――俺には昔から何かと面倒を見てくれる従兄弟のうら……兄ちゃんがいて、俺にウィッチバトルの楽しさを教えてくれたのもその人でした。 その兄ちゃんから最初のバトルは同年代の子とする様にと言われた俺は、ウィッチバトルが解禁されたその日に、近所にあるおもちゃ屋さんに行ったんです。 そして、そこで冬馬とマーキュリーと初めて出会ったんです。
「行くよ、マーズ! 俺たちの伝説の始まりだ!」
「ええ、焔君! お姉ちゃんに任せなさい!」
生まれた時から人工精霊ことメカニカルウィッチと一緒にいるメカニカルウィッチ世代と呼ばれる子供たちが増えて来たこの時代。
それ自体は登録すれば、何歳からでも所持することができたが、それを使ったバトルの方は、安全面を考慮して年齢制限が設けられていた。
ウィッチバトルの年齢制限である六歳以上の小学生からと言う規定を満たす四月一日の日。
まだ小学校の入学式は終えていないが、ルール上は問題ない為、こうして顔馴染みの店長が経営する近所のおもちゃ屋へと訪れていた。
「こんにちは、店長! それにトイさんも!」
「お邪魔するわ!」
「お! 焔君もマーズちゃんもいらっしゃい! 今日から二人のウィッチバトルが解禁されるから、来るんじゃないかと思ってたんだ!」
「バトルの相手を探しに来たんでしょう?」
元気な声で迎えてくれたのは、この店の店長こと
彼らはいつも遊びに来る自分たちのことを気に入ってくれていて、バトル用の機体を作る手伝いをしてくれたのものこの人たちだった。
「うん! うら……兄ちゃんから、最初のバトルは同年代の子として、自分たちの実力を確かめて来いって言われたんだ!」
「焔君がいつも話している例の兄ちゃんか! まだ顔は見たことはないが、それも一理あるな。 勿論、ティーチングバトルも悪くないが、初心者同時のバトルでしか得られない物もあるからな!」
思わず従兄弟の名前を言いそうになるが、その彼から「
良くは分からないが、自分が周りからレッテルを貼られない為にも必要なことらしい。
「それなら丁度、焔君と同い年の子がいるぞ! 今日初めて見た子だから、まだ会ったことはないだろうけど、呼んでみるな! おーい、冬馬君!」
「はーい!」
返事をする声と共に、商品棚のある場所から男の子が顔を見せた。
「どうしたんですか、店長さん?」
「冬馬君は確か……今日からいよいよウィッチバトルができるって言ってたよな? それでこっちの焔君が最初のバトルの相手を探していてな? 良かったらなんだが、ここは同い年の二人でウィッチバトルをしてみないか?」
店長の説明を聞いた冬馬は、そう言うことなら、とこちらへと右手を差し出して来た。
「勿論、僕で良ければ! 初めまして、僕は青水冬馬! そして、彼が僕の相棒の……」
「フッ、マーキュリーだ……。 冬馬をよろしく頼む……」
「うん、初めまして、冬馬君! マーキュリー! あ、俺は焔! 赤火焔! そして、俺の相棒の……」
「マーズよ! 焔君の相棒でお姉ちゃんでもあるの! よろしくね!」
自分も右手を差し出して握手を交わしながら、お互いに自己紹介をした。
当時の冬馬は、現在のクールな性格ではなく、自分と同じ様な性格をしていた。
「……まさか、初めて目にしたから気になって入ってみたこのお店が、僕たちの最初のバトルの舞台になるなんて……。 これも何かの
「勿論! 俺たちだって負けるつもりはないよ、冬馬君!」
「決まりだな! 皆、着いて来てくれ!」
店長の案内の元、お店の二階にあるウィッチバトル用のスタジアムが置かれたバトルスペースへと移動する。
最初のバトルと言うことで、選ばれたのは一番プレーンな『荒野』だった。
バトルフィールドに両者の機体が降り立った。
「それが冬馬君たちの機体? 煌めきカッコいい!」
「ふふん! 神話に登場する英雄たちを参考に作ったんだ! でも、焔君たちの機体もカッコ良さと可愛さを両立していて良いじゃん!」
「うん! マーズと一緒に相談しながら作ったんだ!」
「ええ、私と焔君の世界で一つだけの機体よ!」
二人の機体はこの頃はまだ『ブラッドマーズ』や『ウルフマーキュリー』と言う名前ではなく、複雑なギミックも何も搭載していなかった。
主にバトルの際に呼ばれる機体の名前は、自分たちを例えにすると、基本的に十文字以内に収まれば、人工精霊の名前である『マーズ』の部分は変えられないが、その頭につく『ブラッド』の部分は自由に設定することができた。
だから、機体を大きく改造し、現在の姿に近づくまでに、何度か機体名を変更したものだ。
でも、それぞれの武器が杖と弓なのは最初からだった。
「よーし! 皆準備はできたな! それじゃあ、バトルスタートだ!」
「よし、行くよ、マーズ! 俺たちの初陣だ!」
「ええ、勝つわよ、焔君!」
「マーキュリー!
