——お昼。
自由時間を終えた美月は、咲良が言っていた海の家で皆と合流した後、昼食を取っていた。
皆がカレーに焼きそばに、かき氷と言ったメニューを注文する中、美月はリンと爺やが用意した重箱に入ったお弁当があるので、ミニサイズのかき氷を注文していた。
ちなみに、味はミックスにできたので、イチゴ味とマンゴー味を合わせてみた。甘くて美味しい。
そんな美月は今は水着姿と言うこともあり、女の子同士で食事していた。
「へ〜、じゃあ美月ちゃん、取り敢えずカナヅチなのは脱却したんだね〜」
「が、頑張ったね……!」
美月の左側に座っている小春は、ブルーハワイ味のかき氷とカレー注文していた。
ジュピターは機械の体であるが故に、人間と同じ物を食べられないので、同じ味の魔力を補給していた。
「はい……! あの後合流したサターンと、ネプ……じゃなくてネオンさんの指導でどうにか……!」
「……ん。 私が教えた」
「ネオンちゃんは殆ど見てただけだけどね〜」
美月の右側に座っているネオンは、ミニサイズのソーダ味のかき氷を注文していた。どうやらネオンも自分と同じで、食が細いらしい。
そんなネオンは話を合わせる為か何故かドヤ顔をしていたが、本当は
そんな訳で、
ネオンとネプチューンは瓜二つの姿をしているのに、本当にいろいろと正反対だ。
ちなみに、サターンは今、女の子だらけの面子で流石に気まずいのか、同じ異性の男の相棒であるキャンサーの元へと行き、何やら意気投合している様だった。
「良ーし、皆! 注目してくれ!」
「オラオラ! 楽しい、楽しい、バトルの時間だぜ!」
すると立ち上がった麗と、その肩の上に乗っているウラノスが手をパンパンと叩いて、皆の視線を集めた。
ネオンたちが特別講師として引率の仕事をする気が全く無い為、こうして麗たちが朝からずっとその仕事を引き受けていた。
「これはあくまでも、ミライトウキョウ校の代表として全国大会に参加する皆の為に、学園側が手配してくれた合宿だからな! 全国大会に向けて強くなる為に、この合宿中はバンバン、バトルをしていくぜ!」
「……ってな訳で手始めに、ミライトウキョウ校伝統の海の家でのビーチエキシビジョンマッチを行うぜ!」
麗たちが元気な声でそう言うと、海の家の店主である
メカニカルウィッチは相棒として扱われることが多いが、中には浜辺夫妻の様に、義理の息子や娘として可愛がる人たちもいた。
「ハハハッ! これはうちの店に取っても名物だからな! 今年も頼んだよ! ミライトウキョウ校の生徒さんたち!」
「そうだねぇ。 毎年これを目当てに来るお客さんもいるくらいだからねぇ」
「……と言う訳で皆、集まれー! 学生版プロリーグと言われている全国大会の前哨戦でもあるビーチエキシビジョンマッチが始まるよー!」
するとビーチの可愛らしい宣伝の声に引き寄せられる様に、海の家の周りに見物客のお客さんがゾロゾロと集まって来た。
「お! いよいよ始まるのかな? ミライトウキョウ校の今年のシード枠の生徒たちの実力を見せて貰うとしようか?」
「キャー! 輝君ー! ヴィーナスちゃんー! こっち向いてー!」
「あの子が明日斗博士の娘さんの美月ちゃん? 可愛いし、綺麗〜! それに、相棒君もカッコいい〜!」
「うおっ!? 本当にチャンピオンバディの麗とウラノスがいるじゃん!!」
確かにデータで送られて来た合宿のしおりには、見物客の前でバトルすることになるとは書いてあったが、まさかこんなに人が集まって来るなんて……。
言われてみれば、ビーチで遊んでいた時にも、やけに人が多いなと思っていたし、周りの視線も感じていたが、今はその全てが一気に集まった様になっていた。
あまりの人の多さに美月が萎縮していると、隣にいるネオンが小声で話しかけて来た。
「美月も大勢の人に見られるのが苦手みたいだね? 気持ちは分かるよ」
「はい……そうなんです……」
美月は精霊でもあるからか、どうしても無意識の内に人間に恐怖心を抱いてしまっていた。
「……ん。 分かった。 ここは先輩に任せて……」
ネオンはそう口にすると、急に立ち上がった。
「……ん。 麗……私たち目当ての人たちもいるせいか、今年は特に人が多いみたいだから……。 人を分散する為にも、私たちの方でもエキシビジョンマッチをしようか?」
「お! 良いぜ、ネオン! 丁度この前のプロリーグの試合で負けてからリベンジしたいと思ってたんだ!」
「……ん。 期待してる……。 私に勝ってみせて、麗……」
