——全国大会六日目。
『——さあ、全国大会高校生の部の二回戦☆ 続いての試合は、ミライトウキョウ校の七位で一年生の赤火焔君とマーズちゃん☆ そして、都内の公立高校の一年生のアリス・マスカレードちゃんとウィッチちゃんのバトルだよ☆』
MCのステラの選手の紹介をする声が聞こえて来る中、『市街地』のバトルフィールドにブラッドマーズが立っていた。
一番メジャーなバトルフィールドである市街地は、整備された地面と障害物となる建物がある為、どの機体でもバトルしやすいと言う特徴があった。
そしてバトル開始の時刻となったことで、MCのステラがバトルの開始を宣言した。
『それじゃあ皆お待ち兼ね☆ バトルスタートだよ☆』
「良し、先手必勝だ! 行くよ、マーズ!」
「ええ、焔君!」
バトル開始の合図と同時にブラッドマーズが全身のスラスターに火をつけて飛び出した。
二回戦の相手のアリスとウィッチは、以前小春のウィッチバトル教室の手伝いで未来病院に行った際に、丁度中継していたカントウブロックの予選の決勝で勝利していた子たちで、これまでのジュニアリーグの大会参加記録が一切無い、無名の一年生にも関わらず、凄い魔法の練度を持っていた。謂わゆる無名の怪物と言う奴だ。
アリスたちの未来のチャンピオンバディになりそうな煌めく強さを見て、焔もバトルしたいと思っていたが、早々に叶うことになった。
……とは言え油断はできない。焔たちもアリスの過去のバトルの映像を見て研究しようとしたのだが、無名の怪物だからか今回の予選のものしか見つからなかったのだ。
しかも予選を優勝したアリスたちはこの二回戦から出て来るので、本当にその強さは未知数だった。
すると市街地の建物の上に、アリスたちの機体の『マスカレードウィッチ』がいるのを見つけた。
マスカレードウィッチは光を思わせる黄と、闇を思わせる紫を基調とした、魔法少女や魔女を思わせる姿をしており、右手に長い杖の『マスカレードロッド』を装備していた。
『
『わたくしはウィッチと申します』
『さあ、
アリスたちは挨拶をしながら、マスカレードウィッチにマスカレードロッドを構えさせた。
それを見た焔たちは、一度ブラッドマーズに足を止めさせ、ブラッドロッドを構えさせた。
「マーズ!」
「ええ、焔君! まずは小手調べね!」
「「マジカルスキル! マーズファイア!」」
焔たちの始まりの魔法が発動し、ブラッドロッドから追尾性能を持つ蝙蝠の形をした赤い炎を放たれた。
『よっと!』
するとマスカレードウィッチは杖から放った通常攻撃の魔法の弾丸でそれを迎撃した。
「そんな……!?」
「私たちのマジカルスキルが……!?」
マジカルスキルを通常攻撃で撃ち落とすなんて、まるで美月たちみたいだった。
『今度はこっちから行くよ! ウィッチ!』
『はい、アリス……!』
マスカレードウィッチは杖を振ると、機体の周辺に複数の魔法の弾丸を生成した。
そしてそれを一斉に放って来た。
「ーーッ!? マーズ! 防御だ!」
「分かってるわ、焔君!」
ブラッドマーズは遠距離での魔法の撃ち合いを想定した『
しかし……。
「うわあッ!?」
「焔君!?」
魔法の弾丸に込められたあまりの魔力量に吸収が間に合わず、ブラッドマーズが吹っ飛ばされてしまった。
通常攻撃の筈なのに下手なマジカルスキル以上の威力がある……。アリスたちの魔法の練度の高さは分かっていたつもりだったが、予想以上のものだった。
『ほらほら、どうしたの?
「
アリスはさっきもそう言っていたが、どう言う意味なのだろうか?
確かに自分は、美月たちとの学園リーグ戦で引き分けてから、学園の一部の生徒たちから「勇者」と呼ばれる様になっていたが、そのことを言っているのだろうか?でも何だか違う気がする……。
良くは分からないけど、アリスの言う通り、自分たちの力はまだまだこんなもんじゃない……!
焔たちは倒れたブラッドマーズを立ち上がらせた。
「マーズ! マスカレードさんとウィッチさんは強敵だ! でも俺たちはいつだって格上相手に挑んで来た!」
「そうね、焔君! 私たちは常に
「だから俺たちの一番得意なバトルスタイルで行くよ!」
「分かったわ、焔君! 相手の懐に飛び込むわよ!」
「「簡易変形!
