――陽太君の知り合いって言っても、アタシが彼と会ったのは、全国大会小学生の部でバトルした時の一回だけだったの……。 だけど、アタシとキャンサーに初めての敗北を刻みつけた陽太くんとサンのことを……アタシたちの原点になったあのバトルのことを、今でもずっと覚えているわ……。
当時、その才能により地元のレキシキョウトでも負けなしで、周囲から未来のチャンピオンバディと持て囃されていた咲良は、ものの見事に天狗になっていた。
さらに、魔境と呼ばれた全国大会の予選もあっさりと突破したことで、それは益々増長していった。
そして、迎えた全国大会。
歳の差の都合上、天王寺麗と海姫ネオンは小学生の部に出て来ないこともあって、咲良は始まる前から優勝は自分だと信じ込んでいた。
それこそ自分の相手が務まるのは、前年度の優勝者で、あの明日斗博士の息子である陽太くらいだと考えていた。
「ふふん、アンタたちが黒土陽太とサンね……! アタシとキャンサーの無敗伝説の一ページに刻んであげるわ!」
「拙者と咲良は最強でござるからな!」
咲良とキャンサーは早速、シード枠の陽太とサンと二回戦でバトルすることになった。
だけど咲良たちは、陽太たちが海姫ネオンとネプチューン、それから天王寺麗とウラノスにボコボコに負かされたことがあると耳にしていた為、無敗の自分たちが負ける訳ないと思いっきり油断していた。
陽太たちの機体である『ダスクサン』は、太陽を思わせる赤を基調とし、黄の装飾を纏い、分離合体ギミックを持つ大剣の『ダスクバスターソード』を装備していた。
実質的に大剣一本で、魔法以外の飛び道具を持たない近距離戦闘に特化したバトルスタイルで、それはもう鬼の様に強かった。
咲良たちは、そんな陽太たちに、真正面から言い訳ができないくらいボコボコに負かされることになった。
そして、初めての敗北を刻みつけられ、無敗記録と天狗になっていた鼻をへし折られた咲良は、悔しさから大泣きした。
だけどそれと同時に、真正面から相手に打ち勝つ、どこまでも真っ直ぐなそのバトルスタイルに憧れた。
「うぅ……ぐすっ……! 陽太……君……! それにサン……! アンタたちは、アタシとキャンサーに初めての敗北を刻みつけたわ!…… だけど、来年は……次はアタシとキャンサーが勝つわ……!」
「咲良の言う通りでござる! 絶対にリベンジしてみせるでござる!」
「うん、分かった!
「汝らが高みに登ってくるのを期待している……」
「ええ……! 首を洗って待ってなさい……! 初心に戻って、一から鍛え直しよ、キャンサー……!」
「咲良、拙者も心身共に鍛え直すでござる!」
それから咲良たちは、陽太たちに真正面から打ち勝つ為に、一番得意な刀だけで戦う、魔法以外の飛び道具を持たない近距離戦闘に特化したバトルスタイルを極めることにした。
全ては来年の全国大会小学生の部で、最初のライバルであり、憧れでもある陽太たちに勝つ為に……。
――でも、結局……その後にメカニカルウィッチ研究所の事故が起きたことで、アタシたちがリベンジする機会は、永遠になくなってしまったのよ……。
*****
「――それからと言うもの、アタシとキャンサーは一度負けた相手には必ずリベンジするって誓ったの……」
「これまでも、拙者たちを負かした相手にリベンジし、勝利して来たのでござる」
「そんなアタシたちが今だに勝利できていないのは、輝とヴィーナス、それから陽太君とサンだけ……。 そんなアタシたちの前に現れたのが、陽太君の妹で、
そう語る中、咲良とキャンサーは、美月の面影から陽太を見ている様に、ずっと遠い表情をしていた。
「アタシは、入学式の日のウィッチバトルを見た時から、ずっとアンタたちに注目していたの……。 正直に言って、最初はアンタを陽太の妹としか見ていなかったのは否定できないわ……。 でも、前回の学園リーグ戦でアンタの気合いと根性を見て、陽太とは関係なしに、美月自身にも興味が沸いたわ」
そんな咲良が、改めて美月とサターンを真っ直ぐに見つめた。
「だからアタシとキャンサーは、美月とサターンと学園リーグ戦でバトルしてみたいの! そして、願わくば全国大会の舞台でも! 陽太へのリベンジ半分、美月への興味半分で、悪いのだけど……」
