——私は世界を滅ぼす兵器として……人殺しの道具として作られました……。 私はきっと……生まれてはいけない存在だったのです……。
「——
ヴィーナスを……
メカニカルウィッチ研究所で起きた実験途中のスーパーメカニカルウィッチの暴走の責任を負わされた言う彼は、追っての手を掻い潜ってJP国のとある研究所に逃げ込み、そこで独自に軍用機の開発を続けていた。
そんな暗闇博士は、半ば独り言の様に自身が経験したWWⅢのことを
曰く、自分はあの戦争で人間と言う愚かな存在に心底失望し、それと同時に、絶対的な力と言うこの世の真理を知った、と。
だから、人間を超える存在である人工精霊を使って、自ら思考し戦闘できる無人の兵器を作り上げ、さらに、戦闘時に愚かな人間の様に感情に左右されない様に、余計な感情を全て削ぎ落とし、合理的に思考できる様にした、と。
そして、あらゆる敵を殺し、戦闘に勝利できる様に、
しかし暗闇博士は、
そんな最中、暗闇博士に声をかけられその手伝いをしていた研究員の一人が、
そしてその通報を受けて研究所を抑えにやって来たのが、輝の父である光一だった。
「——そこまでです、暗闇博士! あなたの研究は世界を滅ぼす!」
「お前なんぞに何が分かる!? WWⅢを……あの地獄を知らぬ
暗闇博士は呪詛の様な物を吐きながら連れて行かれた。
そんな生みの親が捕まっても、
それから
その場所で人工精霊の推進派と規制派がお互いに罵り合いながら、
曰く、いくらワールドユニオンを追放されたとは言え、軍用機のユニオンソルジャーのプロトタイプである
曰く、JP国のメカニカルウィッチ研究所で
誰もが
『——兵器として作られたとは言え、
明日斗博士はアダム議長といくつか取引をした後、
そして明日斗博士は、白金家に引き取られることになった
*****
——そんな私に、貴方はヴィーナスと言う名前をくれました……。
「——ヴィーナス。 ヴィーナスはどうかな?」
「……ヴィーナス」
「……うん。 きっと君に似合う名前だと思うんだ……」
「……!」
白金家に引き取られた
優しく笑いかけてくれる輝を見て、
それから白金家の人たちと、ルミとエールを始めとした訳ありの人工精霊たちは、兵器として作られたせいで人間らしい感情がかけているヴィーナスのことを気味悪がることなく、優しく接してくれた。
そして、ヴィーナスは自分が生まれた研究所の外の世界を知ることとなり、同時に自分の歪さを知ることになった。
白金家に引き取られた訳ありの人工精霊たちは、人間の手によって傷つけられた境遇を持っている為、心に負った傷のせいで感情を表現するのが得意ではない子が多かった。
だけど皆、大なり小なり喜んだり、怒ったり、哀しんだり、楽しんだりしており、ちゃんと感情があった。無感情で無表情のヴィーナスとは違って……。
そんな周りを見てヴィーナスは、もしかしたらおかしいのは自分の方ではないのか?と思った。でも、その答えは自分でも分からなかった。誰も教えてはくれなかった。
そんな中、白金家に新しい訳ありの人工精霊がやって来た。
その子も人間の手によって心に傷を負っており、そのせいで感情が不安定でいつも泣いてばかりいた。ヴィーナスとは正反対だった。
そんなある日のことだった。ヴィーナスにとっては何気ない純粋な疑問のつもりで問いかけた言葉が、感情が不安定だったその子のことを深く傷つけることになってしまった。
そのせいで、その子はショックで自我崩壊を起こしかけて、危うく死にそうになってしまった。ヴィーナスがその子のことを殺しかけてしまった。
それから大騒ぎになり、その子と引き離されたヴィーナスは、今回のことを注意されることになった。でも、ヴィーナスの境遇のせいか、必要以上に責められることはなかった。
だけどヴィーナスも、間接的だろうが初めて他人を殺しかけたことで、ようやくおかしいのは自分の方だったと理解した。自分が兵器として生まれたことを思い知ってしまった。
その日の夜、ヴィーナスは白金家の最上位階のバルコニーにいた。
青白い月の光に照らされる中、ヴィーナスはバルコニーの手すりから、下にある地面を見つめていた。
(私はきっと……生まれて来てはいけない存在だったのでしょう……。 それなら……)
ヴィーナスは感情が欠けている自分では、ほぼ不死身である人工精霊が死ぬ為に必要な、精神的な死である自我崩壊を起こせないことは分かっていた。
だから、物理的に命を断つことにしたが、ヴィーナスに与えられた頭脳にはこんなことでは死ねないことは分かっていた。例えこの高さから飛び降りてもメカニカルウィッチの体すら破壊できないことを……。仮に破壊できても本体が実体を持たないが故に死ねないことを……。
それを理解して尚、消えてしまいたい衝動に押されてヴィーナスは飛び降りた。
しかし……。
「ダメ!!」
「ーーッ!?」
飛び降りた瞬間、後ろから誰かが……輝が、ヴィーナスのことを掴んで来た。
でも、そのまま輝諸共下へと落ちてしまう。
(私は兎も角、人間がこの高さから落ちたら……!?)
