「――まあ、元々美月は
「……成程。 ネメシスの試練により、力の一部が目覚めたことで……大きな負荷が蓄積され限界ギリギリになっていた美月の体が……今回の件でとうとう耐えきれなくなり大爆発を起こした……と言った所か……」
その日の夜。美月が搬送された病院の屋上で、ムーンとサンは彼女が倒れた原因について話し合っていた。
あの後、病院に潜り込んで少し調べた所、どうやらネメシスの試練の後に一週間程、失明に近い状態になるなど、既に兆候はあった様だった。
そうとも知らずに気持ちが早るあまりにちょっと手を出した結果がこれだ。
「……じゃが、これで一度負荷がリセットされた様な物じゃから、当面の間は同じことが起きることもないじゃろう……」
「だが……少なくとも美月の体調が元に戻るまでは……このまま様子見を続けることになりそうだな……」
「そうじゃな……。 一応意識は戻ったし、取り敢えず命にも別状はなさそうとは言え、今は試練どころではないからのう……」
ムーンはため息を吐きながらも、どこか安堵した様な表情をしていた。
それを見たサンがふと尋ねて来る。
「ムーンは……美月を解放したかったのではないのか?
「その筈……じゃったんじゃがのう……。 倒れた美月を……いざ死にそうになったあの子を見て、ふと思い出してしまったんじゃよ……
そう語るムーンの声には、深い悲しみと消えぬ後悔が込められていた。
*****
――翌日の金曜日の朝。教室にて。
「――改めて礼を言わせてくれ! 俺様と弟たちを助けてくれて、恩に切るぜ!」
「「本当にありがとう!」」
「そして、すまねえ……! お前たちを煽る様な……いや、侮辱する様なことを言ってしまって……! あの言葉は全て撤回するぜ……!」
教室に着いた焔たちを待っていたのは、王牙とその弟の雷牙と音牙であり、こうして開口一番頭を下げて来た。
まだ朝一と言うこともあって、人が多い訳ではないが、先日のやりとりを見ていたクラスメイトたちが何事かとこちらを見て噂していた。
そんな視線を受けても頭を下げたままの王牙たちに、慌てて声をかける。
「あ、頭を上げて下さい、獅子谷先輩! 俺たちは当然のことをしたまでですから!」
「そうですよ! あたしたちは、後は美月ちゃんたちにも謝って貰えれば十分ですよ!」
「それに……昨日の学園リーグ戦は中止になったから、僕たちとの勝負はまだついていないのにどうして急に……?」
ハイパーキングレオが謎の暴走を起こした昨日の学園リーグ戦は、途中で中止になった影響で、学園リーグランキングの変動を含め、全ての結果が無効になっていた。
だから美月をチームに引き抜くと言う話や、謝罪でも何でもすると言う話は、有耶無耶になっていた筈なのに……。
すると王牙は下げていた頭を上げ、再び口を開いた。
「勿論、黒土美月には後日謝っておく。 正直言って、チームに誘いたいのは
先日、全国大会でこのザマでは雑魚も同然だと言われた時は、ある意味的確な事実でもあった為、何も言い返せなかった。
しかし、そう口にした王牙に強いと言われたことで、小春と冬馬は思わず問い返した。
「美月ちゃんだけじゃなくて……?」
「僕たちもですか……?」
「ああ、バトル中の俺様たちの攻撃を真正面から受け止めた緑木小春とジュピターも、チームを的確にサポートした青水冬馬とマーキュリーも強かった! 勿論、俺様たちを助けてくれた赤火焔とマーズもだぜ!」
王牙はバトルに出れなかった自分たちのことも強いと言ってくれたが、それを素直に受け止めることはできなかった。
「でも……ハイパーキングレオの暴走を止めて皆を助けたのは美月たちと輝先輩たちで……。 俺は自分から飛び込んでおきながら、逆に助けられることになっただけで……全然強くはないんです……」
「そんなことはないぜ! お前が命の危険を承知で俺様たちを守ろうとしてくれたのは紛れもない事実だぜ! それに、お前たちとバトルして、こうして助けられたこの俺様が保証するぜ! 確かにまだまだ足りない部分はあるが、
「……!」
その言葉を聞いた時、学校で周囲から距離を取られて悲しそうにしていた美月の姿を思い出した。
その通りだ。強くなって、上に登って行き、そして、美月に並ぶことが……
彼女の為に何かをしたいけど、どうすれば良いのか分からないと言う悩みの答えが、少しだけ見えた様な気がした。
「ありがとうございます、獅子谷先輩! 俺、頑張って強くなって、絶対に上まで登って見せます!」
「おう! 楽しみにしているぜ! それとお前たちも俺様のことは気軽に名前で呼んでくれ! 後、これは俺様の連絡先だ! 助けられた借りは必ず返すぜ!」
「「「はい、ありがとうございます、王牙先輩!」」」
そのままマジカルウォッチを使って、王牙たちと連絡先を交換した。
先日の件で王牙にはどこか怖い先輩のイメージがあったが、こうして見ると彼はシンプルに強い人と強くなろうとする人が好きなのだろう。
逆に弱い人にはかなり辛辣で、ちょっとどうかと思う言い方だったが、こうして謝って貰ったのでそれも水に流すことにした。
