――お昼休み。食堂にて。
「――ふーん? 成程ね……。 獅子谷会計は美月さんにそんなことを言った挙句に、あまつさえ引き抜こうとした……と。 うちの生徒会メンバーが本当にすまないね。 後で、
「お、お願いしますわ……」
あの後、学園リーグ戦が正式に受理された直後に、輝から事情を把握する為にもお昼休みに会えないかと言うメッセージが届いたことで、こうして美月たちは食堂で一緒に昼食を取っていた。
今朝の騒動で美月たちも大分怒りを抱えていたのだが、輝が普段の優しそうな様子からは想像ができないくらいに目に見えてキレているのを見たことで、相対的に落ち着くことができていた。
「まあ、お詫びと言っては何だけど……最初に言った通り、今日の昼食は僕の奢りだから、遠慮せずに好きなだけ頼んでくれて構わないよ」
学園内にある食堂は、建物そのものが大きなショッピングモールとなっている購買部程の規模こそはないものの、それでも和洋中いろんなお店があり、ちょっとしたレストラン街になっていた。
その中でも輝一推しは、世界一を決める料理コンテストで入賞したことのあるシェフとその相棒が料理長を務めるお店だった。
ウィッチバトル並びにスーパーウィッチバトルが今世界で最もメジャーな競技であることに間違いはないが、何もそれが全てと言うわけではない。
この店の料理長の相棒たちの様に、料理人として一緒に美味しい料理を作ったり、ファッションモデルとして人間とメカニカルウィッチ双方の最新ファッションを披露したり、役者として一緒に映画や舞台の場に立ったりなど……。
その他にもいろんな分野で人間とメカニカルウィッチは相棒として一緒に活躍していた。
このお店も少々お値段は張るが、それに見合うだけの美味しい料理を料理長の相棒たちが作ってくれることに加え、頼めば大盛りや追加などのアレンジも引き受けてくれると言うことで、評判の人気店らしかった。
そんなこともあり、普通は予約を取るのも大変なのだが、輝は学園リーグランキング一位の特典を持っている為、予約の優先は勿論、急な人数の追加も受け付けてくれたらしい。
それに加え、サービス券も持っているので、気にせずに奢られて欲しいと言うことで、最初は悪いと断ったのた美月たちもこうしてご馳走になることになった。
そして、魔法で宙に浮く台車によって五人分の料理が運ばれて来た。
人間に変身できるサターンは兎も角、体が機械であるメカニカルウィッチ組は同じ物を食べられないので、マジカルウォッチ経由で食事の味を再現した魔力を補給していた。
そんな訳で、各々が好きな物を食べ始めたことで、何となくそれぞれの人となりが見えて来た。
「やっぱりとんかつ美味しい! ご馳走様です、輝先輩!」
「焔君! お肉ばかりじゃなくて、ちゃんと野菜も食べるのよ!」
「はーい!」
先ずは焔。とんかつ定食のご飯をカツ丼に変更した物を注文していた。見るからに凄い量だ。
マーズ曰く、美味しいお肉でしかも
「野菜美味しい〜! あたし、ピーマン大好き! ありがとう、輝先輩!」
「うんうん、小春ちゃんの健康の為にも野菜をしっかりと取らなきゃね……」
次に小春。野菜カレーにピーマンの肉詰めを追加した物を注文していた。野菜尽くしである。
ジュピター曰く、幼い頃病気だった小春は、健康の為に体に良い野菜を一杯食べている内に、いつの間にか野菜自体が大好物になったそうだ。特にピーマンは一推しらしい。
「……やっぱりお寿司は美味しい。 ご馳走になります、輝先輩」
「フッ、冬馬は相変わらず魚が好きだな……」
続いて冬馬。お寿司にお吸い物がついたの物を注文していた。定番の和食と言った感じだ。
冬馬が直ぐに止めたが、マーキュリー曰く、冬馬の実家は『レキシキョウト』にあるらしいので、多分その影響で和食が大好物なのだろう。
「奢ると言ったのは僕なんだから気にすることはないよ。 それに体を成長させる為にも、たくさん食べることは大事なことだからね。 遠慮しないでくれ」
