「――良し! 全ての準備が終わった様だね?」
「ええ、各所共に問題なさそうですねぇ」
「いつでも始められるでやんす!」
バトルフィールドへと繋がる選手用の通路で、警備員に変装した草苅と水島と炎炉の三人が、美月とサターンを捕縛する為の作戦を開始しようとしていた。
草苅は独断で計画の一部変更しながらも、ワールドユニオンの今回の学園リーグ戦に介入する計画をベースに作戦を組み立てた。
自分の作戦を実行するとは決めたものの、流石に真っ向からに逆らう訳にはいかなかった。
今頃、ワールドユニオンの手により、二大チャンピオンバディの麗たちとネオンたちは、学園へと向かうのを妨害されている筈だが、もう既に到着していると、学園にいる協力者が誤情報を撒いた。
これで学園が期待している、二大チャンピオンバディの助けは望めないだろう。だが、万が一の場合に備えて、
それから学園にいる警備員の方も、ワールドユニオンの手によって、組織の息がかかっていない者たちは全て抑えたので、学園を守る様に動きつつも、こちらの都合が良くなる様に動いてくれるだろう。
そして、自分の計画の要でもある、一般人が戦いに介入して来ない為の対策も終えた。
残る問題と言えば、学園にいる協力者の生徒が話していた、生徒会メンバーによる自主的な見回りだ。これだけは制御できなかった。
「待って下さいよ、お嬢! そっちは俺がさっき確認したから大丈夫っすよ!」
「フンッ! アンタのサボり癖を把握している身として、アタシ自身も確認しないと安心できないのよ!」
噂をすれば、その生徒会メンバーの咲良と秀次がこちらにやって来た。
だが、今スタジアムには他の警備員たちもいるし、自分たちも偽装こそはしているが、書類上は正式な警備員としてこの学園に潜入しているから、問題はない筈……。
しかし、咲良は自分たちを見て、ピタリと足を止めた。
「……気をつけなさい、秀次」
「……どうしたんっすか、お嬢? 普通の警備員さんたちっすよ?」
慌てて追いついて来た秀次がそう口にする中、咲良は自身の両手を後ろに回しながら、自分たちを睨んで来た。
「アタシはね……この前の事件の後に、「巻き込んでしまって申し訳ありません」って謝って来た美月から、事情を少しだけ聞いたのよ……。 その時に美月が、「長年専属の護衛だった人たちが自分を狙う組織の一員だった」って悲しそうに話していたわ……」
「――ッ!?」
それは紛れもなく自分たちのことだった。
でも、口振りからしてワールドユニオンの名は明かしていない様だった。
「アタシ、
「チッ! 無駄に記憶力の良いお嬢ちゃんだね!」
草苅は思わず舌打ちした。正体を完全に見破られている以上、誤魔化すことはできないだろう。
すると咲良は、後ろに隠していた自身のマジカルウォッチを見せつけて来た。
「王牙と歌も聞いてたわね?」
『おう! 今、そっちに向かっているぜ!』
『はい! それから学園の方にも連絡しました!』
咲良のマジカルウォッチから生徒たちの声が聞こえて来た。
どうやら両手を後ろに回していたのは、この会話を外部に伝える為だったらしい。
こうなったら、これ以上妨害が入る前に作戦に移るしかなかった。
草苅は特殊部隊のメンバー全員に聞こえる様に通信を繋げた。
「全員聞きな! 現時刻を持って、美月様とサターンを捕縛する作戦を開始するよ!」
「「了解!」」
『『『了解!』』』
そのまま草苅たちは、隠し持っていた軍用機を手に取った。
「「「――マジカルチェンジ!」」」
巨大な光と大きな音と共に、自分の機体であるユニオンソルジャー
草苅はそのまま威嚇する様に銃口を向けた。勿論、間違っても誤射しない様に気をつける。
「アタシとしても、子供には危害を加えたくはないんでね! だから大人しくしてな、お嬢ちゃん!」
「冗談じゃないわ! キャンサー! 病み上がりのところ悪いけど、行けるわね?」
「勿論ござる、咲良!」
「「――マジカルチェンジ!」」
しかし、咲良とキャンサーは、それを見ても怯むことはなく、自身の機体を呼び出した。
それを見た秀次が悲鳴を上げる。
「お嬢!? 相手は
『フンッ! 軍用機だか何だか知らないけど、アタシの大事な後輩である美月に手出しはさせないわ!』