ヴィーナスは輝を助けるべく、死に物狂いで魔法を発動させた。
自分にかけられていたリミッターを無理やり解除したことで多数のエラーが発生するが、そんなのはどうでも良かった。
どうやったかはあまり覚えていないが、気づけばヴィーナスと輝は二人揃って地面の上に寝そべっていた。
輝の無事に安堵したヴィーナスは、それと同時にまた自分のせいで他人を殺しかけた事実から、ポロポロと涙を流し始めた。
「ごめんなさい……! ごめんなさい……!」
「ヴィーナス、大丈夫だよ……! 僕は大丈夫だから……!」
「ごめんなさい……! 私の様な兵器は……人殺しの道具は、やっぱり生まれて来るべきではなかったんです……!」
「そんなことないよ!」
ヴィーナスの自己否定を、輝は大声で否定した。
すると輝は自身の胸元で、ヴィーナスの小さな体をそっと抱きしめた。
「……ごめんね、ヴィーナス。 僕はまた勇気を出すのが遅くなっちゃった……踏み出すのが遅くなっちゃった……」
「……どうして、貴方が謝るのですか……?」
「……だって、ヴィーナスがこんなにも悩んで苦しんでいたのに気づけなかったんだから……」
それをヴィーナスは震える声で否定した。
「……兵器として生まれた私に……感情が欠けているが私にそんなものありません……あるわけがありません……」
「ちゃんとあるよ……ヴィーナスにも……! 僕がそれを証明してみせるよ……!」
「……どうやって?」
「——
「……!!」
輝のその言葉にヴィーナスは思わず目を見開いた。
すると輝は、抱きしめていたヴィーナスのことを少し離すと、その小さな体を、自身の顔の前へと持って行った。
そして開いた手の指で、ヴィーナスの涙を優しく拭ってくれた。
(……優しい貴方の相棒に……隣に、私の様な兵器はふさわしくありません……)
ヴィーナスはそう言うつもりだった。でも、気づけば体が勝手に輝の指をすがる様に掴んだいた。
そして、口から勝手に自分の望みが溢れていた。
「——私も……
「大丈夫だよ、ヴィーナス……! 僕がヴィーナスにもちゃんとそれがあるって教えるから……! ヴィーナスの相棒として……!」
「……はい、
——マスターはヴィーナスにこの名前をくれました……。 命を断とうとしたヴィーナスのことを、マスターは命を賭けて助けてくれました……。 そして、ヴィーナスのことを相棒に選んでくれました……。 そんなマスターの為に何かをできる様になりたいと思いました……。 何かを返せる様になりたいと思いました……。
*****
——マスターはヴィーナスにたくさんのものをくれました……。 それは私にとって大切な宝物となりました……。
それからヴィーナスは、自分が傷つけてしまった子に改めて謝った。そして、白金家の面々に自分の悩みと苦しみを打ち明けた。
皆がそれを優しく受け止めてくれたことで、ヴィーナスは本当の意味で白金家の一員になれた様な気がした。皆の家族になれた様な気がした。
そんなある日のことだった。ヴィーナスは、テレビが空中に映し出した映像に流れていたプロリーグのバトルを見ながら、ふと輝に尋ねた。
「——皆がウィッチバトルやスーパーウィッチバトルにここまで熱中する理由かい?」
「はい。 データによれば、人間はWWⅢの教訓から戦いを禁忌しているとあります。 それなのに何故なのでしょうか? 殺し合いが禁止されていて安全だからでしょうか?」
「アハハ……中々に物騒なことを言うね……」
「……申し訳ありません。 戦いとバトルの違いがイマイチ理解できず……」
「……ううん、良いんだよ、ヴィーナス。 あ、でも外で今のを言っちゃダメだからね? 聞く人が聞いたら、間違いなくキレるやつだから……」
