――昔の僕は弱気で臆病で、人見知りで……勉強も運動もダメで、何一つ取り柄がなかった……。 いつも泣いてばかりいる泣き虫で、ずっと姉さんの後ろに隠れてんだ……。 そして、僕はそんな弱虫な自分が大嫌いだった……。 でも、そんな自分を変えるキッカケをくれたのが美月ちゃんだったんだ……。
輝の父である
そんな中、政治家たちと、メカニカルウィッチの研究者たちの交流を目的としたパーティーが度々行われて、その家族も呼ばれることになっていた。
その際に、父は他の政治家の対応で忙しく、母である
でも、その日。光にちょっとしたトラブルが起こり、姉は直ぐに戻って来るからと言って、メカニカルウィッチのルミとエールを輝の元に残して行ってしまった。
するとその隙を狙って、父とは別の派閥の政治家の子供たちの集団が絡んで来た。
その子供たちは、まだ若手ながらどんどん頭角を表していく光一のことを良く思っていない親の影響を受けたらしく、いつも大人の目に届かない様に絡んで来ていた。
いつもなら姉が追い払ってくれるのだが、今はその姉が不在だった。
その結果、輝はルミとエールを奪われ、返して欲しければ、建物の裏庭に一人で来いと言われてしまったのだった。
「うぅ……ぐす……。 ルミ……エール……ごめんなさい……。 お姉ちゃん……助けて……」
「〜〜♪」
「……?」
輝が一人ぼっちで泣きながら、パーディー会場となった建物の裏庭を彷徨っていると、ふと綺麗な歌声が聞こえて来た。
不安でいっぱいだった輝が導かれる様に、その歌声が聞こえた方へと向かうと、噴水のある場所に一人の女の子と、その相棒らしきメカニカルウィッチがいた。
(綺麗……まるで精霊みたい……)
その子は初めて見る子で、ロングヘアの紫掛かった黒髪に、宝石の様な
子供用のパーティードレスを着ていることから、きっと政治家たちか、研究者たちの子供なのだろう。
だけどその姿があまりも神秘的過ぎて、輝は御伽話に出て来る本来の妖精みたいに見えた。
するとその女の子は、手の平の上に乗せた、暗い紫の髪と、青い瞳をした、メカニカルウィッチの女性に向けて天使の様な笑顔を見せた。
「……!!」
それは輝が不安で泣いていたのを一瞬忘れる程に綺麗な笑顔だった。
今まで輝にとって怖いものでしかなかった世界が、色づいていくのを感じた。
輝が自分の心臓が今までで一番ドキドキしているのを感じていると、思わず足元の小枝を踏んでしまった。
「……!?」
「何者じゃ!?」
「あ、えっと……! ぼ、僕は……!」
輝の存在に気づいた女の子は、笑顔を引っ込めて不安そうな表情になり、相棒の女性が警戒する様に睨んで来た。
輝がそれに怯えて上手く返答できずにいると、そんな自分の顔を見た女の子が、急に目を閉じ、胸の前で祈る様に両手を握った。
「……」
そして、女の子は小さな声で何かを呟くと、こちらへと近づいて来た。
「……あ、あの……どうしたの……ですの……? な、泣いているけど……何かあったの……ですの……?」
「うぅ……ぐず……。 ぼ、僕のせいで……ルミとエールが……!」
女の子は少し不思議な話し方をしていたが、輝のことを本気で心配してくれている様だった。
輝は元々不安でいっぱいだったこともあり、泣きながらルミとエールを子供たちの集団に奪われたことを話した。
*****
――僕の話を聞いた美月ちゃんとムーンは、メカニカルウィッチのルミとエールを奪った子供たちの集団に怒って、一緒に取り返しに行ってくれると言ってくれたんだ……。 僕はそれが本当に心強かったんだ……。
子供たちの集団は、裏庭に繋がっている階段から登れる、二階のバルコニーにいた。
そんな子供たちの親は、光一とは別の派閥……つまりメカニカルウィッチを
その為、その影響を受けた子供たちも、ルミとエールをまるで道具の様に乱雑に扱っていた。
「ルミ……! エール……!」
「輝……!」
「助けて……!」
ルミとエールは元々、訳ありの人工精霊として白金家にやって来た。
そんな事情もあり、人間に対して長い間心を閉ざしていたが、主に光のおかげで、やっと心を開く様になってくれた。
そして、今度は力になりたいと、一緒にこうした場にも着いて来てくれる様になったと言うのに……。
そんなルミとエールを助けたくても、勇気が出ずに動けない輝の代わりに、美月が子供たちの前に進み出た。
「この子をいじめるだけじゃなく、この子の大事な家族を奪うなんて……あなたたちは最低です……わ……!」
「チッ! 輝の奴、俺たちが他の大人には言うなって言ったからか、生意気なガキを連れて来たぞ!」
「……ですが、僕たちが誰も知らないののなら、どうせ
「フンッ! だったら、私たちのパパとママの方が偉いわね! 口の聞き方を教えてげるわ!」
美月の言葉に怒った子供たちは、彼女を集団で取り囲んだ。
だけど美月は怯むことなく、ルミとエールを捕まえているリーダー格の男子へと突っ込んで行った。
「今すぐその子たちを離しなさい……ですわ……!」
「チッ! 何だコイツ!?」
美月はルミとエールを取り返そうと果敢に手を伸ばしていた。
そんな美月を、知的そうな男子が後ろから抑えようとし、さらに血の気の多そうな女子が拳を振りかざして来た。
それをムーンが払う様に弾いた。
「ええい、妾の美月に手は出させぬぞ!」
「コイツ……!
