――学園の地下にあるメカニカルウィッチ学園第四スタジアムにて。
今回のバトルフィールドである『火山』は、その名の通り、中央に巨大な火山を模した山があり、そこから溶岩を模した炎が流れ出ている、高低差の激しい地形をしていた。
危険地帯に見えるが流石に本物ではない。バトルフィールドは基本的に魔法によって作られたレプリカでできている。
……とは言え、安全面の為に、バトルフィールドが稼働しているバトル中は、機体から降りることは禁止されていた。
それは他のバトルフィールドにも言えることだが……。
そんな火山の頂上で、噴火する溶岩を背景にド派手なパーフォーマンスが行われていた。
胸部に獅子の顔を、両腕に明らかに一回り大きなサイズの巨大な拳を装備して、全身を黄金で染め上げた、スーパーヒーローの様な王牙の機体『キングレオ』をコアに、飛行機の様な雷牙の非人型の機体『キングイーグル』と、船の様な音牙の同じく非人型の機体『キングオルカ』が、分離する形で合体していく。
キングイーグルが頭部のヘルメット、肩部の装甲、背部の大型ウィングを構成し、キングオルカが、腰部の姿勢制御装置、脚部の延長パーツを構成する。
そして、三機が合体することで、普通の機体よりも一回り大きい、黄金に輝くスーパメカニカルウィッチが爆誕した。
『――全員その目に焼き付けやがれ! これが獅子谷玩具が開発した
それを見た御影が狂った様なテンションで声を上げた。
『ほわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ〜〜!? ままままさかの合体変形!? これは凄いです! 古今東西、合体変形ロボットは皆のロマン!! ワクワクが止まりません!!』
『うんうん、御影ちゃんこう言うの大好きだからね〜』
『か、カッコいい……!』
『そう言えば冬馬も昔は大好きだったね』
テンションが上がっているのは冬馬も同じで、珍しく冬馬と小春の立場がいつもと逆転していた。
しかし、美月は今それどころじゃなかった。なんならトラウマである観客席の視線や声、さらにムーンやリンの幻聴さえも殆ど感じていなかった。
(……頭がクラクラする……。 どうして今日に限って……)
そのことを誤魔化そうとしたが、メカニカルウィッチであるサターンやリンたちにはあっさりと見破られ、学校を休む様に必死に説得されたものの、逆にこちらが説得する形で今この場に来ていた。
一応、風邪薬は飲んで来たが、効果が出ている気が全くしない。
(……頑張れ、私……。 頑張りなさい、わたくし……)
母の形見であるペンダントを握りしめ、勇気のお呪いを唱えることで、気をしっかりと持たせる。
サターンを説得する為に、
それでは困る。せめてこのバトルに勝つまでは持たせないと……。
『で、ですが良いのでしょうか!? 競技ルールの規定だと確か……』
『うんうん、御影ちゃんの言う通り、安全面を配慮して機体の出力上限が定められているからね〜。 でも、三機合体している今のハイパーキングレオは〜?』
『それなら問題ないぜ! この機体は
『イエッサー! では、学園リーグ戦、バトルスタートです!』
バトルスタートの合図と共に、ウルフマーキュリーとゴーレムジュピターが動き出す中、アークサターンは動かずにその場に立ったままだった。
(
王牙の口から出たそのワードに警戒心を抱かずにはいられなかった。
さらに基本的に非人型への完全変形の難易度が高い中、あそこまで複雑な分離合体変形ギミックを搭載した特殊な機体。
「お嬢様、お気をつけ下さい!」
「分かっていますわ。 相手はワールドユニオンと何か関係が……」
「相手が来ています!」
「――ッ!?」
頭がボーッとしていたせいで、サターンの警告の内容を勘違いした美月は、ハイパーキングレオの接近に気づくのが遅れてしまった。
小春と冬馬も何かを言っていた様だが、それに気づいた時には、もう目の前に王牙たちの機体が降って来ていた。速い。
『チッ! 赤火焔の奴は出てねえのかよ! これでも期待してたんだがな……
(また焔のことを悪く言って……!)
