——ネオンとネプチューン、それから麗とウラノスが、ムーンとサンと戦う光景を、コックピットで倒れている美月は虚な意識のまま眺めていた。
『『マジカルスキル! ウラノススカイカリバー!』』
『
スカイウラノスは、スカイバスターソードを依代にした、機体の大きさを優に超える超巨大な剣で、業火の炎を纏った大剣を持つサンと、激しい剣劇を繰り広げていた。
何度も何度も剣がぶつかり合うことで、その光と炎の余波がバトルフィールドの花畑を吹き飛ばす様に散らしていた。
『この剣捌き……覚えているぜ! お前、
『ほう……敗北した我らのことを記憶に留めてくれていたとはな……』
『お前のことは強くて凄い奴だと思ってたのに……こんなことするなんて心底見損なったぜ!』
『全くだぜ! 本気でガッカリしたぜ!』
『何とでも言うが良い……』
両者は微塵もその手を緩めることなく口論を繰り広げていたが、元々ダメージを受けていたサンの方が劣勢になっていた。
『『合体マジカルスキル。
その一方で、マリンネプチューンは、美月たちを保護するマジカルスキルを維持したまま、さらに多数の魔法を一気に発動していた。
フィールド魔法により呼び出した巨大な海神を中心に、その周りに何体もの水竜たちを従え、追尾性能のある魔法の槍を次々に発射し、ワープ能力を持つ魔法陣で攻撃の軌道を変化させながら、内部の魔力を空にする檻で圧殺しようとしていた。
だが、周り……と言うより美月を巻き込まないようにする為か、
『ぐっ……!? 以前、妾の魔法を防いだ時と言い……こうして妾の水の魔法と撃ち合えていることと言い……間違いない! お主、
そんなネオンたちの魔法を、ムーンは水の魔法で呼び出した自身と同じ力を持つ二機と連携して、様々な武器と簡易的な要塞の様な設備を創造することで迎え撃っていたが、元々ダメージを受けていたこともあり、防戦一方になっていた。
そんなムーンにネオンたちは冷たい言葉を浴びせた。
『うるさいな……。 早く美月の治療をしなきゃいけないのに……』
『そうそう! やっと見つけたネオンちゃんの同類を、こんなところで死なせる訳にはいかないんだから! ……と言う訳で、バイバーイ♪』
『ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッーー!?』
そして、創造した二機を撃破されたムーンが、大きく吹っ飛ばされた。
機体の左半身を抉り取られ、残っている右手で杖を地面に刺す形でどうにか浮いているムーンの元に、異形の右腕を切り落とされ、残っている左手で大剣を引きずっているサンが合流した。
『チッ! 美月に受けたダメージさえなければ……こんなザマには……!』
『いや……元々、海姫ネオンとネプチューン……それから天王寺麗とウラノスの両者だけは……人間たちの中でも別次元の強さを持っているのだ……』
『おのれ!! 何故こうも邪魔ばかり入るのじゃ!!』
ムーンとサンが苦悶の声を上げる中、マリンネプチューンとスカイウラノスがトドメを刺すべくその武器を向けた。
——その時だった。
『
凄まじい咆哮と共にスタジアムの天井がぶち抜かれると、外で降っている大雨と一緒に機械仕掛けの竜が舞い降りて来た。
その姿を見た美月が思わず目を見開く中、サターンがその正体を叫んだ。
「あれ……は……」
「ネメシス!! クリサリス!!」
今のネメシスとクリサリスは、以前黒土邸でチラリと目にした、二機が合体した状態になっていた。
騎士の様な機体のネメシスが、竜の様な異形の機体のクリサリスを外装として纏っており、二機共に白を基調とし、緑の装飾をしていることで、完全な一つの機体となっていた。
スタジアムは学園の地下にあると言うのに、地面ごとぶち抜いて来るなんて相変わらず規格外の力をしていた。
『
そんなネメシスが左手の十字架の様な長剣を振るうと、バトルフィールドの花畑の全てを吹き飛ばす程の、強風と落雷による大嵐が巻き起こった。
『っ……!』
『あたしたちの魔法が!?』
『ーーッ!? 何て力だ!?』
『バケモンかよ!?』
その攻撃を前にネオンたちは驚きの声を上げつつも、周りで倒れている機体を庇う様に動いていた。