「マスターは特に気にかけていますからね」
「そうだね」
そして、輝。料理長特製の特別メニューを注文していた。
その内容は、肉、魚、野菜、卵、大豆製品、乳製品と言った成長に必要な物がバランス良く揃っていた。
それでいて、一つ一つのメニューがそこそこ量がある為、全体的にボリュームもあるが、輝はよく噛みながらもペロリとそれを食べていた。
高身長で王子様の様なルックスの秘訣はきっとこれなのだろう。
「……美月さん。 女性にこれを尋ねるのは不躾なのは理解しているけど……それだけで足りるのかい?」
「そうですよ、お嬢様! お願いですから、もっと食べて下さい!」
「い、いえ……お気遣いありがとうございますわ、輝先輩。 それにサターンも。 お腹が余り空いてないだけですので、お気になさらないで下さい……」
「美月さんがそう言うなら……」
お腹が空いてないと言うか、食欲自体がないので、本当なら紅茶だけで十分だったのだが、それでは流石にと言うことで、一番軽そうなサンドウィッチを注文した。
それは最近、体調が余り良くないのもあるが、リンや爺やたちのおかげで大分改善したとは言え、そもそも自分の食が細いと言うのもあった。
そのせいか、背の高かった母の遺伝子のおかげで身長だけはこうして高いが、全体的にスレンダーと言うか華奢なせいで、サターンはこうして食事の度にいつも心配して来ていた。
でも、無理に食べようとすると吐きそうになるので、申し訳ないがそれは無理な相談だった。
「……さて、話は戻るんだけどね。 僕としても出たいのは山々なんだけど、あいにくと顧問の立場ではそれは無理だからね……。 そこで、三日後のチーム戦に向けて、今日の放課後から早速顧問としてチームオールスターズの皆に指導を始めるつもりだ。 それと同時に前に話した
「「「よろしくお願いします、輝先輩!」」」
「……とは言っても、美月さんは休んでいた分の補修があるからね……」
「分かってますわ……」
元気良く返事した焔たちとは対照的に、自分の声は小さかったが、こればかりは仕方のない問題だった。
勿論学園リーグ戦の方も大事だが、成績の方を疎かにすると、部活動でもあるチーム活動自体が禁止になって、本末転倒になってしまうのだ。
いくら学園リーグランキングの特典でも、流石に成績自体を免除してくれる物は存在しない。
「……まあ、入学式の翌日にあった新入生テストでも満点の一位だった美月さんなら直ぐに終わると思うよ」
この学園では成績上位者の名前が張り出される為、美月は父の顔に泥を塗らない為にも、運動の方は兎も角、勉強だけは死ぬ気で力を入れていた。
それは元々勉強自体が得意であると言うこともあるが、昔一度、ケアレスミスで満点を逃した際に向けられた周囲の視線がトラウマになり、二度とそうならない様に死ぬ気で努力した結果だった。
「……そう言えば、冬馬君の名前は上位者の一覧にあったけど、焔君と小春さんの成績の方はどうなんだい?」
「うっ……」
「あはは……」
どうやら反応からして良くないらしい。
「……焔と小春は地頭は良くて、授業も真面目に受けてはいるんですけど……いかんせん好きな物が頭の容量の大半を食ってるせいで……。 入試の時は僕が死ぬ気で二人に勉強を叩き込んだおかげで奇跡的に何とかなりましたが……今はもうほとんどその内容を忘れているでしょうね……」
「「ありがとう、冬馬!」」
呆れる様に説明した冬馬に、焔と小春が拝みながら頭を下げていた。
それを聞いた輝が少し苦笑しながらも、何かを思い出すかの様な表情をしながら口を開いた。
「……まあ、僕も
「マスター、
「ううん、ヴィーナス……。 これが事実なんだよ……」
輝の独白に、いつも物静かなヴィーナスが珍しく悲痛な声を発していた。
もしかしたら完璧超人に見える輝も、自分と同じ悩みを持っているのもしれない……。