『まあ、良い! さあ、黒土美月! お前の本気を見せて貰うぜ!』
焔はじゃんけんに負けたから出られなかっただけなのに……。
彼を臆病者呼ばわりしたことにカッとなった美月は、回避ではなく迎撃を選択した。
しかし、アークソードによる攻撃を、王牙たちは片手で軽々と受け止めた。
「そんな!?」
『流石は明日斗博士の作った機体……中々のパワーだぜ! だがな、俺様たちの機体は最強なんだよ!』
王牙たちは空いている右手で拳を作り、殴りつけてきた。
反応が鈍い美月に変わって、サターンが咄嗟にアークシールドで防御するが、三機合体による機体のサイズ差と出力差から押し負けて吹っ飛ばされてしまう。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ〜〜!?」
「お嬢様!?」
魔石の中にはダメージこそは伝わってこないが、体調が悪いこともあって、その振動により吐きそうになる。
そんな美月たちの元に王牙たちが突っ込んで来る。
やっぱり速い。あれだけの巨体にも関わらず、腰部と脚部のホバーユニットの様な物で機体のバランスを支えながら、背部の大型ウィングを中心とした全身のスラスターの出力に物を言わせて、爆発的なスピードで突っ込んで来る。
それを使って真っ直ぐに突っ込んで、巨大さを生かしたパワーのある拳で殴って来るだけだが、それがシンプルに強かった。
『雷牙とイーグル! それに、音牙とオルカ! すまねえが、このバトルの間だけは、俺様たちのサポートに徹してくれ!』
『吾輩たちが全力を出す為にも、頼んだのであーる!』
『任せてくれ、兄貴たち』
『俺と雷牙が支えるんだぞ!』
『兄貴たちが全力を出せる様に!』
『僕と音牙がサポートするんだな』
王牙たちは攻撃の手を一切緩めないまま、弟たちに何かを頼んでいた。
その一方で美月たちは防戦一方だった。
反応が鈍いのもあるが、相手の攻撃力の高さにより、拳による攻撃が実質的な衝撃派込みの範囲攻撃になっているせいで、魔力が見える目を持ってしても避けきれない。
さらに一撃毎に機体だけではなく、自分の体にも負担が蓄積していく。
『オラオラ、どうした!? お前の本気の強さはこんなもんじゃない筈だろ!』
「うぐっ……!」
『それとも何だ? 御影たちみたいに追い詰めないと本気の強さを発揮できないってか? オラ!』
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ〜〜!?」
「不味い、このままではお嬢様が!?」
再び吹っ飛ばされたアークサターンは、固まった溶岩でできた岩壁にめり込んだ。
一方でハイパーキングレオは一度足を止め、右手を天高く掲げていた。
『俺様たちの力を見せるぞ、レオ!』
『最強の力を見せてやるのであーる!』
『『マジカルスキル! レオハンド!』
王牙たちは右手を依代に出現した魔力によって作られた巨大な手で拳を作ると、それを飛ばす様にパンチを放った。
目の前に魔法の拳が迫って来るが、頭痛と吐き気に襲われている美月と、それが原因でシンクロ率が低下して動きが悪くなっているサターンには避けられない。
――そんな美月たちの前に何かが立ちはだかった。
『美月ちゃんたちを守るよ、ジュピター!』
『う、うん……任せて、小春ちゃん……!』
『『マジカルスキル! ジュピターウォール!』』
ゴーレムジュピターが両腕を地面に突き刺すと、盛り上がった地面に樹木が絡みつくことで、巨大な自然の盾を作り出した。
魔法の拳を真正面から受け止めたことで、盾が破壊されるが、その反動で相手の攻撃も弾き返した。
『ハッ、俺様たちのマジカルスキルを防ぐなんて、
『当たり前だよ! あたしとジュピターは力比べなら負けないんだから! あまり舐めないでよね! それに……!』
『――ッ!? ぐっ……!?』
王牙が何かを察知した様な反応をするのと同時に、目で追えないスピードで飛んで来た氷の矢がハイパーキングレオの背中に命中した。
その矢が飛んで来た方向に目を向けると、火山の中腹辺りでウルフボウを構えているウルフマーキュリーの姿があった。
『『マジカルスキル! マーキュリーアロー!』』
『チーム戦なのに、僕たちの存在を疎かにし過ぎですよ……!』
『フッ、悪いが俺と冬馬の狙撃は、
その宣言通り、王牙の弟たちがサポートに徹する形で周囲を警戒していたにも関わらず、それをすり抜ける様に冬馬たちは狙撃を成功させていた。
『ハッ!