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ〜〜!!」」」
急遽決まった二大チャンピオンバディのバトルに見物客が盛り上がる中、ネオンは平然とした様子で座った。
「ネオンさん、ありがとうございます……! ネオンさんも人に見られるのが苦手な筈なのに……」
「……ん。 大丈夫……。 プロリーグの試合で慣れてるから……。 それに、後輩の為だからね……」
「ネオンさん……!」
ネオンはそう口にしながら、親指でグッドマークを作っていた。本当に頼りになるし、ありがたい。
「良し! じゃあ、今年のビーチエキシビジョンマッチも十対十のバトルロワイヤルじゃなくて、五対五の集団戦にするか! この前の俺たちとのエキシビジョンマッチで別れた時みたいにさ!」
「そうですね。 でも、どうせならチームメンバーを変えてみませんか?」
麗に提案しながら、輝は何故か自分の方をチラリと見て来た。
するとそんな輝に、咲良が意見を出した。
「そうね。 じゃあ、せっかくだから女子チームと男子チームに別れましょうか? 丁度、五人ずついるし……」
「え……??」
「輝……? 何か問題でも……?」」
「ああ、いや、何でも無いよ! うん……そうしよっか……。 トホホ……」
*****
そんな訳で、海の家の前に運ばれた、手のひらサイズの本来の大きさのロボット同士が戦うウィッチバトル用のスタジアムの前に、美月たちは移動していた。
流石に巨大なロボット同士が戦うスーパーウィッチバトル用の大きなスタジアムはこの場所には無かった。
(うぅ……! やっぱり人が多いです……! それに、本当にこの格好のままバトルするんですか……!?)
ネオンたちが少し離れた場所でエキシビジョンを行うことで、大勢の見物客を引き寄せてくれたものの、それでもやっぱりまだ美月たちの方にもかなりの人数が残っていた。
それに加え、一応薄手の上着を上から着ているものの、水着姿のままバトルすることに、美月は恥ずかしさを覚えていた。これが俗に言う羞恥プレイなのだろうか?
美月は見物客に見られていると言うこともあり、自然な形で、ブレスレットの様に左手につけているお守りのペンダントに触れると、軽く目を閉じ、心の中で勇気のお呪いを唱えた。
(——頑張れ、私! 頑張りなさい、わたくし!)
美月はこれから始まる本気のバトルに備えて、人間人格へと意識を切り替えた。
今の自分は精霊人格と人間人格が混ざり合っていると知ったとは言え、やはり覚悟を決める時には、今だに勇気のお呪いは欠かせなかった。
まあ、今回は素の精霊人格だと見物客の目線に耐えきれないのが大きな理由だが……。
そして、バトルフィールドにアークサターン、ゴーレムジュピター、オーガキャンサー、マーメイドピスケス、シャドウカロンの女子チームの機体が降り立ち、それに相対する様に、ブラッドマーズ、ウルフマーキュリー、ノーブルヴィーナス、キングレオ、ステルススコーピオの男子チームの機体が反対側に降り立った。
ちなみに、今回のバトルフィールドは『浜辺』で、このビーチの地形を再現した特別製のものだった。
水中戦の舞台となる大きな海と、地上戦の舞台となる開けた砂浜が特徴的で、その他にも海の家のレプリカなどの身を隠すた為の障害物も設置されていた。
すると全機揃ったのを確認した海の家の看板娘のビーチが、メカニカルウィッチ用の小さなマイクを手に声を上げた。
『それじゃあ、皆お待ちかね! うちの海の家名物、ビーチエキシビジョンマッチ、バトルスタートだよ!』
「皆、聞きなさい! 男子チームの中で総合的に一番強いのは輝たちだけど、一番厄介なのはスナイパー組の秀次たちと冬馬たちよ! こっちの負け筋は、フィールド魔法を展開した歌たちを狙撃されること、それから輝たちを相手にしている時に、横から狙撃を喰らうことよ! だから、まずはアタシたちが輝たちの足止めするわ!」
「任せて欲しいのでござる!」
咲良とキャンサーは、オーガキャンサーの鬼ノ太刀を構えながら、そう叫んだ。
「その間に、美月たちがスナイパー組を落としなさい! 小春たちはその援護を!」
「はい! 行くよ、ジュピター! 美月ちゃんたちも!」
「う、うん……頑張ろうね、小春ちゃん……!」
「ええ! わたくしたちも行きますわよ、サターン!」
「はい、お嬢様!」
敵陣へと駆け出したゴーレムジュピターの後に続く様に、美月とサターンもアークサターンのスラスターに火をつけた。
そして、直ぐに追い越して、置き去りにしてしまいそうになった。遅!?