その隙にネメシスたちが、ムーンとサンの前に庇う様に降り立った。
するとネメシスたちの背後にある地面に魔法陣が現れ、大きな扉が迫り上がって来た。
そして、その扉の中から黒を基調とし、金の装飾が入った魔法使いの様な機体が現れた。
ネメシスたちと同様に普通の機体よりも一回り大きい、全長二十メートルはあり、その周囲に水晶型のドローン武器をまるで惑星の軌道の様に展開していた。
『サン、ムーン、時間切れだ。 今回は撤退するぞ』
「「ーーッ!?」」
その声を美月とサターンは知っていた。上手く喋れない美月の代わりに、サターンがその正体を口にした。
「バルカン……」
『美月も、陽太たちも、こうして直接会うのは十年振りだな』
その正体は、父である明日斗博士の相棒で、十年前の事件で亡くなった筈のバルカンだった。
ムーン、サン、クリサリス、バルカン。十年前のあの日に自我崩壊を起こして亡くなった筈の家族たちが生きていたと言うのに……。
その全員が、ネメシスたちと同じく、自分を狙っている敵の組織のスタースピリット一員として、この場に現れていた。
『何故じゃ!? せっかく美月の時間魔法が覚醒したと言うのに、何故ここで引かなければならんのじゃ!?』
『そうだ……陽太たちが目の前にいると言うのに……!』
『——ワールドユニオン軍が動き出した。 つい先程、JP国に向けて軍を送り込むことが、議会で可決された』
『『ーーッ!?』』
ムーンとサンの問いに対するバルカンの答えに、問いかけた二人だけではなく、この場にいる全員が目を見開いた。
ワールドユニオン軍は、全ての国の軍を統合して作られた世界最大の規模にして唯一の軍隊だ。
だけど、WWⅢ以降一度も国同士の戦争が起きなかったこともあり、少なくとも表向きは大きく動いたことがなかった。
だからこそ、軍用機の存在は世間には知られていないし、アダム議長ですら独断では動かせない為、こうして草刈たちの様な特殊部隊を使っていた筈なのに……。
『どうやらワシらの存在をダシに、テロ鎮圧と言う名目で動いた様だ。 散々、
『冗談ではない!! 妾は絶対に帰らぬぞ!! ようやく美月に会えたと言うのに!!』
『我もだ……! 陽太たちを置いて帰る訳には行かぬ……!』
『全く……仕方あるまい……』
『『——ッ!?』』
ムーンとサンが揃って反対の意を示すと、バルカンはやれやれと首を振りながら、魔法の鎖で二人を拘束した。
元々ダメージを受けていた二人はろくに抵抗できないまま捕まり、そのままバルカンが現れた扉の中へと引き摺り込まれて行く。
『ぐっ……! 陽太たちよ……どうか我と次に相見える時まで……どうか無事でいてくれ……! そして、今度こそ我らの運命に決着を……!』
「サン……!」
『美月!! 美月!! お願いじゃ!!
「ムーン……」
美月は朧げな意識のまま、悲痛な叫び声を上げながら扉の向こうへと消えて行くムーンの姿を見送るしかなかった。
そして、ムーンとサンの回収を確認したバルカンは去る前に、ネオンたちへと視線を向けた。
『ムーンからの報告にもあったが……お前たちはどうやら本当に、本物の魔女と
『っ……!』
『——ッ!? どうして、ネオンちゃんの魔法のことを!?』
『あの魔女と同じ力のもう一つが見つかったことは行幸だが……いずれにせよ、今回はここまでだな……』
魔女の力を見破られたことでネオンたちが焦りを浮かべる中、バルカンは最後に手を差し伸べながら声をかけた。
『——
『……断る』
『二度と来るな、バーカ!』
ネオンたちが露骨に嫌そうな声を上げる中、バルカンは扉の向こうへと消えて行き、それ同時に地面の魔法陣ごと扉も消えた。
するとそれを見届けたネメシスたちが、この場を支配していた風の魔法と雷の魔法を解除した。
そして、ネオンたちの魔法に守られたアークサターンの中にいる美月に向かって声をかけた。
『……黒土美月。
『
ネメシスは最後にそう言い残すと、雄叫びを上げるクリサリスと共に、再び天井を突き破る形で外へと去って行った。
(ムーン……サン……クリサリス……バルカン……。 皆……どうして……?)