「人間に手を出すなんて……! 許されませんよ……!」
ムーンが他の子供たちを抑えているのを見た美月は、今の内にと、さらに手を伸ばした。
「ムーン! 後ろをお願いします……わ……! さあ、早くその子たちを離しなさい……ですわ……!」
「チッ! うざいんだよ! そんなにこの
一歩も引かない美月に痺れを切らしたリーダー名の男子は、あろうことかルミとエールを空中へと投げ出した。それも二階のバルコニーから……。
「きゃあっ……!?」
「うわあっ……!?」
「ルミ! エール!」
「ダメ!!」
それを見た輝が悲鳴を上げることしかできない中、美月は躊躇うことなく二階のバルコニーから飛び降りた。
「美月!?」
「美月ちゃん!?」
「「「なっ!?」」」
美月の行動にその場にいた全員が驚く中、ムーンも追いかける様に飛び降りる。
それを見て突き動かされた輝は、慌ててバルコニーの手すりから下を見た。
するとムーンは魔法の水の泡で美月を包んでおり、落下地点にも何かの魔法を発動させ様としていた。でも、このままじゃ間に合わない。
そう思った……その時だった。
下にいた誰かが、水の泡に包まれて落下して来る美月を抱き止めた。
「よ、良かった……! 無事かい、美月?」
「お兄様……?」
「迷子になった美月を探していたら……まさか上から落ちて来るなんて……心臓が止まるかと思ったよ……」
「妾もじゃ……。 寿命が縮んだわい……」
「ご、ごめんなさい……!」
美月が無事なのを見た輝は、慌てた様子の子供たちの集団を無視して、急いで階段から下に降りて行った。
「美月ちゃん……!」
すると下ではムーンが、美月の兄らしき男の子とその相棒と何かを話していた。
「……と言う訳で、今降りて来た子の家族を取り戻しに行ってたんじゃ」
「成程、分かった。 じゃあ、僕たちはそのクソガキ共を捕まえて来るから、ムーンは美月の側にいてくれ」
「ムーンからの情報で……その子供たちの身元は分かった……。 確か……
美月の兄らしき男の子とその相棒は、輝と入れ違う様にどこかに走って行った。
その場に残された美月は、輝の存在に気づくと、胸元で大事に抱きしめていたルミとエールを手渡して来た。
「はい、どうぞ……!」
「輝……!」
「怖かったよ……!」
「ルミ……! エール……! ごめん……ごめんね……! 二人が危ない時にすら、勇気が出せなくて……! 何もできなくて……! こんな弱虫な僕なんて大嫌いだ……。 変えたいよ……。 変わりたいよ……」
輝は受け取ったルミとエールを大事に抱きしめると、泣きながら謝った。
家族である二人のことを、自分で助けられなかったことが本当に不甲斐なかった。こんな自分が本当に大嫌いだった。
*****
――泣きじゃくる僕の姿を見た美月ちゃんは、僕の手を引いて初めて会った噴水がある場所に向かったんだ……。 そこで、美月ちゃんは自分の秘密を打ち明けてくれたんだ……。
「……実は
「え……?」
「ここにいたのもね……初めて来たパーティーで、お母様とお兄様と逸れちゃって……それで不安になって、逃げ出して来たからなんだ……」
噴水に一緒に腰掛けた美月は、不安そうな表情でそう口にした。
そんな美月の姿は、先程までの勇敢な姿とは違ってどこか弱々しくなっていて、輝は直ぐにはそれを飲み込めなかった。
「じゃ、じゃあ……! どうして、あんな怖い子たち相手に立ち向かえたの……? どうやったら、そんな勇気が持てるの……?」
輝が思わず疑問を口にすると、美月は目を閉じて、胸の前で祈る様に両手を握った。
「――頑張れ、私。 頑張りなさい、わたくし」
「……?」
輝がその言葉の意味に首を傾げると、美月は大切なモノのことを語り始めた。
「……これはね、お母様からもらった『勇気のお呪い』なの……。 これを口にすると、いつもお母様が側にいてくれる様な気がして……どんなことにでも立ち向かえる様になる気がするの……。 だから、さっきまではずっとお母様の真似をしていただけなんだ……。 ガッカリした……かな……?」
