「——ムーン……」
「美月……」
美月は、まるで逃げる様に御霊のラボを後にしたムーンの後を追いかけて、声をかけた。
追いかけた……とは言ったものの、美月は今は車椅子の身なので、リンに手伝って貰った形ではあるが……。
美月は背を向けたままのムーンへと問いかけた。
「ねえ、ムーンもウィッチバトルをやらない?」
「……!」
ムーンは返事を返してはくれなかったが、明らかに反応していた。
やっぱり、先程の兄たちと御霊たちのバトルを見て感化されたのだろう。
「ムーンが過去のことを気に病んでいるのは分かっています……。 だけど、御霊先輩の言った通り、
「……」
「それに、お兄様が言っていた様に、私もムーンの相棒として一緒に罪を……」
「それはダメじゃ!!」
ムーンは美月が説得する途中で、大声を上げた。
そして、ムーンは振り返ると苦悩する様な表情で口を開いた。
「妾は多くの者たちを傷つけた……相棒である美月のことも傷つけてしまったのじゃ!」
「だけど、あれは
「言ったじゃろ! 妾たちは確かに乃亜様の影響を受けていたとは言え、その奥底には確かに嫉妬の気持ちがあったのじゃと! 妾は妾がいないのに笑顔になっている美月の姿を見て、嫉妬してしまったのじゃ!」
美月の擁護すらもムーンはバッサリと切り捨てた。
「そして、あろうことか、
「ムーン……」
ムーンはその瞳からボロボロと涙を溢していた。
美月は居ても立っても居られなくなり、手を伸ばした。
しかし……。
「——美月は妾なんかに触れてはならぬ!!」
「ーーッ!?」
ムーンはそれを大声で拒絶した。
相棒に拒絶された美月は思わず手を引っ込めた。
「妾は穢れた存在なのじゃ……もう美月の相棒でいる資格も……触れる資格すらもないのじゃ……」
「ムーン……」
「だから……美月はもう妾なんか忘れるべきじゃ……。 美月には新しい相棒がいるのだから……」
「——そんなことありません……!」
「……!!」
そんなムーンに対して、今度は美月が叫んだ。
そして、そのまま躊躇うことなくムーンに触れて、自身の胸元に抱き寄せた。
「言った筈です……! 私にとってはムーンもリンもサターンも皆大事な世界で一番の相棒だと……!」
世界で一番が三つ……一見すると矛盾している様にも見えるが、それでも美月は、これだけは決して譲れなかった。
一番最初の相棒であるムーンも……。十年前の事件で母と兄とムーンたちを失って一番苦しかった時期にずっと側にいてくれたリンも……。スタースピリットとワールドユニオンから自分のことを守ってくれた兄であるサターンも……。皆美月にとっては世界で一番の相棒だった。
すると、そんな相棒の一人であるリンが、美月の車椅子の後ろからムーンへと声をかけた。
「ムーン様……お嬢様は確かに、私やサターンと新たに相棒になりましたが……それでも決して、貴方のことを忘れたことは一度たりともないのですよ?」
「はい……! リンの言う通りです……! 私は一日足りともムーンのことを忘れたことなんてありません……!」
「乃亜様と陽太様とムーン様たちを失ったお嬢様は、そのことを毎日苦しんでおられました……。 十年前の事件の直後など、一日中泣いてばかりで、お食事さえも殆どお取りになられませんでした……」
あの頃は本当に苦しかった。死んでしまいたいとさえ思っていた。
だけど、そんな自分のことをリンや爺やたちがずっと支えてくれた。
「お嬢様はその悲しみをどうにかその胸に押さえ込んだ後も、ずっとムーン様のことを気にかけていました……。 お嬢様が小学校に入り、私が後釜の相棒になる時も、ずっと貴方様に申し訳なさそうにしていました……。 そして、私とお嬢様の間に取り返しの付かない事件が起こった時などは、貴方様を裏切ったせいだと、ずっとご自身を責めておられました……」
結局……そのせいで、壊れかけたリンとはもう二度とウィッチバトルができなくなってしまった。
そして、美月は、自分自身が作り出したムーンの幻聴に苦しむことになった。
だけど、今にて思えばあれはきっとただの幻聴ではなかったのだろう……。もしかしたら、自分の本物の魔女の力が、死んだムーンの奥底にある気持ちをキャッチしてしまったのかもしれない……。
「だけど、お嬢様はそれでも、もう二度と一緒にウィッチバトルができなくなった私のことも相棒だと思っていてくれているのです……。 そして、運命によって引き裂かれてしまった貴方のことも……」