——敵として再会することになった、かつての家族が去って行くのを見届けた美月は、その意識を失った。
*****
——深い深いまどろみの中で、自分の名前を呼ぶ優しい声が聞こえて来た。
「——美月」
それはとても懐かしい声だった。
もう二度と会えない大好きだった人の声を聞いた美月は目をゆっくりと覚ました。
するとそこには美月に膝枕をしてくれている、ロングヘアの明るい紫の髪に、宝石の様に綺麗な真紅の赤い瞳をした女性が……母がいた。
(……!!)
十年前に亡くなった筈の母の姿を見た美月は思わず叫んだ。
『お母様!!』
「お母様!」
『ーーッ!?』
しかし、声が出なかった。
その代わりに勝手に出て来たのは幼き自分の声だった。
そのまま体も勝手に動いて、起き上がった自分が母へと抱きついた。
そんな自分の頭に、母が手に持っていた花冠を被せて来た。
この場所を美月は知っていた。ここは生まれ育った黒土邸の裏にある庭園だと……。
「美月……」
「どうしたの、お母様?」
「愛していますわ……」
「うん! 私もお母様のことが大好き!」
母が幼き自分を抱っこすると、そのまま愛おしそうに抱きしめて来た。
この光景を美月は知っていた。
「——美月、生まれて来てくれてありがとう」
『お母……様……!』
——とても、とても、幸せな夢だった。とても、とても、幸せな記憶だった。だけど、それを何もできずに見ていることしかできないことがどうしようもなく苦しかった。
*****
——美月は走馬灯の様にこれまでの人生の記憶を見ていた。
「——お兄様!」
幼き自分が兄へと抱きついた。
すると兄は黒土邸にある個人で所有しているウィッチバトル用のスタジアムを指差した。
「ほら見て、美月」
幼き自分をが『花畑』のバトルフィールドへと目を向けると、ムーンとサンが待ってましたと言わんばかりにその杖と大剣を振るった。
「マジカルスキル! ムーンドーンバースト!」
「マジカルスキル! サンダスクブレイク!」
ムーンが水から創造した流星と、サンの炎の斬撃がぶつかり合い、キラキラ輝く粒子となって空中で煌めいた。
二人によるエキシビジョンマッチは、まるで演舞の様に美しく、とても綺麗だった。
そして、そんな神秘的な光景を見た幼き自分が目を輝かせていた。
「綺麗な魔法……!」
「そうじゃろ、美月?」
「凄いよ、ムーン……! 流石、私の相棒だね……!」
「そうじゃろ! そうじゃろ! 美月に喜んで貰えて妾も何よりじゃ!」
ムーンは優しい微笑みを幼き自分に向けてくれていた。
幼き自分もまた、笑顔でムーンと話していた。
『ムーン……』
——もう二度とこんな風にムーンと笑い合えなくなったことが、美月はどうしようもなく悲しかった。
*****
——場面が移り変わる。それは三歳の時に、全国大会小学生の部に出る兄とサンの応援に行った時の記憶だった。
「——サン! これで僕たちも!」
「ああ、陽太! ついに、我らも小学生チャンピオンバディになれたな!」
優勝した兄とサンの姿を見た幼き自分が観客席の最前列ではしゃいでいた。
「お兄様もサンも凄い!」
「ああ、本当に見事じゃった!」
そんな幼き自分とムーンの元へと、兄とサンが駆け寄って来た。
「美月!」
「お兄様! それに、サンも! 本当におめでとう!」
「ああ、陽太もサンも良くやったのう!」
幼き自分とムーンからの祝福に、兄は嬉しそうな顔をしながら、肩の上に乗っているサンへと目を向けた。
「ありがとう、美月! それにムーンも! 勝てたのはサンのおかげだよ!」
「いいや、陽太のおかげ……いや、我らが相棒として共に力を合わせたおかげだな……」
「うん! そうだね、サン!」
そんな兄たちに憧れた幼き自分が、肩の上に乗っているムーンへと目を向けた。
そして、興奮した様子で口を開いた。
「ムーン! ムーン! 私が大きくなったら、相棒として一緒にウィッチバトルをしてくれる?」
「ああ、勿論じゃ! 美月の相棒として約束するよ!」
ムーンの返事を聞いた幼き自分が満面の笑みを浮かべた。
「——
「ああ、
『う……あ……』
この後、果たされることがなかった約束が交わされる場面を目にした美月は、心の中でボロボロと涙を流していた。