『だが、王牙! 奴を放置すると厄介であーる!』
『分かってるぜ、レオ!』
ハイパーキングレオは冬馬たちの方を振り向くと、胸部の獅子の顔の口と、肩部と脚部のキャノン砲からビームを放った。
ビーム一つ一つがマジカルスキル並みの火力をしていたが、ウルフマーキュリーはその俊敏さに加え、両腕に内蔵したアンカーを活用しながら
『ほら、美月ちゃんたち! 冬馬たちが気を引いてくれている内に一度引くよ!』
『い、急いで……!』
ゴーレムジュピターにアークサターンを担がれる形でその場を離脱した美月たちの元に、チームメンバーにのみ聞こえる回線から、冬馬たちの声が聞こえて来た。
『小春! 美月さんたちは回収できたか?』
『冬馬たちのおかげでバッチリだよ!』
「助かった、感謝する」
「ありがとうございますわ……」
あのままだと機体は勿論、自分もヤバかったので本当に助かった。
でも、以前状況は悪いままだ。
「……やはり今のみづ……お嬢様にこれ以上バトルさせる訳にはいかない……。 皆、一つ作戦があるんだ。 相手の機体はパワーだけではなく、防御力も尋常ではない。 だが、先程冬馬たちがダメージを場所を狙えば……」
自分の頭がボーッとしている間に、サターンは何やら作戦を説明していた。
「……一番負担が大きのは小春たちだが大丈夫か?」
『うぅ……あんな猛獣みたいな機体を足止めしないといけないの……?』
『大丈夫だよ、ジュピター! 冬馬たちがサポートしてくれるんだから!』
『フッ、任された仕事は完璧に果たすさ』
『ああ、マーキュリーの言う通りだ。 それとサターン、飛び出すタイミングはカモフラージュも兼ねて……』
作戦会議は順調な様だったが、体調が悪いせいでその内容が殆ど聞き取れなかった。
不味い。チームの皆の為にも頑張るつもりだったのに、逆に皆足を引っ張っているだけだ。本当に申し訳なかった。
「皆頼んだぞ!」
――体が弱っているせいで、心も弱っているからか、まるで
*****
「チッ、どこに隠れやがった!」
「大人しく吾輩たちの前に出て来るのであーる!」
ハイパーキングレオは、近くの隠れられそうな岩壁を拳で破壊し、遠くの高台になりそうな岩山はビームで破壊しながら、見失った三機を探し回っていた。
そんな王牙たちの前にゴーレムジュピターが堂々と姿を現した。
『あたしたちはここだよ! やるよ、ジュピター!』
『うぅ……怖いよ……! あっち行って!』
『『マジカルスキル! ジュピターゴーレムサモン!』』
ゴーレムジュピターが両腕を地面に突き刺すと、今度はその背後にバトルフィールドの固まった溶岩でできた巨大な巨人が現れた。
小春たちは召喚した巨人を従えながら、真正面から殴りかかって来る。
「ハッ! お前らだけか? 他の奴らはどうした?」
『獅子谷先輩! 今は目の前のあたしたちにだけ集中して下さい!』
「上等だぜ! 捻り潰してやるよ!」
目の前の巨人に機体のキャノン砲を撃ち込みながら、こちらも拳で殴り返す。
それを小春たちは両腕のゴーレムマルチシールドでガッチリと受け止めた。
パワーはこっちが圧倒的に上だが、背後の巨人に支えられているせいか、中々吹っ飛ばせない。
するとサポートに徹していた弟たちが、一番見失うと厄介なウルフマーキュリーが、中央の火山とは別の場所にいるのを発見した。
「ハッ! コイツらを片付けたら次はお前たちの番だ! さっきの狙撃の礼をたっぷりとしてやるぜ!」
『いいえ、これで終わりです、獅子谷先輩。 マーキュリー!』
『フッ、役目を果たすとしようか……』
『『マジカルスキル! マーキュリーウルフハント!』』
ウルフマーキュリーが魔力でできた複数の矢を手にすると、それら全てを同時に放った。
中央の火山が噴火を起こす中、放たれた矢が狼の形へと変化し、大地を駆け巡る様に襲いかかって来る。
「チッ、仕方がねえ! こっちも切り札を切るぞ、レオ!」
「吾輩たちの最強状態の発動であーる!」
「「マジカルスキル! レオキングタイム!」」
ハイパーキングレオの全身を魔力が包み込み、黄金のオーラを纏った。
変形ギミックを備えた機体とは違う、マジカルスキルによるシンプルな身体強化魔法。
だが、シンプル故に機体の力を極限まで引き出し、発揮することができる自分たちの最強のマジカルスキルだった。
現に小春たちの召喚した巨人に殴られても、冬馬たちの放った狼の形をした矢に噛みつかれても、びくともしない。
……とは言え、この魔法は魔力消費が激しいので、時間制限がある。
本当なら他の二機を倒して、アークサターンとタイマンできる状況になってから発動するつもりだったが……いや、待て?
