『――な、ななな何なんでしょうかアレはッ!? 黒いオーラを纏ったハイパーキングレオが暴れ回っておりますが、明らかに様子がおかし……ホワッツ!? し、白金会長!? ど、どうしたんですか!?』
『冥道さん、アナウンスはそのままで頼む! 皆、聞いてくれ! 今のハイパーキングレオは明らかに暴走している状態だ! 観客席にいる先生方と生徒会メンバーは、生徒たちの避難誘導をお願いします! それから学園の警備員にも連……焔君!? バカか君はッ!? すまない、冥道さん、後の避難誘導は任せた! 行くよ、ヴィーナス!』
『はい、マスター』
『白金会長!? もしもーーし! み、
放送席にいる御影に通信する形で、輝がスタジアム全体に聞こえる様に何かをアナウンスしていた。
そんな声が聞こえる中、アークサターンは、その黒いオーラを纏ったハイパーキングレオに捕まっていた。
『
「うぐっ……!」
(頭が……割れそう……! 痛い……!)
「お嬢様!? くっ……!?」
以前、サターンが初めて魔王システムを使った時の様な、ドス黒く禍々しい魔力を纏った目の前の機体の影響を受け、ただでさえ悪かった体調がどんどん悪化していく。
頭痛と眩暈に加え、吐き気と息苦しさまで襲って来る。
「リミッターを解除したのに抜け出せない!? 一体どこからこれ程の出力を!?」
サターンが機体を必死に操作しながら、焦った声を上げていた。
暴走したハイパーキングレオが、握り潰す様に自分たちを捕まえている右手に力をこめることで、機体がギシギシと悲鳴を上げる。
そんな美月たちを助けようと、ゴーレムジュピターとウルフマーキュリーが果敢に立ち向かう。
しかし、軍用機どころか競技用のリミッターを解除した実戦仕様のアークサターン以上の出力で暴走する機体に蹂躙されていた。
『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ〜〜!?』
『小春ちゃん!?』
『うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!?』
『冬馬!?』
暴走した機体は片手で小春たちを召喚した巨人ごと吹き飛ばし、桁違いの破壊力となったビームで冬馬たちを周辺の地形ごと薙ぎ払った。
二人の機体は一応まだ動ける様だが、このままでは……!
「……!」
(小春……冬馬……逃げ……!)
――もはや声すら上手く出せず、意識が朦朧として来た……その時だった。
『『マジカルスキル! マーズブラッドムーン!』』
『美月たちを離せ!』
『おいたが過ぎるわよ!』
暴走したハイパーキングレオの死角となる背後から、ブラッドロッドの先端に赤い月を宿したブラッドマーズが、弾丸の様に一直線にこちらへと突っ込んで来た。
『
すると暴走した機体は瞬時に振り向き、空いている左手でその攻撃を握り潰す様に受け止めた。
でも、最強のマジカルスキルによって生み出された魔力の塊である為か、簡単には破壊できない様で、両者は膠着状態に陥った。
さらに
『くっ……!? どうし……た……んだ……レオ……!』
『兄貴、……イーグ……ル……が……!』
『オ……ルカ……も……だ、兄貴!』
かなり不安定でノイズだらけになっているが、王牙たちも焦っているのが伝わって来る。
『聞こえますか、獅子谷先輩! 大丈夫ですか!?』
『赤火……焔……! それ……に……黒土……美月……も……! 早く……逃げ……ろ……! 操作が……効か……!』
『獅子谷先輩! ダメだ通信が……!』
それに気づいた焔が必死に呼びかけていたが、直ぐに通信も切れてしまった。
しかも、魔力の塊である赤い月にも少しずつ亀裂が入り、破壊されそうになる。
だが、次の瞬間、アークサターンとブラッドマーズだけを器用に避ける様に辺り一体にビームの雨が降り注いだ。
『
『美月さんたちを離して貰う! ヴィーナス!』
『はい、マスター』
『『――シンクロゾーン!』』
暴走したハイパーキングレオは現れたノーブルヴィーナスをビームで薙ぎ払った。
