メカニカル☆ウィッチ   作:星乃祈

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第55話「皆の夢は?」

 

 

「——あ、美月に小春もおかえり! それに、サターンとジュピターも!」

「もう直ぐカントウブロックの予選の決勝の中継が始まるぞ?」

 

 小春の昔の話を聞いた美月たちが院内学級に戻って来ると、それに気づいた焔と冬馬が声をかけて来た。

 

「あ、そうだった! すっかり忘れてた! 美月ちゃん、一緒に見よっ!」

「は、はい……!」

 

 焔たちに元へと駆け寄る小春に美月は手を引かれながら、教室内の様子をチラリと見回してみた。

 

「ふぅ……」

「お疲れ様でした、マスター」

 

 すると教室の隅っこの椅子に、輝が疲れ果てた様子で座っており、それをヴィーナスが嬉しそうに介抱していた。

 おそらく高校生チャンピオンバディとして、子供たちからいろいろと質問責めにあったのだろう。

 

 そんな子供たちは、テレビが教室内の空中に映し出した映像の前に集まっていた。

 そして、美月たちもその前へと向かうと、丁度MCの女性の声が聞こえて来た。

 

『——(みな)様、お待たせいたしましたー! 未来のプロ候補が集まる場であり、現役高校生の中で一番の相棒である高校生チャンピオンバディの称号を競う場である、シニアリーグの全国大会高校生の部! その本戦への出場枠を巡る、魔境とも呼ばれる狭き門である予選! その一角であるこのカントウブロックの予選の決勝戦の始まりです!』

 

 学生版プロリーグと呼ばれる、ジュニアリーグの全国大会小学生の部並びに中学生の部、それからシニアリーグの全国大会高校生の部並びに大学生の部に出場する為の予選は、毎年夏休みに入った七月下旬に行われていた。

 予選は八月にある全国大会が始まるまでの約二週間で行われ、その前半はあまりにも多過ぎる参加者の振るい落としをする為に、十人によるバトルロワイヤルを始めとし、即席のチームによる五対五の集団戦、三対三のチーム戦、二対二対のタッグ戦が、その後半はそれを勝ち残った参加者同士による一発勝負のトーナメント戦が、一対一の個人戦で行われていた。

 

 そんな魔境とも呼ばれる予選を突破できるのは全国合わせて三十人だけ……。

 これは美月たちの通うミライトウキョウ校を含めた、全国に七校あるメカニカルウィッチ学園のそれぞれの学園リーグランキングのトップ十が持つ、本戦へ直接出場できるシード枠の分を合わせた、合計百人しか全国大会本戦に出場できないからだった。

 ちなみに出場枠が百人の理由は、全国大会の結果からその世代のトップ百のランキングを作る為らしい。

 

 そんな訳で名都道府県ごとに予選をすると枠が足りない為、高校生の部と大学生の部は、メカニカルウィッチ学園がある地方ごとに行われていた。つまり各地方の予選を突破できるのは四人から五人しかいない訳だ。

 余談だが、小学生の部と中学生の部は、前年の全国大会で優秀な成績を収めた二十八人に本戦へ直接出場できるシード枠が与えられる関係上、名都道府県ごとに行われる予選で一人か二人が突破できる為、全国合わせて七十二人が予選を突破することができた。

 

 それ故に、これからバトルする両者は既に予選を突破しているのだが、だからと言って消化試合という訳ではない。寧ろこれが本命だ。

 

 全国大会が百名によるトーナメント戦と言う関係上、各学園のトップ三と、各地方予選の優勝者の合計二十八名は、本戦の二回戦からの出場となるのだ。

 その恩恵により、一回戦からバトルする他の相棒たちの敵情視察をしたり、他の優勝候補と早々にぶつからない位置にトーナメント分けされたりなど、様々なアドバンテージを得ることができるのだ。

 

『予選の決勝戦でバトルするのは、ミライトウキョウ校の二年生で、学園リーグランキングトップ百にも入っている、獅子谷雷牙(ししたにらいが)選手と相棒のイーグル! それに対するは、都内の公立高校の一年生の鏡野亜里珠(かがみのありす)選手と相棒のマスカレード!』

