第117話「麗とウラノス」
——エデン。 それは、ワールドユニオンの本拠地であり、ウィッチバトルの世界大会の開催地となる場所の名前。 そんなエデンは俺にとっても特別な場所だった……。 相棒であるウラノスと出会った場所であり……。 一緒に世界で一番の相棒であるチャンピオンバディになろうと約束した場所であり……。 そして、一緒にその夢を叶えた場所でもあった……。
「——凄っげ〜! メカニカルウィッチってカッコいい〜!」
手のひらサイズの大きさのロボットでありながら、人類には使えない魔法を使い、人間を助けてくれる存在。
しかし、世論は、今まで便利な道具に過ぎなかった人工精霊が、メカニカルウィッチとなって人類の隣人を名乗り出したことで、賛否両論の状態になっていた。
そんな中、麗は新しい存在であるメカニカルウィッチに夢中になっていた。
「ロボットってだけでかっこいいのに! バトルまでできるなんて! 俺も相棒が欲しい! そして、一緒にバトルをやってみたい!」
麗の父の弟の叔父の
だから、麗はそんな空想の世界から出て来た様なメカニカルウィッチの虜になっていた。
そんな中、麗の父の
「麗! 麗が気になっているって言う、ウィッチバトルの最初の世界大会のチケットが取れたんだ! 勿論、行くだろ?」
「私たちも麗に
「うん! 行く! 絶対行く! 父さん、母さん、ありがとう!」
そして、当時四歳だった麗は、両親に連れられて、ウィッチバトルの世界大会の会場となった、国際世界平和維持同盟……通称ワールドユニオンの本拠地であるエデンへと向かうことになった。
その場所は
そんなエデンを前に、麗は思わず萎縮してしまったが、世界大会が始まると、直ぐにそんなのとはなくなった。
『——さあ、記念すべき第一回世界大会がいよいよ幕を開けます! 世界名国の代表たちがしのぎを削り合うことになる予選を勝ち抜き、その先にある本線の頂点に太刀、映えある初代チャンピオンバディの称号を手にするのは、果たして誰になるのか!?』
「うわ〜〜!!」
MCの男性の世界大会の開幕の宣言に麗はワクワクが止まらなかった。
そして、その期待通り、予選からしてハイレベルで、麗はいろんな人間とメカニカルウィッチの相棒たちの見せるバトルの虜になっていた。
その中でも麗は、故郷であるJP国の代表である
「きららさんとポラリスのバトル凄かったな〜! 俺もいつか相棒と一緒にあんなバトルしてみたい! 父さん! 母さん! 俺、先にホテルに戻って、今日のバトルを見返すから!」
「あ、麗! 待……早!? 全く、気をつけて行くんだぞー!」
「ふふっ、でもあの子の気持ちも分かるわ。 これがメカニカルウィッチなのね……」
予選があった日の帰り道。麗は後ろを歩いている両親を置いて、先にホテルへと走っていた。
すると……。
「「アイタ!?」」
麗は突如、道の端の茂みから飛び出して来た何か……否、メカニカルウィッチとぶつかった。
麗が急な痛みで頭を抑えていると、いきなりそのメカニカルウィッチが怒鳴って来た。
「痛えじゃねえか、馬鹿野郎! 前見て歩きやがれ! ……ったく、どこのガキだよ!? 親はどうしたんだよ!?」
「ええ?」
飛び出して来たのはそっちなのだが、理不尽に怒鳴られた。気性難なのかな……?
