――突然ですが、私ちゃんこと冥道御影と、うーちゃんこと魚波歌は、幼稚園からの長い付き合いがある大親友なのです。
当時、引っ込み思案で人の輪に入るのが苦手だった御影は、たまたま誕生日が同じ日だったと言うひょんなことから、歌と話す様になった。
二人共、普段はおとなしい子だったが、自分の好きなことには異様にテンションが高くなることと言う共通点があった。
それが分かってからは、より意気投合する様になり、気づけば友達を超えた親友の間柄になっていた。
それから運命か偶然か、歌とは幼稚園の後も、小学校も中学校も毎年ずっと同じクラスになる様になっていた。
「うーちゃんって、本当に魔法が大好きですよね!」
「はい! だってキラキラしていてとても綺麗で、それでいて神秘的なんです! こんなに凄い力を私は他に知りません!」
歌は本当に魔法が大好きな子だった。
曰く、魔法の美しさに一目惚れしたそうで、幼い頃は大きくなったら魔女になるんだといつも言っていた。
そして、そんな歌がウィッチバトルにのめり込むのは当然だった。
「……歌の心は、もうすっかりウィッチバトルに奪われてしまったわね……。 昔、可愛くおめかしした歌に合わせて、私が魔法を使ってあげて、一緒に魔法少女ごっこしていたのが懐かしいわ……」
「もう、ピスケス! いつの話をしているんですか!」
ピスケスは歌が生まれた時からずっと一緒にいる相棒で、二人は姉妹の様な関係性をしていた。
メカニカルウィッチ世代の子供たちにはこう言った例が多い。
両親が自分の子供が生まれた時に、兄弟姉妹のように一緒に育って欲しいと願って将来の相棒を用意するからだ。かく言う御影とカロンも同じだった。
そして、その場合、人工精霊であるが故に、成長が早い相棒側が兄や姉を主張することが多かった。
カロンの場合はそんなことは無かったが、歌の場合は案の定、ピスケスに姉の座を奪われたらしかった。
――でも、うーちゃん……。 だからって私ちゃんのことを偶に妹扱いしてくるのはどうかと思いますよ……。
*****
――そんなうーちゃんには大変申し訳ないのですが、私ちゃんにはそもそも、四つ上の尊敬する大好きなお姉ちゃんが……
「――みー、おめでとう……! 学園リーグ戦が解禁された初日に九位になるなんて、本当に凄いじゃないか……!」
「えへへへへ……! 全部全部、相棒のカロンちゃんとお姉ちゃんが作ってくれたこの機体のおかげです!」
御霊は妹である御影と同じく、頭の上に小さなアホ毛のある黒とピンクのツートンカラーの髪に、紫の瞳をした、メガネをかけた少女だった。
ただ姉は極度の人見知りなので、髪はいつも伸ばしっぱなしになっていた。
「フフフフフ……! そ、そんなことはないよ……? 私の作った機体の力なんてほんの僅かで……」
「そんなことありません!! お姉ちゃんの作る機体は、あの
「……フ、フハハハハハッーー!! ま、まあ? 私はメカニカルウィッチのことだけなら誰にも負けないからね!!」
姉は正真正銘の本物の天才だった。
独力による勉強を重ね、ついに自らの手でほぼ一から自身の相棒のプルートと、妹の相棒のカロンの機体を作り上げた。
その偉業は、それを知ったワールドユニオンが個人相手に企業と同じ認可を特例で出し上に、未来の明日斗博士になるうる人材として直接スカウトしに来る程だった。
姉は緊張のあまり気絶して、その話は何度も何度も先延ばしにしているが……。
「……やはり正反対の様に見えも、性格はそっくりですね。 御霊は普段はオドオドしている癖に、調子に乗ると御影以上にテンションがぶっ壊れるんですから……。 笑い方が完全に悪の科学者のソレです」
「うんうん、逆に御影ちゃんは普段はテンションが高い癖に、変な所で引っ込み思案が発動するからね〜。 姉妹なだけあるよ〜」
「「でも、メカニカルウィッチが絡むと暴走するのは完全に同じ」」
カロンと会話しているプルートは、黒い髪に、ピンクの瞳をした男性で、御霊の相棒でもあった。
「……でもね、それも全部全部、私にメカニカルウィッチの楽しさを教えてくれた
「お姉ちゃん……」
幼い頃、姉にメカニカルウィッチの楽しさを教えて貰った御影は、相棒たちの絆のキラキラの虜になり、もっともっと見てみたいと願う様になった。
大親友の歌が魔法の美しさに一目惚れした様に、御影もまた絆のキラキラに一目惚れしたのだ。
だから、それを見せてくれそうな子たちにどんどんバトルを挑み、それを糧にカロンと一緒にここまで強くなれた。
御影がそのキッカケをくれた姉のことを感謝している様に、姉もまたその
