——あたしは生まれつき先天性心疾患と不整脈を患っていたんだ。 あたしのママも同じ病気でね、これはママの家系の遺伝性の病気だったんだ。 コレが原因で幼い頃のあたしは、直ぐに体調を崩して倒れることが多くて……病院に何度も入退院を繰り返してたんだ……。
「うぅ……痛いよ……苦しいよ……助けて……ジュピター……」
「小春ちゃん……!? 小春ちゃん……!?」
幼い頃の小春は生まれつきの心臓の弱さと、それに伴う不整脈の再発により、何度も倒れては病院に運ばれることを繰り返していた。
ジュピターは、二十四時間ずっと一緒に居ることができない小春の両親の代わりに、小春の側にいる役割を担っていた。
「うぅ……! 何で小春ちゃんばっかりこんな目に遭わなきゃいけないの……! 私が変わってあげられたら良いのに……!」
ジュピターだって元々は、他の『メカニカルウィッチ世代』の子供たちの相棒たちと同じ様に、小春の家族として、姉妹として、そして相棒としてずっと一緒にいて欲しいと、小春の両親が用意した存在だった。
だけど、小春が生まれた時から生死の境を彷徨っていたことで、そう言った一般的な関係だけでいることはできなくなってしまった。しかもジュピターは、その際に精神的なショックで自我崩壊を起こしかけたらしい。
きっとジュピターが臆病な性格になってしまったのは、自分がずっと心配させてばかりだったのが原因なのだろう……。
ジュピターは、小さな体に呼吸器や点滴などのいろいろな物を繋がれた小春の姿を見て、いつもボロボロと涙を溢していた。
「……ねえ、ママ……パパ……どうしてあたしは皆みたいに遊べないの?」
「「小春……」」
小春の母である風花と、父である良馬の二人も、いつも小春の側に居ようとしてくれた。
流石に仕事などがある為、二十四時間ずっととは言えなかったが、それても空いている時間は全て小春と一緒に居ることに使ってくれた。
「大丈夫だよ、小春。 手術を頑張って病気をちゃんと治せば、きっと皆みたいに遊べる様になるから」
「そんなの嘘だよ! 何度頑張っても治らなかったんだから! パパの嘘つき!」
「小春……」
小春はもう我慢の限界だった。
周りの子供達が楽しそうに遊んでいる姿を見ているだけなんて嫌だった。
だから手術だって何度も頑張ったのに、ちっとも良くなった気がしなかった。
現に自分と同じ病気を患っている母は、大人になってもその症状に苦しんでいた。
するとそんな母が涙を流しながら、小春のことを抱きしめて来た。
「ごめんね、小春……。 全部ママのせいなの……。 ママが自分の病気を小春に移しちゃったせいなの……」
「ママ……」
「ごめんね、小春……。 丈夫な体に産んであげられなくて……」
「っ……!」
母が泣いていると小春も悲しくなった。母にそんなことを言わせてしまったことが本当に心苦しかった。
それからと言うもの、小春は周りの子供たちが楽しそうに遊んでいる姿を見るのを避ける様になった。
自分にはできないもの……手の届かないものを見ているだけなんて辛いだけだし、何よりもうこれ以上、ジュピターや両親に余計な心配をかけるのは心苦しかった。
「小春ちゃん、確かに勉強も大事だけど……子供にとっては遊ぶことだって同じくらい大事なのよ? 小春ちゃんは、何か遊んでみたいものはないのかしら?」
「そうですよ、小春ちゃん。 今年から小学一年生になったことですし……ジュピターと一緒にウィッチバトルをするのはどうでしょうか?」
「……ううん、四季先生、シーズン先生。 どうせあたしにはできないから……」
「「小春ちゃん……」」
「行こ、ジュピター」
「う、うん……。 小春ちゃん……」
院内学級の教員を務めていた四季先生とシーズンは、遊びたいと言う気持ち自体を我慢している小春を見て、いつも心配そうにしていた。
だけど小春は、そんな二人からの提案をどうせ自分には無理だと最初から諦めて断り続けていた。
——この時のあたしは、自分が元気になる未来を全く想像できなかった……。 ジュピターもママもパパも、それに担当医の先生も、きっと病気は治ると言ってくれたけど……全然信じられなかった……。 どうせあたしはこのまま一生、病気のままなんだろうってもう既に諦めてしまっていたんだ……。
*****
——だけどある日、とある男の子と出会ったことで、あたしの人生は大きく動き出すことになったんだ……。 そして、それが冬馬だったんだ……。
それは四月の終わりのある日のことだった。
院内学級での勉強を終えた小春はジュピターを連れて、未来病院に入院する患者の憩いの場である中庭へと訪れていた。
小春はジュピターと一緒に、この中庭に植えられている病院のシンボルである大きな木を良く見に来ていた。