「父さんと母さんは、多分もう少ししたら来ると思うけど……。 あ、俺は麗。 天王寺麗。 君は? どこの子なの?」
「ああ? 俺様はウラノス様だ! ちょいと狭っ苦しい研究所から抜け出して来たんだ!」
どうやら話を聞くに、ウラノスは、メカニカルウィッチの開発者であるあの明日斗博士の研究所で生まれたらしかった。
しかし、同期たちが人間と相棒になる中、彼はその尊大な性格が原因で、中々気が合わず、ずっと明日斗博士の元に残っている様だった。本当に気性難だった。
しかし、その性格故に、研究所暮らしも肌に合わずにいる中、世界大会と言うお祭りの気配を察知して、こうしてこっそりと抜け出して来たらしかった。
「まあでも……このまま一人で彷徨いていても、直ぐに見つかるだけか……。 それなら……おい、ガキ!」
「麗だってば……」
「この世界大会の間、俺様をお前の所に匿やがれ! ウィッチバトルとやらを見てみてぇんだ!」
「ええ? 自分勝手だなぁ……。 でも……ウィッチバトルを見たいって言うのなら、手伝うよ」
「恩に切るぜ!」
そして、麗は両親に内緒で、ウラノスと一緒に行動することになった。
そんな中、麗はウラノスが、尊大な性格で気性難なだけの人物でないことを知った。
「へー! 俺様には及ばないが、中々に強そうじゃねぇか!」
彼は自信家で傲慢だが、それでも自分本位では無く、ちゃんと他人を見る目があった。
「あ? 俺様の目の前で悪事を働くなんて、良い度胸じゃねぇか! ぶっ飛ばしてやるぜ!」
彼は直ぐに手を出すが、それでもちゃんと正義感を持っていた。
「お、麗! サンキューな!」
彼はちゃんとお礼を言える人物だった。
確かに気性難であることには間違いないが、それでもどこまでも真っ直ぐで気持ちの良い人物だと、麗は思った。
そして、何よりも……。
「ほー! ウィッチバトルってのは、見ているだけで熱くなってくるな!」
「だよね!」
彼は自分と同じくウィッチバトルが大好きだった。
そんな自分たちは世界大会の予選、そして、本戦を一緒に観戦し、益々のめり込んで行った。
予選もそうだが、一対一のトーナメント戦である本線は、どのバトルも本当に凄かった。
そんな中、麗の注目しているきららたちは、一回戦をシード枠で飛ばした後、二回戦でBR国のリオとヒュドラーに、三回戦でAU国のコーラルとサザンクロスに、四回戦でEP国のアーミラとアルゴに、五回戦でUK国のアーサーとペガススに、六回戦の準決勝でCN国の
そして……。
『き、決まった〜! 記念すべき第一回世界大会を制したのは、極星きらら選手とポラリスのテディベアポラリスだ〜!
「「——私たちが世界で一番の相棒! チャンピオンバディよ!」」
きららたちは決勝戦でワールドユニオンが推薦したセブンとビッグベアに勝って、初代チャンピオンバディの称号を手にしていた。
そんな初代チャンピオンバディの誕生に、観客席が沸く中、麗も興奮が治らなかった。
「凄い……! これがウィッチバトル……! これがメカニカルウィッチ……! そして、これが初代チャンピオンバディ……! 俺もウィッチバトルをやってみたい……!」
麗は遠くにいるきららたちへと手を伸ばした。
「俺はなる……! きららさんたちみたいな……
「ハハッ!」
そんな麗の宣言を聞いたウラノスは嬉しそうに笑った。
「あんな凄げぇ奴らを超える存在になるってか……! 麗は俺様を超えるビッグな奴だな! 気に入ったぜ! だったら、俺様がお前の相棒になって、力を貸してやる!」
「良いの!?」
麗としては、こうして一緒に過ごす内にウラノスのことを気に入っていたが、まさか彼の方からそう提案してくれるとは……。
「こうしちゃいられねぇ! 麗! さっさと研究所に行って、明日斗博士を説得するぞ!」
「うん!」
そして、麗たちは研究所へと急いで向かおうとしたが、観客席を出た通路では、その件の明日斗博士が待っていた。
「ウラノス」
「明日斗博士、俺様は……!」
「迎えに来た……と言うつもりだったが、どうやらやっと君の相棒に出会えた様だな……」
「ああ! 麗はビッグな俺様の隣に相応しい奴なんだぜ!」
どうやら、明日斗博士には全てお見通しな様だった。
「麗君……で良いのかな? 初めまして、黒土明日斗です」
「は、はい! 知ってます! 知らない人なんていません! あ、俺は麗! 天王寺麗です!」
今最も世界で影響のある人物に話しかけられたことで、麗は若干慌ててしまった。
「ウラノスは少し気性難だが……悪い子では無いんだ。 君はそんなウラノスとこれから相棒として一緒に歩んでくれかい?」
「はい! 勿論です! ウラノスは見かけによらず良い人出し、何よりここで出会えたのは
「フッ、君たちを見ていると、きららちゃんとポラリスのことを思いますよ。 どうかこれからも、ウラノスのことをよろしく頼む」
「はい!」
麗は元気良く返事をした。
それから、明日斗博士に手伝って貰いながら両親を説得して、麗はウラノスと相棒となった。
——俺は思う……。 きっとあの時、エデンに行かなかったら、ウラノスとも出会うことは無かったと……。 こうしてチャンピオンバディになることも無かったと……。 だから、あの場所は俺の……俺たちの全ての始まりの場所なんだ……!