咲良たちはそう宣言しながら、二本の刀をこちらへと向けて来た。
だけど問題ない。一般人がこれから始まる戦いに介入して来ない様に対策をしておいたのだから。
草苅は自身の端末を操作し、予め仕込んでおいた物を起動させた。
――次の瞬間、スタジアム全体を揺らす程の大爆発が起こった。
それと同時に、スタジアム全体の照明が落ち、真っ暗になった。
直ぐに非常用の電源がつくと、咲良たちの機体が苦しそうに膝を突いていた。
『くっ……!? 機体が重い……! まさか、スタジアムの電源を!?』
『不味いでござる、咲良! これではまともに戦えないでござる!』
これこそが草苅の仕込みだった。
スタジアムの制御室を爆破することで、スタジアムの高濃度の魔力空間を消失させた。
これで自前で魔力を供給できる魔石
「……悪いね、お嬢ちゃん。 これから始まるのは本物の戦いなんだ。 偽物のお遊びのバトル用の機体はお呼びじゃないんだよ」
『――ッ!? ふざけっ……!?』
「……今からここは戦場になるから、そこにいる生徒は、その嬢ちゃんを連れてさっさと逃げるんだよ」
「りょ、了解っす……!」
『待ちなさい!!』
自分の言葉を聞いて悔しそうに歯軋りする咲良たちの機体の横を素通りして、草苅たちはバトルフィールドへと突入した。
*****
「――先程の爆発は一体!?」
「お気をつけ下さい、お嬢様!」
バトルの途中に突如、スタジアム全体を揺らす程の大爆発が起きたことで、美月とサターンはバトルの手を一旦止めていた。
今の騒ぎで集中が途切れ、シンクロゾーンが解除された上に、スタジアムの高濃度の魔力空間が消失したことで、発動していたプラネットダークとサターンアークブレイクも解除されてしまった。
美月たちはこの後の事態に備えて、アークサターンのリミッターを解除し、実戦で戦える様にした。
そんな美月たちの元にノーブルヴィーナスが飛んで来る。
ノーブルヴィーナスは先程のバトルで大ダメージを受けていたが、リミッターを解除して機体の魔力が回復したおかげか、戦闘継続には問題がない様だった。
すると選手用の通路から何十機もの黒い機体が続々とバトルフィールドに足を踏み入れて来た。
「あの機体は……草刈さんたちの!?」
「ワールドユニオンだと!?」
それはメカニカルウィッチ研究所と黒土邸で、美月たちを襲って来たワールドユニオンの軍用機だった。
草苅たちの乗る機体は、周りを威嚇する様に、天井付近に向かってビームを放った。
『ほらほら、アタシたちはテロリストだよ! 観客席の人間は、巻き込まれたくなかったら、さっさと避難するんだね!』
『長い時間は待てませんよぉ?』
『急ぐでやんす!』
スタジアムの電源が落ち、バトルフィールド全体を覆っていた特別なマジカルバリアが消失していたことで、ビームが着弾した天井付近で爆発が起こり、壊れた残骸が落下して来る。
先程の爆発と今の威嚇を見た観客たちが逃げ出す中、草苅のユニオンソルジャー
そんな草苅たちの機体は、前回の時と一部の武装が変わっていた。
機体本体は同じだが、機体の身の丈に迫る大型の銃剣と、大型の実体盾を装備していた。
機動力を捨ててまで火力と防御を増強して来たのを見るに、おそらくは自分たち対策ではなく、ネメシスやクリサリスたちスタースピリットへの対策なのだろう。
すると草刈が銃口を向けながら改めて口を開いた。
『……美月様には、何度も何度も傷つけてしまって本当に悪いと思ってるよ……。 それに、
草苅の声は本当に苦悩している様だった。
『……だけど、
「ふざけるなッ!! 十年前、メカニカルウィッチ研究所で百名もの犠牲者を出す事件を起こした奴らがどの口で言っているんだッ!」
『ああ! お前たちなんかに美月さんは絶対に渡さない!』
草苅の言葉に対して、サターンと輝が真正面から反論したことで、両者はお互いに武器を向けて睨み合った。
――その場が一触即発になりかけた……その時だった。
「――ワールドユニオンのゴミ共に、妾の美月は渡さぬよ……」
「――ッ!?」
突如何処からともなく聞こえて来た声に、美月は心臓を掴まれた様な衝撃を受けた。
(今の声は……!?)