小春とジュピターのゴーレムジュピターは重装甲で火力と防御力は高いが、機動性に難があるのは知っていたが……。
すると思わず足を止めたアークサターンの元に、焔とマーズのブラッドマーズと、王牙とレオのキングレオが突っ込んで来た。こっちは速い!?
「さあ、美月たち! 今日こそ俺たちが勝たせて貰うよ!」
「ええ、焔君! 勝って、良いところを見せてあげるのよ!」
「オラオラ! まだ決着が着いていないあの時のチーム戦の続きと行こうぜ!」
「吾輩たちの全力を今度こそ見せてやるのであーる!」
不味い。焔たちだけでも手強いのに、王牙たちまで同時に相手にするとなると……。
美月が焦りを浮かべていると、水柱が焔たちの元へと飛んで来た。
「「マジカルスキル!
「焔君たちの相手は私たちですよ! 咲良先輩の言う通り、どんな魔法を生み出すが分からない焔君たちに対抗するには、私たちが適任ですからね!」
「ええ! 私と歌の特訓の成果を見せてあげるわ!」
「それなら俺たちだって! 今日こそ、歌先輩たちにリベンジして見せます!」
歌とピスケスのマーメイドピスケスが、ブラッドマーズに横槍を入れるのと同時に、その水柱が作った影の中を移動して来たシャドウカロンが、キングレオへと攻撃を仕掛けた。
「「マジカルスキル! シャドウカロンダイブ!」」
「さあ、王牙先輩たち! 私ちゃんがずっと目にかけていた子たちをいつも横取りして来た積年の恨みを、今こそ果たさせて頂きますよ!」
「まあ、相手をする様に頼まれているからね〜」
「上等だぜ、御影! やれるもんならやってみやがれ!」
マーメイドピスケスとブラッドマーズが遠距離で魔法の撃ち合いを、シャドウカロンとキングレオが近距離でインファイトを繰り広げる中、美月たちはやっと追いついた小春たちと一緒にその場を切り抜けた。
そして、美月たちはスナイパー組がいるであろう敵陣の奥深くへと辿り着いた。
『浜辺』のバトルフィールド自体が見渡しが良いのに加え、ウィッチバトルではバトルフィールド全体を上から見れる人間視点があるにも関わらず、ウルフマーキュリーとステルススコーピオの姿は見当たらなかった。
さっきのドンパチリもあったとは言え、スナイパー組は本当に姿を隠すのが上手い。
特に冬馬たちの場合は、
美月が焦りを浮かべていると、海の中から氷の矢が飛んで来た。
「——ッ!?」
「しまっ……!?」
アークソードが遠くへと弾き飛ばされる。やっぱり、この一手先の未来が見える魔力が見える目を持ってしても、完全には反応しきれなかった。
すると海の中に潜んでいた冬馬とマーキュリーのウルフマーキュリーが、ウルフボウを構えながら姿を現した。
「美月ちゃんたちはやらせないよ!」
ゴーレムジュピターがアークサターンを庇う様に前に出た。
しかし……。
「ダメですわ、小春! くっ……!?」
足を止めたゴーレムジュピター目掛けて、上空から音も無く飛んで来た狙撃を庇った、アークサターンのアークシールドが弾き飛ばされた。
今のは、秀次とスコーピオのステルススコーピオの狙撃だ。
「ごめん、美月ちゃん! 庇うつもりが、逆に庇われちゃった!」
「気にしないで下さい、小春。 でも……」
主武装であるアークソードとアークシールドを失ったことで、アークサターンは丸腰に近い状態になってしまった。
一応、プラネットダークを使って擬似的に魔王システムを発動させれば、それ専用の他の武装も使える様にはなるが、あれは輝とヴィーナスのノーブルヴィーナス相手に取っておきたいのが本音だった。
美月が迷っていると、小春たちがゴーレムジュピターのゴーレムマルチシールドに内蔵されている斧をパージした。
「美月ちゃんたち! これを使って!」
「で、でも……それだと小春たちの武器が……!」
「大丈夫! あたしたちに取って、このゴーレムジュピターそのものが武器みたいなものだから! 行くよ、ジュピター!」
「う、うん……あれだね、小春ちゃん……!」
「「マジカルスキル! ジュピターアタック!」」
するとゴーレムジュピターは、丸っぽい機体なのを生かして、魔法で円形のバリアを身に纏うと、まるでボールの様に、砂浜の上を爆走し始めた。
それにより、辺り一面に砂嵐が巻き起こった。