*****
——それから、俺が六歳になってウィッチバトルができる様になるまで、ウラノスはゴネまくっていたなぁ……。 だけど、二人で機体を作り上げて、いろいろ準備したっけ……。 そして、六歳になった俺は、ウラノスと一緒にウィッチバトルの世界に飛び込んだ。 そして、ネオンとネプチューンと出会うことになったんだ。
麗とウラノスにはウィッチバトルの才能があった。ウラノスはそれに驕ろうとしていたが、麗が説得してそれに奢ることなく一緒に努力と重ねたこともあって、同年代でも頭一つ抜けた強さを手に入れることができた。
そして、一年生ながら、ジュニアリーグの全国大会小学生の部に出ることができた。
「くっ! 負けた……!」
「そんな……俺様が負けるなんて!?」
「は〜、ネオンちゃんの同年代の中でもそこそこ強いって聞いていたから期待してだけど……所詮はこんなもんか〜。 ざーこ、ざーこ♪」
「……ん。 どうせ私とネプチューンには誰も勝てない……」
その一回戦で麗たちはネオンとネプチューンにボロ負けすることになった。
自分たちは同世代の中でも上澄と言われていたが、その頂点とは天と地程の差があった。
確かに、噂は聞いていた。練習試合を含めて一度もウィッチバトルに負けたことのない天才少女がいると言うことは……。だけど予想以上だった。
「……」
そんなネオンはウィッチバトル中も全然楽しそうにしていなかったし、勝っても微塵も嬉しそうじゃなかった。
麗は居ても立ってもいられなくなり、たまらず声をかけた。
「ネオンちゃん! 俺、
「……」
「おい! 麗のことを無視してんじゃねぇよ!」
「はぁ〜!? ネオンちゃんに怒鳴るなよ!」
「あ?」
「は?」
ウラノスとネプチューンが裏で喧嘩をしても、ネオンは何も言わなかった。
そして、そのまま背を向けて去ってしまった。
その後も、ネオンたちは年上の子たちすら軽々といなして、そのまま小学生チャンピオンバディの座を手に入れた。
「ふむ、良くやった、ネオン。
「……」
「チッ!」
だけど、ネオンたちは優勝しても微塵も嬉しそうじゃ無かった。むしろ喜んでいたのは、父親らしき人物と、彼に仕える使用人たちだった。
麗はそんなネオンとその周りの姿が頭から離れなかった。
「ネオンちゃん! 去年のリベンジをさせてもらうよ!」
「覚悟しやがれ!」
「……」
「あー、誰だっけ?」
二年目。麗たちはネオンたちにリベンジを挑んだ。
しかし、結果はまたしてもボロ負け。自分たちもこの一年間努力を重ねていたが、それでもネオンたちとの差は全然縮まらなかった。
そんなネオンたちの強さは去年の活躍で早くも広まり、既に例外中の例外だと言われる様になっていた。
「ネオンちゃん! 覚えてないかもしれないけど、リベンジさせて貰うから!」
「今年こそは……!」
「……」
「あー、はいはい、頑張ってねー」
三年目。麗たちは再びリベンジを挑んだが、それでもボロ負けしてしまった。三度目の正直にはならなかった。
「畜生! 何で勝てねぇんだ!?」
「ウラノス……」
二度あることは三度あると言うのに、ネオンたちに何度も負けたことで、ウラノスは荒れ始めていた。
だけど、彼はまだ闘争心があるだけ良い方だ。同年代の子たちには早くも、ネオンたちには勝てる訳ないと諦める者たちが出て来ていた。
「ネオンちゃん! 俺は君に勝つことを諦めないから!」
「俺様たちは最強の筈なんだ!」
「……」
「君らも懲りないねー。 アタシとネオンちゃんに勝てる訳ないのに」
四年目。麗たちは再びリベンジを挑み……また負けた。
どれだけ努力しても埋まらない才能の差。いや、もはや才能と言うレベルの話じゃない。
まるで本物の魔女の様に自由自在に魔法を操るネオンたち相手に、麗たちはおろか年上の子たちすら全く勝てずにいた。しかも噂では、プロとのエキシビジョンマッチでもネオンたちは余裕で勝利したと言う。
そんなネオンたち相手に勝つのは不可能だと誰もが諦める様になり、ウィッチバトルを止める子たちすら出て来ていた。
「まだだ……! 俺は絶対にネオンちゃんたちに勝つんだ!」
それでも、麗は諦めたりなんかしなかった。
「畜生! 何で俺様はこんなにも弱いんだ……!」
しかし、ウラノスの苛立ちは爆発寸前にまで溜まってしまっていた。
「ネオンちゃ……」
「海姫ネオン!! ネプチューン!」
「……」
