——バトルの後。学園長室にて。
「——美月さんたちが、自身の強さと覚悟をこうして示した以上、私も知っていることについて話そう……アース博士たちは、まずはワールドユニオンの方を止める為に、『エデン』へと向かったのだ」
「エデン……」
白金代表が明かしてくれた、アースたちの行き先を聞いた美月は、ポツリと言葉を溢した。
エデン。それはワールドユニオンの本拠地である人工島の名前で、地球上のどの国にも属していない国際的な中立地域になっている場所だ。
確か……かつてその場所に存在していた、WWⅢで滅んだ国の名前に由来すると聞いたことがある。
「エデンはワールドユニオンの本拠地であり、ワールドユニオン軍の本部もある。 そんな敵陣の真っ只中に向かう以上、準備にはもう少し時間がかかる。 出発は十一月の終わり頃になるだろう……」
(つまり約一週間後と言う訳ですね……)
「それまでに、信頼できる人員……それもワールドユニオン軍に対抗できる戦力を掻き集めるつもりだが……」
白金代表がそう言葉を溢すと、ネオンとネプチューンが横から口を挟んで来た。
「……ん。 JP国のプロリーグの選手たちじゃ、力不足……ハッキリ言って、いてもいなくても大差ない……」
「何なら、アタシとネオンちゃんと引き分けた美月たちの方が強いくらいだからね〜♪」
「ネオン! そんな言い方は……!」
「そりゃあ、俺様たち以外は誰もお前らに勝てた試しはねぇけどさ……」
麗とウラノスが注意するが、ネオンたちはどこ吹く風だった。
すると、そんな中、きららが手を上げた。
「……そう言うことなら、私の
「今でも定期的に連絡を取っているから、連絡の方は任せて!」
きららとポラリスの旧友で、世界大会の常連と言えば、麗たちとネオンたちをツートップとする、今のワールドランキングの上位の面々の顔が浮かんだ。
流石は初代チャンピオンバディだ。交友関係が凄い。
「そうだな……。 では、きららさん。 ポラリス。 すまないが、頼む。」
そして、話がまとまったことで、各々が約一週間後の出発に向けて、準備をすることになった。
そんな中、美月は白金代表に声をかけた。
「あの……白金代表……!」
「……? どうしたんだ、美月さん?」
「提案……と言うより、お願いがあるのですが……!」
*****
——翌日。
美月は白金代表の案内の元、サターンとリンと一緒に、JP国にあるとある施設の地下に来ていた。
ここは、一般刑務所には入れられない人物を収容しておく場所になっていた。
そして、そんな場所で美月は目的の人物たちと面会していた。
「——お久しぶりですわ、
その人物たちは、かつて美月の護衛を務めていながら、実はワールドユニオンの特殊部隊の人員として暗躍していた、草刈と水島と炎炉の三人だった。
六月に起きたメカニカルウィッチ学園での事件の際に、ムーンとサンの凶行を前に重傷を負った三人は、この施設に搬送され、今までずっと監視付きの生活を送っていた。
美月もそのことは聞いていて、一度ちゃんと話をしたいと思っていたが、被害者と加害者と言う関係と、お互いの立場上、中々それは難しかった。
しかし、これからワールドユニオンの本拠地であるエデンに向かう前に、敵の情報を少しでも得る為に、自分が三人と話すと白金代表に説得したことで、こうして面会の機会を得ることができた。
すると、草刈は車椅子に乗っている美月を見て、少し辛そうに目を伏せた。
「美月様……その足は……」
「ええ、少し……寝たきりの生活になっていた後遺症で……。 だけど、リハビリをすればいつかはまた歩ける様になるから大丈夫ですわ……」
「そうかい……なら良かったよ……」
(草刈さん……)