「あたしたちが
「分かりましたわ! サターン!」
「了解です、お嬢様!」
美月はアークサターンにパージされた斧を拾わせ、それを両手に装備させると、そのまま海へと飛び込んだ。
美月自身はカナヅチだが、バトル中はサターンが機体を動かしてくれるので、水中でもへっちゃらだ。
冬馬たちも次々に狙撃を放って来るが、位置が分かっている初撃以降なら、この魔力が見える目で対処できる。
そんなアークサターンを前に冬馬たちは焦った声を上げていた。
「くっ……!? 僕たちの狙撃が全然通じない!? マーキュリー!」
「了解だ、冬馬」
「「マジカルスキル! マーキュリーアームド」」
するとウルフマーキュリーは、弓を持っていない右腕に冷気を纏わせると、氷でできた剣を装備した武器腕を作り上げた。
小春たちから借りた二振りの斧と、冬馬たちが生み出した氷の剣が激しくぶつかり合う。
美月も冬馬たちの狙撃の凄さは知っていたが、近接戦闘も中々のレベルだった。
だけど近距離戦闘に特化したアークサターンがこの距離で負ける訳が無かった。
そのまま氷の剣をウルフマーキュリーの右腕ごと切り飛ばした。
「貰いましたわ!」
「トドメだ!」
「くっ……!?」
ウルフマーキュリーは咄嗟に腕に内蔵されたアンカーを放って来たが、アークサターンはそれを紙一重で回避した。
そして、ウルフマーキュリーを上下真っ二つに切り裂き、マジカルバリアを破壊して、戦闘不能にした。
「
「冬馬!? すまない……!」
*****
「「マジカルスキル! 幻影の炎!
「「マジカルスキル!
一方その頃、焔たちの生み出した炎の分身と、歌たちの生み出した水の分身による、二つのマジカルスキルが激しくぶつかり合っていた。
そしてその傍では、キングレオが左腕を犠牲にシャドウカロンのシャドウマルチガントレットから発生されたビームの刃を受け止めていた。
「やっと捕まえたぜ! ちょこまかと逃げ回りやがってよ! オラ!」
「これで終わりなのであーる!」
キングレオがキングナックルでシャドウカロンの胴体を殴りつけた。
「くっ……! 私ちゃんだってタダではやられませんよ! カロンちゃん!」
「了解だよ、御影ちゃん。 悪あがきしよっか〜」
「「マジカルスキル! カロンブレード!」」
「チッ!」
御影たちは、マジカルバリアを破壊され、戦闘不能になる直前に、シャドウカロンの足元から影の刃を発生させた。
王牙たちはそれを直感により避けようとするが、その一部が突き刺さり動けなくなる。
そんな御影たちの置き土産を見ながら、歌たちは魔法が絡んでいる時のテンション高めの状態の声で叫んだ。
「焔君!! それにマーズちゃん!! 私とピスケスは常々、フィールド魔法とマジカルスキル五つの同時発動を両立できないことを悩ましく思っていました!! だけど、焔君たちの合体マジカルスキルのおかげでその解決方法が見つかりました!!」
「さあ、私と歌の特訓の成果を見てみなさい!」
「「マジカルスキル!
するとフィールド魔法で生み出された水の分身たちが水の柱を身に纏い、巨大な渦を描く様に飛び回り始めた。
「「合体マジカルスキル!
巻き起こった大嵐が、マーズファイア・
「歌先輩たちも合体マジカルスキルを!? くっ……!? 今回も届かなかった……!」
「焔君!? リベンジならずね……!」
「チッ! ここまでか! だが、合体マジカルスキルは素直に凄かったぜ!」
「王牙!? 次は負けないのであーる!」
さらに、御影の置き土産で動けないキングレオをも巻き込み、ブラッドマーズ共々マジカルバリアを破壊して戦闘不能にした。
「見ててくれましたか、ネオンさんたち!!」
そして、その様子を遠くから見ていたステルススコーピオは、敵を倒して油断しているマーメイドピスケスへと引き金を引いた。
「これが私とピスケスの合体マジ……え……??」
「歌!?」
マジカルバリアを破壊されて戦闘不能になったマーメイドピスケスを確認した秀次たちは、独り言の様にポツリと呟いた。
「ふぅ〜やれやれ。 合体マジカルスキルを完成させた
「秀次……」
「ああ、ただの愚痴っすよ、スコーピオ。 さーてさて、残り二対三だし、もう一仕事するとしますか〜」
「了解……」