「はい、マスター」
輝たちのおかげで感情を学んでいたヴィーナスだったが、それでも時折、そのズレ故の純粋な疑問としてある意味失言の様なことを口にすることがあった。勿論、外では相棒の輝に迷惑をかけない様に、基本的にお口をチャックしているが……。
輝もそれが分かっているので、物騒な内容に苦笑いしながらも、真剣に考えてから口を開いた。
「……いろいろあるだろうけど、僕が思うに一番の理由は、
「
「うん、自分の相棒ことが好きだから……自分と相棒の絆が世界で一番なんだって胸を張って言いたいから……だから皆、バトルするんだよ。 命を賭けた戦いみたいに相手を殺す為じゃなくて、自分の相棒と一緒に世界で一番の相棒であるチャンピオンバディになる為にね」
輝の説明を聞いたヴィーナスは、改めてテレビに流れているバトルを見た。
テレビに映る人間とメカニカルウィッチは相棒として共にバトルし、勝利を喜び合い、敗北に涙を流し合い、喜びを、怒りを、哀しみを、楽しみを共有していた。その絆がヴィーナスにはとても眩しかった。
するとそんなヴィーナスを見た輝が提案する様に口を開いた。
「ヴィーナスはバトルに興味があるのかい?」
「……!」
白金家の皆が兵器として生まれたヴィーナスに気を遣って、自分をバトルから遠ざけているのには気づいていた。
輝も普通ならバトルに興味があるであろう年頃でありながら、全くバトルに興味を示さないことにも気づいていた。
だけど……。
「……はい、ヴィーナスも
ヴィーナスは自分の中に芽生えたこの願いをどうしても抑えることができなかった。
「じゃあやろうか、ヴィーナス?」
「……良いのですか?」
「うん、だって僕はヴィーナスの相棒だからね。 それに言ったでしょ? 僕が君にも皆と同じものがあると教えるって……」
「マスター……! ありがとうございます……!」
輝は特に反対することなくその願いを了承してくれた。
それから輝は光一に相談して、ヴィーナスと一緒にバトルできる様にいろいろと掛け合ってくれた。
ヴィーナスの境遇が境遇なので、光一がワールドユニオンからの許可を得るには時間がかかったが、それでも明日斗博士が後押ししてくれたこともあり、その権利を得ることができた。
そして、輝が将来、父である光一の様になる為にも、メカニカルウィッチ学園の一般入試を受けて合格していたこともあり、そこが輝とヴィーナスの最初のバトルの舞台となることになった。
「——じゃあ行こうか、ヴィーナス?」
「はい、マスター」
いくらJP国の代表である白金代表の息子にして、入学試験トップの新入生代表とは言え、輝とヴィーナスはこれまでの大会参加記録が一切ない無名のルーキーでしかなかった。
しかし、輝たちが一緒に作り上げたノーブルヴィーナスは、上級者向けの飛行魔法で空を自由自在に飛び回り、マルチタスクを要求するドローン武器を完璧に使いこなして、初心者とは思えない圧倒的な強さを発揮した。
それは努力に関しては完璧になるまで絶対に妥協しない輝の信念と、機能の大多数にリミッターを掛けられて尚、その生まれ故に戦いに特化しているヴィーナスからすれば、当たり前のことだった。
そんなヴィーナスたちは、最初のバトルとなったスーパーウィッチバトルのライセンスの仮取得の為の二対二のタッグ戦で、ペアの機体トラブルに見舞われるアクシデントの中、推薦組の生徒たちのペアを相手にノーダメージで勝利したのを皮切りに、ダークホースとして名を馳せる様になった。
その噂を聞きつけてバトルを挑んで来た同級生の咲良とキャンサー、王牙とレオを返り討ちにしたのをキッカケに、両親と知り合いになった。