「いえ、そんなことはありませんわ……」
咲良は挑戦状を申し込みながらも、どこか申し訳なさそうにしていた。
でも、美月は寧ろ、兄のことを覚えていてくれる人がいたことが嬉しかった。
それに、咲良の感じている通り、サターンは陽太でもあるのだから、ある意味その半々の動機は正しいと言えた。流石にそれを明かすことはできないが……。
「わたくし自身は、咲良先輩たちの本当のリベンジ相手にはなれませんが……そのバトル、受けて立ちますわ。 ね、サターン?」
「うえっ……!? そ、そうですね、お嬢様……!」
サターンは話を聞いている間、ずっと気まずそうにしていたこともあり、若干挙動不審な返答になっていた。
それを見た咲良が苦笑しながら口を開いた。
「フフッ! ええ、お願いするわ! じゃあ、美月、アタシたちも行きましょうか?」
「はい、咲良先輩……!」
そして、隣のスタジアムへと移動する咲良に着いて行こうとした美月に、サターンが兄として小声で話しかけて来た。
「……美月」
「お兄様……?」
「……僕も咲良の気持ちは分かるんだ……。
その話を聞いた美月は、初めて負けた相手である輝とヴィーナスのことを思い浮かべた。
それから兄が名を上げた海姫ネオンとネプチューンのことを……これからバトルすることになる相手のことを思い浮かべた。
海姫ネオンとネプチューンは、焔たちと輝たちに無傷で勝利した天王寺麗とウラノスと並ぶ、二大チャンピオンバディだ。
両者の戦績はほぼ互角だが、それでも世間的にはネオンたちの方が最強だと言われている。
それは、ネオンたちが麗たち以外には今だに、プロリーグと世界大会を含め、無敗の記録を持っているからだった。
その規格外の強さの要因になっているのが、世界全体で見てもマジカルスキルの五つ同時発動が人間の限界と言われている中で、その倍の機体にセットできる十個全てを同時に発動できる力だった。
麗たち様な、努力の果てに辿り着いたウィッチバトルを極めた強さとは違う、努力だけでは決して辿り着けない生まれ持った才能による強さ。
それ故にネオンは、世間からこう呼ばれていた。魔女狩りによって魔女が滅びた現代に現れた『魔女の生まれ変わり』と……。
*****
――隣にあるメカニカルウィッチ学園第八スタジアムにて。
『氷海』はその名の通り、海を再現した水中を主体としたバトルフィールドだった。
一応、地上戦用の足場となる氷があちこちに浮いてはいるが、不安定で壊れやすいので、必然的に水中戦を強いられる上級者向けのステージと言われていた。
そして、バトルフィールドの大半が水中と言う特徴故に、各リーグの決勝戦でのみ使われる『擬似宇宙』に一番近い特性を持っていた。
そんな氷海でアークサターン、オーガキャンサー、キングレオ、ステルススコーピオ、マーメイドピスケスの五機は、マリンネプチューンに立ち向かっていた。
しかし、バトルが始まって早々、秀次とスコーピオの機体である『ステルススコーピオ』が撃破された。
『――やっぱり海姫さんたちみたいな天才相手に、凡人が勝てる訳がないんすよ……!』
『秀次……』
秀次たちが苦悶の声を上げると、同時に光学迷彩が解けた。
すると、緑を基調とし、『ステルススナイパーライフル』をメインに、様様な銃火器を装備したミリタリーな見た目をしたステルススコーピオが姿を現した。
だが、既にマジカルバリアを破壊されて戦闘不能になっていることもあり、そのまま水中に落ちていった。
『『マジカルスキル。
『アハハッ! ごめんね〜♪ ネオンちゃんの前では姿を消したところで意味ないんだ〜♪』
『……ん。 私……
それに対して、ネオンとネプチューンの機体であるマリンネプチューンは、無傷どころか、氷の上から一歩も動く気配すら見せなかった。
マリンネプチューンは海を思わせる青緑を基調とし、暗い紫の装飾を纏った機体で、お姫様を思わせる細身な上半身と、下半身のボリュームのあるスカートと言った体型をしていた。
その両手に槍と杖の複合武器である『マリン
そのままネオンたちは、ステルススコーピオを仕留めた
「くっ……!? 追尾性能付きですの!?」
「しかも、相変わらずの威力だ!」