自然のパワーのおかげか、この木を見ると不思議と暗い気持ちが消え、元気が貰える様な気がするのだ。
だからいつしかこの場所は、小春とジュピターのお気に入りの場所になっていた。
そんな場所にあるベンチに腰掛けた小春は、思わず大きなため息を吐いた。
また倒れて入院することになったせいで、入学式はおろかまだ一回も小学校に通えていない憂鬱は、この場所に来ても消えてくれなかった。
「はぁ……」
「——ねえ、君、大丈夫? どこか具合が悪いの?」
そんな小春に同い年くらいの男の子が話しかけて来た。
その子は病院着を着ている小春とは違って私服であり、健康そのものと言って良い感じだった。それが小春には凄く羨ましかった。
「ううん、別に……。 そう言うあなたは、誰かのお見舞いにでも来たの?」
「あ、僕はお母さんにお弁当を届けに来たんだ」
「フッ、冬馬の母の小雪……いや、ここでは青水先生と言った方が良いな……。 その青水先生は私生活で抜けている面があるのでな……」
「ふ〜ん」
男の子の相棒が口にした青水先生と言えば、最近この病院に異動して来た、新しい先生として小春も知っていた。
仕事熱心な人で、患者のことを常に気にかけているので、担当医では無いものの小春も彼女に優しくして貰ったことがあった。
確かに言われてみれば、女性でありながらイケメンな青水先生の面影が目の前の冬馬と呼ばれた男の子にもあった。
それから小春は冬馬と少し話をすることにした。
そんな中、冬馬が見知らぬ男の子だからか、小春は普段我慢している病気の愚痴をつい漏らしてしまった。
「そっか……小春ちゃんは、心臓の病気なんだね……」
「うん……。 冬馬君は良いよね……元気な体でさ……。 あたしも皆みたいに遊べたらな……」
「それならさ! ウィッチバトルはどうかな?」
すると小春の隣に座っていた冬馬がそう提案して来た。
小春もウィッチバトルのことは一応は知っていた。だって周りの子供たちが良く話していたから。
だけどスポーツ競技はどうせ自分にはできないからと、自分から目を向けたことは今まで一度も無かった。
そんな小春が不貞腐れる様に断ると、冬馬はウィッチバトルには病気の子供たちの為の『セーフティーモード』があるから大丈夫だと説明してくれた。
その姿があまりにも熱心だった為、小春は思わず尋ねた。
「ねえ、ウィッチバトルってそんなに凄いの?」
「うん! 小春ちゃんも一度バトルを見てみれば分かる筈だよ!」
冬馬が自身のマジカルウォッチを操作すると、自分たちの目の前にあるバトルの映像が映し出された。
それは記念すべき第一回世界大会の決勝戦の映像だった。
『——さあ、いよいよ記念すべき第一回世界大会も残すは決勝戦のみとなりました! 決勝戦まで登って来たのは、今大会最年少の十三歳である、JP国出身の
特別なバトルフィールドである『擬似宇宙』でぶつかり合う、きららとポラリスの機体である『テディベアポラリス』と、セブンとビッグベアの機体である『ユニオンビッグベア』のバトルは本当に凄かった。
魔法少女や熊のぬいぐるみを思わせる可愛い機体を駆り、魔法の魅力を最大限に活かしたバトルをするきららたちと、無機質な兵器を思わせる重装備の機体を駆り、魔法を補助に利用してどこまでも実戦的な戦いをするセブンたちはまるで正反対の存在だった。
それ故に両者は決して一歩も引かずに、一進一退の攻防を繰り広げていた。
『負けない! 負けられない! 本物の戦いを知らない……こんな偽物のバトルしかしたことがない、極星きらら……お前なんかに! ビッグベア! 俺を拾ってくれた
『
『『マジカルスキル! アタックコマンド
『いいえ、セブンさん! ウィッチバトルは偽物のバトルなんかじゃないわ! 人間とメカニカルウィッチが力を合わせてバトルするウィッチバトルの方が、本来のあるべき姿なのよ! セブンさんたちに勝って、それを証明して見せるわ! 決めるわよ、ポラリス!』
『うん、きららちゃん! 今こそ、セブンさんたちとの運命に決着をつける時だよ! そして、あの日交わした私たちの約束を叶えよう!』
『『マジカルスキル! ポラリステディベアユニバース!』』
きららたちが最強のマジカルスキルであるフィールド魔法を発動させ、無限を体現した星を生み出すと、セブンたちはその星を撃ち落とす為に、メイン武器である大型のライフルから究極を体現した超巨大なビームを放った。
お互いの最強のマジカルスキル同士のぶつかり合う。それを制したのは……。
『き、決まった〜! 記念すべき第一回世界大会を制したのは、極星きらら選手と相棒のポラリスのテディベアポラリスだ〜!