「妾のことも……」
リンはムーンへとそう言うと、一度その口を閉じた。
そして、改めてムーンに真っ直ぐに視線を合わせると、静かに問いかけた。
「——ムーン様は私とは違って、もう一度……いえ、貴方様の場合は
「……!! 妾は……」
その問いの返答にムーンは言葉を詰まらせていた。
だから、美月はその背中を押す為にも、一度ムーンを離しながら、改めて声をかけた。
「——ムーン……。 私はムーンと一緒にウィッチバトルをやってみたい……! 十年前の事件のせいで、こうして遅くなってしまったけど……それでも貴方と一緒にバトルしたいの……! だって、
美月は自分の想いを口にすると、改めてムーンへと問いかけた。
「——ムーンはどう思う?」
すると、ムーンはわなわなと体を震わせながらも!ゆっくりと口を開いた。
「——妾だって……! もし許されるのなら、
それがムーンの本音だった。
「——それなら、難しく考える必要なんてない……。 自分の心に素直に従えば良いんだ」
「お兄様……?」
すると、いつの間にかこの場に
「陽太……」
「ムーン……確かに我らは決して消えない罪を犯した……。 しかし、陽太たちはそんな我らのことを、こんなにも思ってくれていた……。 故に我らも、そんな陽太たちに応えるべきなのだ……」
「サン……」
「美月や……本当に良いのか? 妾が美月の相棒でいても……?」
「そんなの当たり前です……! もしそれを否定する様な人がいるのなら……私は本気で怒ります……! それが、例えムーン自身だったとしても……!」
「……!! それなら、妾だって……美月の相棒でいたい……! その座を捨てたくなんかない……!」
「ムーン……!」
美月とムーンは十年前の事件で引き裂かれてから、ずっと離れ離れになったままだった。
自分を狙う者として、敵として、そして、罪人として、ずっとすれ違ってばかりだった。
それでも、今ようやくこうして再び相棒になることができた。
そして、美月とムーンが涙を流しながら抱き締め合っていると、御霊のラボにいる筈の皆の声が聞こえて来た。
「うぅ……ぐずっ……美月とムーンがまた相棒になれて良かったよ……!」
「そうね、焔君……! 私も涙が止まらないわ……!」
「本当に……本当に良かったね、美月ちゃん……!」
「そうだね、小春ちゃん……! 本当に良かったよ……!」
「これで在るべき所に戻れた様だな……」
「フッ、そうだな、冬馬……! これで一件落着だな……!」
何と焔とマーズ、小春とジュピター、冬馬とマーキュリーが、影になっている場所から出て来た。
……え??どこから聞いていたのだろうか??いや、別に何も恥ずべきことは言っていないが、それはそれとして恥ずかしい……!
すると、さらに御霊とプルート、御影とカロンも影になっている場所から姿を現した。
「これでサン君に続き、ムーンさんの方も万事解決かな?」
「そうですね、御霊。
「うぅ……ぐずっ……残酷な運命によって引き裂かれていた相棒たちの絆が元に戻って良かったです……!」
「ほらほら、御霊ちゃん、泣き過ぎだよ〜。 まあ、カロンちゃんもその気持ちは分かるけどね……」
皆にさっきのやり取りを聞かれたのは少し恥ずかしいが、それはそれで都合が良かった。
だって、こうしてムーンと再び相棒になれたものの、まだ
「あの……もし良かったら何ですけど……」
「はい! ウィッチバトルですよね、美月ちゃん! それな、私とカロンちゃんにお任せ下さい!」
美月が皆へと声をかけると、その先を言わずとも、御影が反応してくれた。
「え! それなら俺とマーズだって……!」
「いやいや、あたしとジュピターだって……!」
「む……! 僕とマーキュリーだって……!」
「そうだね、僕とヴィーナスだって……!」
「
それに対して、焔たちも遅れて反応するも、御影はそんな皆に頭を下げていた。
美月も最初に反応してくれたのが、御影だった為、彼女たちにバトルの相手をお願いすることにした。
「……それなら、御影先輩、カロン。 私……んんっ、わたくしとムーンのバトルの相手をお願いできますか……?」
「勿論ですよ、美月ちゃん! 最高に楽しいバトルにしましょう!」
*****
「——さあさあ、始まりました!