美月がその声の主の正体に気づくのと同時に、あり得ないと頭が否定する。
だって
すると睨み合う両者の間に、突如水の柱と炎の柱が現れた。
水と炎がバトルフィールドの花を散らす中、古風のドレスを身に纏い、ヴェールで顔を隠した暗い紫の髪をした女性と、鎧を身に纏い、仮面で顔を隠した金髪の男性が現れた。
『
『
それを見た輝と草苅が、警戒する様に銃口の矛先を変えた。
現れた二人組の姿は、ネオンたちが口にしていた認識阻害魔法のせいか、霧がかかった様に上手く認識できなかった。
だが、そんな状態でも、美月にはその正体が分かっていた。大事な家族のことを……自分の最初の相棒のことを見間違える筈がなかった。
美月は縋り付く様に、最初の相棒の名を呼んだ。
「ムーン……!」
「なっ……!?」
美月の声を聞いたサターンが驚愕の声を上げる中、女性が指をパチンと鳴らした。
すると霧が消えた様に、認識できなかった顔が露わになった。
ヴェールの奥にある、紫の瞳をしたその顔は紛れもなくムーンのものだった。
「……そうだよ、美月……。 十年振りじゃな……」
「ムーン……! ムーン……!」
美月の
学園の事件の黒幕である
兄と同じく、どんな形であれ生きていてくれたことが嬉しかった。また会えたことが嬉しかった。
美月は戦いの最中であることすら忘れて、機体から降りてムーンの元へと駆け寄りたくなった。
しかし……。
「……美月や」
「ムーン……?」
どこか冷たいムーンの声が、美月な行動を止めた。
「……妾が死んだと言うのに……どうしてバトルをしているのじゃ?」
「――ッ!?」
ムーンが続けて口にした言葉を聞いた美月の呼吸が止まった。
その言葉は、自分が作り出したムーンの幻影に言われた幻聴の筈だった。それが今、本物のムーンの口から発せられた。
「……何でそんなに楽しそうなのじゃ?」
「う……あ……!」
違う、そんなつもりじゃなかった。
自分だって相棒であるムーンを亡くしたことで、ウィッチバトルをする意味自体を見失った。
だから、自分だけバトルしちゃいけないって思った。楽しんじゃいけないって思った。笑ってはいけないって思った。
でも、きららたちがそんなことないと言ってくれた。
その後、またウィッチバトルから距離を取ったけれど、新しく相棒になってくれたリンとサターンと、友達になってくれた焔たちが、バトルが好きだったと言う気持ちを取り戻させてくれた。
それなのに……。
「……何で笑えるのじゃ?」
「嫌っ……嫌っ……」
美月の瞳から溢れていた涙は嬉しさの物から、絶望の物へと変化していた。
これはきっと、一緒に
自分はやっぱりウィッチバトルをしてはいけなかったのだ。
「……妾は本当に失望したよ。 だから、
「嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!?」
――発狂した美月の叫び声がその場に響き渡った。
*****
「ハァ……! ハァ……!」
「美月! しっかりするんだ! くっ……!?」
過呼吸になり苦しそうに胸を抑える美月を見たサターンは焦りを募らせていた。
まさか、自分に負けないくらい美月のことを溺愛していたムーンがこんなことを言うなんて……。
せっかく自分とリンと、焔たちで美月の過去のトラウマを解消したと言うのに、最悪の形で掘り起こされてしまった。
しかも、サターンの焦りはそれだけではなかった。
仮面で顔を隠しているし、まだ一言も声を発していないが、ムーンがいることからもう一人の正体も自ずと見えていた。
「じゃあまさか……!?」
「……そうだ。 久しいな……陽太……」
「サン……!」
その正体は十年前の事故で死別した、自分のかつての相棒であるサンだった。
サターンとて、十年前の事故で命を落とした陽太の人格と記憶を受け継いだ精霊として、サンが生きていたことは嬉しかった。
だけど、こんな最悪な形で再会したくはなかった。
『良し! 観客たちの避難は終わった様だね? 全員聞きな! 美月様たちは一旦放置して、現れた
『『『了解!』』』
すると自分たちを包囲していた草刈たちの機体は、人間と同じ大きさの姿をしたサンとムーンにその銃口を向けた。
『『『マジカルスキル! アタックコマンド