だか、シンクロゾーンを発動させた輝たちは、凄まじいスピードでそれを全て回避すると、その背後を取った。
『『マジカルスキル! ヴィーナスセイバー!』』
そのままノーブルガンソードの銃身に光の剣を発生させると、自分たちと冬馬たちの攻撃でダメージが入っている背中を切り付けた。
『
さらにそれと同時に展開していたノーブルマルチウィングで、アークサターンを拘束してい右腕に関節技の様な攻撃を仕掛け、その拘束を解除した。
自分たちを逃して焦ったのか、マーズブラッドムーンを握りつぶそうとしていた左手を離し、再び捕まえようとして来る。
そんな暴走した機体の顔面に、焔たちが自由になった赤い月を思いっきりぶつけた。
その爆発の余波で投げ出された美月たちの機体を、輝たちは抱き抱えると、急いでこの場を離脱した。
『焔君も早く離脱しろ!』
『は、はい……! でも、し……!』
その場を離れ、禍々しい魔力から離れたことで、少しだけ呼吸も楽になって来た。
「ハァ……ハァ……ふぅ……」
「お嬢様!? お体の具合はどうですか!?」
「大分……楽になりました……。 輝先輩も……ヴィーナスも……ありがとうございます……わ……」
焔たちとは別々の方向に離脱してしまったので、取り敢えず今はこの場にいる輝たちにお礼の言葉を言っておく。
『良かった……美月さんが無事で……。 後は美月さんを安全な場所に届けた後、暴走したハイパーキングレオを止めるだけだが……』
安堵した様な声色でありながらも、機体ごと上空を見た輝に釣られる様に、自分もその方向を見た。
すると先程輝たちに向けて放たれたビームが、観客席の安全を守る為にバトルフィールド全体を覆っていた特別なマジカルバリアの一部を破壊しており、ガラスの様に割れたバリアがパラパラと地上へと落下して来ていた。
あれは機体に搭載されている物よりも遥かに強度があって、マジカルスキルを持ってしても破壊はほぼ不可能な筈なのに……。
もし輝たちに命中していたら戦闘不能どころではない、最悪の場合その命も……。
暴走した今のハイパーキングレオの力は、魔王システムを発動させたアークサターンやあのネメシスに近い領域にまで上がっていた。
『それに中にいる獅子谷会計とその弟たちもどうにか救出しないと……』
輝の言葉に釣られる形で、今度は暴走する機体の方を見ると、激痛に苦しむ様に頭を両手で押さえながら、膝を突いていた。
するとそのまま両手を地面に突くと、胸部の魔石付近から何かを吐き出した。
「……!」
『――不味い!?』
――それは中に乗っていた王牙たちだった。
*****
「*************ーー!!」
「――目を覚ませ、レオ! それにイーグルとオルカも!」
バトルフィールドへと放り出された王牙は、二人の弟たちを後ろに庇いながら、暴走したハイパーキングレオの前に立ちはだかっていた。
「「兄貴……!」」
「心配すんな! 弟たちを守るのが、兄貴である俺様の役目だ! だからレオたちも弟たちに手を出すんじゃねえ! この俺様が全部受け止めてやる!」
その声を聞いたレオたちが胸部のキングキャノンからビームを放とうとするが、それを自身の両手で押さえることで、必死に止めようとしていた。
自分の中にある何かと戦いながらも、まるで胸を押さえて苦しんでいる様にも見えるレオたちの姿が胸に突き刺さった。
どうやって助ければ良いのか全然分からないが、それでも必死に自分の声を届ける様に叫ぶ。
「負けるな、レオ! 俺様たちが鍛え上げて来た力は、
「*************ーー!!」
「レオッーー!!」
しかし、その声が届かなかったのか、キングキャノンから拡散される様にビームが放たれた。
その一部が目の前へと迫る中、走馬灯の様にレオとの記憶が甦る。
レオは自分が生まれた時に父と母が用意してくれたメカニカルウィッチだった。
最高の相棒であり、家族であるの同時に兄弟でもあり、そして一番の
『――俺様はここに誓うぜ!
