(——あ、負けてしまいます……)
目の前に迫り来る無限の星を前に、御影はふとそう思っていた。
絶体絶命のピンチだから、まるで走馬灯の様に目に見える景色がスローになっていた。
御影とて全ての事情を聞いた訳ではないが、それでも十年前の事件をキッカケに、美月とムーン、陽太とサン、それに他の相棒たちの絆がバラバラに引き裂かれたことを聞いて、心を痛めていた。
そんな惨劇を引き起こしたワールドユニオンのことは本当に許せないし、それを経験した明日斗博士がスタースピリットを立ち上げて、人間に復讐するのも無理ないと思った。
それでも、御影としては全ての生命を無理やり、精霊にするのは反対だった。
だって、あの時、チャンピオンバディたちが言った様に、そんなことしなくたって、人間と
御影は姉の御霊からメカニカルウィッチの楽しさを教えて貰った。
そして、親友の歌が魔法の虜になった様に、自分は人間と
だから、これまで相棒のカロンと一緒にいろんな相棒たちとバトルし、その絆のキラキラを見て来た。皆十人十色でいろんな個性があって良かった。本当に凄いと思った。
確かに、全部が全部言い訳ではなく、時には中違いしてしまう相棒たちを見て悲しくなったこともあったけど、それでも自分は変わらずにその絆のキラキラに夢中になり続けた。
だけど、そんな中でも自分自身の絆のキラキラにだけは、どうしても自身が持てなかった。
勿論、相棒のカロンのことは信じている。生まれた時からずっと一緒にいる世界で一番の相棒で、頼れるもう一人の姉なのだから。
だから、原因はあくまでも自分の方だ。姉の極度の人見知りを受け継いだせいか、御影がどうしても自分自身に自信が持てなかった。好きな物には夢中になれても、変なところで奥手になる癖が抜けなかった。
でも、今までは別にそれで良いと思っていた。だってウィッチバトルは勝っても負けても楽しいものだったから……。
例え、負けても、凄い相手とバトルできたんだと、寧ろ嬉しさすらあった。
しかし、そうは言っていられなくなった。
そんなウィッチバトルを……メカニカルウィッチを悪いことに使おうとする、ワールドユニオンと存在を知ってしまったから……。
それから美月たちを手にかけた……人間を殺したスタースピリットの姿を見てしまったから……。
負けられないと思った……。
だって、ウィッチバトルは、本来は自分の相棒が世界で一番の相棒だと証明する為の競技なのだから……。あくまでも、
だから、メカニカルウィッチをウィッチバトルと言う楽しい遊びである本来の場に戻す為にも、戦うと決めた。その為にも、強くなりたいと思った。
それに、こうして美月とムーンが二人で一緒にバトルするウィッチバトルの相手を務めているのに、このままアッサリと負けるのは嫌だったら。今更だが、
(——カロンちゃん! 私ちゃん……やっぱり負けたくありません!)
御影は心の中で相棒へと呼びかけた。
心の声なのに加え、走馬灯?により、極限にまで加速した時間である以上、それにカロンが答えられる訳がないが……。
(そうだね〜。
それでもカロンは応えてくれた。
あり得ない?そんなことない。だって、家族であり、兄弟姉妹であり、相棒なのだから、心くらい繋がっている。それに、魔法がある世界なんだから、そのくらいの奇跡なら簡単に起こせる。
御影たちは今までは、どれ程絶好調でも、シンクロゾーンに片足突っ込むのが限界だった。
どこまで行っても、御影が最後の一歩を踏み込めずにいた。
だけど、今は違う。その覚悟はもうできている。
強くありたい……。美月たちが心から楽しいと思えるバトルの相手になる為にも……。
強くなりたい……。ワールドユニオンとスタースピリットを止める為にも……。
だから、御影は自分の世界で一番の相棒へと呼びかけた。
(——カロンちゃん! 私ちゃん、もう引っ込み思案な自分にさよならします! だって、強くなりたいから! 楽しい楽しい遊びのウィッチバトルをする為にも! その場にメカニカルウィッチを戻す為にも!)