「フッ、任せておけ、冬馬」
バトル開始の合図と同時に、自分たちの機体を真っ直ぐに突っ込ませた。
武器は遠距離用の杖だったが、そんなの関係なかった。
自分たちは強いと信じていたし。最初のバトルも華々しい勝利を飾ることができると思っていた。
でも……。
「え……??」
それは自分の声だったのか、マーズの声だったのか、それとも両方か……。
気づいたら機体の目の前に一本の矢が迫って来ており、避ける暇もなくそのまま命中してしまった。
その一撃でマジカルバリアが破壊され、実にあっさりと最初のバトルは終了した。
手も足も出ない所ではない、文字通り何もできないボロ負けだった。
「うわあ〜〜ん!! 負けちゃったよ!!」
「ご、ごめんね、焔君……! お姉ちゃんのせいで……!」
あまりの悔しさから泣いてしまった自分をマーズが必死に宥めてくれた。
そのおかげで少しだけ泣き止めた。
「……ううん、マーズのせいじゃないよ……。 ぐすっ……俺が好き勝手に動いたから……」
「違うわ、焔君! お姉ちゃんなのにサポートできなかった私が悪いのよ……!」
「ううん、俺が……!」
「いいえ、私が……!」
その様子を側で見ていた店長たちが、安心したと言った表情で口を開いた。
「泣き出した時はどうしたもんかと思ったけど……負けて尚、不貞腐れずに、相棒を思いやれるなら大丈夫そうだな!」
「そうですね。 焔君たちなら
「……!」
店長もトイの言葉にハッとした。
そうだ何もバトルはこの最初の一回だけじゃない。
思わず、冬馬たちの元へ駆け寄った。
「冬馬君、
「焔君はその……初めてのバトルで負けたのに……どうして直ぐに立ち上がれるの?」
冬馬が心配してくれる理由は分かっていた。
ウィッチバトルは家族であり兄弟姉妹同然の相棒と一緒に挑む競技だ。それ故に思い入れが強く、本気になる為に、負けた時の悔しさは耐え難いくらいに辛くなる。
しかも初めてのバトルと言うのは、長年夢見た憧れの始まりであり、記念すべき物なのだ。
そんなバトルでボロ負けして、ウィッチバトル自体が嫌いになる例もあると、自分も耳にしたことがあった。
それでも自分は大丈夫だった。
「だって兄ちゃんが言ってたんだ! 敗北は次の勝利の糧になるって!
