——ワールドユニオンの本部がある宇宙エレベーター内の最下層にある秘密のエリアにて。
「——明日斗博士……いえ、正確には精霊のアースでしたね……」
「アダム議長……」
拘束された身動きが取れないアースは、顔だけ上げてアダム議長を見た。
全国大会の事件で美月とサターンと陽太を死なせてしまった後悔から、自分とサンとムーンだけでワールドユニオンの計画を阻止しに向かったが、軍と言う数の力に敗れ、こうして捕まってしまった。
決して侮っていた訳ではない。文字通り数世代先の技術を持って挑んだが、それでもアダム議長の為ならば命を捨てることすらもう厭わないワールドユニオンの執念の前に、足を掬われてしまったのだ。
「それにしてもまさか……明日斗博士の中には元の人格と、精霊の人格が存在していたとは……。 そして、今はこうして元の体を精霊の人格に預け、自らはスタースピリットを率いていたとは……。 これで、明日斗博士の矛盾していた行動の理由に納得できました……」
この十年間、宇宙ステーションにある研究所に籠り、美月以外との外部の連絡を取らない様にすることで正体を隠していたが、遂にバレてしまった。
「アダム・ガーディアンッ!! 妾の美月の幸せを壊した元凶めッ!!」
「汝だけは絶対に許さない……!」
「フッ、囚われて尚、威勢だけは良いですね?」
ムーンとサンの怒りの声をアダム議長は鼻で笑った。
ムーンたちも自分と同様捕らえられていた。
「しかし、貴方たちがいるその部屋は魔力が一切遮断された特別な空間です。 いくら、精霊と言えど、力の源である魔力が無ければ無力ですらね」
「ーーッ!?」
「「おのれ!」」
それがこうして精霊である自分たちが何もできずにいる理由だった。しかも、他にもいろんな対策をされており、もは自分たちの力だけではどうにもならない詰みの状況になっていた。
不味い。アダム議長は全ての
これでアダム議長が自らの計画を実行する為の鍵が揃ってしまった。
しかし、それでもアダム議長の目的があくまでも恒久和平である以上、交渉の余地はある筈だ。
「アダム議長! 私の話は聞いていたでしょう!? 明日斗もとい、ビッグバンが精霊だけの世界を作ろうとしている裏で、スーパーノヴァは全ての生命を滅ぼそうとしていると……! もしそれが実現してしまえば、貴方の望む恒久和平どころではない筈です! だから、どうかここは私に協力して下さい!」
「……」
アダム議長は確かに、十年前の事件を始めとした様々な悲劇を起こして来た。
だけど、アース博士知っている。アダム議長は当時まだ若者だったにも関わらず、人類史上最悪と言われたWWⅢを止める為に、平和を願う人々をまとめ上げ導いたことを……。そして、本当に戦争を終わらせて、英雄になったことを……。
勿論、いくら恒久和平を創る為とは言え、擬似集合無意識システムの鍵を奪う為に、十年前の事件を起こしたことは絶対に許せない。そのせいで、自分の半身である明日斗博士を始めとする多くの人たちの運命が狂ったのだから……。
それでも……!
「確かに……明日斗博士の望む精霊だけの世界など、絶対に認める訳には行きません……。 私は……いえ、
アダム議長は吐き捨てる様にそう言った。
「私たちが血を流してまで戦ったのは、もう二度と戦争が起きない様にする為……人間が傷つけ合うことの無い世界を創る為なのです……。 だから、私は仲間たちの屍の上に生き残った者として、絶対に人間の為の世界を創らなければならないのです……!」
アダム議長は若い頃の彼に似た激情を見せながらそう口にした。
「私は必ず、恒久和平の世界を作って見せる……! それが彼女との……
「な……ッ!?」
スーパーノヴァの望みを遠回しに拝呈したアダム議長を見て、アースは絶句した。
アダム議長はあれだけ恒久和平の世界を……未来を見ていた筈なのに……?