『――吾輩もであーる! 王牙と一緒に最強を名乗る為にも、世界最強を目指して共に強くなるのであーる!』
幼い頃の誓いが聞こえて来る中、目の前に赤い機体が……ブラッドマーズが割り込んで来た。
『獅子谷先輩たちはやらせない! マーズ!』
『ええ、守るわよ、焔君!』
『『マジカルスキル! マジカルシールド!』』
焔たちが三重仕様の防御魔法を展開させ、その攻撃を受け止めた。
目の前のレオたちの危険性を……命の危険があるのを先程の戦闘で理解している筈なのに、焔は躊躇うことなく自分たちを守った。あんなことを言ったと言うのに……。
「何故だ……赤火焔。 俺様はお前たちに……」
『それとこれとは話は別です! 今、目の前で危ない目にあっている人を助けるのに理由なんていりません!』
『勿論、後で焔君たちには謝って貰うけどね!」
『それに……ぐっ……!?』
拡散しているとは言えそのビームのあまりの威力に、防御魔法が破壊され、その余波で焔たちの機体の杖と右腕が破壊された。
それでも焔たちは逃げようともしない。
『それにあんな強さを発揮できる獅子谷先輩とレオの絆をこんな形で引き裂かせはしません! バトルの決着だってまだ着いていないんですから!』
焔たちの機体がまだ無事な左腕を腰のリボンへと伸ばす中、レオたちが再びビームを放とうとしてくる。
すると狼の形をした矢が噛み付いてその動きを止めさせると、巨人を召喚したゴーレムジュピターが横から殴りかかることでその射線を強制的にずらした。
『焔たちと獅子谷先輩たちはやらせないよ!』
『こ、小春ちゃんが頑張ってるんだから……! わ、私だって……!』
『今のうちに獅子谷先輩たちを回収しろ、焔!』
『だが、冬馬……! 奴相手に長くは足止めできないぞ……!』
『ありがとう皆! 獅子谷先輩たちも早く!』
ブラッドマーズが差し出して来た左手に弟たちを先に乗せる形で自分も飛び乗った。
「恩に切るぜ……チームオールスターズ! それとすま……」
『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ〜〜!?』
そのまま感謝の言葉と同時に、謝罪の言葉を口にしようとするが、両腕の盾を破壊されボロボロになったゴーレムジュピターがすぐ側に吹っ飛んで来た。
『小春!? くっ……!』
それを庇う様に、ウルフマーキュリーがレオたちとの間に割って入るが、先程のビームのせいか、全身にダメージを受け、動きが鈍くなっていた。
『*************ーー!!』
戦闘不能にこそはなっていないが、大ダメージを受けた三機の元へと暴走したハイパーキングレオが迫って来る。
――危機的状況なのは変わっていなかった。
*****
『サターン君、美月さんを頼んだ! 急ぐよ、ヴィーナス!』
『了解です、マスター』
焔たちの元へと向かったノーブルヴィーナスの背を見ながら、美月は不調な体に無理やり力を入れ、機体を操作しようとする。
それを見たサターンが悲鳴の様な声を上げた。
「何をなさるつもりですか、お嬢様!?」
「焔たちを……皆を……助けないと……!」
「焔たちが心配なのはわかります! でも、今のお嬢様にこれ以上無理をさせる訳にはいきません! やはり僕もリンも今朝は折れるべきではありませんでした! だから今度こそは絶対にお止めします!」
以前ネメシスが学園に侵入した時とは違い、サターンは焔たちのことを心配した上で、それ以上に自分の体調を案じてくれいることは分かっていた。
それでもこれだけはこちらも絶対に折れる訳にはいかなかった。
だから無理を通す為に、切り札を切る。
「お願い、
「うっ……!」
「私は
「でも、お嬢……
「絶対に無茶はしませんから……! だから、お願い……」
サターンは……兄は十秒近く苦悩する様な声を上げた後、再びその口を開いた。
「……一撃だけ……この場所からサターンアークブレイクを撃つだけなら僕も許容する……。 だけどそれ以上は流石に許容できない……」
「ありがとう、お兄様……!」
どうにか兄の説得に成功した。後はギリギリ許可して貰った一度きりのチャンスを使って焔たちを助けるだけだ。
そのチャンスを確実に成功させる為に、さらに無茶をお願いする。
「お兄様、魔王システムの発動をお願いします……!」
「だけど今の美月の体に更に負荷が……!」
「
「……分かった。
「
兄のその声が届いたのか、アークサターンの魔石の中からもう一人の兄の叫び声が聞こえて来る。
それと同時に機体が姿を変えていき、全身に紫の炎を纏った。
さらに自分の体調が原因で低かったシンクロ率が百パーセント近くまで上がっていく。
シンクロゾーンこそ発動できていないが、今使える手札は全て揃った。
後は兄が許可してくれたこの一撃に全てを込めるだけだ。
その為にも勇気のお呪いを唱え、鞭を打ってでも自分の体を無理やり動かした。
「頑張れ、私! 頑張りなさい、わたくし! 行きますわよ、サターン!」
「はい、お嬢様!」
「「マジカルスキル! サターンアークブレイク!」」
機体のリミッターを解除した上に、魔王システムを発動させたこともあってか、先日の学園リーグ戦の時とは桁違いの威力となった一撃が暴走したハイパーキングレオへと向かっていく。
相手もそれを察知して、ビームによって迎撃してこようとするが、自分たちの攻撃に気づいた輝たちが援護してくれた。
『『マジカルスキル! ヴィーナスノーブルゲート!』』
二機のノーブルマルチウィングが作り出した光の門から打ち出されたビームの嵐が暴走した機体へと降り注いだ。
暴走した機体が纏っている黒いオーラにより、その攻撃の殆どは弾かれていたが、それでもその場に足止めした上に、動きまでも中断させてくれた。
そこへこの機体最強のマジカルスキルが直撃した。
『
暴走したハイパーキングレオは叫び声を上げながらその光に飲まれていった。
そして、その光が通過すると黒いオーラが消え去り、ボロボロになった機体が立ち尽くしていた。
そのままマジカルバリアが破壊され、遂にその動きを完全に止めた。
(良かった……どうにか止められたみたい……)
後は焔たちの無事と、暴走したレオたちの様子を確認して、それから無茶を聞いてくれた兄や、助けてくれた輝たちにお礼を言わなければ……。
「……」
(あれ……?)