美月は不安そうに輝のことを見て来た。
その姿を見た輝は、美月の言う通り、本来の彼女は自分とどこか似ているんだと思った。
だけど、自分なんかとは違って、借り物だろうと勇気を持てることが凄いと思った。
だから、それを素直に伝えた。
「ううん、そんなことないよ……! だって美月ちゃんは、ルミとエールを助けてくれた……! だから僕も……美月ちゃんみたいになりたい……!」
「ありがとう……! そうだ……! それなら、『勇気のお呪い』を作ってみない?」
「僕も……?」
輝の言葉を聞いた美月は嬉しそうな表情で、そう提案して来た。
「うん……! えっと……
「えっとね……
「そっか……! じゃあ……」
美月は少しの間考え込むと、ふと閃いた様に口にした。
「――
「……!!」
「……こんな感じで……どうかな……?」
「――
美月が考えてくれた勇気のお呪いを唱えると、不思議とこんな自分にも勇気が湧いて来る様な気がした。
これがあれば、自分も美月の様になれるかもしれないと思った。そうなりたいた思った。
輝は美月から貰った勇気のお呪いを、自分の胸の中に大事にしまい込んだ。
すると遠くから、美月の兄であろう男の子の声が聞こえて来た。
「美月ッーー!! ムーンッーー!! どこに行ったんだッーー!! また、危ない目に遭っていないだろうなッーー!!」
「……どうやら、お迎えの時間のようじゃな、美月?」
ムーンがそう口にすると、美月は腰掛けていた噴水から立ち上がった。
「お兄様が呼んでいるから、そろそろ行かなきゃ……!」
「う、うん……!」
ムーンと一緒に走り去っていく美月の後ろ姿を見た輝は、腰掛けていた噴水から立ち上がると、思わず叫んだ。それも自分でも信じられないくらいの大声で。
「み、美月ちゃん……! ルミとエールを助けてくれて……!」
「「ありがとう……!」」
「ぼ、僕……! 美月ちゃんから貰った勇気のお呪いで、こんな僕を変えてみせるから……! そして、
輝たちの声を聞いて振り返った美月は、今度は自分に向けて天使の様な笑顔を見せてくれた。
「うん、分かった……! 約束だよ、
「……!! うん……! 約束するよ、美月ちゃん……!」
その笑顔を見た輝は、また自分の胸がドキドキしているのを感じていた。
そして約束通り、今度は美月を助けられる様に、今までの自分を変える為に、今日から努力を始めようと誓ったのであった。
*****
「思い……出した……」
輝の話を聞き終えた美月は、十年前の事故より前の欠けていた輝との記憶を完全に思い出していた。
どうして自分の記憶はこんなにも欠けているのだろうか……いや、今はそれよりも重要なことがあった。
「……って言うか、
勇気のお呪いを使っている時のお嬢様人格が解けた美月は、本来の口調で叫んだ。
それから恥ずかしさで顔を真っ赤にして、思わず両手で顔を隠した。
まさかまさかの、今日ちょっと意識していた年上の男性が、昔出会った女の子と勘違いしていた子だったと言う……。
「ご、ごめんなさい……! ずっと女の子だと思っていて……!」
「……やっぱり勘違いしていたんだね……。 まあ、
輝は若干死んだ魚の様な目で、そう口にした。
だけど輝の言う通り、あの頃の彼は、美月よりも身長が低くて、髪もセミロングくらいの長さはあったし、前髪も目元が隠れるくらいに長かった。
それに言い訳になるが、母の相棒のクリサリスが女性でありながら一人称が「ボク」だった為、輝の一人称の「僕」もそんなに違和感がなかったのもある。
それが今や、女性としても高身長な一六五cmの美月よりも遥かに高い、身長一七〇cm半くらいはあり、さらに王子様の様なルックスを持つ、男の子に成長するなんて……。
光が話していた通り、たくさん食べて、勉強も運動も頑張ったのだろう。