草刈は確かに裏切り者だ。四月に起きたメカニカルウィッチ研究所のテロ事件を始めとする多くの事件に関与し、何度も美月を狙って襲って来た。
だけど、その根本にある優しさは、この十年近くずっと自分のことを護衛してくれた時のままだった。だから、ムーンたちから自身の命を盾にしてまで、美月のことを守ってくれたのだ。
「まずは最初にお礼を言わせて下さい……。 わたくしのことをムーンとサンから守ってくれてありがとうございました……。 そして、わたくしの相棒のムーンが申し訳ございませんでした……」
「美月様が謝ることなんて何一つない! むしろ、謝るのはアタシたちの方だ! 本当に……すまなかった!」
「申し訳ありません」
「すみませんっす!」
美月が頭を下げると、草刈たちも慌てて頭を下げて来た。
草刈の言う通り、彼女たちにまずはお礼と謝罪をするとサターンとリンに話した時は、かなり苦い顔をされたが、個人的にどうしても必要なことだった。
そして、それを終えた美月は本題に入った。
「草刈さんたちは、ここでの生活で情報が制限されていると思うので、簡単に今の状況を説明致しますわ」
それから美月は草刈たちがここに運び込まれた後に起きたことを説明した。
全国大会高校生の部で黒穴博士が
それから、その決勝戦の後に起こった、ワールドユニオンが起こした事件と、スタースピリットが起こした事件のことを……。
勿論、全ての事情を話せる訳では無いが、それでも必要な情報は全て共有した。
「
「やっぱり……もう昔の
「
草刈たちは特に、ワールドユニオンの起こした事件を聞いて心を痛めていた。
あの人とは、十中八九アダム議長のことなのだろう……。それでも、忠誠なのか恩義なのか、決してその名を口にしようとはしなかった。彼女たちはこうして捕まってから、一切ワールドユニオンの情報を吐いていないらしい。
だからこそ、自分がそれを引き出すのだ。
すると、草刈もそれを察知したのか、先に口を開いた。
「美月様がここに来たのは、その話をする為だけじゃないんだろう? 大方、アタシたちに情報を明かして欲しいんだろう?」
「その通りですわ」
「……すまない、それだけは無理なんだ……。 確かに美月様には本当に悪いことをしたと思っているけど……それでも、命の恩人である
「貴様ッ!!」
「お嬢様よりも、そんな輩の方が大切とは、頭がおかしいのではないのですか?」
そんな草刈にサターンが怒りの声を上げると、リンも厳しい視線を向けていた。
しかし、美月はそんな二人を手で制した。
「——草刈さん。 わたくしたちはこれから、ワールドユニオンの本拠地のエデンへと向かうつもりですわ」
「「ーーッ!?」」
そして、美月がそう口にすると、草刈たちは激しく動揺した。
「そんなの危険過ぎる! 白金代表! 何故、美月様を止めないんだ!」
草刈はそう声を荒げながら、椅子から立ち上がった。
すると、国が手配した護衛の人たちと一緒に見守っていた白金代表が口を開いた。
「私も本来なら反対だ……。 だが、美月さんたち子供たちは、自らの強さと覚悟を証明して見せた……。 だから、私はそれを尊重して、少しでも彼女たちに降り掛かる危険を減らすことにしたのだ……。 そして、君たちがワールドユニオンの情報を提供してくれれば、その危険はかなり減ることになるだろう……」
「くっ!?」
白金代表の半ば脅す様な良い方に、草刈たちは顔を歪めていた。
美月としても、結果的に自分の身を人質に取る様な形となってしまったのは、申し訳ないと思っていた。
だけど、エデンへと向かう選択は、美月たちが勝ち取ったものなので、今更撤回する気なんて無かった。
すると、草刈は改めて美月の方を見て来た。
「美月様!