美月たちは、アークサターンのアークソードとアークシールドを使って、その攻撃を必死に撃ち落としていく。
魔法の弾丸一発だけでも、防御魔法を貫通しかねない威力と追尾性能があって厄介なのに、ネオンたちはそれをまるで通常攻撃の様に連射していた。
しかし、そんな弾幕の中を、咲良とキャンサーの機体である『オーガキャンサー』が突っ込んで行った。
『相手が誰であろうと、アタシたちは真正面から勝つわよ、キャンサー!』
『当然でござる、咲良!』
オーガキャンサーは、赤を基調とした、武者の様にも、鬼の様にも見える見た目をした機体で、両手とバックパックの四本のサブアームに刀の『鬼ノ太刀』を六本装備していた。
そのまま六刀流で、魔法の弾丸を次々に切り捨てていく。
『『マジカルスキル! レオキングタイム!』』
『俺様たちも負けてられねえぞ、レオ!』
『勿論であーる、王牙!』
さらに身体強化魔法で黄金のオーラを纏ったキングレオが、魔法の弾丸を体で受け止めながら突っ込んで行く。
『『マジカルスキル! レオハンド!』』
そのままキングレオの両手を依代に、巨大な魔法の拳を二つ生成し、マリンネプチューンへと殴りかかる。
『『マジカルスキル!
咲良たちはそれに負けじと、オーガキャンサーの腰部と脚部のサブアームを展開し、『鬼ノ小太刀』を装備させ、十刀流になった。
そのまま十本の刀に炎を纏わせ、目で追えない神速の様な太刀筋で、マリンネプチューンへと切り掛かる。
『『マジカルスキル。
それに対して、マリンネプチューンは
その波に飲み込まれた二機のマジカルスキルが打ち消される。
『『マジカルスキル。
さらにその波の後ろでは、マリンネプチューンが機体の大きさを優に超える巨大な魔法の槍を二本生成していた。
そのまま至近距離にいて、しかも弾幕で自由に動けないオーガキャンサーとキングレオの二機へと、魔法の槍が発射された。
咲良たちは十本の刀で、王牙たちは黄金のオーラで防御しようとする。
しかし……。
『くっ……!?』
『咲良!?』
『畜生……!』
『王牙!?』
魔法の槍はそれぞれ、オーガキャンサーの十本の刀をへし折り、キングレオの黄金のオーラを貫通する形で、二機のマジカルバリアを破壊した。
足元が不安定な氷だったこともあり、二機はそのまま水中に落ちていった。
マジカルスキルを得意とする杖を装備した機体は近距離戦闘に弱い傾向にあるのに、マリンネプチューンはオーガキャンサーとキングレオの攻撃を至近距離で受け止め、逆に打ち勝っていた。
しかも、相変わらず氷の上から一歩も動かないままだ。ネオンたちは、ネプチューンの由来でもある海神の名前の通り、水中戦が得意の筈なのに……。
すると、落ちていった二機と入れ替わる様に、マーメイドピスケスが、フィールド魔法によって生み出した分身を引き連れて、水中から浮上して来た。
『くっ……! 間に合いませんでしたか……! でも、流石ネオンさんです!! この短時間で、生徒会メンバーの皆の機体を倒すなんて!!』
『感心している場合じゃないわよ、歌!
『分かっています、ピスケス! 美月さん! それに、サターン君!』
全然途切れる気配のない
「何ですの、歌先輩?」
「すまんが、手短に頼む!」
すると歌たちは、アークサターンを守る盾として、マーメイドピスケスの分身たち次々と前に立たせた。
『私たちがネオンさんたち相手に時間を稼ぎます!! 悔しいですが、今の私たちではネオンさんたちの守りを突破できませんから!! でも、美月さんたちならきっと……!』
『でも、長くは持たないからできるだけ早くお願いするわ!』
「分かりましたわ!」
「任せてくれ!」
歌たちはさらに、マリンネプチューンを包囲する様に、次々に分身たちを発生させた。
そのままマーメイドスフィアから魔法のを次々に放っていく。
一撃の威力では
『『マジカルスキル。
するとマリンネプチューンは、機体を囲う様に鏡の盾を展開した。
弾幕を抜けてネオンたちまで辿り着いた攻撃が、その鏡の盾に反射されることで、逆に分身たちを撃破した。
そのまま魔法の弾丸と合わせて、次々に水中から生み出されるマーメイドピスケスの分身たちを撃破していった。
(……でも、歌先輩たちが時間稼ぎをしてくれている今の内に……!)
