
「……だけど、私に勇気がなくて、いつまでも先延ばしにしていたせいで、あの十年前の事件が起きて、約束が果たせなくなっていた……」
御霊は悔いる様にそう口にした。
サターンもまた後悔している様に顔を暗くしていた。
しかし……。
「……今の陽太君たちでは、もう私たちと一緒の全国大会の舞台に出れないだろうから、あの時の約束を果たすことはできないけど……。 それでも! こうして再びバトルするチャンスが巡って来たんだ! 全国大会の舞台は無理でも、本気でバトルできるチャンスを神様がもう一度くれたんだ!」
御霊はいつもの人見知りな様子も、ハイテンションな様子も消えた真剣な表情をしていた。
「だから、どうか私がかつて、果たせなかった約束を果たす為にも、
「「……!!」」
御霊のその挑戦状を受けたサターンは、美月の方をチラリと見て来た。
だから、美月もその背中を押すことにした。
「——
美月はサターンと、その中に引っ込んでいるもう一人の兄へと声をかける。
「このバトルに関しては、わたくしは見てるだけに留めます……わ……! だから、どうかお兄様たちとサンで、御霊先輩とプルートとバトルして下さい……ですわ……!」
相変わらず、ちょっと無理をした口調になっていたが、それでも美月は真剣だった。
すると、それを聞いたサターンが決心した様に口を開いた。
「出て来てくれ、陽太! だけど、僕はあくまでも……。 いいや、このバトルだけは、僕たちとサンでやらなければ意味がないんだ! ……そうだね」
サターンは独り言の様に聞こえるが、自身の中にいるもう一人の兄と対話していた。
「サンも!」
「しかし、我は……」
「頼む、サン! 頼むよ、サン、御霊ちゃんの為にも……!」
「……分かった」
そして、二人の兄の説得を受けたサンも折れていた。
「——良し、今こそ御霊ちゃんたちと交わした約束を果たすぞ!」
*****
「——さあさあ、始まりました!
「はいは〜い、相棒のカロンちゃんだよ〜」
「今回の対戦カードは、大学生チャンピオンバディにして、大学部の学園リーグランキング一位でもある、私ちゃんのお姉ちゃんとプルート君! それに対するは、かつての小学生チャンピオンバディである、陽太君たちとサン君! ウィズ美月ちゃん! 果たせなかった約束を、今こそ果たす時です!」
御影とカロンのMCが聞こえてくる中、『市街地』のバトルフィールドに、クロノスサターンとゴーストプルートが立っていた。
今回のバトルフィールドの『市街地』は、メカニカルウィッチ学園第三スタジアムと同じ種類の物で、整備された地面と建物な特徴だった。
ちなみに、今回のバトルは、手のひらサイズのロボット同士がバトルするウィッチバトルで行うことになった。
美月は見ているだけと言ったが、正確に言えば操作に一切干渉せずにいるだけだ。これはクロノスサターンはあくまでも美月とサターンと陽太の機体である以上、仕方がない。
そんな美月は今は車椅子で、まだ病み上がりの身である為、巨大なロボット同士がバトルするスーパーウィッチバトルをさせる訳には行かなかった。
それに、このバトルだけは見知らぬ他人の目が入らないところでやりたかった。御霊のラボに、学園にある物と同じ八種類のウィッチバトル用のスタジアムが置いてあって助かった。
サターンは、自分たちを見守ってくれている美月を背後に、クロノスサターンの調子を確かめる。
クロノスサターンは今回は、全国大会の事件の際に使用したアークユニットではなく、サンが操るサンユニットを装備していた。
右手に装備した巨大な剣の『クロノス
そして、そんな機体を、サターンと陽太とサンの精霊である三人で操作していた。まさか自分も精霊側になるなんて……昔は考えもしなかった。
サターンがそう考えていると、MCの御影の声が聞こえて来た。
「——それでは、ウィッチバトルスタート!」
「さあ、陽太! サン! 御霊ちゃんとプルートに勝ちに行くぞ! ああ……!」
「……分かった」
*****
「——さあ、プルート! 大学生チャンピオンバディにまで上り詰めた私たちの強さを、陽太君たちに見せる時だ!」
「ええ……! 今までの僕たちの努力の成果を見て貰いましょう!」
御影のバトルスタートの合図と共に、御霊とプルートはゴーストプルートの全身のスラスターに火をつけた。
まだバトルが始まってばかりだと言うのに、ワクワクが止まらない。そして、泣きそうになる。
ああ……自分はこうして陽太たちとバトルできるのを、ずっと待ち望んでいたのだ。
そして、建物の上へと登ったゴーストプルートは、仁王立ちしているクロノスサターンの姿を発見した。
さっきも思ったが、やっぱりかつて陽太たちが使っていたダスクサンにどこか似ている……。
ダスクサンは飛び道具を一切持たない、近距離戦闘に特化した機体だった。流石にクロノスサターンは飛び道具も装備しているだろうが、陽太たちならきっと近距離戦闘を主軸にバトルする筈だ。
だから、まずは遠距離攻撃で下調べだ。
「プルート!」
「言われなくても、御霊の考えは全て理解していますよ!」
「「完全変形!