 

 MCの女性の声と共に、両選手のプロフィールが公開された。

 

 王牙の弟の一人である雷牙とイーグルは、美月たちが以前学園リーグ戦でバトルした相手だった。

 三対三のチーム戦だったあの時は、ハイパーキングレオの合体変形のギミックの都合上、雷牙とイーグルはサポートに徹していてその実力は分からなかったが、美月たち一年生組が入る前の学園リーグランキングのトップ十にいたらしいので、その実力は確かなのだろう。

 

 その一方で、亜里珠(ありす)とマスカレードは、美月としても初めて目にする子だったが、不思議と目を引かれた。

 

 亜里珠はぴょこんと生えたアホ毛が目立つウェービーロングヘアの金髪に、宝石の様に綺麗な碧玉(サファイア)の瞳をした、頭部にカチューシャをつけた女の子だった。

 『不思議の国のアリス』を連想させる名前と容姿だが、どうやらプロフィールを見るに、その作品と縁のあるUK国出身の母と、JP国出身の父を持つハーフらしい。そう言えばネオンもそうだとこの前聞いたっけ……。

 そんな亜里珠の相棒であるマスカレードは、ロングヘアの明るい紫の髪をした少女で、仮面で目元を隠しているが、その隙間からは宝石の様に綺麗な紅玉(ルビー)の瞳が見えた。

 

『それでは予選の決勝戦、バトルスタートです!』

 

 美月が不思議な感覚を覚えている間に、バトルが始まった。

 

 亜里珠たちの機体である『ミラーマスカレード』は、光を思わせる黄と、闇を思わせる紫を基調とした機体で、魔法少女や魔女を思わせる姿をしていた。

 主な武装は、左手に装備した長い杖である『ミラーロッド』だけ。どうやら左利きらしい。そう言えば母も左利きで、母の相棒のクリサリスもそれに合わせていたっけ……。

 

 その一方で雷牙とイーグルの機体である『キングイーグル』は、美月たちがバトルした時は合体変形の為に非人型の飛行機の様な機体をしていたが、今回は両腕が巨大な翼と一体化した鳥人を思わせる亜人型の機体になっていた。おそらくはこれが本来の姿なのだろう。ちなみに色は相変わらず黄金のままだった。

 

『鏡野亜里珠! そして、マスカレード! お前たちが準決勝で負かした、僕の弟である音牙(おんが)の借りを返させて貰うぞ!』

『ああ! オルカの仇なんだぞ!』

 

 『市街地』のバトルフィールドの中を自由自在に飛び回るキングイーグルが、鳥の足の様な形をした脚部に内蔵された『キングキャノン』から次々にビームを放った。

 上級者向けで難しい筈の飛行魔法をを完璧に扱いこなしているあたり、雷牙たちの強さは相当だろう。

 

『受けて立つよ! 行くよ、マスカレード!』

『はい、亜里珠……!』

『『マジカルスキル! マジカルシールド!』』

 

 亜里珠たちは防御魔法を発動させて、その攻撃を完全にシャットアウトした。デフォルトで搭載されている魔法とは思えない強度……凄い魔法の練度だ。

 

『チッ! 何て固さだ!?』

 

 キングイーグルは今度はそのスピードを生かして接近すると、脚部の『キングクロー』で近接攻撃をしかける。

 

『よっと!』

 

 その攻撃をミラーマスカレードは杖で捌いていく。

 杖を武器とする機体は近距離戦闘が苦手なことが多いのに、亜里珠たちは格闘戦も強かった。

 

 すると有効打を与えられないことを悟ったキングイーグルが一度大きく上空へと飛び上がった。

 

『チッ! だったら、これならどうだ! イーグル!』

『ああ、雷牙!』

『『マジカルスキル! イーグルフェザー!』』

 

 キングイーグルの両腕が一体化した翼である『キングウィング』が光輝くと、そこから光る羽が次々に発射された。

 光る羽の矢の雨がミラーマスカレードへと降り注ぐが……。

 