(それなら、カロンちゃんも、御影ちゃの世界で一番の相棒として頑張らないとね〜)
「行きますよ、カロンちゃん!」
「任せて、御影ちゃん〜」
「「——シンクロゾーン!」」
お互いを心から信頼し合った御影とカロンは、目の前に立ち塞がる美月とムーン、そして、この先に待ち受けるであろうワールドユニオンとスタースピリットと言う大きな壁を一緒に残り越える為に、限界を超えた。
シンクロ率が
文字通り二人で一つの存在となり、一心同体、人機一体となる。
「——さあ、楽しい楽しいウィッチバトルの……!」
「時間だよ〜」
*****
花畑の花を吹き飛ばす程の大爆発が起こる中、美月は御影とカロンのシャドウカロンを仕留めきれなかったことを確信していた。
「下から来ます……わ……! ムー……!」
美月がそれを警告しようとしたその瞬間、両脚を折り畳んで、浮遊しているクロノスサターンの足元の影が揺れた。
「「完全変形!
シャドウカロンは潜水艦の姿へと完全変形すると、潜った影の中から強襲して来た。
絶好調なのを加味しても、いつもの御影たちとはまるで違う動きを前に、クロノスサターンはあえなく被弾してしまった。
「きゃあっ……!?」
「美月!?」
一応、シールドの役割を担うクロノス
美月の魔力が見える目でも捉えきれないこの動き……。これは……。
「御影先輩たちもシンクロゾーンに至ったのですね……!」
美月は驚いていたが、それでもどこか納得していた。だって御影たちなら何かの拍子にシンクロゾーンに至れると思っていたから……。
……とは言え、そんな悠長なことを言っている場合ではない。こちらもシンクロゾーンを発動しているとは言え、御影たちは
せっかくムーンと一緒にバトルできたのだから、絶対に勝ちたかった。
美月は目を閉じて、お守りのペンダントに触れて、勇気のお呪いを唱えた。
「——頑張れ、私……! 頑張りなさい、わたくし……!」
だけど、相変わらず人間人格の自分は出て来てくれない。でも、別に構わない。これはあくまでも自分に喝を入れる為の、願掛けの様なものなのだから……。
「さあ、ムーン……! ここからが本番ですわよ……!」
「ああ、美月! 勝ちに行くぞ!」
「「マジカルスキル! プラネットファイア!
クロノスサターンはクロノス
そして、それを依代に炎の剣を作り出した。
普通ならば他の相棒たちの固有魔法は使うことはできなかった。しかし、サンスラッシュは美月の憧れだった兄とサンが使っていた魔法で、ずっと近くで見て来た。それに、先程お手本だって見せて貰った。
だから、こうして発動することができた。
それだけじゃない。さらにその炎の剣にプラネットファイアの炎を加えた。
「「合体マジカルスキル! サンスラッシュ・
サンスラッシュとサターンスラッシュは似ている魔法な故に、サターンスラッシュ・
その業火の炎で、影ごとシャドウカロンを吹っ飛ばす。
「「完全変形!
「やりますね、美月ちゃんたち!」
「だけど、それでこそ乗り越えるかいがあるよ〜」
「「マジカルスキル! カロンブレード!」」
すると、シャドウカロンは今度は足元の影から影の刃を伸ばして来た。
シンクロゾーンを発動しているおかげが、その威力も大きさもいつもとは桁違いだ。
それなら……。
「「マジカルスキル! プラネットツリー!
クロノスサターンは、今度は先程分解した残りのクロノス
そして、足元から木の根を伸ばした巨大な斧を持った巨人を作り出し、同時に赤色と緑色の暴力的なまでの魔力を放った。
「「合体マジカルスキル! サンダスクブレイク・
その圧倒的な威力を前に影の刃は消し飛ぶが、やはりシャドウカロンは紙一重で攻撃を避けていた。
「まだまだ行きますよ!」
「今のカロンちゃんたちは無敵だからね〜」
「「マジカルスキル! プルートアルターエゴ!」」
さらに中に乗っている御影たち以外は完全に同一の存在を生み出すと、片方は四肢をドローン武器へと分離させて、もう片方はそのままの状態で攻撃を仕掛けて来た。
さらに……。
「「マジカルスキル! プルートゴーストブラスター!」」
シャドウカロンは胸部のシャドウマルチライフルの上に何重もの魔法陣を重ねる様に展開すると、辺り一面の魔力をまるでブラックホールの様に集めて、そこから越巨大なビームを発射した。
先程御霊たちが使っていたものと同レベルの溜めの短さと威力だ。御影たちは以前、御霊たち程使いこなせないと言っていたが、シンクロゾーンのおかげでその枷を打ち破った様だった。
だけど、こっちだって……!
