――マーズは、俺が生まれた時からずっと一緒にいる大事な家族で、姉ちゃんの様な人だった。 嬉しい時も、悲しい時も、いつも俺の側にいてくれた。 どんな時でも、俺の味方でいてくれた。 だからマーズは、俺の世界で一番の相棒で、大好きな人だった。
「ごめん、焔! 全部全部、締め切りに間に合いそうにないお父さんが悪いんだ! 一緒に遊びに行く約束は、これが終わってからに変えさせてくれ!」
「ごめんね、焔! お母さんも締め切りが不味いの! これが終わったら必ず埋め合わせはするから! マーズ、焔のことをお願いできる?」
「ええ、任せて! 私は焔君のお姉ちゃんなんだから!」
「うん、だから父さんと母さんは早く仕事に取り掛かった方が良いよ。 さっきからマジカルウォッチが鳴り続けてるよ?」
「「本当にごめんなさい!!」」
焔の父である
両親の作る物語の世界は、二人の夢と希望が詰まっていて、自分も大好きだった。
両親は普段は、創作活動の仕事をしながらも、自分の為に時間を作ってはいろんな所に遊びに連れて行ってくれた。
だから、自分はそんな両親のことが大好きだったし、自身の好きな物を仕事として、それに打ち込む二人のことを尊敬していた。
……でも、両親は決して仕事を疎かにしている訳ではないのだが、いろんな作品を兼任していることもあり、こうして締め切りに終われることがしょっちゅうあった。
そんな時は、担当からの鬼の様な電話に悲鳴を上げながら、徹夜で仕事をしていた。
そんな両親が忙しい時に、代わりに自分の面倒を見てくれたのがマーズだった。
「安心して、焔君! 今日はお姉ちゃんが一緒に遊んであげるわ! ……と言う訳で、お姉ちゃん一推しの魔法少女ものを見ましょう? 今日はどのシリーズが良いかしら?」
「マーズ姉ちゃん、本当にそのシリーズが大好きだよね……」
マーズはずっと昔の二十一世紀に作られたとある魔法少女ものが大好きだった。
曰く、半世紀近くの歴史を持ち、五十作品にも登る物語は、どのシリーズにも十人十色の特色があって、凄く引き込まれるそうだ。
かく言う自分も、彼女に布教される内にハマってしまっていた。
マーズは魔法を使って、昔の作品のデータにアクセスし、その一覧を見て吟味しながら、片手間でリビングにあるテレビに繋ぐ準備を始めた。
「……ふむふむ、そうね……。 焔君的にはロボットものが混じったこのシリーズがおすすめかしら……」
「……マーズ姉ちゃんはさ……どうしていつも俺と一緒にいてくれるの?」
「ん〜? どうしたの急に? それは勿論、私が焔君の家族で、お姉ちゃんだからだけど?」
「……でも、父さんと母さんも家族だけど、いつも一緒にいてくれる訳じゃないよ……」
自分の悩みを……弱音を聞いたマーズは、作業の手をピタリと止めた。
そのまま作業を中断すると、ソファの上で膝を抱えている自分の元へと駆け寄って来る。
そして、彼女は手のひらサイズの小さな体で、自分の涙をそっと拭ってくれた。
「……そうよね。 焔君はまだこんなに幼いんだもよ……。 両親と一緒にいれない時間を寂しく感じるのも無理もないわ……」
「うん……」
両親にも仕事があることは分かっていた。
でも、二人のことが大好きだったからこそ、ちつも一緒にいてくれないことが寂しかった。
「この先……焔君が大きくなって学校に通う様になったりすれば、両親と……家族と一緒にいれない時間がどうしても増えていくことになるわ……。 でも、安心して! お姉ちゃんはそうはならないから! だって、お姉ちゃんは焔君の家族であるの同時に
「相棒? それって家族とどう違うの?」
「そうね……きっと人によって定義は変わるのでしょうけど……。 お姉ちゃんにとっては、
「俺とマーズ姉ちゃんの……
絆の証と言う言葉を聞いて思わず目を見開くと、自分を安心させる様に、マーズは優しく笑いかけてくれた。
「ええ、そうよ! 私は焔君の相棒でパートナーなの! だから、いつだって側にいるし、どんな時だって味方でいるわ! 絶対に離れたりなんかしない……ずっとずっと一緒にいるわ!」
「本当に……? 俺とずっと一緒にいてくれるの?」
「ええ、約束するわ、焔君!」
「うん、約束だよ、マーズ姉ちゃん!」