『マスカレード! あたしたちの魔法を見せるよ! 光の魔法よ!』

『はい、亜里珠……! 闇の魔法よ……!』

『『マジカルスキル! マスカレードバースト!』』

 

 ミラーマスカレードは杖を振って光の魔法陣と闇の魔法陣を発生させると、それを重ね合わせることで光と闇の相反する二つの力を持ったビームを発射した。

 マスカレードバーストはイーグルフェザーを軽々と吹き飛ばし、そのまま本体へと襲いかかった。

 

『チッ!』

 

 キングイーグルはどうにかそれを避けるが、亜里珠たちは次々に同じ魔法を連打する。

 

『イーグル! 変形だ!』

『了解だぞ、雷牙!』

 

 それに対してキングイーグルは亜人型から飛行機へと完全変形することで、その場を離脱した。

 流石は三機による合体変形を行うハイパーキングレオを開発した獅子谷玩具の機体だ。難易度が高い筈の非人型への完全変形もバッチリだ。

 

 しかし、猛スピードで空を駆けるキングイーグルをミラーマスカレードの攻撃が掠め続ける。見た感じ、追尾性能を持つ魔法では無い筈なのに……。やはり魔法の練度が凄い。

 だけど雷牙たちは微塵も諦めていない様だった。

 

『このまま負けてたまるか! ここで勝って、僕たちは兄貴とレオに少しでも追いつける様になるんだ! そうだろ、イーグル!』

『ああ、雷牙! 俺も同じ気持ちだぞ!』

『『マジカルスキル! イーグルキングアタック!』』

 

 キングイーグルは魔法で巨大な鳥の形をしたオーラを全身に纏った。

 そのまま方向転換すると、ミラーマスカレードの攻撃を真正面から弾きながら突撃して行く。

 

 それを見た亜里珠が興奮した様子で声を上げた。

 

『凄い魔法! 雷牙君とイーグル君と言い、準決勝でバトルした音牙君とオルカ君と言い、本当に凄いよ!』

『亜里珠、感心している場合ではありませんよ……!』

『分かってるって! だからあたしたちも本気で応えるよ、マスカレード!』

『はい、亜里珠……! わたくしたちの最強の魔法を見せましょう……!』

『光の魔法よ!』

『闇の魔法よ……!』

『『マジカルスキル! マスカレードミラースペースタイム!』』

 

 ミラーマスカレードはミラーロッドを両手で持つと、足元に巨大な光の魔法陣と闇の魔法陣を呼び出した。

 

 ——そして、二つの魔法陣が重なり合った瞬間、まるで時が止まった様にバトルフィールドの景色が灰色になった。

 

『くっ……!? 機体の動きが……!?』

『重過ぎるんだぞ!?』

 

 まるで時間が鈍化した様にキングイーグルの動きが遅くなる中、逆にミラーマスカレードは時間が加速した様に市街地のビルを高速で登る形で空中へと飛び上がった。

 

『だが! フィールド魔法を使っていて、他のマジカルスキルが使えない今のお前たちでは、イーグルキングアタックの守りは突破できまい!』

『ふふん! それはどうかな?』

『何……? ぐっ……!?』

 

 するとキングイーグルの真上からマスカレードバーストが飛んで来た。

 しかも一つだけじゃない。無数の……それこそ十個以上の魔法が同時に、満足に動けないキングイーグルへと四方八方から襲い掛かった。

 

『馬鹿な!? フィールド魔法と同時に他のマジカルスキルをこんなにも使えるなんて!? まるで海姫ネオン……ぐわあっ!?』

『雷牙!?』

 

 雷牙が信じられないと言わんばかりに叫ぶ中、遂にキングイーグルが撃墜され、マジカルバリアを破壊されて戦闘不能になった。

 それを見たMCの女性がバトルの決着を宣言した。

 

『決まったー! 予選の優勝者は何と、これまでのジュアリーグの大会参加記録が一切無い、無名の一年生の鏡野亜里珠選手と相棒のマスカレードのミラーマスカレードだー! これはとんでもない()()()()()が現れたぞー! 全国大会の本戦も楽しみです!』