でも……。
「……やっぱりまだ後悔しているんですか……?」
「……そうだね。 私に勇気がなかったせいで、
御影はその
でも姉はその約束を勇気が出てからと、後回しにし続けた結果……ある日、もう二度と果てせなくなったそうだ。
それからと言う物、姉はその
特にウィッチバトルに積極的になり、最初こそは戦績が振るわなかったが、戦う度に相手の技術を吸収し、機体を改造することで、どんどん強くなっていった。
そして、スーパーウィッチバトルが解禁されるシニアリーグに入ってからは、公式戦もほぼ負けなしの無敗に近い状態になっており、姉とプルートが大学生チャンピオンバディの座にいる今の大学生の部は完全な一強状態と言われていた。
でも、姉はそれだけ強くなって尚、どこか満たされない様にこうして遠い表情をすることがあった。
「……いつも言ってるけど、みーは私みたいに後悔しない様に、今を大事にするんだよ?」
悲しそうに何度もそう言い聞かせて来る姉の為にも、御影は自分の好きなことに全力になることにしたのだ。
――だから私ちゃんはお姉ちゃんに言われた通り、後悔のない様に、大好きな人間とメカニカルウィッチの相棒たちの絆のキラキラを見る為に、やりたいことを今、全力でやる様にしているんです! それが私ちゃんのモットーですから!
*****
『と、冬馬! ……』
『……いや、小春。 ……』
放送席にいる小春と冬馬が何かを言っていたが、美月の耳にはその内容が殆ど聞こえていなかった。
もはや観客席の声はおろか視線も全く感じない。リンとムーンの幻聴すらも消えていた。
その理由は単純だ。もはやそれどころではないからだ。
「くっ……!? 不味いですわ!」
「お嬢様、このままでは持ちません!」
地形を生かして森を盾に射線をある程度遮っているとは言え、マーメイドピスケスの分身たちによる魔法の攻撃の嵐は尋常じゃなかった。
魔力が見える目を持ってしても、完全に全てを避けるのが難しい程の圧倒的な物量だ。
そんな戦場の中を、シャドウカロンはもはやシンクロゾーンに片足を突っ込んでいるレベルの動きで駆け回っていた
本調子の時は二年生世代最強と言われているのは伊達じゃない。
歌たちの分身を一掃する為にマジカルスキルを使いたいのに、御影たちがその隙を与えてくれない。
逆に御影たちを落としたいのに、歌たちの援護によりその邪魔をされる。
完璧な連携だった。
さらに言えば、この嵐の様な攻撃の中でフレンドリーファイアが一切起きていないのだ。
全部避けている御影たちが凄いのか、当たらない様に調整している歌たちが凄いのか、はたまた両方か……。
こんな状況ではアーク
他にも武器が欲しい所ではあるが、『魔王システム』を前提としている『アークウィング』はロックがかかっていて使えないし、『アークテール』は一応は使えるが、やはり本領が発揮できない。……と言うか使いにくい。
流石にいくら何でもバトルでそれを発動させるのはルール的にもいろいろダメだ。
残る『アークガントレット』は唯一普通に使用できるが、これは剣と盾を失った時の為の武器なので、併用しずらい。
それでも機体本体の性能がシンプルに高いおかげで何とか耐えてはいるが、このままではジリ貧だ。
ヒット&アウェイを繰り返すシャドウカロンの攻撃も益々激しくなってくる中、マーメイドピスケスの攻撃による被弾が増えていく。
『隙ありですよ!』
被弾により隙を見せた美月たちの背後から、御影たちの機体が突撃して来る。
両腕のシャドウマルチガントレットからビームの刃を発生させていたが、これが厄介だった。威力もそうだが、さらに刀身が曲がるのだ。
剛柔一体の動きのせいで、面積の大きい盾のある左側は兎も角、剣のある右側の攻撃を通してしまう。
でも、咄嗟にアークテールを動かして、致命傷だけは避ける。
それにこちらもタダではやられない。
「その左腕、貰いますわ!」
カウンターでシャドウカロンの左腕を切り飛ばした。
これで少しは……。
『甘いですよ!』
しかし、切り飛ばされた左腕が空中で停止したかと思うと、自由自在に動き出した。
「これはまさかっ……!?」
「輝たちと同じ……!?」
『ご明察の通り、ドローン武器ですよ! 例え四肢を切り飛ばされても、そのまま戦闘ができる様にと私ちゃんのお姉ちゃんが組み込んでくれました! 一応、隠し武器ではあるのですがバレてしまった以上、もはや隠す必要はありませんね!』
『一斉発射だよ〜』
さらにシャドウカロンの右腕だけではなく、両足もドローン武器として展開して来る。