ブラッドマーズはブラッドウィングを展開して近距離戦闘を想定したスピード特化の姿になると、ブラッドロッドの先端に血の様な赤い鎌を作り出した。
「「マジカルスキル! 幻影の炎!」」
さらにブラッドマーズは炎の影分身を生み出した。
そして影分身を引き連れて、マスカレードウィッチの下へ飛び上がった。
『そうこなくっちゃ! こっちも行くよ、ウィッチ!』
『はい、アリス……! わたくしたちとしても格闘戦は望むところですからね……!』
『あ! 後、焔君! あたしのことは気軽にアリスって呼んでね!』
『わたくしのこともウィッチで良いですよ』
するとマスカレードウィッチは複数の魔法の弾丸を放ちながら、自らも高所の利点を捨てて建物から飛び降りた。
そして魔法の弾丸が影分身を撃ち抜いて行く中、空中でブラッドマーズとマスカレードウィッチが激突した。
「くっ……! アリスたちは本当に強いね!」
「ええ! 本当にとんでもないわ!」
『よっと! そう言う焔君たちもね!』
『はい……! 素晴らしい素質です……!』
二機はお互いの杖をぶつけ合いながら、機体のスラスターや建物の壁を利用して体当たりや蹴りなどを繰り出し、空中で激しい格闘戦を繰り広げた。
そしてお互いに突き飛ばす形で、それぞれ少し離れた場所に降り立った。
『ウィッチ! あたしたちもギアを上げて行くよ! 光の魔法よ!』
『はい、アリス……! 闇の魔法よ……!』
『『マジカルスキル! マスカレードバースト!』』
マスカレードウィッチはマスカレードロッドを振って光の魔法陣と闇の魔法陣を発生させると、それを重ね合わせることで光と闇の相反する二つの力を持ったビームを発射した。
中継で見た魔法だ……!
「マーズ! こっちも全力で行くよ!」
「ええ、焔君! 合体マジカルスキルね!」
「「合体マジカルスキル! マーズバースト・
それに対してブラッドマーズは炎の盾と火の魔力が込められたビームを合体させた、爆炎を纏った巨大なビームを放った。
そしてお互いの魔法がぶつかり合い、
「ーーッ!?」
「私たちの合体マジカルスキルと互角だなんて!?」
アリスたちの魔法の練度の高さはまさかこれ程までのものだったなんて……!もはや底が知れなかった。
しかもアリスたちは中継でこの魔法を連打していた。
『さあ、どんどん行くよ!』
マスカレードウィッチは複数のマスカレードバーストを次々に放って来た。
不味い!?一つだけでも合体マジカルスキル並の威力があるのに……!?
「「マジカルスキル! マーズブラッドムーン!」」
ブラッドマーズはブラッドロッドの先端に、魔力の塊である巨大な赤い月を宿し、
アリスたちのこの魔法は実質的に追尾性能を持っている様に見えるくらいの軌道で放たれるので、こうして防御するしかなかった。実際に美月に教えて貰うまでは、自分も追尾性能を持った魔法だと勘違いしていた。
しかし、いくら最強のマジカルスキルであるフィールド魔法とは言え、合体マジカルスキル並の威力を持つ魔法の連打に押され、とうとう周りの建物と一緒に吹っ飛ばされた。
「ぐっ……!?」
「焔君!? 大丈夫!?」
「うん、何とか……! ねえ、マーズ! アリスとウィッチの魔法は本当に煌めき凄いよね!」
「ええ、本当に……! だけど私と焔君だって決して負けていないわ!」
アリスたちは本当に強かった。それこそ個人的な主観で言えば、美月たちや輝たちに匹敵するくらいだった。
「うん! だから俺たちの煌めきもアリスたちに見せるんだ! 行くよ、
「ええ、焔君! お姉ちゃんに任せなさい!」
「「——シンクロゾーン!」」
焔とマーズは、そんなアリスとウィッチと言う目の前に立ち塞がる大きな壁を乗り越える為に、シンクロゾーンを発動させた。
シンクロ率が百パーセントのその先へと至ったことで、人間である焔の赤い瞳にも、マーズの紫の色が混じり合った。
文字通り二人で一つの存在となった焔たちは、再びブラッドマーズを突撃させた。
それを見たアリスが興奮した様子で声を上げた。
『キラキラな魔法だー☆ これが
『気持ちは理解できますが……
『残念……。 それなら、ウィッチ! 今のあたしたちが使える最強の魔法で迎え撃つよ! 光の魔法よ!』
『はい、アリス……! わたくしたちの力を合わせますよ……! 闇の魔法よ……!』
『『マジカルスキル! マスカレードスペースタイム!』』
マスカレードウィッチはマスカレードロッドを両手で持つと、足元に巨大な光の魔法陣と闇の魔法陣を呼び出した。
そして二つの魔法陣を重ね合わせ、まるで時が止まった様にバトルフィールドの景色を灰色へと変化させた。
マスカレードウィッチの動きが加速し、ブラッドマーズの動きが鈍化する中、さらに今まで連打していたマスカレードバーストをこの空間に呼び戻した。
美月からその仕組みを教えて貰っていたとは言え、本当に規格外の魔法だ。
だけど……!
