「――『
ネオンの問い掛けの意味が分からない美月が、思わず問い返えそうとした……その時だった。
「――ッ!?」
視界外ではあるが美月の耳が、こちらへと高速で飛来してくるドス黒く禍々しい魔力の声を聞き取った。
そんな美月と同じく、何かを察知したネオンが、マリンネプチューンのマリン
『マジカルスキル。
ネオンは
マリンネプチューンの杖の先に現れた魔法陣に、黒い魔石が突っ込むと、離れた場所にあるもう一つの魔法陣から出て来た。
『マジカルスキル。
ネオンは再び、一人でマジカルスキルを起動させると、生成した檻で黒い魔石を閉じ込めた。
美月は魔力が見える目で、その檻が内部の魔力を空にする効果を持っていることに気づいた。
それと同時に、それにも関わらず、黒い魔石がドス黒く禍々しい魔力を生み出し続けていることにも……。
捕まえた黒い魔石を見たネオンたちがポツリと呟いた。
『……どうやらこれが、学園長先生が話していた謎の暴走事件の原因みたいだね、ネオンちゃん』
『うん……。 それに……
「まさか……!?」
それを聞いた美月も遅れて気づいた。今この場には、戦闘不能になった咲良たちの機体がいることを。
すると精霊たちの狂った様な叫び声が聞こえて来た。
『『『『
バトルフィールドの底に目を向けると、黒いオーラを纏ったオーガキャンサー、キングレオ、ステルススコーピオ、マーメイドピスケスが、こちらへと浮上して来ていた。
「お嬢様、お気をつけ下さい!」
「ええ、四機相手は不味いですわ……!」
以前、ハイパーキングレオが暴走した時は、三機合体していたとは言え、魔王システムを発動させたアークサターンやあのネメシスに近い領域の力を持っていた。
そんな相手が四機もいると言う危機的状況に、美月とサターンは焦っていた。
しかし、そんな二人とは対照的に、ネオンたちは冷静に会話していた。
『……ネプチューン。 確か……こう言う緊急自体の時は……機体のリミッターを解除しても良いんだっけ……?』
『そうだよ、ネオンちゃん♪ 国の偉い人からの許可を貰ってるからね♪ ……まあ、
『……ん。 ありがと、ネプチューン……。 じゃあ、一応……リミッター解除っと……』
そのやり取りを聞いて、美月も事前に説明されていたことを思い出した。
世間一般には知られていないが、名国のプロリーグの選手たちの機体には、その国が管理している最上位モデルの魔石が搭載されているらしい。
この魔石は、ワールドユニオンの軍用機に搭載されている魔石
そうしているのは、各国の軍隊がワールドユニオン軍に統合され、その大元の指揮権をワールドユニオンが握っている状況で、有事の際に国がプロリーグの選手たちの力を借りる為らしい。
それ故に、プロリーグの選手たちは、普段は機体にリミッターをかけているが、自国内限定ではあるが、緊急時にはそれを解除して戦うことが、特例で許可されていた。
そして、リミッターを解除したマリンネプチューンの姿を見た、美月たちも急いでアークサターンのリミッターを解除する。
「サターン、魔王システムの発動をお願いしますわ!」
「はい、お嬢様! 魔王システム起動!」
「
アークサターンの魔石の中からもう一人の兄の叫び声が聞こえて来ると、機体が紫の炎を身に纏った。
バトルフィールドが完全に水中に沈んでいる中でも、消えることのない紫の炎によって、ネオンたちとのバトルのダメージが回復していく。
戦う準備を終えた美月は、ネオンに声をかけた。
「海姫さん! わたくしたちも戦いますわ!」
『……ん。 ネオンって呼んで……』
「あ、はい……ネオンさん。 いや、それよりも今は……!」
『……必要ない。 元々この学園を……美月を守るのが、国からの依頼だし……。 それに……初めて見つけた
「で、ですが……!」