それだけじゃない。腕と足にそれぞれついているシャドウマルチガントレットがさらに分離することで、合計八つへと増えた。
「あの機体、どれだけのギミックが!?」
「ええい、びっくり箱か何かか!?」
今だに続いている歌たちによる攻撃の嵐の中を、ドローン武器たちが自由自在に動き回る。
どう見ても、マニュアル操作だ。本当に申し訳ないけど、動きが気持ち悪過ぎる。
本体と合わせ、九つ同時操作。マルチタスクのレベルじゃない。
元々限界だったとは言え、いくらこの魔力が見える目を持ってしても、これら全てを対応するのは完全にキャパオーバーだった。
さらにドローン武器からアンカーが発射され、アークサターンの全身が拘束される。
そこに歌たちの集中砲火が飛んで来る。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ〜〜!?」
「お嬢様!?」
いくら父の作った頑丈な機体でも、もう限界寸前だった。
『これも耐えますか! なら、私ちゃんたちも全力をお見せしましょう!』
耐えきれていないのだが、シャドウカロンは空へと飛翔すると、胸部の装甲を展開させ、中にある魔石を露出させた。
『
『あれ疲れるんだけどな〜。 全く、しょうがないな〜』
『『マジカルスキル! プルートゴーストキャノン!』』
機体のコアである魔石から直接魔力を供給する様に、何重もの魔法陣が重なる様に展開された。
さらに辺り一体の魔力までもが、まるでブラックホールに飲み込まれる様に集まっていく。どう見てもヤバい。
『み、みーちゃん!? 私たちもいるんだけど!? ピスケス!』
『分かってるわ、歌! 急いで離れるわよ!』
それは、それなりに離れた場所にいるマーメイドピスケスが慌てて逃げ出すレベルだった。
でも、自分たちは拘束されていて逃げたくても、逃げられない。
そして、ついに超巨大なビームが発射され、本能的な恐怖から目を閉じた。
「――ッ!?」
「くっ……!? お嬢様!?」
――そんな美月の耳に、
『――お待たせ、美月! それにサターンも!』
『ピンチのヒロインを助けるわよ、焔君!』
目を開けると、自分たちを守る様に前に立ったブラッドマーズが、ブラッドロッドの先端に宿した巨大な真っ赤な太陽……いや、月で巨大なビームを防いでいた。
いや、防ぐは正しくない。正確には周囲の魔力を乱すことで、ビームを無理やり拡散させていた。
「焔……完成させたのですね……」
『うん!
『私たちだけの最強のマジカルスキル!』
『『マーズブラッドムーンだ!』』
これが焔たちのフィールド魔法。
この魔力が見える目によれば、その効果は周囲の魔法を乱し、消すこと。つまりは
……だけど一つ気になっていると、代わりにサターンが突っ込んでくれた。
「……その赤い月はどうなってるんだ?」
『ごめん! まだ上手くフィールド魔法を張れなかったから、
『範囲は広くないけど効果は問題ないわ!』
「「ええ……??」」
美月とサターンは言葉を失う。フィールド魔法とは??
いや、でも今はそれがプラスに働いていた。
この短時間で完成と発動をさせたのもそうだが、範囲が狭いおかげで、その効果が集中してより強力になっていた。
目の前の明らかにヤバいビームを拡散しているのもそうだが、周囲に残っていたマーメイドピスケスの分身たちも上手く形が保てなくなっていた。
さらに無理やり散らされたビームが、展開しているドローン武器や、上手く動けない分身たちにフレンドリーファイアをかましていた。
そして、ついに御影たちのビームを散らし切った。
その余波で地形はめちゃくちゃになっているが、自分たちは無事のままだ。
『私ちゃんたちの切り札を防ぎ切るとは本当にあっぱれですよ!! ……さっきは言いそびれましたが、私ちゃんが入学式初日のウィッチバトルで気付いた通り、
攻撃を防がれたにも関わらず御影はテンションがぶっ壊れた様に叫んでいた。
『うんうん、そうだね〜。 でもさ、御影ちゃん。 これ撃ったせいでカロンちゃんもうガス欠なんだけど……』
『あ……』
ドローン武器を失い、高度を徐々に下げながらも、プカプカと浮かんでいるシャドウカロンが目に入った。
チャンスだ。再びアーク
「焔、お願いしますわ!」
『うん、任せて、美月!』
そのままさっきの容量でブラッドマーズを御影たちの元へと吹っ飛ばした。
流石に二回目なので、焔たちも慌てることなく綺麗に飛んで行く。
しかし、それに合わせて別方向から水柱が飛んで来る。
『『マジカルスキル!