「はいは〜い、相棒のカロンちゃんだよ〜」
「今回の対戦カードは、私ちゃんとカロンちゃん! それに対するは、美月ちゃんとムーンちゃん! 美月ちゃんとムーンちゃんが初めて一緒にするウィッチバトルを、私ちゃんが盛り上げて見せますよ!」
御影とカロンはMCとバトルの相手を同時に務めようとしていた。
そんな中、『花畑』のバトルフィールドに、クロノスサターンとシャドウカロンが降り立った。
今回のバトルフィールドの『花畑』は、メカニカルウィッチ学園第六スタジアムと同じ種類の物で、少し高低差のある花畑が特徴だった。
ちなみに、今回もウィッチバトルで行う。こればかりは美月が車椅子の身である為、仕方がない。
そして、先程のバトルは美月が操作に一切干渉せずにいたが、今回はサターンが一切干渉せずにいた。つまり、事実上、美月とムーンだけでバトルすることになる。
そんな美月たちの操るクロノスサターンは、先程まで装備していたサンが操るサンユニットを取り外し、今度はムーンが操るムーンユニットを装備していた。
右手に装備した杖の『クロノス
その姿は、本物の魔女である美月が操るに相応しい、魔女の様な姿になっていた。
そして、MCの御霊が改めて口を開いた。
「それじゃあ、美月ちゃんたち! 準備は良いですか?」
「は、はい……ですわ……!」
「それでは、ウィッチバトルスタート!」
バトルスタートの合図と同時に、御影とカロンのシャドウカロンが突っ込んで来た。
『花畑』は、障害物の何もない『荒野』に近く、さらに今回はウィッチバトルであるが為に、神視点に近い人間視点があるので、その位置が最初から見えていた。
思えば、御影たちとはこれまで何度かバトルして来たが、こうして一対一のバトルをするのは今回が初めてだった。
一番最初は自分たちと焔たち対御影たちと歌たちによるタッグ戦だったし、夏合宿の時もチーム戦や集団戦やバトルロワイヤルばかりしていた。
そして、全国大会高校生の部の舞台でも、完全に別ブロックであった為、焔たちに敗れた御影たちとは結局バトルすることはなかった。
しかし、それでも御影たちとはずっと縁の様なものを感じていた。入学式初日の焔たちとのウィッチバトルで御霊たちMCを務めてくれたのもそうだし、最初の学園リーグ戦の相手だって御影たちだった。
そんな彼女たちなら、自分とムーンの新たな門出の相手にも相応しいだろう。
「私ちゃん! こんなエモエモな舞台を前に、いつもの百二十パーセントのやる気が出ていますよ!」
「うんうん、御影ちゃん、
そんな御影たちは調子にムラがあるのが有名だった。良い時はそれこそ二年生世代最強……なんなら、三年生の咲良たちや王牙たちに匹敵する強さを持つのだが、悪い時はとことんダメだった。
それに、加え相手の実力が見たいが為に、舐めプ?紛いのことをする癖があった。
しかし、今回は美月から見てもかなり絶好調に見えるし、もはや初見ではないので、御影も舐めプ?紛いのことは絶対にしないだろう。
つまり、今回は正真正銘の本気の御影たちが相手だった。
それでも……!
「わたくしだって……! ムーンと一緒にバトルできて、やる気いっぱいです……わ……!」
「そうじゃな、美月! 妾もじゃ!」
クロノスサターンはクロノス
思えば今までは、アーク
しかし、今回は違う。ムーンユニットは正真正銘、遠距離攻撃が得意な美月に合わせて作られた装備だ。つまり、美月の本来のバトルスタイルが発揮できる姿だった。
シャドウカロンも相変わらずのスピードと変態機動で突っ込んで来るが問題ない。
美月の魔力が見える目でその機動を読み、世界で一番の相棒であるムーンがタイムラグ無しで、自分の考えた動きを再現してくれるのだから……!