相手が相手と言うこともあり、引き下がれない美月の声を無視して、ネオンたちが動き出した。
『『マジカルスキル。
マリンネプチューンがマリン
そこから
それと同時にバトルフィールドが侵食され、海底神殿が現れる。
ネオンたちは、
『……
『
ネオンたちはそう会話しながら、アークサターンの盾にする様に、呼び出した海神を立たせた。
『……じゃあ、この子に美月を守らせるから……。 後は私たちに任せて……』
『他の子たちはあたしたちが助けるから、美月たちは自分の身を守ることだけ考えてれば良いからね〜♪』
「ね、ネオンさん……!」
「待つんだ!」
美月たちの声を無視して、マリンネプチューンは暴走した四機へと向かって行った。
急いでアークサターンを向かわせようとするが、それを海神が巨大な槍で静止した。ネオンたちは本当に単騎で戦うつもりらしい。
『
その一方で、暴走したマーメイドピスケスが、実体を持つ分身たちを次々に呼び出していた。
その分身たちも、まるで汚染されている様に、黒い影の姿へと変貌していた。
『『マジカルスキル。
マリンネプチューンは、下手なフィールド魔法に匹敵するレベルの威力と範囲を持つ嵐を巻き起こした。
それに飲み込まれた分身たちが一気に消滅していった。
しかし、暴走した四機はその規格外の出力で、無理やり嵐の中を突破して来た。
『
さらに暴走したステルススコーピオが、アークサターンに向けて銃弾を放って来た。
だが、海神がすかさず巨大な槍でその銃弾を弾いた。
ネオンたちはそれを確認すると、改めてその口を開いた。
『
『うん……。 やっぱり、ある程度弱らせないと……
『でも、中に乗っている生徒たちのこともあるから、あまり時間はかけられないよ?』
『……分かってる。 だから、
『了解だよ、ネオンちゃん♪』
『マジカルスキル。
ネオンたちは、無数の水竜たちを呼び出すと、竜巻を起こす様にバトルフィールドを駆け巡らせた。
『『合体マジカルスキル。
嵐となった水竜たちが分身たちを食い千切りながら、暴走したステルススコーピオとマーメイドピスケスに食いついた。
『『
『
『
そんな中、暴走したオーガキャンサーとキングレオは、水竜たちに何とか抗っていた。
『『マジカルスキル。
するとネオンたちは、今度は機体の大きさを優に超える魔法の槍を次々に生成しては、弾丸へと変えていった。
『『合体マジカルスキル。
追尾性能を得た魔法の槍が次々に発射される。
水竜たちと合わせたあまりの物量攻撃に、暴走したオーガキャンサーとキングレオも、為す術なく押しつぶされてしまった。
『『
『『マジカルスキル。
その隙にネオンたちは、水竜に捕まっていた暴走したステルススコーピオとマーメイドピスケス諸共、オーガキャンサーとキングレオを魔力を遮断した檻の中に閉じ込めた。
暴走した四機は合体マジカルスキルによる大ダメージを受けていたこともあってか、黒いオーラも消えて静かになっていた。
ネオンたちは本当に単騎で、暴走した四機を短時間で倒してしまった。
その様子を見ていた美月たちは、驚きの声を漏らした。
「合体マジカルスキルの複数同時発動……!? そんなの……焔とマーズですらできないのに……!?」
「十個どころの話じゃない……一体どれだけの魔法を同時に……!?」
合体マジカルスキルは、二つの魔法を組み合わせて使うのとは違い、二つの魔法の特性を完全に融合させる必要がある故に、歌たちがフィールド魔法を使うよりも難しいと口にしていた。
それの複数同時発動を、ネオンたちはフィールド魔法を二つ維持しながらやってのけた。単純計算でも明らかにマジカルスキルを十個以上の同時に発動していた。
しかも、これだけ使った尚、マリンネプチューンに魔力切れの兆候は全くなかった。