歌たちは魔法で発生させた水柱の中を泳ぐ形で空を飛び、御影たちの元へと辿り着いた。
この狭い範囲限定とは言え、マーズブラッドムーンの効果で、分身たちが機能しないからと、切り札であるフィールド魔法を即座に切って、次の行動に移れる辺り、判断が早い。
『みーちゃんはやらせません!』
『本当に世話が焼けるわね!』
『『マジカルスキル! マジカルシールド!』』
そのまま焔たちに向けて防御魔法を展開した。
しかも、切り札クラスのマジカルスキルすらも防げる三重仕様。
複数のマジカルスキルを同時に発動するのは簡単ではない。マルチタスクの能力だけではどうにもならないからだ。
基準としては大抵の人は二つか三つが限界だろう。でも、二つ同時に使えるだけでも選択肢は大きく広がる。
例えば「マジカルブースト」で加速した状態で、「サターンスラッシュ」で切り掛かるなどだ。
そんな中での合計四つの同時発動。歌たちフィールド魔法なしでも強い。
現に焔たちの
でもこっちだって黙って見ている訳ではない。
アークサターンを焔たちの反対へと……御影たちと歌たちを直線上に結んだ場所へと移動させる。
「まだ行けますわよ、サターン?」
「当然です、お嬢様!」
「「マジカルスキル! サターンアークブレイク!」」
焔たちを援護する為に、この機体最大の魔法を全力で放った。
(焔、後は任せます……)
その代償として、限界寸前だった機体が爆発し、マジカルバリアが砕け散り戦闘不能になる。
『ほわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ〜〜!?』
『御影ちゃん!?』
だけど、ガス欠でろくに動けないシャドウカロンを光が飲み込み、マジカルバリアを破壊して戦闘不能にした。
『みーちゃん!? くっ……!?
歌たちは
合計五つの同時発動。それは杖系の武器を得意とするプロと同じ領域で、
でも、まだ練度が足りないのか不安定で、しかも歌たちを襲っているのは両方とも切り札クラスだ。
数秒こそは耐えたが、案の定、二重で展開していた方を破られ、そのままマーメイドピスケスが左腕を破壊された。
『決めるよ、マーズ!』
『ええ、焔君!』
『まだです! ピスケス!』
『任せて、歌!』
歌たちは焔たちの赤い月に飲み込まれる直前に、展開していたマーメイドスフィアから差し違える様にビームを発射した。
『しまっ……!?』
『焔君!?』
そのまま二機はほぼ同時にマジカルバリアが破壊され、戦闘不能になったことで地上へと落下していった。
『え!? これってどうなったの!? あたしには殆ど同時に見えたけど……』
『録画による判定待ちだが……あの状況から相打ち……ドローに持っていくなんて……』
『いや、違う……』
放送席の小春と冬馬が結果を気にする中、ただ一人輝だけは何かに気付いた様だった。
でも、バトルの疲れで決着の瞬間を見逃してしまった自分では判断できないので、結果を待っている間にサターンに声をかけた。
「お疲れ様、サターン」
「……」
「サターン……?」
自分の声に反応しないなんて珍しい。
どうやら何かを考え込んでいるらしく、耳をすませると、小さな声で何かを呟いていた。
「……冥道と言う名字に、数々のギミックを搭載した独自の機体……。 いくら姉妹で別人とは言え、雰囲気もどこか似ている様な……。 いや、まさかな……?」
良くは分からないが、今は二人きりだし、今度は兄の名で呼びかけてみようとした……その時だった。
――視界が一瞬、反転する。
「――ッ!?」
目眩により少しだけふらつくが、次の瞬間には、視界も何事もなかったかの様に元に戻っていた。疲れているのだろうか?
――そんな美月の……妹の不調を、考えごとに浸っていたサターンは見逃した。見逃してしまった。