 

 テレビの中の観客たちと、この場にいる皆の大観声が聞こえて来る中、美月は魔力が見える目のおかげでさっきの魔法のトリックを見抜いていた。

 

(『マスカレードミラースペースタイム』……。 まるで時間を操る様に自身の機体と相手の機体の動きに干渉するだけでも強力なのに、それとは別にまるで空間を操る様に、バトル中に何度も使ったマスカレードバーストを呼び戻すことで、擬似的に同時かつ多数の発動を実現させるなんて……。 本当に凄い魔法です……!)

 

 まるで本物の魔女である自分やネオンと同じくらいの凄い魔法だった。でも流石に、本物の魔女がそうポンポンといるとは思えないので、自分たちとは違うと思うが……。

 美月がそんなことを考えていると冬馬が独り言の様にポツリと呟いた。

 

「……こんな所にも()()()()()が……天才がいたなんてな……」

()()()()()……?」

 

 美月は思わず聞き返した。確かMCの女性もそう言っていたが……。

 するとマーキュリーが代わりに答えてくれた。

 

「フッ、無名の怪物と言うのは、ウィッチバトルで行われるジュニアリーグの小学生の部と中学生の部の時の記録が無いにも関わらず、スーパーウィッチバトルが解禁されるシニアリーグの高校生の部と大学生の部でいきなり頭角を表す者たちのことだ。 ウィッチバトルもスーパーウィッチバトルも基本的な操作方法は同じ筈なのだがな……やはりロボットに乗るか否かで大きく変わるのだろう……」

「ああ、例えば……高校生になってから始めたにも関わらず、初出場ながら全国大会高校生の部を制覇して、高校生チャンピオンバディになった輝先輩とヴィーナスはまさにそうだし……。 美月さんにとってはあまり嬉しくはないかもしれないが、美月さんとサターン君も世間からは似た様なことを言われているな……」

 

 途中からの補足は冬馬がしてくれた。

 

 確かに美月は、小学一年生の時に相棒のリンと一緒に一ヶ月程バトルをしたくらいで、小学生の時と中学生の時はウィッチバトルから距離を取っていた。

 それから四月に相棒のサターンと出会ったのをキッカケに、こうして皆が支えてくれたおかげで復帰できた。

 

 それは世間からすれば、十年振りに復帰して早々に、学園リーグランキングトップ十に入って、その特典で全国大会への出場を決めた無名の怪物の様に見えるのだろう。

 まあ、美月は明日斗博士の娘である為、無名と言う訳では無いし、世間から注目されている理由の半分以上はその立場が原因なのだろうが……。

 

 すると今度は焔が興奮した様子で声を上げた。

 

「鏡野さんとマスカレードは煌めき凄いや! 俺、この子たちとバトルしてみたい! 未来のチャンピオンバディを目指す中で、ライバルになる気がするこの子たちと!」

(むぅ……)

 

 焔は亜里珠たちに釘付けになっていた。焔の口癖の「煌めく」は本当に凄いと思ったものにしか使わないので、相当なお熱なのだろう。

 自分でも良く分からないが、何故か心がモヤッとした美月は、咳払いをしながら、話を変える様に話題を上げた。勿論、焔たち以外がいるので人間人格のお嬢様口調でだ。

 

「んんっ、焔の夢はやっぱり……マーズと一緒にチャンピオンバディになることなんですの?」

「うん、そうなんだ! 昔見たきららさんたちみたいに、バトルを見た皆を笑顔にできる、そんなチャンピオンバディになりたいんだ! そして、チャンピオンバディを決める世界大会の場でうら……んんっ、今のチャンピオンバディに勝つんだ!」

「ええ! それが私と焔君が、きららさんたちのバトルを見たあの日に抱いた夢なの!」

 

 焔とマーズは自身の夢を熱く語っていた。

 美月の恩人であり憧れの人でもあるきららとポラリスは、焔たちの夢の原点にもなっていた。流石は初代チャンピオンバディだ。

 それに焔がうっかり従兄弟として名前を呼びそうになった、今のチャンピオンバディの麗とウラノスも同じくらい影響を与えたのだろう。

 