バトルの決着を告げるMCの声が聞こえる中、きららは手元に戻って来たボロボロのポラリスを右手に乗せると、
『『——私たちが世界で一番の相棒! チャンピオンバディよ!』』
「わあ〜〜!!」
二十年前の過去の映像だったものの、その姿を見た小春は心臓を掴まれた様な衝撃を受けた。
興奮のあまり心臓がドキドキしていたが、今だけは不思議と苦しくなかった。
心を揺さぶられるとは正にこのことだった。
そして、すっかりウィッチバトルの虜になった小春は、自分の相棒であるジュピターに思わず声をかけた。
「ジュピター! あたし、ジュピターと一緒にウィッチバトルをやってみたい!」
「ええ!? で、でも……小春ちゃんの体じゃ……!」
「お願い、ジュピター! あたしはジュピターと一緒に、きららさんたちみたいなチャンピオンバディになりたいの!」
「……! わ、分かった……! それが小春ちゃんのやりたいことなら……
「本当に!? ありがとう、ジュピター!」
「う、うん……! だって小春ちゃんが久しぶりに、こんなにも笑顔になってくれたんだもの……!」
「ジュピター! 大好き!」
小春はジュピターの小さな体を抱きしめながら、冬馬にお礼を言った。
「ありがとう、冬馬君! あたしにウィッチバトルの楽しさを教えてくれて!」
「あ、ありがとうね……!」
「うん! 小春ちゃんとジュピターにも、ウィッチバトルときららさんたちの魅力が伝わったみたいで良かったよ! きららさんたちは僕とマーキュリーがウィッチバトルにハマるキッカケになった人たちだからね!」
「良ーし、早速ママとパパを説得しなきゃ! でも、できるかな……?」
「それなら僕も手伝うよ! 僕はお医者さんであるお母さんの息子として、メカニカルウィッチだけじゃなくて医療方面の知識もあるからさ!」
「良いの!? ありがとう、冬馬君!」
その後、小春はジュピターと一緒に、冬馬とマーキュリーの協力の元、ウィッチバトルをする許可を得るべく両親の説得へと向かった。
——ママとパパを説得するのは大変だったな〜。 二人共、あたしにはやりたいことをさせてあげたいけど、それでもやっぱり心配が勝るみたいでさ〜。 そんな二人を、冬馬は一生懸命に説明して説得してくれたんだ……。 ママとパパが最終的に折れてくれたのは、話を聞いてやって来た青水先生も説得するのを手伝ってくれたからとは言え……私の為に頑張ってくれた冬馬は本当にカッコよかったんだ……。
*****
——それから外出許可を貰ったあたしは、ママとパパの付き添いの元、次の土曜日に冬馬が良く行くおもちゃ屋さんに行ったんだ! そして、そこで焔とマーズ、それから店長とトイに出会ったんだ!
「こんにちはー!」
「お! いらっしゃい! 初めて見る顔だな! お嬢ちゃん、お名前は?」
「初めまして! あたしは小春! 緑木小春! それからあたしの世界で一番の相棒の……」
「は、初めまして……小春ちゃの相棒のジュピターです……!」
「良い名前だな! 俺はこの店の店長の
「戸井の相棒のトイです」
店長とトイに挨拶をした小春は、自分が病気で近くの病院に入院していること、それから冬馬にウィッチバトルの楽しさを教えて貰って、今日はウィッチバトル用に相棒のジュピターの機体をカスタマイズしに来たことを伝えた。
「成程な! そう言うことなら、いろいろとおまけしておくぞ! それで小春ちゃんとジュピターちゃんには、何かこう言う機体が良いって言うイメージはあるかい?」
「うん! あたしね! チャンピオンバディの機体みたいなのが良い! あの丸くて可愛い熊さんみたいなやつ!」
「こ、小春ちゃんが、ウィッチバトルにハマったキッカケだもんね……!」
「うーん? チャンピオンバディの機体で熊さんと言えば……初代チャンピオンバディの極星きららとポラリスの機体のテディベアポラリスかな?」
「間違いなくそれでしょう。 焔君たちと冬馬君たちがウィッチバトルにハマったキッカケも彼女たちだったそうですし……。 もう既に引退しているとは言え、彼女たちの人気は今だに凄いですからね」
小春はあれ以来すっかりきららたちのファンになっていた。
だけどそれと同時に、きららたちがもう既に、プロリーグの世界から引退していることを聞いてショックを受けた。事故で足が不自由になって、車椅子生活になったから仕方がないのだろうが……。