「「マジカルスキル! マーズブラッドムーン!
四方八方からマスカレードバーストが飛んで来る中、ブラッドマーズはブラッドロッドの先端に宿した巨大な赤い月を依代に、三日月の様な形をした巨大な星の鎌を作り出した。
そして
『やるじゃん! でもね!』
それを見たマスカレードウィッチはさらに無数の……それこそ十個以上のマスカレードバーストを同時に放って来た。まるで二大チャンピオンバディのネオンとネプチューンみたいだ……!
だからそんなアリスたちに勝つ為にも、もう一段進化するんだ……!
「「合体マジカルスキル! マーズファイア・
ブラッドマーズは炎の影分身を生み出すと、それを炎を纏った実体を持つ分身へと生まれ変わらせた。
合体マジカルスキル二つの同時発動。マジカルスキルを四つ同時に発動できる焔たちなら理論上は可能だったが、練習では一度も成功しなかった。だけどシンクロゾーンのおかげでこうして成功することができた。
そしてブラッドマーズはマーズファイア・陽炎の分身をマスカレードバーストの盾に使いながら、残っている分身と一緒にマスカレードウィッチの下へと突撃した。
『まだだよ! ウィッチ!』
『はい、アリス……! こっちも行きますよ……!』
『『——
するとマスカレードウィッチは変身魔法の様なもので、機体の姿を豪華な見た目へと変化させた。これはマジカルチェンジなのか……? いや、今はそれよりも……!
まるで強化フォームの様な姿となったマスカレードウィッチが、同じく見た目が変わったマスカレードロッドを構えながら、マスカレードスペースタイムによる家族を得た超スピードで突っ込んで来る。
ブラッドマーズも負けじと、マーズブラッドサイス・
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッーー!!」」
『『はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!!』』
マーズブラッドファイア・
そして全てを込めた一撃を放った両機は、お互いに背中を向けたまま足を止めた。
その結果は……。
「ぐっ……!?」
「焔君!?」
右腕ごとブラッドロッドが砕け散ったブラッドマーズがその場に膝をついた。
そして……。
『焔君、マーズちゃん、キラキラな魔法だったよ……。
『ええ、本当にお見事でした……』
マスカレードスペースタイムのまるで時が止まった様な灰色の世界が解除されると、マスカレードウィッチ本体もマジカルチェンジによる変身が解けた。
そしてマジカルバリアを破壊されて戦闘不能になったマスカレードウィッチがその場に倒れ伏した。
それを見たMCのステラがバトルの決着を宣言した。
『——決まったー☆ 勝者はミライトウキョウ校の七位で一年生の赤火焔君とマーズちゃんのブラッドマーズだー☆ 両者共に凄い魔法の撃ち合いだったけど、それを見事に制したのは焔君たちのW合体マジカルスキルだー☆ いや〜、本当に凄いバトルだったよー☆』
*****
「——お、焔たちが勝ったみたいだな! これで二回戦も突破したし、やっぱり今年の焔たちは一味違うみたいだな!」
「ああ、ネオンたちみてぇな相手に勝つなんて、焔たちも本当にやるじゃねぇか!」
観客席で焔たちの試合を見ていた美月の耳に、麗とウラノスの嬉しそうな声が聞こえて来た。
麗たちは二大チャンピオンバディとしての立場がある為、贔屓していると周りから見られない様に、表立って特定の個人の応援をしない様に気をつけている様だった。だけどやはり、従兄弟の焔たちの勝利には喜びを隠せない様だった。
その一方で、ネオンは周りの目など一切気にせず、同じ本物の魔女である美月の側にべったりとくっついていた。
今も美月の手を握ったまま隣に座っているのだが、どうやら何かを考え込んでいる様だった。
