「――本当に良かった……。 美月さんたちも無事な様で……」
「そうですね、マスター」
黒土邸の玄関付近で、満身創痍のノーブルヴィーナスに乗った輝が、美月からの連絡を見て安堵の息を吐いていた。
美月たちを分断した後、ネメシスが「クリサリス、ここから先は誰も通すな……。 それ以外は君の自由だ……。 好きにすると良い……」と言い残してこの場に置いて行ったあのクリサリスと呼ばれた機械仕掛けの竜は、本当に規格外の強さだった。
自分たちの機体も、ノーブルマルチウィングは二機とも破壊され、機体本体も左腕を失い、もう右腕のノーブルガンソードしか武器が残っていなかった。
機体の魔力もほぼ空で飛行魔法も使えない為、こうしてボロボロの機体でどうにか立っているのが精一杯だった。
それでも尚、輝は機体をどうにか動かし、この場に倒れているワールドユニオンの機体の中で、まだかろうじて動ける三機の中でも隊長機であろう草刈の機体に銃口を向けた。
『……アタシたちもこれ以上戦う気はないよ。
草刈は銃口を向けられて尚、抵抗する素振りすら見せず、逆にボロボロの機体の残った片手を無理やり上げて、投降の意を示した。
それに合わせる様に残りの二機も投降の意を示す。
ワールドユニオンは最初に襲って来た機体に加え、周囲に潜伏していたであろう予備戦力を合わせた三十機近くをあの竜との戦闘に動員していた。
それでも美月の護衛だった草刈と水島と炎炉のパーソナルカラーの入った三機以外はこうして全滅していた。
それにも関わらず、死者が出ていない理由は……。
『……一つ聞かせてくれ。
あの竜との戦いの際、輝たちは三つ巴の戦いにならない様に、ワールドユニオンの機体をカバーする様に立ち回っていた。
その結果、半ば共闘する様な形となり、後数分でも戦闘が長引いていたら全滅していてもおかしくはなかったとは言え、こうして奇跡的に死者を出さずに済んでいた。
だが、そうしたのは決して助ける為ではなかった。
「……別に君たちのことを許したつもりはない……。 許すつもりもない……。 ただ、あの機械仕掛けの竜を抑える戦力として利用しただけだ……。 そして何よりも……美月さんの大切なこの場所を、君たちなんかの血で汚したくはなかっただけだ……」
『そうかい……。 でも、礼は言わせて貰うよ。 ありがとね、部下たちの命を助けてくれて……』
「……」
輝としても本当に苦渋の決断だった。
それがまだ荒療治の途中で不安が残るサターンに美月の命を任せるしかなくなるのだとしても……。
あの竜が急に屋敷の方へと行った時は、本当に心臓が止まるかと思った。
だから、お礼なんて言われたくないのだが、草刈の方はそのまま苦悩する様な声で言葉を続けた。
『美月様には本当に悪いことをしたと思っているよ……。 ずっと裏切っていたとは言え、これでも十年近くあの子の側にいたからね……。 情だって湧いていたさ……』
「だったら……!」
『それでもアタシは……アタシと部下たちは、この命を
現代の魔女狩り。それについて父から聞いたことがある。
戦後に起きた、WWⅢ中に悪い意味で名が広まった政治家や軍人、それから科学者などの本人やその家族に対する酷い差別と迫害行為のことだ。
相手は
そして、「未来ある子供に罪はない」として十年以上かかってでもそれを止めたのは、他でもないアダム議長だったそうだ。
しかし、そう口にしていた筈のアダム議長がこうして美月を含む多くの人を傷つけて来たのだ。
いくら恒久和平の為とは言え、多くの人を踏みいじるそのやり方は、あまりにも矛盾していた。
『……どうやら
草刈がポツリと呟くと、警察と消防、それから救急車のサイレンの音が聞こえて来た。
まだ油断はできないので、監視の意味も込めて銃口を向けたままにしながら、輝は美月たちがいるであろう方向を見た。
(……
*****
――同時刻。宇宙のとある場所に隠された『方舟』にて。
「――本当に良かった……」
アークサターンからリアルタイムで送られて来る家像を見ながら、明日斗博士が安堵の息を吐いていた。
無事にネメシスとクリサリスを退けたのもそうだが、自分が手を尽くしても解決できなかった、サターンが抱えていた黒土陽太の偽物であると言う苦悩を、美月が解決してくれた。本当に感謝しかない。
「……すまない、サターン。 君にスタースピリットのことを話せなくて……」
もし、以前のサターンに
その場合は、今回のネメシスたちの立ち位置に、サターンたちが立っていたかもしれない。
最悪の場合、サターンたちが美月を連れ去り、向こう側に行ってしまう可能性だって十分にあり得た。
だから、その最悪の可能性を恐れて、精霊たちが組織するもう一つの敵がいることくらいしか話せなかった。
「……しかし、ずっと美月を影から守っていた筈のネメシスたちが遂に動き出したか……」
この十年間、美月の為に自分が用意したリンたちにすら気づかれぬ様に、ネメシスたちが裏で脅威を排除し続けていたのは把握していた。
それにも関わらず、
「式典の日に
美月とサターンが出会ったあの日に、十年間の間眠っていた
アダム議長が何かを仕掛けて来ると分かっていながらも、ネメシスたちを呼び戻したのは、もしかしたら
「それでも、どうか……せめて今だけは、子供たちには明るい世界で生きて欲しい……」
そう遠くない未来に、アダム議長の計画と
そんな時に、美月たちを助けてくれる人たちを……
でも、それも長くは続かないだろう。いつか必ず終わりが来る。
それに、これからは
それにサターンの存在を知られている以上、
十年前のあの日に自我崩壊し、長い眠りについていた二人が
「……きっと
現に
そんな
それでも明日斗博士は、問いかける様にこの場にいない
「――なあ、***」