――マーズがあの時してくれた約束を今でも覚えている。 ずっと一緒にいると言ってくれたことが本当に嬉しかった。 だから俺も、マーズとの特別な繋がりで絆の証でもある、相棒と言う関係をずっと大事にしたいと思った。 そんな俺に、相棒と一緒に戦うウィッチバトルとその楽しさを教えてくれたのが、従兄弟である
*****
――麗兄ちゃんは、俺の父さんのお兄さんの息子で、九歳年上の近くに住んでいる従兄弟だった。 そんな麗兄ちゃんは、父さんと母さんが仕事で忙しい時に、マーズと一緒に何かと面倒を見てくれこともあり、いつの間にか兄妹の様な関係になっていた。 そんなある日、俺は麗兄ちゃんに誘われてウィッチバトルの世界大会の試合を見に行くことになった。
五歳の誕生日を迎えたとたる夏。麗は誕生日プレゼントとして、世界大会のチケットをくれた。
どうやらまだテレビでしかプロの試合を見たことがない自分に、会場で実際に目にして欲しいらしい。
自分も彼から布教されたおかげで、ウィッチバトルに興味を持っていたこともあり、その誘いを受けることにした。
それから数週間後、麗の手伝いの元、準備を終えた自分は、彼と一緒に世界大会の会場でもあるワールドユニオンの本拠地に向かった。
ちなみに、両親は締め切りの関係上、一緒に行くことができず、麗の両親の引率があるとは言え、心配そうにしていた。
そして、自分はその場所で、チャンピオンバディと言う名の
『――さあ、いよいよ第十回世界大会も残すは決勝戦のみとなりました! 今年の決勝戦に残ったのは、記念すべき第一回、それから第三回並びに去年の第九回の三度の優勝系経験を持つ、現在のチャンピオンバディである極星きらら選手と相棒のポラリス! それに挑むは……』
当時はまだ手のひらサイズのロボットが戦うウィッチバトルで試合が行われていた。
現在の巨大なロボットが戦うスーパーウィッチバトルと比べれば、派手さが劣る様に見えるかもしれないが、自分にとっては全然そんなことはなかった。
世界大会の試合はそのどれもが凄く、今も尚、その光景が頭に焼き付いていた。
その中でも、世界で一番の相棒の座を賭けた決勝戦は格別だった。
「わあ〜〜!!」
世界大会を含めたプロリーグなどのあらゆるリーグの決勝戦でのみ使用される、特別なバトルフィールドである『擬似宇宙』で、きららたちの機体である『テディベアポラリス』は星の様に煌めいていた。
テディベアポラリスは、星を思わせる黄金を基調とし、白の装飾を纏い、片手に装備した短い杖である『テディベアステッキ』を装備しており、魔法少女や熊のぬいぐるみを思わせる可愛らしい姿をしていた。
でも、可愛らしいなんて言えないくらいに圧倒的な強さを持っていた。
「決めるわ、ポラリス!」
「うん、きららちゃん!」
「「マジカルスキル! ポラリステディベアユニバース!」」
きららたちが最強のマジカルスキルであるフィールド魔法を発動させると、生み出された無限の星が流星の様にバトルフィールドを駆け巡った。
その星の煌めきは、ウィッチバトル用の小さなスタジアムさえも飛び出して、自分の元まで届いた様に錯覚してしまう程に綺麗だった。
そして、まるで永遠にも一瞬にも思える時間の後、マジカルバリアが砕け散る音と共に、その星の煌めきがようやく収まった。
『き、決まった〜! 勝者は今も尚、バトルフィールドに君臨し続けるテディベアポラリスを駆る、極星きらら選手と相棒のポラリスだ〜! これで彼女たちは、前人未到の世界大会二連覇と通算四度目の優勝となります!』
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ〜〜!!」」」
バトルの決着を告げるMCの声と共に、観客声から大観声が巻き起こった。
その声はまるで会場全体が揺れるくらいに凄かった。
『
MCの声に導かれた観客たちはきららたちに視線を向け、静まり返った。
これから行われる、世界大会の優勝者であるチャンピオンバディにの許された宣言を聞き逃さない為に……。
そんな中、きららは手元に戻って来たポラリスを右手に乗せると、
「「――私たちが世界で一番の相棒! チャンピオンバディよ!」」
「きらら様〜〜!! ポラリス様〜〜!!」
「チャンピオンバディ〜〜!!」
「お美しいです〜〜!!」
「最強です〜〜!!」
その宣下を聞いた観客席から再び大観声が巻き起こった。