『……ん。
『あ、でもこれは内緒だからね♪
美月がネオンたちの話を飲み込めないでいると、スカイウラノスが、ウラノススカイウィングの光の翼をはためかせながら、こちらへと飛んで来た。
麗たちは、自分たちの元までやって来ると、慌てた様子で声をかけて来た。
『すまん、遅くなった! ネオンも皆も無事か!?』
『
『……ん。 こっちも皆無事……。 それに……暴走した機体も……もう全部倒した……。 ついでに……その原因も分かった……』
『……後はこの黒い魔石を放って来た黒幕をどうするかだよね〜。 多分、
『良し、分かった! ネオンは皆を頼む! 行くぞ、ウラノス!』
『おう、麗! 黒幕の捕縛は俺様たちに任せておけ!』
スカイウラノスは急転換すると、天井付近に向けて猛スピードで水中を浮上して行った。
あっという間に小さくなっていくその姿を見ながら、ネオンたちがポツリと呟いた。
『あらら、行っちゃったね〜。 多分、認識阻害魔法みたいなのがかかっているから、麗たちじゃ見つけられないと思うけど……。 あたしたちも、
『……ん。 でも、麗は強いから大丈夫でしょ……。 それに今は……
*****
その後、結局、麗たちは黒幕に逃げられてしまった。
だが、咲良とキャンサー、王牙とレオ、秀次とスコーピオ、歌とピスケスの無事は確認することができた。
それから学園長室で、朝の時は騒ぎでできなかった、ワールドユニオンやスタースピリットなどの事情の共有や、今回の暴走事件について話し合うことになった。
その際に、機体が暴走した原因であろう黒い魔石や、それを操る黒幕の
認識阻害魔法なるモノのせいか、麗たちはその顔を判別できなかったそうだが、ネオンたちも肯定した為、男女の二人組なのは間違いないらしい。
それ故に、ネメシスとクリサリスであるかどうかは、まだ分からないものの、それでも未知の力を持っていることから、スタースピリットの可能性が高いと結論づけられることになった。
そして、学園長が後は
その為、学園長は輝に美月を寮まで送る様に指示し、その途中まで麗とネオンも同行することになった。
しかし、学園長室を出た途端、ネオンが「……ん。 女の子同士で秘密の話があるから……麗はちょっとそこで待ってて……」と言い、それからネプチューンが「あ、でも、サターンは男の子だけど着いて来てね♪」と言って来た。
そんな訳で美月とサターンは、ネオンとネプチューンと共に、今の時間は誰もいない空き教室に来ていた。
そして、誰も見てないことを何度も確認したネオンは、急に美月の手を握って来た。
「ね、ネオンさん……? あの……?」
「……ん。 美月、手を離さないでね……。 『
ネオンが何かを詠唱すると、急に周囲の景色が変化した。
そこはまるで海の中の様な不思議な空間だった。
水の中に見えるが呼吸は普通にできる。だけど、まるで無重力みたいに体がふわふわと浮いていた。
さっきまで教室だった場所が、未知の場所に変わると言う、信じられない現象に美月たちは驚きの声を上げた。
「え……!?」
「な、何だこれは!?」
「……これが
ネオンが人間には使えない筈の魔法を使ったことで、美月は彼女が問いかけて来た魔女の意味を理解した。
てっきり、魔力が見える目を持ち、精霊と会話できる自分とネオンは魔女と言えなくもないから、そう言っているのかなと思っていた。
でも、そうじゃなかった。遥か昔に魔女狩りによって滅びた筈の本物の魔女と同じ存在と言う意味だったのだ。
「……反応から見るに……
「わたくしが魔法を……?」
確かに魔力が見える目と言う特別な力はある。だけど魔法なんて使えない筈……。
そう考える美月の脳裏に、黒土邸でのネメシスの言葉が甦って来た。
『――ついにあの方が欲していた力が、黒土美月の中に眠る力が目覚めたか……! 『