「「マジカルスキル! プラネットウォーター!
クロノスサターンは、今度は先程みたいに分身や武器を創造するのでは無く、機体本体に水を纏わせて巨大な槍へと変化させた。
さらに、その上からプラネットウォーターで想像した槍を二重になる様に重ねることで、暴力的なまでの青色の魔力を纏った越巨大な槍となって突っ込んだ。
『『「「はあぁぁぁぁぁッーー!!」」』』
とてつもない威力を誇るお互いの魔法がぶつかり合う。
しかし、合体マジカルスキルである分、こちらの方が威力は上だった。
そのまま、プルートゴーストブラスターを破って、ついでにバラバラに分離していたシャドウカロンを撃破するが、分かってはいたが、そちらの方は偽物だった。
そして、本物のシャドウカロンはその隙に一度大きく距離を取っていた。
「本当に美月ちゃんたちは強いですね! 入学式の日から目にかけていた私ちゃんの目には狂いはありませんでした! だけど、勝負は勝負! 私ちゃんだってカロンちゃと一緒に勝ちたいですから、最後まで悪足掻きをさせて貰いますよ!」
「さあ、行くよ〜。 カロンちゃんと御影ちゃん、それから、プルート君と御霊ちゃんの四人で生み出した最強のマジカルスキルを〜」
「「マジカルスキル! プルートカロンフュージョン!」」
シャドウカロンは最強のマジカルスキルであるフィールド魔法を発動すると、巨大な魔力の黒とピンクの球体をそれぞれ両手に発生させて、それを無理やり一つにまとめる様に融合させた。
そして、それを解放し、バトルフィールドの全てを吹き飛ばす程の越範囲攻撃を繰り出した。
本当に凄い魔法だ。だけど、先程、憧れである
「ムーン……! わたくしたちの最強のマジカルスキルも進化させますわよ……!」
「ああ、美月! 妾たちはどこまでだっていける筈じゃ!」
「「マジカルスキル! プラネットライト!
クロノスサターンは、再びクロノス
さらに、背中に天使の様な六対の翼を生やし、さらに巨大化させると、大量の魔法陣を発生させた。
そして、そこから水の力と光の力を持ったビームを一斉に放った。
「「合体マジカルスキル! ムーンドーンバースト・
さらに進化を遂げたムーンドーンバースト・
『『「「はあぁぁぁぁぁーーッ!!」」』』
合体マジカルスキルとフィールド魔法。どちらも通常のマジカルスキルとは桁違いの威力を誇る魔法だ。
それ故に、バトルフィールドの花畑を吹き飛ばしていった。
それでも両者共に一歩も引いたりはしない。だって自分の最強のマジカルスキルで負けたくはないから……。
その意地がシンクロゾーンに作用し、その威力をどこまでも高めていった。
しかし、機体の耐久力にもバトルフィールドの広さにも限界はある。
やがて、その威力に耐えきれなくなり、バトルフィールドの全てを消し飛ばす程の大爆発が起きた。
「きゃあっ!?」
「美月!?」
「ほわあっ!?」
「御影ちゃん!?」
それにより、クロノスサターンとシャドウカロンが吹っ飛ばされた。
お互いの機体はボロボロで限界寸前。このままでは引き分け。
だけど、それで終わるつもりなんて微塵もなかった。
「ムーン! 最後にもう一踏ん張りできますわよね……!」
「勿論じゃ、美月! 妾はどこまでも美月に付き合うぞ!」
「「
クロノスサターンは周囲の景色から色を奪って灰色の世界にすると、まるで時を止める様にその動きを極限にまでスローにした。
そして、最強のマジカルスキルであるフィールド魔法の力を取り込むことで、超巨大な黒い炎の竜へと変身して突撃した。
「「行っけぇぇぇぇぇーーッ!!」」
シャドウカロンは四肢をドローン武器へと分離させて、最後まで抗おうとして来るが、越巨大な黒い炎の竜はその全てを飲み込んだ。
そして、シャドウカロンのマジカルバリアを破壊して、戦闘不能にした。
すると、MCを兼任していた御影とカロンは、自身でバトルの決着を宣言した。
「美月ちゃん、ムーンちゃん、このバトルは貴方たちの勝利です! ですが、私ちゃんとカロンちゃんも、
「うんうん、だから、またバトルしようね〜」
