——学園祭から約二週間後。十一月の第二土曜日。
「——お嬢様。 お目覚めになってから今日で一ヶ月ですが……お体の調子はいかがですか?」
「はい、もう大分良くなりました。 だけど……この車椅子を手放すのはまだ先になりそうです……。 リン、もう暫く日常生活の補佐をお願いしますね?」
「勿論です、お嬢様」
美月は学園の寮にある部屋の自室で、リンに身だしなみや着替えなどを手伝って貰いながら、そう会話していた。
当初は身の安全も兼ねて宇宙の方舟にある部屋で生活していた美月だったが、アースからいつまでもこのままではいけないと言われたことで、こうして学園に用意された元の場所に戻って来た。
まあ、学園に復学した以上、ずっと宇宙の方舟から通い続ける訳にはいかないし、この寮の部屋も、この十年間ずっと暮らしていた高級マンションと同等のセキュリティがあるので、あまり心配しなくても大丈夫だろう。
……とは言え、この一週間は、この二ヶ月間の間休んでいた分の補習にずっと追われていた為、宇宙の方舟に戻れずにいた。ムーンたちも何やら用事がある様で、ずっと星の方舟の方にいた為、この一週間会えていなかった。
だけど、今日は休日の土曜日で、募集の方もお休みなので顔を出しに行けるだろう。
「お嬢……ううん、美月。 そろそろ行くかい?」
「はい、お兄様」
着替え中と言うこともあり、律儀に外で待ってくれていたサターンに美月は返事を返した。
それから、リンに車椅子の操作を任せて自室の外に出た。
そして、玄関で爺やたちに見送られながら、美月とサターンとリンの三人は宇宙の方舟へと向かった。
「ムーンたち……元気でしょうか……?」
「そうだね。 また変に思い詰めてないと良いけど……」
寮の外に出て、そのままスタジアムのある学園の地下に向かい、普段は立ち入り禁止の場所を通る中、美月とサターンはそう会話していた。
仕方がないとは言え、やはり宇宙の方舟の元に行くのには骨が折れる。
こうして学園からの許可を貰って立ち入り禁止の場所を通り、さらに複雑な通路を進んだ先にある、海底に繋がる扉まで行って、そこから宇宙の方舟が用意した通路を通って乗り込まなければならないのだ。
とてもじゃないが補修の合間に行く時間なんて無く、その上に通信傍受の恐れがある為、連絡を入れることもできなかった。
そんな訳で、一週間振りに宇宙の方舟の用意した通路がある、海底に繋がる扉まで来たのだが……。
「あれ……? 通路が無い……?」
何故かその通路が消えてしまっていた。
何処かに出かけたのだろうか?だけど、自分は何も聞いていないし……。
「リン。 お父様たちから何か聞いていませんか?」
「いいえ、私も特には……」
「どう言うことだ……?
すると、サターンの声が途中で変わった。
美月は妹としてその原因に気づいた。きっともう一人の兄に切り替わったのだろう。
「もしかして……お父様は一人……いや、正確にはサンとムーンを連れて……。 どう言うことだ、陽太!?」
二人の兄は独り言の様に対話していたが、それを聞いた美月も嫌な予感を募らせていた。
「ーーッ!? まさか、お父様たちは……!?」
*****
それから、美月たちは直ぐに事情を知っている焔たちにもそのことを話して、アースたちの捜索を始めた。
しかし、その日も、その翌日もアースたちの足取りは全く掴めずにいた。美月の補修がある平日の放課後は、焔たちがその捜索してくれていたが、それでも手掛かりはゼロだった。
そして、一週間後の土曜日。生徒会室に事情を知る焔とマーズ、冬馬とマーキュリー、小春とジュピター、御霊とプルート、御影とカロン、咲良とキャンサー、王牙とレオ、秀次とスコーピオ、歌とピスケスの面々が集まっていた。
それから、外部の大人組である麗とウラノス、ネオンとネプチューン、きららとポラリスも来てくれたが、それでも手掛かりは全く掴めなかった。
「お父様……。 ムーン……」
「サン……」
「美月! サターン! きっと大丈夫だよ! アース博士たちが何者かに連れされた痕跡は無かったんだからさ!」
「焔君の言う通りよ。 アース博士たちが自らの意思で何処かに行ったのは間違いないわ」
焔とマーズが宥めてくれても、美月とサターンの顔は暗いままだった。
だって、それはつまり、もう一人の兄の懸念通り、アースたちは美月たちを置いて、スタースピリットとワールドユニオンを止めに行ったことに他ならないのだから……。
だけど、こうして身をもってその脅威を体験したから分かる。そんなの絶対に無茶だと……。