そのまま一斉に、大型の銃剣である『ユニオンソードライフル』を始めとする機体の全火器を一斉に発射し、さらに魔法による炎を纏わせた。
文字通り最大火力となったビームの雨が降り注ぐ中、サンとムーンは微塵も動じることなく、自身の左手をかざした。
その手に禍々しい魔力が集まり、メカニカルウィッチが現れる。
「
「……ああ、ムーン……」
「「――
サンとムーンが精霊の言葉で詠唱すると、その足元に巨大な魔法陣が現れた。
さらに先程とは比較にならない程に巨大な水の柱と炎の柱が現れる。
それが草刈たちのマジカルスキルを遮断すると、その中から普通の機体よりも一回り大きい、全長二十メートルはありそうな巨大な二機が現れた。
一方は、月を思わせる紫を基調とし、青の装飾が入った幽霊の様な機体だった。
頭部の透明なヴェールで顔を隠しているが、その奥では紫の瞳が怪しく光っており、魔女のローブの様な装甲で全身を覆っていながら、その下半身には脚部らしき物がなく、漂う様に宙に浮かんでいた。
その手には、先端にドクロの形をした宝玉がある身の丈に迫る巨大な杖が握られていた。
ムーンのその姿は、まるでこの世のものではない幽霊の様だった。
もう一方は、太陽を思わせる黄を基調とし、赤の装飾が入った怪物の様な機体だった。
怪物の様な角の生えた頭部は、仮面で顔を隠していたが、その隙間から赤い瞳の怪しい光が漏れ出て複眼に様になっており、戦士の鎧の様な装甲で全身を覆っていながらも、その両腕は機体のサイズに見合わない異形の怪物の様な腕になっていた。
その背中には機体のサイズに見合わない程の巨大な大剣を背負っており、それを異形の右手で軽々と抜き去った。
サンのその姿は、異形の怪物の様で、かつての自分たちの機体であるダスクサンとは似ても似つかない物へと成り果ててしまっていた。
そんなサンが大剣の一振りで業火の炎を生み出し、草刈たちの機体を吹き飛ばす中、ムーンがアークサターンへと杖を向けて来た。
「
それを見た輝が、庇う様にノーブルヴィーナスを前に立たせる。
しかし、ムーンがすかさず、輝たちの機体を魔法で拘束した。
『妾の美月に近寄るな、虫ケラめ!!』
『くっ……!?』
『マスター!?』
『……どうして、美月ちゃんの相棒だった君が……美月ちゃんのことを傷つけるんだ……!』
輝は機体を拘束されながらも、訴える様にそう呟いていた。
それを聞いたムーンが鼻で笑った。
『ハッ!
『何……?』
『先程のバトル……妾も見ておったぞ?
『それ……は……!』
『――ッ!?』
『人間に傷つけられた哀れな人工精霊よ……妾が解放してやろう』
その指摘に輝とヴィーナスが動揺する中、ムーンは杖の矛先をノーブルヴィーナスへと変更した。
『――
ムーンが精霊の言葉で詠唱すると、杖の先端にドス黒く禍々しい魔力に満ちた黒い魔石が生成された。
『――目覚めよ、精霊たちのあるべき姿へ!』
『ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!?』
『ヴィーナス!?』
魔法で拘束されて身動きが取れないノーブルヴィーナスにそれを防ぐ術はなかった。
黒いオーラに包まれたノーブルヴィーナスから、ヴィーナスの悲鳴声と輝の絶叫が聞こえて来る中、サターンは決断を下した。
「美月……すまない!」
サターンは、美月とのリンクを切った。
アークサターンの瞳の色が、サターン本来の真紅の赤へと戻り、さらに頭部の仮面が下へとスライドすることで、その目元を隠すことで、サターン単独で戦える状態へと移行した。
黒土邸での戦い以降、もう二度と使うことはないと思っていたが、今の美月はまともに戦える精神状態ではないので仕方がない。
「僕たちの妹を守るぞ、陽太! 魔王システム起動!」
「
アークサターンの魔石の中から聞こえて来るもう一人の自分の叫び声と共に、機体が紫の炎に包まれた。
勿論、サターンとてかつての相棒であるサンや、大事な家族であるムーンと戦うことに抵抗はあった。
それでも妹を守る為には例え二人が相手だろうと、戦うしかなかった。
戦う覚悟を決めた自分の姿を見た、サンとムーンが心底嬉しそうに口を開いた。
『……さあ、可愛い、可愛い、妾の美月や?』
『……陽太よ』
『『――試練を始めようか?』』