するとその当の輝が我に帰った様に話題を変えた。
「……そう言えば、三対三のチーム戦は、美月さんは確定として、残り二人は誰が出るんだい?」
「「「あっ……」」」
焔と冬馬と小春の三人は見事に声をハモらせると、お互いに目配せした後、その手を突き出した。
「「「最初はグー! じゃんけんポン!」」」
――こうした時に後腐れなく決める方法こそ、古来より伝わるじゃんけんだった。
*****
――その日の夜。学園の外にある、JP国有数の大企業にして玩具屋でもある『獅子谷玩具』にて。
「――オラオラ、まだまだだぜ! もう一戦いけるよな、レオ?」
「当然であーる! 吾輩たちが最強を名乗る為にも、もっともっと強くなるのであーる!」
「その粋だぜ!」
社内にあるテストルームで王牙とレオが、社員相手に百人斬りの様なトレーニングを行っていた。
学園に外泊許可を取った獅子谷兄弟は次の学園リーグ戦に向けて特訓をしていたのだが、弟たちが疲れでダウンした後も、王牙とレオだけはこうして直向きにバトルを続けていた。
そんな休む間も無くバトルに明け暮れる王牙たちを見かねた、次男の雷牙と相棒のイーグルが声をかけて来る。
「兄貴もレオもそろそろ一度休憩した方が良い」
「やる気は凄いけど、休憩も大事なんだぞ!」
しかし、王牙たちは手を止めずに声だけで返答する。
「そいつは無理な相談だな! せっかくかつての
「吾輩たちは初めて出場した全国大会で奴らにボコボコに負かされたのであーる!」
「ああ! だからリベンジって訳じゃねえけど、不思議と
すると今度はもう一人の弟である音牙と相棒のオルカが訪ねて来た。
「兄貴、黒土陽太たちはそんなにも強かったのか?」
「僕たちは彼らとバトルしたことがないんだな」
「まあ、俺様たちの世代でも全国大会の舞台で戦えたのは
最強を名乗る為にいろんな奴とバトルして来た自分たちを打ち負かして来た相手には、輝とヴィーナス、咲良とキャンサーもいるが、
それは何も自分たちだけではない筈だ。その証拠に、咲良たちを筆頭に、
本当に
「だけど問題があるんだよな……。 妹の黒土美月も強いには強いんだが、本気を出していないっつうか、
「それでは困るのであーる! 吾輩たちが最強を名乗る為にも、本気の相手に勝たねば意味がないのであーる!」
「そうだな、レオ!
美月は小学生の部並びに中学生の部の全国大会を含めた公式大会に一度も出て来なかったが、それでも
本当に短い期間だった為、自分たちはバトルできなかったが、それでもそのあまりの強さから
海姫ネオンと言えば、今の二大チャンピオンバディの一人であり、歴代最強は誰かと言う議論において、初代チャンピオンバディを差し置いて真っ先に名が上がる人物だ。
自分たちが最強を名乗る上で一番の壁であるそんな彼女と同じと言われる程の強さ……気にならない訳がない。
だけど今の美月は長い間バトルから離れていた影響なのか、その強さを発揮しきれていない様に見えた。
入学式初日の焔たちとのウィッチバトルの時や、御影たちとの学園リーグ戦の時も確かに強かった。
特にこの学園でも随一と言われている、御影とカロン、それから歌とピスケスのコンビネーションを、単騎で時間稼ぎしている時には、その本気の強さの一端が見えた。
だが、
しかし、今の
その点、焔は美月とは反対に、
ああは言ったが、
癪ではあるが御影が注目する者たちには
今はまだ雑魚には変わりはないが、
次の学園リーグ戦で、美月の本気の強さを引き出すついでに、焔の強さを調べてみるのも悪くない……。
そう考えているとテストルームにこの獅子谷玩具の社長であり、自分たちの父でもある
「「「親父!」」」
王牙はバトルの手を止め、弟たちと一緒に父の元へと駆け寄った。
「王牙、雷牙、音牙、平日の夜に呼び出してすまんな。 それで手筈通りにできたか?」
「おう!