こうして一週間……いや、それよりも長く音沙汰が無いのは、自分たちを巻き込まない為か……それともその身に何かが起きたからなのか……こちらからは全く判断ができなかった。
すると、そんな中、輝とヴィーナスが生徒会室に入って来た。
「美月さん! サターン君! アース博士たちと最後に会話していた人物を突き止めることができた!」
「はい。 しかもその人物はマスターのお父上……白金代表でした」
「ちょっと無理を言って、父さんに学園に来てもらうことにしたから、待ち合わせ場所である学園長室に行こう!」
「ーーッ!? 分かりました……わ……! ありがとうございます、輝先輩!」
「ああ、ヴィーナスも!」
それは大きな朗報だった。しかも、輝は直ぐに白金代表と会う手筈を整えてくれていた。
そして、話を聞いた一同は直ぐに学園長室へと向かった。
*****
——学園長室にて。
その後、一同は直ぐに学園長室に訪れていた。
……とは言え、流石に全員は入らないので、美月たちと焔たちと冬馬たちと小春たちと輝たちの子供組、それから、麗たちとネオンたちときららたちの大人組以外の残りの面々は、部屋の外で待機することになった。
そして、暫くすると、白金代表がやって来た。通信傍受の対策の為とは言え、忙しい中来て貰って本当にありがたかった。
「白金代表……お父様と最後にお話をしたと聞きました……。 お父様たちの行方について心当たりはありませんか?」
美月は早速、白金代表に尋ねた。
すると、白金代表は少し険しい顔をした。
「確かに……私はアース博士と最後に話をして、美月さんたちのことを任された。 しかし、同時にその行き先を語らない様に、口止めされているんだ」
「どうして……!?」
「それについてはアース博士から伝言を預かっている……」
白金代表は一度口を閉じて、改めてその伝言を口にした。
「——美月、サターン、そして、陽太。 今まで危ない目に合わせてすまなかった……。 スタースピリットとワールドユニオンは自分が絶対に止めて見せるから、後のことは任せて欲しい……。 だから、美月たちはこのまま日常を過ごして欲しい……と……」
「「ーーッ!?」」
それはまさしく美月たちの懸念通りだった。
やはりアースたちはスタースピリットとワールドユニオンを止めに行ったのだろう……。
その事実に美月たちが歯噛みしていると、子供組が声を上げた。
「アース博士……確かにあなたの懸念も理解できますが……それでも……!」
「うん! それでも、美月たちに何も言わずに行ってしまうなんて……! 俺たちだってら力になったのに……!」
「ああ……! 確かに僕たちはまだ子供で無力かもしれないけど……それでも……!」
「そうだよ! あたしたちだって何度もスタースピリットとワールドユニオンに立ち向かって来たんだから!」
輝と焔と冬馬と小春が次々にそう口にすると、今度は大人組が冷静な声で呟いた。
「……だけど、アース博士の気持ちも理解できるわ……。 私も美月ちゃんが死ぬ姿を目にして、心臓が止まりそうになったもの……」
「……ん。 美月をもう二度と危ない目に合わせないのは私も賛成……」
「そう考えると……アース博士が大人としてそう判断したのは無理もないかもな……」
きららとネオンと麗はアースを擁護する様にそう言っていた。
そんな中、魔導学園長が話をまとめる様に口を開いた。
「……ふむ。 確かに美月さんたちの身にあんなことが起きた以上、アース博士がこの判断をしたのも当然だろう……。 しかし、白金代表の方も話を聞いて、手を打っているのだろう?」
「勿論です。 アース博士からは手助けはいらないと言われましたが、それでも私が動かせる人員を集めて、その手伝いをさせるつもりです」
その話を耳にした美月はパッと顔を上げた。
「それなら……! 私……んんっ、わたくしもその一員に加えて欲しいです……わ……!」
「僕もです! 美月さんの力になりたいんです!」
「俺もです! 美月の力になりたいです!」
「僕もだ!」
「あたしも! あたしも!」
さらに輝と焔と冬馬と小春がその話に乗って来ると、学園長室の外で待機していた面々も、話を聞いていたのか部屋に乗り込んで来た。
「話は聞かせて貰った! そう言うことなら、事情を知っている身として、私も力になろう!」
「はい! お姉ちゃん共々、人間とメカニカルウィッチの未来の為にも、私ちゃんも戦います!」