兄に声をかけようとするが、声が上手く出せない。
それだけじゃない、息も上手くできなくなり、必死に胸を押さえるが冷や汗が止まらない。
さらに頭痛が激しさを増し、再び頭が割れる様な痛みが襲って来る。
そして、目眩により視界がチカチカと点滅し始めてきたかと思うと、次の瞬間、目に映る全てが反転し、魔力で塗り潰された。
(あ……)
「お嬢……美月!?」
全身から力が抜け、そのまま意識が薄れていく中、兄の叫び声が聞こえた様な気がした。
*****
「――
「仕方ないわよ、焔君……。 取り敢えず、今回は命を助けて貰ったお礼をちゃんと伝えることにしましょう?」
「うん……」
動かなくなったハイパーキングレオの側に、レオたちの様子を確認すると言った王牙たちと、念の為に冬馬と小春を残して、焔は一人、先に美月たちの元へと向かっていた。
すると視界に映っていたアークサターンが突如巨大化を解除したかと思うと、見知らぬ人物……いや、違う……
「ど、どう言うことなの!? あの姿は一体!?」
それを見たマーズが驚きの声を上げた。
自分も勿論驚いていたが、それ以上に明らかに具合の悪そうな美月の方が心配だった。
急ぎブラッドマーズその場へとを向かわせた。
すると先に辿り着いて機体から降りていた輝と、人間となったサターンが、悲痛な声を上げていた。
「くっ……!? サターン君、美月さんの容体は!?」
「不味い、意識がない上に、酷い熱だ! それに呼吸もかなり浅くなっている! くっ……ここまで悪化するんなんて……! やっぱり止めるべきだった! 間違えた! 間違えた! 間違えた! 間違えた! 間違えた!
(
確かに自分とマーズの様にずっと一緒にいる相棒とは、兄弟姉妹の様な関係になることが多いと聞く。
だけど、上手くは言えないがサターンの場合はそれとは違う意味で言っている様な気がした。
倒れた美月を見て泣き叫んでいる今のサターンの姿は、彼がメカニカルウィッチだと事前に知らなければ、本物の人間だと思ってしまいそうな程で、そのせいか余計に
「落ち着くんだ、サターン君! 反省は後にして、今は兎に角、美月さんを助けることに集中しろ!」
「――ッ!? ああ、すまない……! 輝、今すぐ病院に連絡……いやそれよりも先に緊急医療キットを取ってきてくれ! 僕は美月の応急処置を行う!」
「分かった! スタジアムに備え付けられている物を直ぐに取って来る! 学園と病院への連絡も任せてくれ! 行くよ、ヴィーナス!」
「了解です、マスター」
輝の声で我に返ったサターンと同じ様に、混乱から抜け出した焔は、急いで機体から降りた。
再びノーブルヴィーナスに乗って飛び去って行く輝たちと入れ違う様に、美月の元へと駆け寄って行く。
「美月! 美月! 美月! 美月! 美月!」
目の前ではサターンが必死に応急処置を行なっていたが、自分はどうすれば良いのか分からず、ただ必死に美月の名前を呼ぶことしかできなかった。
――