「ああ、本当ならもう少し細部まで拘りたかったのだが……仕方があるまい。
これが王牙たちが今朝、美月たちの元に訪れた理由でだった。
その機体を使う為の条件である
それはそれとして、周りの「明日斗博士の娘に勝てる訳ない」と噂する根っからの雑魚共にイラついて余計に口が悪くなったのもあるが……。
本当なら自分も早く
三日後と言う条件も、ギリギリまで妥協しない父の性格と、
「早速、機体の改造に取り掛かるぞ! 王牙の機体は兎も角、雷牙と音牙の機体は大改造になるからな! それが終われば後は三日間の猶予を使って最終調整をするだけだ! 良いか、三人共! 必ずや明日斗博士の機体とその娘を打ち破り、この最強の機体が……いや、我が社の機体が世界一だと証明するのだ!」
「「「任せろ、親父!」」」
*****
――三日後の木曜日の放課後。
『――さあさあ始まりました! 皆大好き学園リーグ戦のお時間です! MCを務めるのは、
『はいは〜い、相棒のカロンちゃんが、いつも通り務めるよ〜』
「お、始まったみたいだぜ!」
「確か、
観客席の定員によりスタジアムに入れなかった生徒たちが自身のマジカルウォッチが空中に映し出したモニター越しに、学園リーグ戦の中継を見ていた。
『今回の対戦カードはななな何と! 私ちゃんたちと大親友であるうーちゃんたちを追い詰めたチームオールスターズより、学園リーグランキング六位となった美月ちゃんとサターン君! それから冬馬君とマーキュリー君! そして、小春ちゃんとジュピターちゃんが出場します! 個人的な話ですが、焔君とマーズちゃんが今回出ないのは意外です!』
『焔君たちは、前回のカロンちゃんたちとのバトルに出たから、今回はまだバトルしてない二人が出たんじゃないの〜?』
『成程、賢い! 流石、私ちゃんの相棒! あーーっと、申し訳ございません! 話が脱線しました! それに対するは、チームキングダムより、学園リーグランキング三位にして、去年の全国大会高校生の部で三位になった獅子谷先輩とレオ君! そして、その弟である雷牙君とイーグル君に、音牙君とオルカ君が出……ななな何だ
生徒たちはバトルの中継に釘付けになっているとは言え、他にも職員などがいる人通りのある学園内を、不審な二人が普通に会話しながら歩いていた。
「ほほう? どうやら、中々に良いタイミングに到着した様じゃな? 早速、
「……あまり大きな声を出すな
「ええい! いちいちうるさいのう、
古風のドレスを身に纏い、ヴェールで顔を隠したムーンと、鎧を身に纏い、仮面で顔を隠したサンと言う、どう見ても場違いな格好をした二人を見ても、誰も違和感を覚えない。覚えられない。
それは人間は当然として、人工精霊たちも同じだった。
「……念の為、もう一度言っておくが……認識阻害魔法は我らの正体を知る者……美月と陽太には見破られる可能性がある……。 試練の前に先ずは様子見すると言うことを……くれぐれも忘れるなよ……」
「チッ! 分かっとるのじゃ!」
ムーンは不機嫌さを隠そうともしなかったが、それでも渋々サンに従うと、急にとある方向を……
それは今の実況で聞いたからではない、それがなくとも、ムーンにはこの場所から大分離れているにも関わらず、美月がそこにいるのを感じ取っていた。
そして、どこか歪んだ表情をしながら、その口をゆっくりと開いた。
「可愛い、可愛い、妾の美月や……。 いくらサターンが美月の兄とは言え、妾以外と相棒を組むなんて……