そんな輝は後ろで束ねていたプラチナブロンドの髪を解いた。
「……こうすれば、少しは面影があると思うんだけど……」
「は、はい……。 そ、その……女の子にも……見えます……」
「ハハハ……」
「ご、ごめんなさい……!」
髪を解いて長髪になった輝は、その中性的な顔立ちもあって、側から見れば男の子にも女の子にも見えた。
多分その口振りからして、男の子に見える様に頑張ったのだろう。
もしかしたら、王子様の様に見えるルックスも、その副産物なのかもしれない……。
輝は改めて髪を結び直すと、急に頭を下げて来た。
「……ごめん、美月ちゃん……! 今度は僕が助けると約束しておきながら……僕は美月ちゃんが一番辛い時期に何もできなかったんだ……!」
「そ、そんな……! 輝ちゃ……んんっ、輝先輩が気に病むことでは……!」
「いいや、僕が僕を許せないんだ……! 美月ちゃんから勇気のお呪いを貰っておきながら、逃げ出した僕自身のことを……! だから、僕は誓ったんだ……! あの時は何もできなかったけど、今度こそ美月ちゃんのことを守ると……!」
「だから……私を……」
今までずっと、どうして輝はそんなにも自分のことを守ろうとしてくれるんだろうと思っていた。
生徒会長として生徒である自分のことを守る為なのかなと思っていたが、今日やっと理由が分かった。あの時の約束を守る為だったのだ。
「そこで美月ちゃんに提案があるんだ。 美月ちゃんたちが元々行う予定だった来週の学園リーグ戦のことなんだけど……」
「はい……」
元々は来週の月曜日の放課後に、王牙たちと三対三の学園リーグ戦を再び行う予定だったのだが、先日の暴走事件の影響で、またもや延期になってしまっていた。
その際にレオだけじゃなく、キャンサーも巻き込まれた為、咲良との学園リーグ戦も未定になっていた。
「代わりに僕とヴィーナスとバトルして欲しいんだ」
「でも……」
「ああ、
いつの間にか起きていたサターンが急に口を挟んで来た。
だけど、焔たちとの学園リーグ戦の時に介入して来なかった理由は今だに分からないが、サターンの言うことはほぼ間違いなかった。
「……勿論、分かってる。 でも、美月ちゃんがやっとウィッチバトルを楽しめる様になったのに、また外部が原因でバトルができなくなるなんて間違っている……」
「それは……確かにそうなのだが……」
「それに、これならいざという時に、美月ちゃんのことを一番に守ることができるんだ。 勿論、ヴィーナスに万が一のことがない様に対策は施してある」
輝曰く、ヴィーナスは軍用として作られた影響で、元から強固なセキュリティを持っている上に、ネオンのおかげで黒い魔石が原因だと分かったので、絶対とは言えないが対策は万全らしかった。
さらに、ネオンたちと麗たちも来週から早速、特別講師として学園に赴任するらしかった。
「……でも、ヴィーナスは良いんですか?」
「はい、お任せ下さい。
少し引っかかる言い方だったが、ヴィーナスの了承も得たことで、美月たちはその提案を受けることにした。
「……そう言うことなら……。 私からも、よろしくお願いします……!」
「ありがとう、美月ちゃん……! 美月ちゃんたちとはまだ公式のバトルをしたことが無かったからね……。
「……思えば、入学式初日の非公式のバトルで負けたままだったからな……。 この機会に輝たちにリベンジさせて貰う……!」
「いいえ、
――こうして美月とサターンのリベンジマッチを賭けた、輝とヴィーナスとの学園リーグ戦が決まったのだった。
*****
――その後のちょっとした一幕。
「そ、そうだ……! あの……輝先輩……! これを期に、ちゃんとお友達に……!」
「……え?? み、美月ちゃん……?? 今までの僕たちの関係は……??」
「ご、ごめんなさい……! お友達になろうって、まだ言われてなかったので……! 一応、確認しただけです……!」
「ハハハ……そっかぁ……」