「分かっていますわ。
「……!! そうだ、アタシたちの所属する組織は、恒久和平の為と言いながら、手段すら選ばずに……時には矛盾した行動すらも取る様になってしまった! それを指揮している
草刈の悲痛な叫びに、美月も対象こそは違うが心当たりはあった。
だからこそ、自分が家族としてそれを止めなければならないのだ。
それに、きっと対象は違えど、そう思っているのは草刈も同じの筈だった。
「草刈さん、貴方は
「ーーッ!?」
美月がアダム議長の名前を出すと、草刈は言葉を詰まらせた。
だけど、美月は気にせず言葉を続けた。
「そんな自分の大切な相手が道を誤ってるいるのなら、それに着いて行くのではなく、止めるべきなのですわ」
「美月様は……スタースピリットを統べるのが自分の父親でも、戦えるって言うのかい……?」
「はい。 それが家族として、わたくしがやるべきことですので。 草刈さんはどうなのですか? ワールドユニオンを……アダム議長をこのままにしても良いのですか?」
「アタシは……!」
草刈は美月の問いに対して、わなわなと体を震わせた。
「アタシだって……! アタシだって、
——そして、草刈が遂にアダム議長の名前を出した……その時だった。
『——火事です。 火事です』
施設内の警報が突然鳴り響いた。
このタイミング……しかも、これだけ警備が厳重な施設で火災が起こるなんて……。
美月がそう考えていると、廊下からバタバタとした足音が聞こえて来て、この部屋の扉が大きな音と共に開かれた。
「白金代表!」
入って来たのは、警備員たちだった。
「たった今、一階で火災が発生しました。 それと同時、付近で怪しい人物の影も。 白金代表は至急、確認の為に監視室にお越し下さい。 黒土美月さんと、そこにいる
「分かった」
警備員の説明を聞いた白金代表は直ぐに部屋を出ようとした。
しかし、そんな中、草刈が鼻で笑った。
「ハッ! アタシがアダム議長の名前を出した瞬間に、火災が起きるなんて、どんな確率だい! 大方、アタシたちを消しに来たんだろ?」
「……」
草刈がそう言うと、警備員は無言になり。
そして、次の瞬間……腰に装備していた拳銃を発砲した。
「きゃあっ!?」
「「お嬢様!?」」
車椅子で動けない美月を庇う様に、サターンとリンが覆い被さった。
「チッ! ここには美月様もいるって言うのに、いきなり発砲するなんて、何考えているんだい!?」
草刈は手錠を嵌められながらも、飛んで来た銃弾をギリギリの所で回避していた。
そんな中、他の警備員たちが続々と部屋に入って来るが、発砲したテロリストを抑えることなく、むしろ一緒に銃を構えて来た。
「白金代表!」
「お下がり下さい!」
部屋にいた護衛たちは直ぐに白金代表を自身の後ろに隠した。
「「「美月様!」」」
その一方で、美月の方は草刈と水島と炎炉の三人が、自分を庇う様に前に立っていた。それは半ば反射的な行動に見えた。
すると、テロリストたちは銃を構えながら、草刈たちに声をかけた。
「草刈、水島、炎炉。 黒土美月並びにサターンを連れて、こちらと合流しろ。 お前たちの裏切りは万死に値するが、それでも
「ハッ! 悪いけど、断らさせて貰うよ! 美月様がいるのに発砲して来たアンタたちに、美月様を渡すなんて、恐ろし過ぎるからね!」
「草刈はやはり裏切り者か……。 水島、炎炉、お前たちは裏切り者の指示に従う気か?」
「確かに私も
「オイラも同じっす!
「そうか……」
草刈たちの返答を聞いたテロリストは改めて銃を構えた。
「ならば死んでその罪を償え。 お前たち。 多少手荒になっても構わないから、黒土美月並びにサターンを確保しろ。 最悪死んでなければそれで良い。
「「了解!」」
——そして、その銃口が火を吹こうとした……その時だった。
「——
部屋の空間が歪んだかと思うと、テロリストたちの持っていた銃が全てねじ曲がった。
「何だ!?」
「これは!?」
テロリストたちが混乱する中、サターンと草刈たちは直ぐに動き出した。
「今だ!」
「アンタたち! 手は塞がっているけど、行けるね!」
「「勿論です、リーダー!」」
そして、続けて白金代表を守っていた護衛たちもテロリストたちの制圧に動く中、美月の側にいつの間にかネオンとネプチューンが現れていた。
「ね、ネオンさん!?」
「海姫様!?」
「え?? 今日は公式試合がある筈じゃ!?」
「……ん。 サボった。 美月から離れるのは心配だったから……」