「ええ、事情を知った以上、蚊帳の外にいるなんてごめんだものね!」
「ああ! 今度は俺様も力になるぜ!」
「まあ……罪滅ぼしも兼ねられそうっすからね……」
「はい! それが私たちの意思です!」
御霊と御影と咲良と王牙と秀次と歌も話に乗って来た。
しかし、白金代表は首を振ってそれを拒否した。
「それはダメだ! 今までは、巻き込まれる形で、不可抗力だったから仕方がなかったが、自ら危険に飛び込む必要はないんだ! それに、私もアース博士のもう子供を巻き込みたくないと言う思いには賛成しているんだ!」
「白金代表の言う通りだな。 アース博士を手伝うチームに入ると言うことは、スタースピリットとワールドユニオンの本拠地に向かうのと同義……。 その危険はこれまでとは比べ物にならない物になるだろう……。 私も子供たちを預かる身として、それは容認しかねる」
さらに、学園長も白金代表の肩を持ってしまった。
子供組と大人組の意見が真っ向から対立する中、美月は助け舟を求める様に、きららたちの方を見た。
すると……。
「そうね……美月ちゃんたちのアース博士の力になりたいどう言う気持ち……。 それから、アース博士の美月ちゃんたちをもう巻き込みたくないと言う気持ちのどちらも分かるわ……。 それなら、私たちが美月ちゃんたちの代わりに、そのチームに加わるわ。 アース博士……明日斗博士は私たちの恩師でもあるのだから……。 良いかしら、ポラリス?」
「うん、きららちゃんがそう決めたのなら、私も力になるよ!」
「白金代表。 私たちは大人ですし……それに実力もあるので、参加しても問題ありませんよね?」
「それは……」
子供なのを理由に反対していた白金代表は、きららたちのことを断れずにいた。
だけど、それでは困る。きららたちに肩代わりさせては意味がない。だって、美月自身が力になりたいのだから。
美月は続けてネオンたちに助けを求めた。
しかし……。
「……ん。 それなら、私が美月の代わりに参加して、アース博士たちを助けて来る。 それなら、美月が危ない目に合うこともないし、万事解決でしょ?」
ネオンの案も、美月の望む物では無かった。
そこで、美月は思わず声を上げた。
「ネオンさん……!」
「美月もその身を持って味わったでしょう? 美月のお母さん……スーパーノヴァの力を……。
「それは……」
確かに
「私は今度こそ、美月を絶対に守るけど……それでもアイツを相手にする時だけはその自身はない……。 そうじゃ無くても、美月をみすみす危ない場所に連れて行く気はない……」
「それでも、わたくしはこのまま黙って見ているだけには行きません……わ……! それに、わたくしも守られているばかりではありません……わ……! 力になります……わ……! なりたいのです……わ……!」
「美月の言う通りです! 俺たちだって強くなったんです! いつまでも、守られるばかりではありません! だから、俺たちも連れて行って下さい!」
「「「お願いします!」」」
美月が必死に言い返すと、焔を始めとする子供組もそれに同調してくれた。
しかし……。
「私と同類の美月ですら負けたと言うのに……そんな美月よりも遥かに弱いあなたたちなんて論外過ぎる……。 寝言は寝て言って……」
ネオンはバッサリとそれを切り捨てた。
だが、それでも焔は食い下がらなかった。
「それなら俺たちの強さを証明して見せます!」
するとネオンは、一瞬目を細めた。そして、改めて口を開いた。
「どうやって? この前みたいにエキシビジョンマッチでもするの……?」
「はい! それで俺たちの強さを証明できるのなら!」
「この前だって私と麗に手も足も出なかったのに……まさか勝てるとでも……?」
ネオンは厳しい目で問いかけて来た。
それでも……。
「はい! 勝って見せます! そして、俺たちの成長の証を示して見せます……!」
「はい……! そうすれば、わたくしたちだって、ただの守られるだけの子供でないと証明できる筈です……わ……!」
力強く答える焔と一緒に、美月も意を決して返答した。
すると……。
「……ん。 それなら……やって見せてよ……。 私に勝てるものならね……。 ……と言う訳で、私は美月の相手をするから、麗はそっちの子たちの相手をよろしく……」
「はぁ……俺としては、まだ子供である焔たちに危ない目に会って欲しくないと言う気持ちも……焔たちの守られているだけじゃ嫌だと言う気持ちも分かるからな……。 ……とは言え、そう言うことなら、俺も焔たちの身の安全の為にも、一切の手加減なしで行くぜ!」