「お! 焔君の兄ちゃんは良いことを言うじゃないか! 正にその通りだな!」
店長が絶賛してくれる中、言葉を続ける。
「だから、冬馬君たちは強いけど、俺たちも
「そう言うことなら僕たちも、
「うん! だからもう一回バトルを……!」
そのままリベンジマッチをしようとすると、冬馬が申し訳なさそうに両手を合わせた。
「ごめん、焔君! 僕はこの後用事があるから、そろそろ行かなきゃいけないんだ!」
「それに、焔君。 マーズちゃんの機体のダメージ的に、今日のバトルはどのみち無理なんじゃないか?」
「そんな……!?」
店長にまで追撃?され、ガックリと肩を落とすと、マーキュリーを回収した冬馬が、再び口を開いた。
「だけど、焔君! 僕はここから少し離れた場所に住んでいるから、来週の土曜日にでもまた来るよ! そこで次のバトルをしよう!」
「うん、約束だよ、冬馬君!」
「ああ、約束だよ、焔君!」
――そして、約束通り次の土曜日に冬馬たちと再会して、またバトルしたんですけど……今度は初手で負けはしなかったものの、手も足も出ずに再びボロ負けしてしまいました……。
*****
――それから毎週土曜日に再会する度に、冬馬たちに何度も挑んだんですけど、勝てなくて……。 そんな最中、冬馬たちが病院で知り合ったと言う小春とジュピターがお店にやって来て、俺たちも直ぐに仲良くなったんです。 それから俺たちはいつの間にか幼馴染の様な関係になっていました。
「ねえねえ、焔君はさ……あの冬馬君相手に何度も負けてるのに、どうしてそんなに何度も立ち上がれるの?」
「た、確かに……このお店で一番強いヒーローだから、勝てっこないって皆言ってるもんね……」
当時の小春は、生まれつき大きな病気を患っていて、ずっと近所の病院に入院しているらしかった。
でもある日、偶然冬馬と出会ってウィッチバトルの楽しさを教えて貰った小春は、必死に説得した両親の付き添いの元、外出許可をとって良く来るようになっていた。
ちなみに、小春とジュピターの最初のバトルは、冬馬たち相手のティーチングバトルの様な物だった。
そんな小春に、冬馬と初めてバトルした際の話をした。
「へえ〜、本当の負けは諦めて逃げた時か〜。 あたし、この言葉好きかも!」
「でしょ! でしょ!」
「だったら、あたしたちもいつまでも練習バトルばっかりしてないで、本気のバトルで冬馬君たちに勝てる様に頑張らないと! どっちが先に勝てるか勝負だね?」
「うん、俺たちだって、
「ええ、私たちだってどんどん強くなっているんだから!」
*****
――冬馬たちが用事でこれない週もある中、俺と小春は冬馬たちに勝てる様に秘密の特訓をする様になりました。 その甲斐もあってか、冬馬たちとの練習バトルを除いた本気のバトルの通算成績が、〇勝七敗になった、八戦目に初めて勝つことができたんです!
「「マジカルスキル! マーズファイア!」」
マーズファイアは、一般的な魔法を元に生み出した、最初の専用の魔法だった。
冬馬たちの最初の狙撃で左腕を破壊されたり、何度も何度も危ない場面があったものの、最後はそれが決めとなり、初めて、冬馬たちを倒すことができた。
「やったー! 冬馬君に初めて勝てた! ありがとう、マーズ!」
「こっちこそだわ、焔君! 私たちの努力の賜物ね!」
「くっ……! 僕たちが負けるなんて……!」
「……すまない、冬馬……」
お店にいた子供たちがまさかの結果に信じられないと言った表情をする中、小春とジュピター、それから店長とトイが声をかけてくれた。
「やるじゃん、焔君! それにマーズも! 先を越されちゃったけど……あたしたちだって、直ぐに追いついてみせるからね! ね、ジュピター!」
「わ、私も頑張るよ……小春ちゃん……!」
「これで焔君と冬馬君の通算成績は一勝七敗か……。 正に
「遊介の言う通りですね。 何度転んでも諦めずに立ち上がる焔君たちにピッタリの言葉です」
店長の言ったその言葉は自分たちも気に入った。諦めないと言う部分に親しみを覚えたのだ。
そんな中、初めて負けた悔しさで涙を滲ませた冬馬が駆け寄って来た。
「焔君……いや、
「フッ、俺も冬馬の為に頑張るとしようか……」
「だから、僕たちの
「……!」
冬馬は初めてバトルした時からライバルだと言ってくれたけど、本当は少し不安だった。
だってライバルなのに自分たちはいつも負けてばかりだったから。
でも、冬馬が改めてライバル宣言してくれたことで嬉しくなった。
「うん! 俺たちだって最初のライバルである冬馬君……いや、
「ええ、勿論よ、焔君!」
こうして、永遠のライバルとなった二人が、改めて固い握手を交わすと、それを見ていた小春が「ずるい! ずるい! あたしも! あたしも!」と叫びました。
「もお〜、二人共! 良い感じになってるとこ悪いけど、あたしとジュピターのことを忘れないでよね! あたしたちだって二人のライバルなんだから! だから、あたしのことも呼び捨てで呼んでよ!」
「勿論だよ! 小春たちは俺たちのライバルなんだから!」
「うん! 当然、小春たちも僕たちのライバルだからね!」
「へへっ! 二人共、ありがとう!」
――こうして、俺たち三人は、幼馴染の友達であると同時にライバルになりました。 通算成績でいつも一歩先に行っている冬馬に負けじと、俺と小春も頑張ったおかげで、一回戦負けでしたが、全国大会にも出れる様になったんです! そして、こうして三人でメカニカルウィッチ学園に入ったんです!