「だから、こうして隠れて監視……んんっ、見守っていたけど、正解だったみたいだね〜♪」
ネオンたちは美月が眠りについた全国大会の事件の以降、プロリーグの試合に全然出ていないらしいが、大丈夫なのだろうか??いや、確かに、こうして助かったのだが……。
それに、
そして、そうこうしている内に、サターンたちはテロリストたちを制圧していた。
すると、ネオンは草刈へと手を向けた。
「さっきは美月のことを守っていたから対象から外したけど……。 そいつらは美月を狙っていた敵なんでしょ……? なら、
「ね、ネオンさん、待って下さい!」
まるで人を殺すことも厭わない眼光をしているネオンを、美月は彼女の手に抱きつく形で慌てて止めた。
「え〜? 何で、止めるの美月? 敵だった奴らを庇う必要なんてなくない?」
「個人的にはネプチューンに同意だが、流石にネオンたちは物騒過ぎるぞ……」
横から文句を垂れるネプチューンをサターンが宥める中、草刈たちが口を開いた。
「そうだね……アタシたちは確かに美月様の敵だった……。 その罪は永遠に消えることはないだろう……。 だけど、それでももし裏切った償いができるのなら……アタシはそうしたい……」
草刈はそう口にすると、改めて美月の方を見て来た。
「美月様はスタースピリットを統べるのが自分の父親でも、家族として止める為に戦うって言ったね……」
「はい」
「それならアタシも……アタシたちも、恩人であるアダム議長が統べるワールドユニオンを止める為に戦うよ……。 例え恩を仇で返すことになったとしても……それでアダム議長がこれ以上過ちを犯さずに済むのなら……」
それから草刈は白金代表の方を見た。
「白金代表。 美月様の危険を減らす為にも、アタシが知っているワールドユニオンの情報を全て話すよ」
「助かる」
「だけど……それだけじゃない。 アタシもアース博士たちを助けに行くチームに加えて欲しいんだ」
「私もですねぇ」
「オイラもっす!」
「それは……」
草刈の申し出に白金代表は言葉を詰まらせた。
「白金代表の懸念は分かる。 アタシたちはワールドユニオンの特殊部隊だったからね。 それなら、爆弾付きの首輪でも何でも良いから、アタシたちが裏切ったら、いつでも消せる様にしておけば良いさ……」
そんな白金代表に草刈はとんでもないことを提案した。
そんな草刈に美月は思わず尋ねた。
「どうして、そこまで……」
「そうさね……。 確かにアダム議長には命の恩があるが……それでもこの十年間一緒にいた美月様にも情があるのさ……。 そんな美月様がワールドユニオンの本拠地と言う危険な場所に行こうとしているのに、黙って見ている訳にはいかないのさ」
「草刈さん……」
「美月様。 裏切った身とは言え……今度こそアタシたちに貴方を守らせてくれないかい?」
そんな草刈の言葉に、ネオンとネプチューンは露骨に顔を顰めていた。サターンとリンも何を今更……と言った感じだ。
だけど、皆には悪いけど、美月の答えは決まっていた。
美月は護衛される主として凛とした態度を取った。
正直言って、人間人格が使えない今、ここに来てからずっとその真似をしているので、そろそろ持たなそうだか、意地でも最後まで貫き通す。だって、この十年間ずっとそうして接して来たのだから……。
「分かりましたわ。 草刈さん。 水島さん。 炎炉さん。 わたくしの護衛として、一緒にワールドユニオンの本拠地であるエデンへと向かって頂けますか? お父様たちを助け、そして、アダム議長のワールドユニオンの計画を止める為に……!」
「ああ! その招待状……受けさせて貰うよ!」
「ええ。 またよろしくお願いしますねぇ……」
「よろしくお願いしますっす! あ、今更元の丁寧語の口調には戻せないので、このまま素の口調で行かせて貰うっす!」
美月は再び草苅たちと契約を結んだ。
それから、草刈たちからワールドユニオンの情報を貰った。
どうやら、ワールドユニオンが掲げる恒久和平の為の計画である『代理戦争計画』とは別の
そして、この一週間の間、得た情報の整理や、今一度連れて行く面々の身元の調査などを行い、ようやく準備が完了した。
——十一月三十日月曜日。十一月の終わりの日に美月たち一同は、白金代表が手配した飛行機に乗って、JP国を飛びたった。向かう先はワールドユニオンの本拠地のエデン。そここそが、新たな舞台となる場所だった。