『焔もマーズも! 美月ちゃんもサターンも! 皆本当に凄かったよ! だけど、あたしたちだって何もしてなかった訳じゃないんだから! よ〜し、ジュピター! このまま学園リーグランキングトップ十になるよ!』
『う、うん……私も凄くやる気が出て来たよ、小春ちゃん……!』
『ああ、焔はきっとこのバトルの結果で、学園リーグランキングトップ十に入るだろう……! だけど、僕たちだってもう少しで手が届くところまで来ているんだ……! マーキュリー、この調子で行くぞ……!』
『フッ、冬馬の為にも俺も気合いを入れるとするか……!』
小春とジュピター、それから冬馬とマーキュリーの声がアナウンスに乗る形で、生徒会メンバーが貸し切った来賓用の観客席がある個室に聞こえて来た。
そんな中、咲良は窓ガラスに手を当て、美月とサターンの様子をじっと見ながら、ゆっくりと口を開いた。
「――やっぱり、
「拙者も兼ね同意見でござるが……陽太たちの攻撃的なバトルスタイルをベースにしつつ、まるで弱点を埋める様に防御面が補完され、攻防一体のバトルスタイルになっているのを見るに……まるで
キャンサーの意見を聞いた咲良は、美月が以前、短期間だけバトルしていた時のことを思い出した。
自分たちは直接バトルした訳ではないが、当時の美月は今とは違い、杖を武器にしており、
確かにその時の彼女と、陽太のバトルスタイルを足して二で割れば、今の彼女のバトルスタイルになることに気づいた。
「確かにそう言われるとしっくり来るけど……その理屈だと、サターンの方が彼と同じと言うことになるわね……?」
咲良は再び頭を悶々と悩ませた。
咲良とキャンサーを初めて負かし、最初のライバルになった陽太とサンと同じバトルスタイルを……自分たちが憧れたバトルスタイルを、入学式の日のウィッチバトルで美月が見せた時からずっとこうだった。
そこで咲良は、美月とサターンの謎を解く参考にする為に、他の生徒会メンバーの声に耳を傾けてみた。
「ハッ! 最高のバトルだったぜ! まさか、焔とマーズが俺様たちよりも先にシンクロゾーンに至るとはな! 俺様たちも負けてられねぞ、レオ! 雷牙とイーグル、音牙とオルカ、それからチームキングダムのメンバーを集めて、今からバトルするぞ!」
「勿論であーる、王牙! 吾輩も今すぐ、バトルがしたい気分なのであーる!」
王牙たちも自分たちと同じく、陽太と同じバトルスタイルの美月に注目していた筈なのだが……。
どうやら特訓に付き合っている間に、完全に興味が焔たちへと向いてしまった様で、早速マジカルウォッチで弟たちに電話をかけていた。
「合体マジカルスキルを作り出すなんて、焔君もマーズちゃんも本当に凄過ぎます!! やっぱり、みーちゃんが観察眼は本物でした!!」
「う、歌、落ち着きなさい……! 御影みたいにテンションがぶっ壊れているわよ……!」
「だって、ピスケス!! 焔君たちは、
「くっ……! まさか、歌がネオンさんたちを生で見た時みたいになるなんて……!」
歌たちは凄いことになっていた。
だけど、歌は元より魔法が大好きな子だ。合体マジカルスキルなんて見ればこうもなるのも仕方がないだろう。
この後、いつもとは逆に歌が御影をバトルに付き合わせる光景が簡単に想像できた。
「いや〜シンクロゾーンなんて、流石、天才は俺たちみたいな凡人とは違うっすわ〜。 それに黒土さんたちの方も、最後は合体マジカルスキルっぽくなってなかったすか、スコーピオ?」
「
「ああ……
秀次たちは相変わらずだった。
なにが凡人だ。
一通り聞き終えた咲良は、改めて美月とサターンに目を向けた。
「まあ、良いわ……。 学園リーグ戦……いや、全国大会の舞台でも良いわね……。 兎に角、黒土美月とサターンと、直接バトルしてみれば分かることよ!」
「誠に楽しみでござる!」
咲良たちは、今まで美月には、亡きライバルである陽太の影ばかりを感じていた。
でも、バトルの後半や、最後の殴り合いを見て、美月の気合いと根性を目にしたことで、彼女自身のことも気に入っていた。
それこそ、陽太の妹であることを関係なしに……。
「……それにしても、あの子……泣いたり、笑ったり、顔を赤くしたり、可愛いところもあるじゃない。 何が完璧なお嬢様よ、可愛い普通の女の子じゃない……」
バトルフィールドでわちゃわちゃしている美月たちを見て、咲良はすっかりと気が抜けてしまった。
それと同時に、美月のことを一番気にしていた輝が、やけに静かなことに気づいて、思わず後ろを振り返った。
「……輝とヴィーナスはどこに行ったのよ?」
*****
「――これで良い……! これで良かったんだ……!