すると自分たちのやり取りを見守っていたマーズたちが、ふとあることを尋ねた。
「そう言えば貴方たちの相棒は……レオたちは大丈夫なの?」
「い、一応あの後……正気には戻っていたけど……」
「同じ人工精霊として気になっているのでな……」
ジュピターとマーキュリーも同意する様に尋ねると、王牙は難しい顔で頭を掻きながら返答した。
「ああ、
その問題とやらは気になるが、一先ずはレオたちも大丈夫な様だった。
「俺様たちは今日の放課後にレオたちの様子を見に行くからな。 何か分かったら伝えるぜ。 それにお前たちも黒土美月の見舞いに行くんだろ?」
「それは……」
美月のお見舞いに行きたいのは山々だった。
でも、この前もセキュリティ上の問題でそれができなかったので、どうしようかと悩んでいると、輝からのメッセージが届いた。
その内容を見て、思わず声を上げる。
「皆! 輝先輩からなんだけど、美月が退院して寮に戻って来たって! それで、今日の放課後に一緒にお見舞いに行く?って誘いが来た!」
「勿論、あたしも行くよ! そうだ、お見舞いの品も用意しないと!」
「勿論、僕もだ。 それなら購買部に寄ってから輝先輩と合流するか」
*****
――放課後。
寮の最上階にある美月の部屋に訪れた焔たちを迎えたのは、人間と同じ大きさと姿となったサターンだった。
昨日のあの後、美月が倒れたことを聞きつけた冬馬と小春も、王牙たちをハイパーキングレオの側に残したまま駆けつけて来た。
その際に、その姿を見にした時はとても驚いていた。
こうして改めて見ても驚きだが、サターンにそれについては後で説明すると言われた為、今は美月の部屋……と言ってもかなり広いので、廊下を皆で歩いていた。
そんな中、輝が本来ならセキュリティの関係上、お見舞いに行くのは難しいかったのだが、どうも美月が学園長に事前に相談していたおかげで可能になったと説明してくれた。
そうしている内に美月の私室へと到着した。
「美月、僕だ。 皆がお見舞いに来てくれたけど、中に入っても良いかい?」
「……はい、どうぞ……」
美月が弱々しい声ながらも許可してくれたことで、一同は私室の中に入った。
中では大きなベット上に、パジャマ姿で体を起こしている美月がいた。
まだ熱があるのか、額に熱を冷ます為のシートを貼り、赤い顔にどこか朧げな瞳をしていた。
そんな彼女の側にいたメイド服を来た若い女性が、礼儀正しくお辞儀をして来る。
「輝様とヴィーナス様以外はお初にお目にかかりますね。 私はお嬢様の専属メイドのリンと申します」
リンと名乗った女性は、明るい紫の髪に、赤い瞳をした女性で、
人間と同じ大きさをしていたが、良く良く見ればその体は機械でできていた。
そう言えば、まだ一般には普及してないけど、人間と同じ大きさのメカニカルウィッチが開発途中だとテレビで目にしたことがあった。
でも、そんなリンと見比べることで、ますますサターンがロボットではなく本物の人間の様に見えてしまった。
「お嬢様は昨日と比べれば大分回復しましたが、まだ熱は引いていない状態です。 申し訳ありませんが、面会は短時間でお願いします」
「はい、リンさん。 ……美月さん、まだ油断はできないけど、ある程度回復した様で安心したよ……」
「そうですね、マスター」
輝がゆっくりでありながら一番に近づき声をかけると、美月も弱々しい声で返事をした。
「ありがとうこざいます、輝先輩。 それにヴィーナスも。
本当に申し訳なさそうにシュンとする美月に、自分たちもゆっくりと近づいて、いつもより声のボリュームを落として話かけた。
「うん、俺も安心したよ。 美月の命に別状が無さそうで本当に良かった」
「焔君の言う通りね。 でも、まだ熱は引いていないんだから、油断は禁物よ」
「美月ちゃん、あたしたちお見舞いの品として果物とかゼリーを買って来たから、これ食べて早く元気になってね」
「うん、小春ちゃんはこう言うの選ぶの得意だから……。 元気になる手助けになると思うよ……」
「そうだな。 それに学校の方も暫くはゴールデンウィークで休みになるから、美月さんも今はゆっくりと休んでくれ……」
「冬馬の言う様に、今は体を休めることが大切だ……」
自分たちの声を聞いた美月は、どこか朧げな目でありながらも、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、皆……。
美月は話の途中で、急に咳き込んだ。
するとサターンが直ぐにその体を支え、背中をさする中、リンが水を用意した。
「お嬢様、お水です。 ゆっくりとお飲みになって下さい」
「……ありがとうございます、リン。 それに
美月が渡された水をゆっくりと口にする中、小春と冬馬がふとした疑問の声を上げた。
「
「それに美月さんの口調もどこかいつもと……?」
その声が聞こえたのか、サターンは美月の容体が少し落ち着いたのを確認してから、ベットの側にあった写真立てを手に取って立ち上がった。
「……そのことについて、皆には話さなきゃいけないことがある……。 場所を移そうか……。 リン、美月を……
「はい、お任せ下さい」