そして、そんな両者に誘われる形で挑んだ学園リーグ戦で、一年生ながらその頂点である一位の座を手に入れたヴィーナスたちは、その特典の推薦枠で全国大会に出場することになった。
学園リーグ戦や全国大会でバトルした相棒たちは、そのどれもが強い絆で結ばれていてとても強かった。とても眩しかった。
その中でも全国大会の決勝の相手となった咲良とキャンサーは、この大舞台でヴィーナスたちにリベンジすることを宣言をしていただけあって、以前バトルした時とはまるで別物の鬼神の如き強さを発揮していた。それはヴィーナスに与えられた頭脳が、今発揮できるポテンシャルでは絶対に勝てないと判断する程だった。
ヴィーナスは生まれて初めての敗北を悟った。これは命を賭けた本当の戦いではない為、別に負けても命を落とす訳ではない。
それでもヴィーナスは自分を助けてくれた輝の相棒として負けたくなかった。
そして、それは輝も同じだった。
「——ヴィーナス、僕は負けたくないんだ! だってヴィーナスは……僕の相棒は世界で一番なんだって胸を張って皆に言いたいから!」
「ヴィーナスもです……! マスターは……ヴィーナスの相棒は世界で一番なんだって胸を張って
「うん! だから、兜蟹さんたちに勝って、高校生チャンピオンバディになる為に、ヴィーナスには僕と一緒に限界を超えて欲しいんだ!」
「はい、マスター……! ヴィーナスはどこまでもマスターと共にあります……!」
「「——シンクロゾーン!」」
シンクロゾーンの扉を開いた輝とヴィーナスは、ドローン武器を含めた殆どの武装を失い、あと一撃でもダメージを受けたら負けだった状況からの大逆転勝利を収めた。
唯一残っていたノーブルガンソード一丁で、鬼神となったオーガキャンサーを打ち倒したノーブルヴィーナスの姿を見た観客たちは、バトルの勝者である輝とヴィーナスの名前を連呼した。
「「「輝! 輝! 輝!」」」
「「「ヴィーナス! ヴィーナス! ヴィーナス!」」」
輝から貰った大切な名前を皆から呼ばれることがヴィーナスはとても嬉しかった。
その光景を見た輝も嬉しそうな表情をしていた。
「ほら見て、ヴィーナス! 皆が高校生チャンピオンバディになった僕とヴィーナスの絆を讃えてくれているんだ! ほらね、ヴィーナスにも皆と同じものがちゃんとあるんだよ!」
「はい、マスター……! ヴィーナスもやっと……
輝と一緒にシンクロゾーンに至り、高校生チャンピオンバディになったことで、彼の相棒になれたのだと思った。思っていた。
——でも、そんなものは幻想でしかありませんでした……。 だって美月さんを再会したマスターが悩み苦しんでいるのに、何もできなかったのですから……。 何も返せなかったのですから……。 ヴィーナスはマスターからたくさんの宝物を貰ったのに……。 結局、ヴィーナスは兵器としてただ強かっただけで、自身の相棒を助ける他のメカニカルウィッチたちの様になれなかったのですから……。
*****
何も無い真っ暗な空間の中で、ヴィーナスは一人ぼっちでその場に座り込んで、ポロポロと涙を流しながら下を見て俯いていた。
するとそんなヴィーナスの耳に自分を助けてくれた彼の声が聞こえて来た。
「——ヴィーナス」
「……!」
その声にヴィーナスは思わず目を見開いた。
せめて彼を巻き込まない様に逃した筈なのに、どうしてここにいるのだろうか?
ヴィーナスは俯いていた顔をゆっくりと上げながら、彼に……輝に縋る様に問いかけた。
「……マスター、どうして戻って来たのですか……?」
すると輝は優しく微笑みながら、ヴィーナスへと手を差し伸べて来た。
「——ヴィーナス、君を……迎えに来たんだ……」