「良ーし! それなら初代チャンピオンバディのファン向けの武器やパーツを集めたゾーンがあるぞ! ……っとその前に……おーい、焔君!」
「どうしたの、店長ー?」
店長が名前を呼ぶと、お店の二階から自分と同い年くらいの男の子が降りて来た。
「この子たちは小春ちゃんとジュピターちゃんで、冬馬君の誘いでうちの店に来てくれたんだ! 小春ちゃんたちは機体のカスタマイズ自体初めてらしいから、焔君も冬馬君と一緒に手伝ってやってくれないか?」
「へー、冬馬君の友達なんだね! そう言うことなら、冬馬君たちのライバルの俺たちに任せてよ! あ、俺は焔! 赤火焔って言うんだ!」
「私はマーズよ! 焔君のお姉ちゃんなの!」
「よろしくね、焔君! それに、マーズ」
「よ、よろしくね……!」
こうして小春は焔とマーズと出会うことになった。そして、焔と冬馬と小春の幼馴染の三人が揃うことになった。
それから小春は、店長が小春の両親と話をしている中、焔たちと冬馬たちの手伝いの元、ジュピターの機体をカスタマイズしていった。
「あ! これ、丸くて可愛い! こっちは熊さんみたいな大きさを表現するのに良いかも!」
「見て見て! 小春ちゃんたちのイメージにピッタリなパーツを見つけたよ!」
「ふふん! 私と焔君の機体もきららさんたちを参考にしたから、大船に乗ったつもりでいるといいわ!」
「小春ちゃん! 盾を両腕に装備すれば、もっと熊さんっぽくなるんじゃないかな?」
「フッ、小春たちの機体にオリジナリティーが出て来たじゃないか。 良いアイデアだ、冬馬」
きららたちのテディベアポラリスの様な熊のぬいぐるみをイメージしながらも、丈夫で頑丈な機体を目指して行った結果……。
ジュピターはどんどん丸く可愛く、それでいて硬い、全身を重装甲で固めた機体になっていった。
そして、ついに後のゴーレムジュピターの原型となる、世界で一つだけの小春とジュピターの機体が完成した。
「ど、どうかな、小春ちゃん……? ちょっとゴツ過ぎたりしないかな……?」
「ううん、そんなことないよ! 世界で一番可愛いよ、ジュピター!」
「えへへ……! ありがとう、小春ちゃん……!」
それから小春たちは、お店の二階にあるバトルスペースで、冬馬たち相手に最初のバトルをした。
シンクロ率の上限が五十パーセントに制限されたセーフティーモードで、ティーチングバトルの様な形ではあったものの、本当に楽しかった。
こんな風に友達と一緒に思いっきり遊んだのは本当に久しぶりだった。
そして、その日の夕方。
はしゃぎながら帰りの車に戻る小春を見た、小春の両親が涙を流しながら口を開いた。
「小春がこんなにも笑顔になる姿をまた見れて本当に良かった……。 私があんなことを言ったせいで、小春は我慢する様になっていたから……」
「ああ、冬馬君と皆には本当に感謝だな……」
父が病弱な母の体を優しく支える中、小春は見送りに来てくれた冬馬に改めてお礼を述べた。
「冬馬君! あたしにウィッチバトルの楽しさを教えてくれて、本当にありがとう! あたし、今日は本当に楽しかった!」
「わ、私からも、ありがとう……!」
「どういたしまして、小春ちゃん! それにジュピターも!」
「フッ、これからも冬馬と仲良くしてやってくれ」
そして、小春は夕日に照らされながら、自分の決意を口にした。
「——冬馬君! あたし、手術頑張るよ! この病気を治して、元気な体で皆と遊べる様になりたいから! そして、今度はあたしが冬馬君の様に、病気で苦しんでいる子たちにウィッチバトルの楽しさを教えられる様になるよ!
「ヒーロー……! 僕は、小春ちゃんのヒーローになれたのかな?」
「うん! ありがとう、
——相棒であるジュピターと、家族であるママとパパがずっと支えてくれたから、私は今ここにいる……。 あの日冬馬と出会えたから、今の私がいる……。 だからあたしは決めたんだ! 病気だったあたしが、相棒のジュピターと一緒に世界で一番の相棒であるチャピオンバディになることで、病気で苦しんでいる子供たちに、どんな病気でも治るって、どんな夢でも叶うって、証明するんだって! それがあたしの……ううん、あたしとジュピターの夢なんだ!