あの時はそれどころじゃなかったし、その後もずっと体調不良だったせいで、今までは深く考えることはなかった。
だけど、あの時の自分は確かに、ネメシスとの戦いの決着までの未来がハッキリと見えていた。それも百通りに近い数の未来が……。
それはどう考えても、魔力が見える目があるからと言う理由だけで説明できるものではなかった。寧ろ逆に、ネメシスが言っていた力があるから、普段から一手先の未来を見ることができるのかもしれない……。
今になってようやく、ネメシスが言っていた言葉の意味を完全に理解した美月は、呆然とした様子で呟いた。
「……『
「……『
「ね、ネオンさん……
「……ん。 大丈夫だよ……美月の魔法のことも……素のことも……秘密にしておくから……」
自分が魔女と言う事実に混乱して、お嬢様人格が解けた美月を、ネオンが安心させる様に優しく抱きしめて来た。
そんなネオンの声は、初めて同類を見つけた喜びからか、明らかに嬉しそうなのが分かるくらいに抑揚がついていた。
しかし、ネオンは何か思い出したのか、急にいつもの抑揚のない声に戻った。
「……美月が無自覚だったのは……寧ろ幸いだったかもね……。 魔女である私たちの力は……他人に知られると碌なことにはならないから……。 私の家の人たちみたいに……」
「そうなんだよ!! ネオンちゃんの血縁上の父親なんか、幼いネオンちゃんを化け物扱いして虐待した挙句、ずっと屋敷の一室に幽閉してたんだよ!?
物凄く闇の深い話が聞こえて来た思うと、そこにはいつの間にか
ネプチューンのその姿を見たサターンが、思わず驚きの声を上げた。
「ね、ネプチューン!? 君も人間の姿に変身できるのか!?」
「……ふーん。 ……ってことは、やっぱりサターンも
「ああ……」
ネプチューンに正体を言い当てられたサターンは、人間と同じ大きさの姿に変身した。
それを見たネプチューンは改めて自己紹介をする様に、自分の出自を語り始めた。
「あたしは
「……ん。 だから、ネプチューンは
それを聞いたサターンも、自らの出自を語った。
「……僕は美月の兄である陽太が、死の間際に魔法で生み出した、彼の人格と記憶を受け継いだ精霊だ……」
「いや〜そっちも中々に重いね〜♪ まあでも、同類のよしみでこれからも仲良くしようね〜♪」
ネプチューンはサターンを宥める様に、明るいテンションで絡んでいた。
こうして見ると、双子と言うだけあって、ネオンとネプチューンは本当に瓜二つの容姿をしていた。
でも、性格は真逆の為、人間のネプチューンを見ていると違和感が凄い。
「……あ、麗が呼んでるから……そろそろ戻らないと……」
「もう時間か〜♪」
ネオンがポツリと呟くと、ネプチューンは手のひらサイズの大きさになって、彼女の肩の上に乗った。
それを見たサターンも、手のひらサイズの大きさに戻って美月の肩の上に乗る。
それを確認したネオンが、美月の手を改めて握ると、次の瞬間には元の空き教室に戻って来ていた。
すると丁度、麗たちの声が聞こえて来た。
「お〜い、ネオン。 そろそろ良いか〜?」
「……ん。 今行く……」
ネオンは返事をすると、最後に美月の手を名残惜しそうに握った。
「……私……同類である本物の魔女に会ったのは……美月が初めて……。 だから……とても嬉しい……。 これからは……私が美月のことを守るね……」
ネオンは微笑みを浮かべながら、嬉しそうな声でそう口にすると、教室の出口へとトコトコと走って行った。
そして、教室の自動ドアから出る前に振り返って、小さく手を振った。
「……ん。 またね……美月……」
「近いうちにまた会おうね〜♪」
そんなネオンたちを見送った美月は、今だに飲み込めていない事実を、呆然とした様子で呟いた。
「……私が……