辺りを見回すと、誰もが感動と興奮で笑顔になっていた。
きららもバトルの相手の同年代に見える女性と固い握手を交わしていた。
そんな様子を目にした自分も、まだ心臓がドキドキしていて、今までで一番の高揚感を感じていた。
自分の中に生まれた夢に突き動かされ、思わず観客席から立ち上がって、きららたちに向かって手を伸ばして叫んだ。
「――凄い
早る気持ちを抑えられないまま、自分の肩の上にいるマーズに目を向けた。
「――
自分の夢を聞いたマーズは嬉しそうに微笑んだ。
「ええ、任せて、焔君! 勿論、弟君の夢を手助けするのがお姉ちゃんの役目だと言うのもあるけど……。 それ以上に。それは
「うん、マーズ姉ちゃん……ううん、
あの約束のおかげでマーズのことを相棒として意識する様になったが、それでもやっぱりいつも自分のことを助けてくれる姉として意識することの方が多かった。
でも、この時初めて、今までの様に助けられてばかりじゃなくて、
「うんうん……あれ? お姉ちゃん呼びは??」
すると隣で様子を見守っていた麗が、マーズの声を遮る程のテンションの高さで、その口を開いた。
「焔がウィッチバトルにハマってくれて、俺も嬉しいぜ! ほらよ、焔! これは俺からのプレゼントだ!」
受け取ったプレゼントを開けると、中に入っていたのは麗のトレードマークであるゴーグルと同じモデルの物だった。
「わあ〜〜!! 麗兄ちゃんとお揃いのゴーグルだ!」
「へへっ! 焔は前に俺のゴーグルを見て自分も欲しいって言ってたからな! 本当は万が一焔がウィッチバトルを気に入ってくれなかった時の代わりのプレゼントとして用意してたんだが……理由が変わったぜ!」
麗はプレゼントしてくれたゴーグルを自分の頭につけてくれた。
その頭をポンポンと撫でながら、言葉を続けた。
「見てろよ、焔! それにマーズも! 俺とウラノスは今はまだ年齢制限で世界大会に出れないけど……絶対にプロの選手になって、きららさんたちを超えるチャンピオンバディになってみせる!」
「その粋だぜ、麗! 最強であるネオンとネプチューンを倒した俺様たちが、ジュニアリーグを制したからで満足する訳がねぇもんな!」
「ああ! 俺とウラノスの伝説を楽しみにしてろよ! だから、先に世界で一番の相棒であるチャンピオンバディになって、焔たちが……
麗がそう言いながら突き出して来た拳に、自分も合わせる様に拳を突き合わせた。
「うん、約束だよ、麗兄ちゃん! いつか世界大会でバトルしようね!」
「おう、約束だぜ、焔! 最高のバトルをしような!」
その後、帰国した自分とマーズは、近所にあるメカニカルウィッチを専門にしているおもちゃ屋に行って、店長とトイと出会うことになった。
そこで店長たちの手伝いの元、自分とマーズの憧れであるきららたちの様に、マジカルスキルを自在に操れる杖を武器とした機体を……後のブラッドマーズの原型となる機体を作り上げた。
年齢制限の関係上、ウィッチバトルはまだできなかったけれど、それでもこの世界で一つだけの自分たちの機体で、いつか世界大会で優勝しようとマーズと誓い合ったのだった。
――その後、俺とマーズは店長たちのお店によく遊びに行く様になり、そこで冬馬とマーキュリー、小春とジュピターに出会うことになった。 麗兄ちゃんとウラノスも宣言通り、プロ一年目にして世界大会で優勝して、世界で一番の相棒であるチャンピオンになった。 それから幼馴染の二人と一緒にメカニカルウィッチ学園に合格者、入学式を間近に控えたとある日に、俺は美月と出会うことになったんだ。
*****
――その日、俺は冬馬と小春と一緒に、機体の調整とバトルをする為に店長たちのお店へと向かっていた。 その途中にある大きなショッピングモールで流れていた、世界大会の決勝戦の映像を見る為に足を止めた俺は、初めて美月と出会うことに……テレビ以外で直接目にすることになったんだ。
「――やっぱり凄い、チャンピオンバディのバトルは! 煌めきカッコいいや! 俺たちもいつか絶対にあんな風に…未来のチャンピオンバディになるんだ! ね、マーズ!」
「勿論よ、焔君! お姉ちゃんに任せなさい!」
長年のライバル関係である、麗たちとネオンたちのバトルの映像は、何度見ても凄かった。
現に周囲にいた人たちも、チャンピオンバディのバトルを見て笑顔になっていた。