*****
バトルの後、美月は御影と握手をしながら、言葉を交わし合っていた。
「——御影先輩、ありがとうございました……わ……! とても楽しいバトルでした……わ……!」
「こちらこそですよ、美月ちゃん! 最高に楽しいバトルでした!」
バトルが終わったことで気が抜けて、美月の口調も抜けた状態になっていたが、それでも満面の笑みを浮かべていた。
「カロンとやら、お主と御影の絆は本物じゃ! 本当に強かったのじゃ! まあ、それでも妾と美月の絆が一番じゃがな!」
「それはどうかな〜。 カロンちゃんと御影ちゃんもこうしてシンクロゾーンに至れたことだし……ムーンちゃんがまたウジウジしてたら直ぐに追い抜いちゃうからね〜」
「ああ、しかと胸に留めて置こう」
ムーンとカロンもそう言葉を交わしていた。
どうやら、打ち解けて仲良くなった様だ。
やっぱりウィッチバトルは良い。勝っても負けても楽しいし、こうして仲良くなれるのだから……。
すると、バトルを見ていた焔たちがうずうずした様子で声を上げた。
「うぅ〜! 美月たちのバトルを見てたら、俺も一緒にバトルしたくなって来た! ねえ、美月! 次は俺とマーズとバトルしようよ!」
「あ、ずるい! 私だって美月ちゃんたちとバトルしたいのに!」
「それなら……いつもの様にジャンケンで決めるか?」
「なら、僕も参加させて貰おうかな?」
焔たちは、学園リーグ戦のチーム戦に出るメンバーを決めるいつぞやの時の様に、ジャンケンの姿勢を取った。何気に輝もそれに加わっていた。
「はいはい、ストップストップ!」
しかし、御霊が手をパンパンと叩いてそれを止めた。
焔たちはジャンケンを中断し、御霊の方を見た。
「勿論、ウィッチバトルをするのも悪くないけど……せっかくの学園祭なんだから、こんな所にいないで、外に行かないと! ……まあ、私が言えた話じゃないんだけど……」
「そうですね、引きこもりの御霊が言うと、ブーメランになりますね」
御霊は自虐とプルートの指摘に苦い顔をしていた。
しかし……。
「だけど……陽太君たちがいるなら……私も昔みたいに外に出られるかも……」
御霊はそう口にすると、サターンの方をチラリと見た。
すると、サターンは笑みを浮かべながら、手を差し出した。
「そうだね、御霊ちゃん。 また昔みたいに一緒に遊ぼうか?」
「……!! うん!」
御霊は満面の笑みを浮かべながらその手を取った。
そして、ラボの出口を指差した。
「さあ、皆! 外の世界へレッツゴーだ!」
「うぅ……ぐずっ……御霊が外の世界に一歩踏み出そうとしてくれて、僕は嬉しいです……!」
「うんうん、分かるよ〜。 御影ちゃんも変に奥手な部分が解消されたみたいだし、今日は美月ちゃんとムーンちゃんと陽太君たちとサン君だけじゃなく!御影ちゃんと御霊ちゃんも新たなスタート切ることができたのかもね〜」
プルートとカロンはまるで保護者の様にしみじみと涙を浮かべていた。
そんな二人に見守られている御霊と御影の姉妹は、声を揃えて皆に呼びかけた。
「「——さあ、楽しい楽しい学園祭に行くよ(行きますよ)!」」
メカニカルウィッチ学園ミライトウキョウ校の学園祭はまだ始まったばかりだ。
今日は学園の生徒と教師だけで行われるが、明日の二日目は一般の人たちも来れることになっている。
ネオンとネプチューンは今日は宇宙の方舟で渋々お留守番しているが、明日は一緒に学園祭を回ることになっていた。
それから、麗とウラノス、きららとポラリス、そしてレイたちと言った面々も、明日は学園祭を観に来ると言っていた。
もしかしたら、全国大会で出会った面々も来てくれるかもしれない。そう思うと、今から楽しみだった。
だけど、今日のところはミライトウキョウ校の面々で楽しむことにしよう。
「美月!」
「美月ちゃん!」
「美月さん!」
「美月ちゃ……さん!」
焔、小春、冬馬、輝が美月へと声をかけながら、手を差し伸べて来た。
美月も笑みを浮かべながら、その手を取った。
「はい……!」
——学園祭はまだまだこれからだ。