サターンがそのまま移動しようとすると、それに気づいた美月が彼の服の裾を掴んだ。
「……
その不安そうな声は、
「大丈夫だよ、美月。 ちょっと皆と話をするだけだから……。 今はゆっくりとお休み……」
「うん……お休みなさい、
そんな美月に、サターンが優しい声をかけながら、その頭をそっと撫でた。
すると彼女も安心したのか、掴んでいた服の裾を離した。
「……行こうか」
いつもの
*****
「――どうぞ、お茶とお茶菓子でございます。 お口に合えば幸いです」
「「「「ありがとうございます」」」」
リビングに移動し、大きな机の前にある椅子に座った自分たちに、執事の姿をした初老の男性がいろいろと用意してくれた。
彼の名はグリと言うらしく、美月からは爺やと呼ばれているらしい。
そして、暫くすると、リンがリビングへとやって来た。
「リン、美月の容体は?」
「また少しだけ熱が上がった様ですが、お薬をお飲みになってからお休みになられましたので、一先ずは大丈夫かと……」
「良かった……」
リンからの報告を聞いたサターンが安堵する中、輝が急に立ち上がった。
「……すまない、美月さんのお見舞いに来たのに、逆に体調を悪化させてしまって……。 本当に申し訳ない……」
「マスターと同じく、謝罪を致します」
頭を下げる輝の姿を見て、自分たちも慌てて謝ろうとするが、それをサターンが静止した。
「……輝たちのせいじゃないさ……。 美月は今、心身共に弱っているせいか、昨日からずっと
「そう言って貰えると助かるよ……」
頭を上げた輝が着席するのを確認したサターンは、美月の私室から持って来た写真立てを、自分たちに見える様にテーブルの上に置いた。
そこには若い頃の明日斗博士と、
「最初に
「「「……!?」」」
明かされたその事実を直ぐには飲み込むことができなかった。
それでも先程のやり取りを見れば、それが決して冗談ではないことだけは分かった。
するとサターンは、その続きを話す前にふと話題を変える様に問いかけて来た。
「焔、冬馬、小春……君たちは美月の友人になってくれたが、
「それって……」
「……美月は、メカニカルウィッチを開発した明日斗博士の娘と言うこともあって、特別な立場にいる……。 それ故にいろいろ苦労していたし、
何となくだが、サターンが言いたいことが分かる様な気がした。
つまり危険に巻き込まれるのが嫌なら、今ここで引いておけと言っているのだ。
それは一見すると、突き放している様に見えるが、きっと自分たちの身を案じてくれているからだろう。
でも、何と言われても自分の答えは最初から決まっていた。
隣に座っている小春と冬馬の顔をそれぞれ見るに、二人も同じ結論を出した様だった。
だから三人一緒にハッキリと宣言した。
「そんなの関係ないよ! 俺は美月の友達でいたい!
「あたしだって同じだよ! もう美月ちゃんとは友達なんだから! そんな理由で友達を止めたりなんかしないよ!」
「僕も同じだ。 サターンが僕たちの身を案じてくれているのは分かるが、こればかりは僕たちも譲れないからな……」
自分たちの答えを聞いたサターンは嬉しそうに微笑みながら、その口を再び開いた。
「……ありがとう、美月の……妹の友人でいてくれて……」
それからサターンは先程の話の続きを話し始めた。
メカニカルウィッチ研究所で十年前に起きた爆発事故が、実は意図的に暴走したスーパーメカニカルウィッチが起こした事件だったと言うことを……。
それが原因で美月は自身と明日斗を除く、この写真に映っている家族を失ったことを……。
ぼかされたが、サターンはその時に
そして、その犯人はワールドユニオンであり、これも詳しくは言えないが、
それから話の内容はその十年後……現在へと映った。
四月に起きたメカニカルウィッチ研究所の事件の犯人もワールドユニオンで、そこでサターンは美月と十年ぶりに再会したと言うことを……。
それから自分たちも巻き込まれた
さらにそこに
美月を狙う敵にはワールドユニオンだけではなく、そのネメシスとクリサリスがいると言う、スタースピリットと名乗った精霊たちの組織もいるらしかった。
美月を取り巻く今の状況を話終えたサターンは、リンへと声をかけた。
「すまない、リン。 十年近く美月の側にいてやれなかった僕では、その空白の期間を語ることができない……。 それを話せるのはずっと美月の側にいた君だけなんだ……。 君にとっても辛い記憶を話して貰うことになるけど……それでも……」
「気にしないで下さい、サターン。 それが
サターンは申し訳なさそうな様子だったが、リンはそれを責めることなく、バトンタッチする様に自分たちの前へと立った。
それから改めて一度お辞儀をしてから、美月の過去をゆっくりと語り始めた。
「――皆様の中にはお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、お嬢様は本来はウィッチバトルが好きだったにも関わらず、とあることが出来事のせいで、自分から距離を取る様になったのです……。 その出来事を……お嬢様の過去を、どうかお聞き下さい……」