スタジアム内にある人が立ち入れない場所で、輝が自身に言い聞かせる様に独り言を口にしていた。
バトルの中継が終わっていた為、どんなやり取りをしたのかは分からなかったが、機体から降りた美月と焔が何かを話しているのを見た輝は、その顔を酷く歪ませていた。
そのまま自分を連れて部屋を後にした輝は、この場所でまるで自身を罰する様なことをしていた。
「
輝はそう叫びながら、何度も何度も目の前の壁に拳を打ちつけていた。
そのせいで彼の手は赤く腫れ上がってしまっていた。
やがて、輝は自身の頭を思いっきり目の前の壁に打ちつけると、ずるずるとその場に座り込んみ、赤くなった手で苦しそうに胸を押さえた。
そんな彼の瞳から涙がボロボロと溢れ落ちた。
「それでも、どうしてもこの気持ちを捨てられないんだ……捨てたくないんだ……。 だって、美月ちゃんは僕が初めて好きになった子なんだから……」
輝のこんな弱々しい姿を自分は見たことがなかった。
だって、輝は勉強も運動も完璧になる様にいつも努力していたし、人助けも率先して行っていた。
そして、完璧超人の王子様の様な生徒会長として、周りから尊敬され慕われる姿を、彼の相棒としてずっと側で見て来た。
自分は輝の相棒なのに、彼がこんな顔をするのを知らなかった。
「……僕はやっぱり……今もまだ美月ちゃんと出会う前の……何もできない弱虫な僕のままだ……」
そう呟いて動かなくなった輝の後ろ姿を、ヴィーナスは遠くから心配そうに見つめていた。
でも、彼の「ここで少し待っていて欲しい」と言う言いつけを破る訳にはいかなかった。
「……そんなことありません……。 マスターはたくさんの人を助けていました……」
ここからでは輝には声は届かないとわかっていても、そう言わずにはいられなかった。
だって自分も彼に助けられたのだから。
「マスターはヴィーナスにこの名前をくれました……。 命を断とうとしたヴィーナスのことを助けてくれました……。 そして、ヴィーナスを相棒に選んでくれました……」
輝の家である白金家は、特殊な境遇の人工精霊を引き取る孤児院の様なものをしていた。
そこに引き取られた自分に、彼はヴィーナスと言う名前をくれた。
兵器として生まれた存在意義に悩んで命を断とうとしたヴィーナスのことを、彼は命を賭けて助けてくれた。
そして、彼は皆大事な家族だから誰とも相棒にならないという考えを捨ててまで、ヴィーナスを相棒に選んでくれた。
「ヴィーナスはあくまでも……マスターにとっての数多くいる内の一人に過ぎません……。 マスターにとっての一番はきっと美月さんなのでしょう……」
輝は「昔、自分を助けてくれた美月ちゃんみたいに、自分も誰かを助けられる様な人になりたい」と言っていた。
そして、四月に起きたメカニカルウィッチ研究所の事件の際に、メカニカルウィッチを悪用させない為に、戦うことを選んだ美月の姿を目にして、輝が彼女に焦がれる理由を理解した。
それ同時に、自分ではきっと彼女の様にはなれないことを理解した。
輝と一緒にシンクロゾーンに至り、高校生チャンピオンバディになったことで、彼の相棒になれたのだと思っていた。
でも結局、自分は兵器としてただ強いだけだった。
こうして輝が悩み苦しんでいるのに、何もできなかった。何も返せないままだった。
自分は相棒を助ける他のメカニカルウィッチたちの様にもなれないことを理解してしまった。
「――マスター、ヴィーナスは本当に……貴方の隣に立つ資格があるのでしょうか……?」