 美月は焔たちにだけ聞くのは不自然なので、他の皆の夢も聞いてみることにした。

 

「輝先輩の夢も聞いてもよろしいですか?」

「うん、勿論。 僕は将来は父の様になりたいんだ」

「それは……白金(しろがね)代表と同じ、JP国の代表になりたいと言うことですの?」

「……と言うよりかは、ヴィーナスみたいな特殊な境遇の人工精霊の子たちを助けられる立場に就きたいんだ。 その為にも、JP国の代表と言う立場は大きな力になるだろうね」

「流石はマスターです……! ヴィーナスは一生着いていきます……!」

 

 輝の語った夢にヴィーナスは目をキラキラと輝かせていた。

 凄く立派な夢だ。メカニカルウィッチを管理するワールドユニオンが、人工精霊ことを裏では道具としてしか見ていない現状からすれば、道具では無く人類の隣人として見てくれる白金代表の様な偉い立場の人は是非増えて欲しかった。

 

「冬馬の夢もやっぱり、マーキュリーと一緒にチャンピオンバディになることなんですの?」

「……ああ、そうだな。 僕たちもそうなりたいんだけどな……」

「冬馬……」

 

 続いて冬馬に聞いてみると、重苦しい声で答えが返ってきた。

 マーキュリーも暗い顔をしているし、聞いてはいけないことだったかもしれない……。

 美月は空気を変えるべく、慌てて小春に話しかけた。

 

「小春の夢はえっと……確か……!」

「うん! さっきも話した通り、病気だったあたしが、ジュピターと一緒に世界で一番の相棒であるチャンピオンバディになることで、病気で苦しんでいるこの子たちのみたいな子供たちに、どんな病気でも治るって、どんな夢でも叶うって、証明することなんだ!」

「うん! 小春お姉ちゃんは僕たちのヒーローなんだ!」

「ああ! だから全国大会も応援に行くんだぜ!」

「そうそう! うちらは最近体調が良いから、外出許可がとれそうなんよ!」

「た、楽しみです……!」

 

 小春が春太と照夏と秋華と舞冬の頭をポンポンと撫でながらそういう時、子供たちも嬉しそうに声を上げていた。

 そんな小春たちを見て、四季先生とシーズンが嬉しそうに微笑んでいた。

 

「だから、今日のバトルでは美月ちゃんとサターンに負けちゃったけど……全国大会で当たった時は、あたしとジュピターが勝って見せるよ!」

「う、うん……私と小春ちゃんの全力をぶつけるから……!」

 

 すると小春とジュピターは自信満々な様子で宣戦布告して来た。凄い闘争心だ。

 だけど、小春は何かを思い出したかの様に直ぐにその闘争心を引っ込めた。

 

「あ、そう言えば美月ちゃんの夢は?」

「わたくしの……夢……?」

 

 巡り巡って自分へと帰って来た質問に、美月は答えを詰まらせた。

 

 美月は幼い頃は大好きな母と兄とムーンたちと一緒に幸せな日々を過ごしていた。

 だけど、十年前の事件で全てを失った。

 それからの日々は、リンや爺やたちに支えられながら、父である明日斗博士の代理として毎日を必死に過ごしていた。

 だから自分がやらなければいけないことはいくらでも思いつくが、自分からやりたいこととなるとイマイチ思いつかなかった。

 

 サターンと一緒に全国大会に出るのも、敵になったかつての相棒であるムーンとサン、それから大事な家族であったネメシスとクリサリスとバルカンを止める為に、もっと強くなりたいからであった。

 でもこれはあくまでも目標であって、夢とは言えなかった。

 

 皆みたいに自分の夢を持っていないことに気づいた美月は、表情を暗くしながら声を漏らした。

 

「も、申し訳ありません……わたくしにも分かりませんわ……。 わたくしの夢って……何なんでしょうか……?」

「みづ……お嬢様……」

 

 

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