「チッ、アークサターンはどこに行った!?」
「この二機は囮であるか!?」
この近くの地形はさっき破壊した為、見通しは良くなっているが、美月たちの機体はどこにも見当たらなかった。
でも、入学式の日の焔たちとのウィッチバトルや、御影たちとの学園リーグ戦から見ても、
故に一気に距離を詰める為に、マジカルブーストを使えば、その爆発音から位置を察知できるが……。
だけど、自分の
そんな王牙の視界の中に
「真上かッーー!?」
*****
「チッ、気づかれたか!?」
「でも、このまま決めますわ!」
アークサターンは今現在、ハイパーキングレオの真上にいた。
小春たちに王牙たちの位置固定を兼ねた足止めを頼み、狙撃により一度警戒されている冬馬たちに囮になって貰っている内に、中央の火山の頂上から美月たちは、マジカルブーストを使って空へと飛び上がっていた。
冬馬の案により、火山が噴火するタイミングに合わせてカモフラージュした上に、冬馬たちがわざと目立つ様にマジカルスキルを使ってくれたおかげで、マジカルブーストの爆発音を気づかせないことにも成功した。
しかし、それにも関わらず王牙たちは直感か何かで気づいたのか、真上に向かって両腕の拳を突き出した。
だけど小春たちが真正面で足止めしてくれているおかげで、相手の飛び道具は射角的に使えない上に、冬馬たちの放った狼の形をした矢が足元を中心に噛みついているから、先程の魔法の拳を打ち出すモーションも取れない筈……。
『甘いぜ! このハイパーキングレオに死角なんて無いんだよ!』
『『キングナックル』発射である!』
何と両腕の拳がロケットパンチの様にパージされると、そのままこちらへと飛んで来た。
「ドローン武器……! でも……!」
「輝たちの物を見た後では……!」
明らかにマニュアル操作ではあるのだが、数が二つしかない上に、動きも輝たちの物と比べると大分単調に見えた。
本当に申し訳ない言い方になるが、輝たちや御影たちの操るドローン武器は、変態機動と言っても過言では無い動きをしていたのだ。
そのまま魔力の見える目で軌道を読んで躱しながら、ダメージの入った背中へと狙いを定めた。
「「マジカルスキル! サターンスラッシュ!」」
そのまま魔法の斬撃が王牙たちにトドメを刺す……直前に、美月の視界がブレ、突如目眩が襲って来た。
「うっ……!?」
「お嬢様!?」
そのせいで最後の最後で手元が狂ってしまい、さらに黄金のオーラで防御力が上がっていたこともあってか、背中への攻撃は成功したがマジカルバリアを破壊することができなかった。
だが、ハイパーキングレオも致命傷ではないとは言え、明確なダメージを受けたことで、その巨大が遂に地面に膝を突くことになった。
*****
「――何じゃ? もう終わりかのう? せっかく妾の美月が戦うと言うから楽しみにしておったのに……」
スタジアムの天井付近にある誰も立ち入れない場所からバトルを眺めていたムーンは、つまらなそうにそう呟いた。
「妾の美月は思ったよりも弱いし……あれでよくネメシス相手に勝てたもんじゃな」
「……仕方あるまい、これは所詮お遊びの……偽物のバトルでしかないのだからな……。 命がかかった本物の戦いでなければ……美月の中に眠る力は引き出せまい……」
「……ふむ、それなら妾がちょっとした刺激を与えてやろう!」
ムーンは地面で膝を突いている機体……ハイパーキングレオを見ながらニヤリと笑った。
「本当なら妾自身が乗り込みたい所じゃが、サンの奴が様子見をするとうるさいからのう……。 ここは
ムーンは自身の胸元で両手をかざすと、精霊の言葉で魔法を唱えた。
「――
するとムーン自身の魔力を元に、ドス黒く禍々しい魔力に満ちた黒い魔石が生成される。
それを手に取り、ポンっと軽く上に放り投げると、魔法で空中に固定させ、その狙いをハイパーキングレオへと定めた。
「――目覚めよ、精霊たちのあるべき姿へ!」
ムーンが指をパチンと鳴らすと、黒い魔石が魔法によって目で追えないスピードで発射され、地面で膝を突いているハイパーキングレオへと打ち込まれた。
その途端、機体が纏っていた黄金のオーラを上書きする様に、ドス黒く禍々しい魔力によってで来たオーラに包まれたかと思うと、突如狂った様に暴れ出した。
ムーンはその姿を見て満足そうに微笑みながら、その口をゆっくりと開いた。
「……さて、妾の可愛い美月や? 妾にお主の中に眠る力を見せておくれ?」