「……とは言え、それはあくまでも私個人の意見です……。 私はあくまでも
アダム議長のその言葉を聞いてアースはようやく彼のことを理解できた。
アダム議長は確かに恒久和平の世界を……未来を望んでいる。だけど、それはあくまでも彼の死んだ仲間たちの願いで、彼自身は未来など信じていない。
——アダム議長は未来ではなく、ずっと
*****
——魔法界にあるスタースピリットの本拠地である城の最新部にて。
「——スーパノヴァ様。 お体の具合はいかがですか?」
「
「ふふっ、もう完全に回復しましたわ。 ありがとうございますわ、ネメシス、クリサリス」
この広間を見下ろす様にただ一つポツンと置かれた玉座に座るスーパーノヴァは、側に控えているネメシスとクリサリスにそう言いながら、立ち上がった。
全国大会の事件の際に、美月とサターンと戦う為に大分無茶した反動でボロボロになっていたが、どうやら完全に回復できた様だ。
そんなスーパーノヴァの姿を見ていたビッグバンは、この場にいる者たちに声をかけた。
「良し! 元の予定から大分遅れてしまったが……こうしてスーパーノヴァが完全に回復し、美月と陽太の無事も確認できた以上、私たちも再び動き出すぞ!」
本当ならば、全国大会の際に、美月とサターン、ネオンとネプチューンを迎え入れ、そのまま実験のフィードバックを元に、『精霊計画』を世界規模で行う予定だったが、大分予定が狂ってしまった。全てはスーパーノヴァが独断で美月たちを殺そうとしたせいだが……。
それでも、最愛の妻である
だけど、こうして
「バルカン! 美月と陽太、それから、アースとサンとムーンの様子は?」
「……ふむ。 どうやら、アースとサンとムーンはアダム議長の計画を止める為に、ワールドユニオンの本拠地のエデンへと向かい、そのまま返り討ちにあって、囚われの身になった様だ……。 美月と陽太はそんなアースたちを助ける為に、JP国を経った様だな……」
「チッ! 何をやっているんだ、アース! 美月たちを任せると言っただろうが!」
報告を聞いたビッグバンは思わず舌打ちした。
「十年前の事件の後もそうだった! アースは人間の底知れぬ悪意を分かっていない……人間を信じ過ぎているのだ……! そんな人間の率いるワールドユニオンなど、話し合いなど通じない敵でしかないのに……!」
ビッグバンはそう愚痴ると、改めてこの場にいる者たちを見渡した。
「聞け! 我らスタースピリットは、これよりワールドユニオンの本拠地……エデンへと向かい、奴らを滅ぼす! 元の予定とは違うが、決戦の時だ! そして、同時にアースとサンとムーン、それから、美月とサターン、ネオンとネプチューンを回収する!」
「心得た」
「「……」」
ビッグバンの指示に、バルカンが返事をした。しかし、ネメシスとクリサリスは黙ったままだった。
「スーパーノヴァ。 君はここにいて貰う。 前回の様な勝手な行動は許さない」
「あらあら。 それなら……クリサス、ネメシス、わたくしたちの代わりにお願い致しますわ」
「はい、スーパーノヴァ様」
「
「ネメシスとクリサリスも戦力として連れて行くが、見張は付けさせて貰う。 間違っても勝手な行動をするなよ?」
「「……」」
スーパーノヴァの指示には素直に従うのに、やはり自分の指示には返事すらしない。前回の謀反以降、彼女たちは完全にスーパーノヴァの側に着いてしまっていた。
それでも、彼女たちの力は必要だし、例え考えが違っていても、自分たちは家族なのだ。除け者にすることなんてあり得ない。
それから、ビッグバンはバルカンへと指示を出した。
「バルカン。 すまないが、
「分かった。 直ぐに呼んで来よう」
バルカンが広間を後にするのを見ながら、ビッグバンは独り言の様に声を上げた。
「——アダム・ガーディアン! 十年前の事件を始めとする、貴様が犯した数々の罪を、その命を持って償って貰うぞ!」
——スタースピリットとワールドユニオンの決戦が始まろうとしていた。
第7章をお読み頂きありがとうございます。
次回からの第8章は、麗君とウラノス君のお話になります。