「あの……ネオンさん、どうかしたのですか……?」
「……ううん、何でも無い……。
「……?」
もしかしたらアリスたちのことだろうか?確かに自分たちと同じ本物の魔女に見えなくも無いが、美月も
するとネオンがふと話題を変えた。
「……そう言えば、そろそろ美月の二回戦の試合だね……。 頑張ってね、美月」
「そうそう♪ 二回戦も一回戦の時みたいにノーダメージでサクッと勝利しちゃなよ♪」
「うん! 私も応援しているからね、美月お姉ちゃん!」
その話題に乗っかる形で、ネオンの肩の上にいたネプチューンと、美月の隣に座っていたレイが声をかけて来た。
その応援を受けながら、美月は二回戦の準備をするべく立ち上がった。
「ネオンさんも、ネプチューンも、レイちゃんも、ありがとうございますわ。 ですが、二回戦の相手である小春とジュピターは一筋縄ではいかない相手ですわ。 だってわたくしたちのライバルですもの。 ね、サターン」
「はい、お嬢様。 僕たちも全力を持って挑みましょう」
すると少し離れた場所で両親の風花と良馬、それから病院の子供たちと先生たちと一緒に座っていた小春が、美月と同じ様に立ち上がった。
美月とサターン、小春とジュピター、これから二回戦でバトルする両者の目が合う。
「美月ちゃん! サターン! 美月ちゃんたちのライバルとしてあたしとジュピターは絶対負けないよ! そして見てくれた皆に夢と感動を与えられる……そんなバトルにして見せるからね! だってそれが
「う、うん……
「ええ! わたくしにはまだ、小春の様な確固たる夢はありませんが……それでもウィッチバトルが……メカニカルウィッチが大好きだと言う気持ちは誰にも負けませんわ! だから最高のバトルにして見せますわ!」
「はい! そしてお嬢様と僕が勝たせて貰う!」
*****
その後、小春とジュピターは応援に来てくれた彼女の両親と、病院の子供たちと先生たちと少し話をしてから行くと言った。
その為こうして美月とサターンは先に、バトルの準備をしに控え室へと向かっていた。
いつもなら控え室のある通路は、出場する選手たちやその関係者で人通りができている筈だった。
しかし珍しいことに、今は通路に誰もおらず、とても静かになっていた。
すると通路の先にある曲がり角から声が聞こえて来た。
「いや〜、ロボットの乗って戦うのも中々に面白かったな〜。 ね、
「——
「おおっと……! ごめん、ごめん、
「……全く、
現れたのはアリスとウィッチだった。
ぴょこんと生えたアホ毛の目立つウェービーロングヘアの金髪に、宝石の様に綺麗な
ロングヘアの明るい紫の髪に、仮面で目元を隠しているが、その隙間から宝石の様に綺麗な
見知らぬ相手の無い筈なのに、やはり不思議と美月は目を惹かれた。
「本当は美月ちゃんとサターン君ともバトルしてみたかったんだけどな〜」
「こればかりは組み合わせの問題なので仕方がありませんよ。 それにわたくしたちには他にもやるべきことがありますからね……。 ……と、噂をすればですね……」
するとアリスたちも美月たちに気づいた様だった。
アリスがこちらに向かって手を振ってくる中、そんな彼女の肩の上にいるウィッチは軽く会釈をして来た。
美月とサターンも軽く会釈を返しておいた。
——そして他に誰もいない通路で両者がすれ違った。
「——
「
「「ーーッ!?」」
アリスとウィッチの意味深な言葉に、美月とサターンは思わず足を止めて振り返った。
しかし視界に映る広い通路には、もうアリスたちの姿はなかった。
先程の意味深な言葉に加え、目の前で起こった現象に頭が混乱する中、美月は今すれ違った不思議な少女たちのことを思い浮かべなが思わず言葉を溢した。
「——アリス。 ウィッチ。 彼女たちは一体……?」