*****
「――だから、俺は何度負けたって絶対に折れたりなんかしません。 本当の負けは諦めて逃げた時だって知ってるから……」
語り終えた焔は、そう口にしながら窓から見える夜空に輝く星に向かって手を伸ばした。
そして、それを真っ直ぐに見つめながら言葉を続けた。
「それに、俺の兄ちゃんが言ってたんです……どんなに遠くにある星でも、それを掴みたいと望んだならば、諦めずに手を伸ばし続けろって……。 そうすれば、いつか必ず届く日が来るって……」
従兄弟の言葉は決して出まかせなんかじゃなかった。
自分よりも九歳年上の為、当時のことを詳しく知っている訳ではないが、本当にそれを有言実行したのだ。
当時、その規格外の強さから
同年代は勿論、年上の世代すらも負けて心を折られる中、勝ってもいつも詰まらなさそうにしていたその子に勝つ為に、従兄弟は何度負けても、それこそ
そして、ついにその無敗神話を打ち破って初勝利を収めたことで、その子の
そして、その関係は今も尚、続いていると言う……。
焔は星を掴む様に、伸ばした手を握りしめると、改めて輝たちの方を振り返った。
その姿を見た輝が口をゆっくりと開いた。
「それがきっと……焔君とマーズさんの強さの源で、僕が入学式の日のウィッチバトルを見て感じた可能性の正体だったんだね……」
「はい! 最初は全然勝てなかった冬馬たちにだって、諦めずに何度も挑み続けたことで勝てる様になったんです!
「そうよ! 私と焔君が世界で一番の相棒だって証明するのよ!」
大胆不敵とも言える焔とマーズの宣言を聞いた面々に、それを無謀だと嘲笑う者は一人もいなかった。
寧ろ闘争心に火がついた様だった。
「ハッ! 益々気に入ったぜ! それに焔たちは叩けば叩く程伸びるタイプみたいだからな!
「あ、それ私も分かります! 焔君たちはスポンジの様に直ぐに吸収してくれるので、教え甲斐があるんですよね〜」
「そうですよ! やっぱり私ちゃんの目に狂いはありませんでした! 私ちゃんには見えます! 焔君とマーズちゃんが未来のチャンピオンバディになっている姿が!」
先程までの大喧嘩は何処へやら、王牙と歌と御影は興奮した様子で盛り上がっていた。
その様子を側で見守っていたレオとピスケスとカロンも触発されていた。
「だが、そう簡単に吾輩たちを超えられるとは思わないのであーる!」
「そうね。 私と歌もそうやすやすと負けるつもりわないわ」
「ま〜御影ちゃんの為にも、カロンちゃんも頑張るとしますか〜」
そんなやり取りを見ていると、輝が真剣な表情で話しかけて来た。
「……焔君」
「輝先輩? どうしたんですか?」
「君がサターン君とリンさんから聞いた通り、美月さんはメカニカルウィッチの開発者である明日斗博士の娘として、周囲から過剰なまでの特別視を向けられて来た……。 そして、彼女自身も幸か不幸かそれに応えられる強さを……特別な力を持っていた……」
そう語る輝は
「それ故に誰もが美月さんのことを、手の届かない遠くで輝く星の様に扱った……。 そんな彼女に近づこうとすれば、必ずその余波を受けることになる筈だ……。 それでも君は……」
輝は一度言葉を詰まらせてから、改めて問いかけて来た。
「……それでも君は、美月さんと言う星に手を伸ばす覚悟はあるかい? 周りから
「はい! 周りから何と言われても関係ありません!
「……それなら、大丈夫そうだね……。 僕も影ながら応援しているよ、焔君」
「はい、ありがとうございます、輝先輩!」
*****
「……君ならできるさ、焔君……。 きっと焔君なら、あの子の……
もう夜なので特訓の続きは明日となり、皆が帰る準備をする中、輝は誰にも聞こえない様な小さな声でポツリと呟いていた。
四月に起きたメカニカルウィッチ研究所の事件の際に、美月の姿を目にしてから、輝はこうして自身を責める様なことを口にすることが多くなっていた。
そうした言葉を側で聞いていると、自分でも良く分からないが、胸が苦しむ様に痛かった。
でも、
だから、その名をただ口にすることしかできなかった。
「マスター……」