「まあ……君らは石ころの中でも骨がある方だから、嫌いじゃないよ。 それでもあたしたちには絶対に勝てないけど……」
五年目。明日斗博士の息子の
そんな全国大会の決勝戦で、麗たちは再びリベンジを挑んだが、また負けてしまった。
決して手を抜いた訳じゃない。今までの努力の全てをぶつけた。
諦め癖がついた訳じゃない。むしろ闘志はどんどん増していた。
それでもどうやってもネオンたちには勝てなかった。
「畜生!! もう止めだ!! ウィッチバトルなんか止めてやる!!」
そして、とうとうウラノスの鬱憤が限界を迎えた。
「ウラノス、諦めちゃダメだ!」
「うるせえ!! そんなこと言ったって、どうやってもネオンたちには届かねえじゃねえか!! アイツらに勝つってことは、宇宙の星に手を伸ばして本当に掴むようなことだぞ!? 要するに不可能なんだよ!!」
ウラノスは夜空の星を指しながら、そう叫んだ。
「そうだね、ネオンちゃんたちは星だ。 手を伸ばしても届かない遥か遠くにある星だ。」
「だろ! だから、俺らがいくら頑張っても……」
「それでも! 諦めたら永遠に届かなくなる!」
「ーーッ!? 諦めなくたって、永遠に届かねでだろうが!」
「そんなことない! いつか必ず届く日が来る!」
麗とウラノスの会話はヒートアップしていった。
すると、決して引かない麗を見て、ウラノスが思わず尋ねた。
「何で麗は諦めねぇんだよ……。 ネオンたちの強さは嫌と言う程知ってる筈なのに……」
「だって俺は、ネオンちゃんたちに勝ちたいんだ! 勝ってもいつもつまらなさそうにしているあの子に勝って、ウィッチバトルの楽しさを教えて上げたいんだ! だって、あの子、
「麗……」
麗の答えを聞いたウラノスは押し黙った。
そして、自身の頬を思いっきり叩いた。
「くっ! ダセェ! ダセェよ、俺様は! 何が最強だ! 負けてへそ曲げて諦めやがって! 麗は……俺様の相棒は諦めてねえってのに!」
「ウラノス……」
「俺様だって勝ちてえよ! あのクソガキのネプチューンの鼻を明かしてやりてえ! だから、来年こそ勝つぞ、麗!」
「うん!」
それから、麗たちは今まで以上に血の滲むような努力を重ねた。
その果てに、ネオンたちの魔法に対抗する為に、全種類の武器を使う最強のバトルスタイルを生み出した。
そして……。
「これで俺たちの勝ちだ……!」
「オラ! 思い知ったか!」
「……!! 嘘……!?」
「は? 負けた?
六年目。準決勝戦で陽太たちに勝った麗たちは、決勝戦でネオンたちに初勝利を収めた。
殆ど引き分けの判定勝ちだったけど、それでも勝ちは勝ちだった。
すると、ネオンはわなわなと体を震わせた。
「……どうして、普通の人間であるあなたが私に勝てたの……? こんなの……本来はあり得ない筈なのに……」
「だって、
「私の……?」
「ネオンは勝ってもいつもつまらなさそうにしてただろ? ウィッチバトルを楽しいと思ったことは無かったんじゃないか……?」
ネオンはその指摘に顔を暗くした。
「だって……父に言われてやっていただけだったし……。 最初から誰も私に勝てる訳ないのは分かっていたし……」
「だけど、俺は勝った。 しかも、今回だけじゃない。 これからもネオンたちに勝って見せる! だって、ネオンたちのライバルだから……!」
「ライバル……。 ねえ、本当に私の隣にいてくれるの……?」
「ああ! 俺がそうしたいんだ!」
「……ありがとう、
すると、ネオンはほんの少し笑顔を見せてくれた。いつもの無表情さが嘘に見えるくらいに、可愛くて、綺麗な笑顔だった。
「……!!」
「麗……?」
「あ、えっと……何でもないよ、ネオンちゃん……!」
「ネオンで良い……」
「あ、うん! ネオン!」
それからと言うもの、麗たちはネオンたちのライバルとして、ジュニアリーグの全国大会の中学生の部、シニアリーグの全国大会高校生の部と大学生の部で互角の勝負を繰り広げた。
そして、メカニカルウィッチ学園を卒業後、一緒にプロリーグになり、その最初の年に世界大会で優勝することができた。
「「——俺たちが世界で一番の相棒! チャンピオンバディだ!」」
——ネオンとネプチューンと出会えたから、俺とウラノスはここまで強くなろうと思えた……強くなれた。 そして、俺たちはこの始まりの場所で、夢だった世界で一番の相棒であるチャンピオンバディになることができたんだ!