「ま、どうせ、チャンピオンバディのあたしたちに勝てる訳ないけどね〜♪」
「ああ! 焔たちの成長は確かに凄ぇけど……それでも俺様たちだって、大人として負ける訳にはいかねぇからな!」
美月たちが守られるばかりの無力な子供ではないと証明する為の、二大チャンピオンバディとのエキシビジョンマッチをする流れになった。
すると、そんな中、白金代表が慌てて止めて来た。
「待つんだ! 私はアース博士に頼まれた身として、何があっても子供たちをチームに加えるつもりは……」
「……ん。 大丈夫。 どうせ私たちが勝つから……」
「白金代表。 俺だって、焔たちと同じ立場だったら、言葉で納得したりなんかしません。 だから、ウィッチバトルで白黒つけるしかないんです」
しかし、そんな白金代表をネオンと麗が説得していた。
それを聞いた白金代表は、頭を痛そうにしながら、ため息を吐いた。
「はぁ……仕方がないか……。 子供たちがいくら声を上げても認める気は無いのは私も同じだからな……。 それならば、二大チャンピオンバディの言う通り、ウィッチバトルで君たちの強さを……覚悟を示して貰う。 チャンピオンバディ相手に負ければ、この先の戦いでは足手纏いだと判断させて貰う。 異論は無いな?」
「「「はい!」」」
条件付きで許可を得られるかもしれなくなったことで、子供組は大きな声で返事をした。
すると、そんな中、御霊がおずおずと手を上げた。
「あの〜、一つ良いかな? 私は二十歳で成人している身だが……私は守られるべき子供の枠組みに入るのかな?」
「ふむ……そうだな。 確かに御霊さんは法律上は成人しているが、それでもまだ、我が校の大学部の生徒だ。 学園長としては、守られるべき子供の枠組みに入れさせて貰う」
学園長がそう返答すると、御霊は意を決した様に口を開いた。
「それなら、大学生チャンピオンバディである私とプルートの力を証明する為にも、私たちもそのエキシビジョンマッチに参加させて貰おうか! 確か……前のエキシビジョンマッチは、五対一の変則バトルだったからな……ここは、
「まさか、陽太君たちとのバトルの後に、改良した機体をもう使うことになるとは……」
「だけど、
「うんうん、冥道家の力を見せちゃうよ〜」
どうやら御霊とプルートは、御影とカロンと一緒にエキシビジョンマッチに参加する様だった。
……と言うことは、組み合わせ的にこの前と同じになる様だから、麗たちとバトルするのは、焔たちと冬馬たちと小春たちと輝たちと御影たちと御霊たち。
そして、ネオンたちとバトルするのは、美月たちと咲良たちと王牙たちと秀次たちと歌たちになる。
「……ん。 美月以外の子たちは相手にならないから、実質的に一対一になるけど……それでも、手加減はしないから……」
「これも美月たちの安全の為だから、悪く思わないでね〜♪」
しかし、ネオンたちは鼻から美月たち以外は眼中にない様だった。
すると、そんな風に言われた咲良たち新旧生徒会メンバーが声を上げた。
「確かに以前のエキシビジョンマッチでは、アタシたちは手も足も出なかったけど……それでもこっちにも
「そうでござる!
「ああ! ハイパーキングレオのデータをベースに改造した、俺様たち新旧生徒会メンバーの機体がな!」
「その力をとくと味わうのであーる!」
「俺らは確かに本物の天才じゃないっすけど……それでも油断していると足元食われるっすよ!」
「ああ。 自分たちの足掻きを甘く見ないで貰おうか」
「はい! ネオンさんたちの強さは理解していますが、こっちにはみーちゃんのお姉さんが改造してくれた、
「ええ。 私たちの成長の証も見て貰うわよ」
どうやら、咲良たちと王牙たちと秀次たちと歌たちの機体にも何やら変化がある様だった。
子供組はやる気に満ちた状態だったが、大人組の二大チャンピオンバディは、圧倒的なまでの強者のオーラを放ちながら、そんな自分たちの前に立ちはだかった。
「——さあ、焔! マーズ! それから、皆も! 二大チャンピオンバディの俺たちに勝って、その覚悟を証明してみな!」
「ああ! そしたら、俺様たちも、お前らが守られるべき子供じゃなくて、対等な存在だと認めてやるぜ!」
「……ん。 美月をもう二度と危ない目に遭わせない為にも、美月にはずっとここにいて貰う……」
「さあ、せいぜい悪足掻きをしてね、キッズたち♪」
——こうして、再び二大チャンピオンバディとエキシビジョンマッチをすることになった。