クロノスサターンはクロノス
「避け……られない……!? イタタ……!?」
「ひえ〜! これが美月ちゃんたちの本気か〜」
シャドウカロンは両腕のシャドウマルチシールドで防御しながら、隙を見て内蔵されたビームガンを連射して来た。
しかし……。
「無駄です……わ……!」
「妾の美月は最強じゃからな!」
クロノスサターンはその軌道すらも全て読んで、一つ残らず撃ち落とした。
だけど、自分たちの力はこんなもんじゃない。
「ムーン……! 行きます……わ……!」
「ああ、美月や! 妾たちの力を見せよう!」
「「マジカルスキル! ムーンイマジネーション!」」
美月の本物の魔女の力と、ムーンの水の魔法の力が加わったマジカルスキルが発動し、武器だけでは無く、クロノスサターンの分身を創造した。
そして、三機になったクロノスサターンが連携する様に、シャドウカロンへと攻撃を仕掛けた。
「新しいマジカルスキル……!? カロンちゃん!」
「う〜ん、想像以上の強さだね〜」
シャドウカロンもシャドウマルチシールドに内蔵したビームソードや、四肢のシャドウクロー、そして、各部のシャドウアンカーをフル稼働して抗うが、防戦一方になっていた。
「むむむ……! それなら、これでどうですか!」
シャドウカロンは苦し紛れに胸部のシャドウマルチライフルからビームを放って来た。
しかし……。
「無駄です……わ……!」
クロノスサターンはムーンイマジネーションで盾を創造して、防御した。
武器だろうが、盾だろうが、分身だろうが、何でも自由自在。体に馴染むくらいに本当に使いやすい。
そして、絶好調な美月たちのシンクロ率もどんどん高まっていた。
元々美月とムーンはお互いを心から信頼し合っていた。
そんな美月たちはこうして再び相棒になることができたが、それはあくまでも始まりに過ぎない。
二人の目の前には、御影たちと言う競い合いたいライバルたち、それからスタースピリットやワールドユニオンと言った倒されなければならない敵たち、そして、運命と言う巨大な壁が立ちはだかっていた。
それでも、きっとムーンと一緒なら乗り越えられる。そう信じている美月は、自分の世界で一番の相棒へと声をかけた。
「ムーン……! わたくし、ムーンと一緒に運命を乗り越えて行きたいです……わ……!」
「ああ、妾もじゃ、美月! 共に行こうぞ!」
「「——シンクロゾーン!」」
お互いを心から信頼し合った美月とムーンは、御影とカロンと言うライバル、そして、これから先の運命と言う目の前に立ち塞がる大きな壁を乗り越える為に限界を超えた。
シンクロ率が
文字通り、一心同体、人機一体となる。
「「マジカルスキル! プラネットダーク!」」
そして、続けてクロノスサターンの全身に黒い炎を纏わせ、魔王システムを擬似的に発動させた。
さらに……。
「「マジカルスキル! ムーンドーンバースト!」」
クロノスサターンはクロノス
これはかつて、まだ年齢制限でウィッチバトルができなかった時に、ムーンが美月に見せてくれた魔法で、自分はこの綺麗な魔法に目を奪われていた。
そして、そんな魔法を、今は美月とムーンが一緒に発動していた。
「ま、不味いですよ!? 私ちゃんたち、まだ何も活躍してないんですけど!?」
「これじゃあ、噛ませ犬にすらならないよ〜」
無限の星を前に、御影たちが慌てた声を上げているが、申し訳ないが、このまま決めさせて貰う。
だって、今の自分は絶好調で、ムーンも一緒にいるのだ。微塵も負ける気はしない。
だから、手加減など一切せずに、美月の魔力が見える目でシャドウカロンの動きを読んで、圧倒的な物量による攻撃を、回避できない軌道で容赦なく叩き込んだ。
「ほわあぁぁぁぁぁ〜〜っ!?」
「御影ちゃん!?」
——そして、花畑の花を吹き飛ばす程の大爆発が巻き起こった。