美月は目を閉じて、母の形見であるペンダントを両手で握り締め、勇気のお呪いを重ねがけした。
「――頑張れ、私! 頑張りなさい、わたくし!」
そして、ネオンたちと言う巨大な壁を乗り越える為に、相棒であるサターンに呼びかけた。
「行きますわよ、サターン!」
「はい、お嬢様!」
「「――シンクロゾーン!」」
シンクロ率が百パーセントのその先へと至ったことで、人間である美月の
文字通り二人で一つの存在となり、一心同体、人機一体となったアークサターンが、アークソードとアークシールドを合体させてアーク
そのままサターンアークブレイクを発動させるべく、構えを取った。
するとネオンたちが、美月たちにしか聞こえない回線で、声をかけて来た。
『……ふーん。 貴方たちは
『
「……?」
マーメイドピスケスの分身たちに守られているから、自分たちの姿は見えていない筈なのに、ネオンたちはまるで見えている様な口ぶりだった。
『『マジカルスキル。
マリンネプチューンは、小春たちのジュピターゴーレムサモンの巨人と同じ大きさの水竜を何体も呼び出した。
水竜がマーメイドピスケスの分身ごと、本体を飲み込みんだ。
『くっ……!? やっぱりネオンさんたちは凄いです!! でも、いつか絶対に追いついてみせますから!!』
『歌!?』
マーメイドピスケスがマジカルバリアを破壊され、戦闘不能になったことで、ネオンたちが展開している攻撃が一斉に襲いかかって来た。
でも……。
「「マジカルスキル! サターンアークブレイク! そして、マジカルスキル! プラネットファイア!」」
まだ焔たちの様な合体マジカルスキルにはできないが、それでもアーク
さらに背中の炎の光輪により機体を加速させ、マリンネプチューンの元へ一気に飛び込んだ。
だけど、ネオンたちはまるで焦った様子を見せなかった。
『……ん。
『期待してるからね〜♪』
『『マジカルスキル。
マリンネプチューンが、両手のマリン
歪んだ空間から大量の海水が溢れ出て来て、バトルフィールドの全てを飲み込んで行く。
まさに無限を体現した物量は、海神の名前に相応しい規格外の力を持っていた。
これこそがネオンたちの切り札であるフィールド魔法であり、麗たち以外誰も敗れなかった最強の魔法だった。
「くっ……! わたくしたちのマジカルスキルが……!?」
「相変わらず規格外過ぎる……!」
サターンアークブレイクとプラネットファイア諸共、アークサターンは海水の中に飲み込まれた。
まるで侵食される様に、その海水に触れたアークサターンから魔力が失われて行く。
(これは
まるでネオンたちに付き従う様に、魔力に宿る精霊たちが力を貸してくれなくなっていた。
どうりで誰もこの技を破れない筈だ。力の源である魔力が無ければ、魔法を使うことはおろか、機体を動かすことすらできなくなってしまう。
これを破った上で勝つことができる麗たちが、人間を止めていると言われるのも理解できた。
「お願い……! 止まって……!」
美月が必死に呼びかけると、その声を聞き届けた精霊たちが動きをピタリと止めた。
それはまるでどちらの指示に従えば良いのか、混乱している様だった。
『……
ネオンの声が聞こえて来ると、先程までは一歩も動かなかったマリンネプチューンが、
『……
ネオンがそう口にすると、マリンネプチューンとアークサターンの周囲だけが静かになった。
その外側では
そんな空間で両者が静かに対面する中、ネオンが美月たちにしか聞こえない回線から、改めて声をかけて来た。
『……貴方は
「――ッ!? それは……!」
魔力が見える目と言う特別な力に気づかれた美月は、焦った声を上げた。
しかし、ネオンは気にすることなく言葉を続けた。
『――ねえ、