(あれ……? あの子……)
だからこそ、遠目に見えた、一人だけ悲しそうな表情をしている女の子の姿が気になった。
その子はロングヘアの紫掛かった黒髪に、宝石の様に綺麗な
大人びたその雰囲気に加え、周囲に護衛の様な人たちが控えていたこともたり、高貴なお嬢様の様にも見えたが、自分にはどうしても、その姿が寂しそうな小さな子供に見えてしまった。
「いいな……。 私も……」
その子の何かに焦がれる様な小さな声が、微かに聞こえた様な気がした。
その姿がどこか、両親が大好きだからこそ、一緒にいてくれないことに寂しさを感じていた、昔の自分重なった。
だからきっとこの子も、ウィッチバトルが……メカニカルウィッチが嫌いな訳じゃなく、寧ろ本当は好きだからこそ、眩しい物を見る様に悲しそうな表情をしているんだと思った。
その子の相棒が近くに見当たらないせいで、余計にそう思えて仕方がなかった。
それからその子がふと涙を流したのを目にして、自分も胸が張り裂けそうになった。
でも、どうすれば良いのか分からないけど、兎に角、何かをしたいと思った時には、その子はもう車に乗ってしまっていた。
――結局、その日の夜になっても、悲しそうな表情をしていたあの子の姿が……美月の姿が、俺の頭から離れなかった。
*****
――次に美月と再会したのは、入学式の日のことだった。 ……と言っても、美月にとっては初対面だっただろうし、俺も先日の子が、明日斗博士の代理としてテレビで見たことがある美月だと結びつけられなかったせいで、直ぐには気づくことができなかったんだ。
入学式の日、今日が楽しみ過ぎて昨夜は全然寝付けなかったせいで、自分は朝寝坊をしてしまった。
一緒に行く予定だった冬馬と小春に先に行く様に連絡して、送ってくれた両親と正門で別れた俺は、マーズと一緒に朝から走っていた。
そんな中、周囲の様子なんて気にしている余裕などなかった筈なのに、具合が悪いのか建物の影にいる女の子の後ろ姿が、偶然目に入った。
「頑張れ、私。 頑張りなさい、わたく……」
「――ねえ、君! 大丈夫?」
「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ〜〜!?」
心配になって思わず声をかけると、その子はその場に響き渡る程の大きな悲鳴声を上げた。
それから驚かせたことを謝った後に、自己紹介をする流れになった。
「俺は焔! 赤火焔! 今日からこの学園に通う一年生なんだ! よろしく!」
「わたくしは美月。 黒土美月ですわ。 先程はお見苦しい所をお見せしましたわ……」
その際にどこか既見感を覚えつつも、まるで別人に切り替わった様なお嬢様口調の美月に加え、先日はいなかったサターンの存在により、話がメカニカルウィッチの方へと流れたことで、気づくことができなかった。
その後、入学式の日の始まりのウィッチバトルをすることになった。
この学園での最初のバトルで負けたことは勿論、悔しかった。
それでも自分にとってはバトルは勝っても負けても楽しいものだと思っていた。
でも、バトルに夢中になる余り、バトルが終わってから、美月にとってはそうじゃなかったのだと気づくことになった。
美月はバトルに勝ったにも関わらず、どこか苦しそうで、不安そうな表情をしていた。
その姿を目にしたことで、彼女が悲しそうな顔をしていたあの子だと気づいた。
それと同時に、美月のことを明日斗博士の娘としてしか扱わない周りの声から、彼女が悲しそうな顔をしていた理由が何となく分かった様な気がした。
自分の夢はバトルをした相手も、見た皆も笑顔にすることだったのに、そうすることができなかった。美月のことも……。周りのことも……。
だから直ぐに、自分の力不足で良いバトルにできなかったことを謝った。
それから次こそは良いバトルをしてみせると誓った。
「ありがとう……ございますわ、焔……!」
「……!!」
すると美月は初めて笑顔を見せてくれた。
目に涙を浮かべ、泣き笑いに近い形だったが、それでもとても綺麗な笑顔だと思った。
でも、この笑顔はあくまでも未来への期待によるものだった。
そのせいで余計に、ウィッチバトルで逆に悲しい顔をさせたことが辛かった。笑顔にできなかったことが悔しかった。
――俺はこの時、