ゴーストプルートはゴーストマルチドローンをローブの様に纏い、両足を折り畳むと、幽霊の様な姿に完全変形した。
そして、浮く様に空中を飛行しながら、ゴーストマルチライフルからビームとレールガンを放った。
だけど、こんな牽制くらい、陽太たちなら軽く撃ち落として来る筈……。
すると、案の定、クロノスサターンはクロノス
「ぐっ……!」
ダメージを受けたクロノスサターンが、その場で膝を突いた。
あんなに強かった陽太たちが……?自分の憧れであった陽太たちが……?この程度の攻撃で……?
確かに、病み上がりの身と言うこともあるだろう……。それに十年近く一緒にバトルしていなかったブランクもあるだろう……。
しかし、
「……プルート、突っ込むよ……」
「普通なら危険ですが……。 今の彼らの現状を確かめる為には仕方がありませんね……」
「「完全変形!
ゴーストプルートは今度は、ゴーストマルチドローンをマントの様に左肩に集めると、騎士の様な姿に完全変形した。
そして、右手をゴーストソードに持ち替えながら、仁王立ち……否、棒立ちのクロノスサターンへと一気に切り掛かった。
「「はあーーッ!!」」
「くっ……!」
「ぬ……!」
クロノスサターンはクロノス
陽太たちの一番得意な近距離戦闘でもこの有様……。どうやら思っていた以上に、重症らしい……。
見た感じ、
このバトルは確かに本気のバトルであるが、別に命がかかったものではない。あくまでも遊びだ。
だけど、その遊びですら陽太たちは純粋に楽しむことができなくなっている様だった。確かに、あの十年前の事件のことを考てれば無理もないだろう。
それでも、彼らにはバトルを楽しんで欲しいかった。だって、自分はそんな陽太たちにメカニカルウィッチの楽しさを教えて貰ったのだから……。
「……」
ゴーストプルートは一度大きく距離を取った。
しかし、クロノスサターンが追撃して来る様子はない。
それならば……。
「……プルート。 私は陽太君たちにウィッチバトルに対する純粋な気持ちを思い出して欲しいんだ……」
「そうですね。 ……ですが、彼らを縛る呪縛は相当なものですよ」
「勿論、分かっている……。 だけど、私はそれでも、このバトルでそれをぶっ壊して見せる! 私はかつて……陽太君にメカニカルウィッチの楽しさを教えて貰った! だから、今度は私の番なんだ!」
今、御霊とプルートの目の前には、憧れの陽太たちとサンと言う大きな壁と、そんな彼らを縛る呪縛と言う大きな壁が立ち塞がっていた。
しかし、御霊たちは大学生チャンピオンバディにまで上り詰めたものの、これまでシンクロゾーンに至ることはできなかった。
二人はお互いを心から信頼し合っている。それは絶対に間違いない。
その問題はあくまでも自分なのだ。どれだけ強なっても、陽太との約束を果たせなかったことへの後悔が、一生消えない傷としてずっと残り続けていた。それがずっと足を引っ張り続けていた。
だけど、今は違う。この後悔はこの先も忘れることはないけど、それでも今こそ乗り越える時が来たのだ。自分の傷を乗り越え、陽太たちの呪縛を晴らさなければならないのだ。
だから、御霊はその為にも世界で一番の相棒へと呼びかけた。
「——頼む、プルート! 私の傷を乗り越え、陽太たちの呪縛を解く為に、世界で一番の相棒である君の力を貸してくれ!」
「勿論ですよ、御霊……! 何たって、僕は御霊の世界で一番の相棒ですから……!」
「「——シンクロゾーン!」」
お互いを心から信頼し合った御霊とプルートは、目の前に立ち塞がる大きな壁を一緒に乗り越える為に、限界を超えた。
シンクロ率が
文字通り二人で一つの存在となり、一心同体、人機一体となる。
「——さあ、楽しい楽しいウィッチバトルの……!」
「時間ですよ……!」