「約束したからのう、美月? もし、交わした約束を破って妾以外と相棒を組んだら……妾、悲しくて、悲しくて、化けて出るぞ?」
「もう、ムーン! そんなこと絶対にしないってば……!」
「ハハハッ! 冗談じゃ! 冗談! 陽太とサンに憧れる美月を見て、ちょっと拗ねてみただけじゃ!」
『ごめん……なさい……ムーン……』
美月は心が引き裂かれる様な痛みを感じていた。
リンもサターンも、ムーンを亡くした美月を助ける為に新しい相棒になってくれた。そのことには本当に感謝していた。
だけど、今だけはそれがムーンに対する裏切りの様に思えてしまっていた。
その一方で、この後起きることをまだ知らない幼き自分が、ムーンと兄とサンと笑い合っていた。
そんな幼き自分たちを見て、母とその相棒であるクリサリスが微笑みを浮かべていた。
「ふふっ、わたくしたちの子供たちは本当に可愛いですわ。 将来が楽しみね」
「乃亜様、ボクも今同じことを思っていました」
——記憶はどんどん、全てを失ったあの日へと向かっていた。
*****
——場面が移り変わる。それは五歳の誕生日を前にした、ある冬の日の記憶だった。
「——美月はわたくしと陽太が側にいないと途端に怖がりになりますわね?」
「うぅ……だって……」
幼き自分は、好きな星空の模様の壁紙が貼られた子供部屋にある、一人では寝れない自分と一緒に寝る為に置かれた子供には大き過ぎるベットの上で、母と一緒にいた。
もう直ぐ五歳となり、明日斗博士の娘として社交界のパーティーに出ることになる、幼き自分の人見知りをどうにかしようと悩んでいた母は、急に自身の手をポンっと叩いた。
「あ、そうだ……! 良いことを思いつきましたわ!」
「お母様?」
母は優しい微笑みを浮かべながら、幼き自分を抱っこする様に自身の膝の上に乗せた。
「美月、わたくしの口調を真似してみて? 美月は根っこの部分はわたくしと似ているし、これなら、わたくしがいつでも側にいる気がしませんこと? これはきっと……美月にとっての
「
母は首を傾げる幼き自分の頭を優しく撫でながら、その口を開いた。
「そうですわ。 美月、まずはわたくしの口調を真似てみて。 いきますわよ……
「
幼き自分が母の真似をしながら勇気のお呪いを口にした。
そんな幼き自分へと母が優しく微笑んで来た。
「美月、どうかしら……?」
「うん! 何だか勇気が湧いて来る気がする! ありがとう、お母様!」
「ふふっ、それなら良かったですわ」
『お母……様……! お母……様……!』
満面の笑顔で母へと抱きついた幼き自分とは反対に、美月は心の中でずっと泣いていた。
もうこれ以上、幸せだった頃の記憶なんて見たくはなかった。
母が死に、兄が呪いへとなり、ムーンとサンとクリサリスとバルカンが変わり果てて敵となった今となっては、もう二度と戻らない日々の記憶など、悲しいだけだった。苦しいだけだった。辛いだけだった。
こんな幸せな夢なんて、早く覚めて欲しかった。
早く夢から覚めないと、この後母が……。
しかし、美月がどんなに祈っても夢から覚めることはなかった。
——そして、全てを失ったあの日の記憶がついにやって来た。
*****
——場面が移り変わる。母と兄とムーンたちを失うことになった十年前のあの日の記憶へと。
「——お願い……どうか二人共……生きて……」
『お願い……もう止めて……! もう見たくない……!』
赤い炎がまるで地獄の様に燃える建物の中で、瓦礫の下敷きになり、酷い怪我で体中が血まみれになった母の姿を、美月はもう一度見せつけられていた。
母が死ぬ姿なんて見たくないのに、これが記憶であるせいで、美月は目を閉じることも耳を塞ぐことも許されなかった。
あの日の幼き自分も、こうして記憶を見ている美月も、その顔を涙でぐちゃぐぢゃにしていた。
そして、そんな自分たちとは反対に、安心した様に微笑んだ母が、美月の記憶にある最後の言葉を口にした。
「——陽太……美月……ずっとずっと愛していますわ……」
『うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!』
——母が死ぬ姿を再び見ることになった美月は、心が壊れた様に泣き叫んだ。