——一方その頃、観客席では。
「——こ、小春お姉ちゃん……! それからジュピターも……! 二回戦戦頑張って下さい! それと……私が体調を崩しちゃったせいで、一回戦の応援に行けなくてごめんなさい……!」
「もお〜、そんなの気にしなくて良いのに……。 舞冬ちゃんに大事が無くて本当に良かったよ」
「うん、小春ちゃんの言う通りだよ」
小春は車椅子に乗っている舞冬の視線に合わせる様にしゃがみながら、彼女の頭を優しく撫でていた。
舞冬は自身が体調を崩したせいで、他の子供たちも彼女を心配して、小春たちの一回戦の応援に行くのを中止にしたのをずっと気にしているらしかった。だけど病室で皆で中継を見ながら応援してくれたらしいので、小春とジュピターとしてはそれで十分だった。
そのまま小春は舞冬の相棒のウィンターへと声をかけた。
「ウィンター、舞冬ちゃんの体調はもう大丈夫なんだよね?」
「はい。 舞冬さんもこうして外出許可を貰うことができましたし」
「良かった! ねえ、舞冬ちゃん! せっかくこうして会場まで来れたんだから、そんなこと気にせずに、あたしとジュピターのバトルを見て元気になって欲しいな! 夢と感動を与えられる様にあたしたちも頑張るからさ!」
「は、はい……!」
すると舞冬の側にいた、同じく車椅子に乗っている春太と照夏と秋華、そしてそんな彼らの相棒たちであるスプリングとサマーとフォールが応援の声をかけて来てくれた。
「小春お姉ちゃん! ジュピター! 僕たちも応援しているからね!」
「ファイトだよ!」
「ああ! 俺もだぜ!」
「期待しているわよ!」
「うちも! うちも!」
「頑張れ」
「皆ありがとう! 皆の応援のおかげであたしたちは元気百倍だよ! あ、そうだ! 春太、舞冬ちゃんのことをちゃんと気にかけておくんだよ?」
「うん、勿論!」
小春は子供たちの応援に応えながら、春太に助言をしておいた。
春太が舞冬のことを意識しているのは小春も察していた。だって自分も別の相手にずっと意識を向けているのだから……。
それから小春は子供たちの引率として着いて来た四季先生とシーズンに声をかけた。
「それじゃあ四季先生、シーズン先生、皆のことをよろしくお願いします」
「ええ、任せて。 小春ちゃんたちも試合頑張ってね」
「はい。 応援していますよ」
「ありがとうございます!」
「が、頑張って来ます……!」
そして小春は立ち上がると、最後に母の風花と父の良馬に声をかけた。
「ママもパパも行って来ます!」
「ええ、小春もジュピターも頑張ってね。 それと前にも言ったけど……バトル自体は一応安全とは言え、学園での事件のこともあるし……くれぐれも気をつけるのよ?」
「そうだよ? 小春は元々病気だったんだから、くれぐれも無理はしないようにね?」
「もお〜、ママとパパは本当に心配性なんだから! だったらこの試合であたしたちの強さを見せて安心させてあげるよ! 行こ、ジュピター!」
「う、うん……小春ちゃん……!」
両親の心配性に痺れを切らした小春、ジュピターを肩の上に乗せて走り出した。
そして観客席を後にしようとすると、ポツンと離れた場所でマーキュリーと一緒にいた冬馬を見つけた。
「あ、冬馬! マーキュリー! 見ててね、あたしとジュピターの凄いところを!」
「フッ、期待している……」
「だけど相手は……いや、何でも無い……。 その……頑張れよ……」
マーキュリーはいつも通りだったが、冬馬の声は心なしかどこか暗かった。
毎年全国大会の時期になると、冬馬は勝負ごとでピリピリするからなあ……。
だからそんな冬馬を元気づけられる様に頑張らなければ。だって自分の凄いところを見せたい一番の相手は冬馬なのだから……。
*****
——『遺跡跡』のバトルフィールドにて。
『——さあ、全国大会高校生の部の二回戦☆ 続いての試合は、明日斗博士の娘で、ミライトウキョウ校の六位で一年生の黒土美月ちゃんとサターン君! そして、同校の十位で一年生の緑木小春ちゃんとジュピターちゃんのバトルだよ☆ 同じ学校同じチームメイト同士と言う、正に仲間でありライバルである両者のバトル……これはとても凄いバトルになる気がするよ☆』
美月の耳にMCのステラの選手の紹介をする声が聞こえて来た。
今回のバトルフィールドの『遺跡跡』は、周囲一体が深い森に囲まれており、そのあちこちに草木に飲み込まれた古い遺跡を模した建物が建てられており、美月たちが焔たちとペアを組んで、御影たちと歌たち相手に最初の学園リーグ戦でバトルした時もこれだった。
美月がふとその時のことを思い出していると、MCのステラのバトルの開始を宣言する声が聞こえて来た。
『それじゃあ皆お待ち兼ね☆ バトルスタートだよ☆』
「行きますわよ、サターン!」
「はい、お嬢様!」
バトル開始の合図を受けて、アークサターンの全身のスラスターに火をつけた。
遺跡跡は視界を遮る木々のせいで、最初から相手の姿が見えない上に見つけづらい。しかも足元も躓きやすくなっていてバトルしにくい。
そこで美月たちは視界がある程度開けており、比較的バトルしやすい遺跡のある場所を目指すことにした。きっと小春たちもそこに向かう筈だ。
そしてアークサターンが遺跡のある場所へと辿り着くと、案の定ゴーレムジュピターがほぼ同時に姿を現した。やっぱり予想通りだった。
そんなゴーレムジュピターもアークサターンやブラッドマーズやノーブルヴィーナスと同じく、全国大会用に改造が施されていた。
ゴーレムジュピターは機体のベース部分はそのままだったが、『ゴーレムランチャー
一回戦ではその圧倒的な防御力と火力で、ほぼ一方的に相手を殲滅していた。そのバトルスタイルは……。
『最初から全力で行くよ、ジュピター!』
『う、うん……小春ちゃん……! 行くよ……!』
『『簡易変形!
ゴーレムジュピターは両腕のゴーレムマルチシールドに内蔵されたビーム砲を九十度回転させて、銃口を相手に向けたまま機体の前方を守る様に盾を連結させ、さらに背中のゴーレムランチャー
そして身を固める様に腕と足を閉じてガッチリと構えることで、丸っぽい機体でありながら四角っぽいシルエットを作り出した。
『ドッカーン!』
実質的に固定砲台となったゴーレムジュピターが、両腕のゴーレムマルチシールドと背部のゴーレムランチャー
「サターン! 迎撃しますわよ!」
「了解です、お嬢様! 発射!」
こちらもアークサターンのアーク
お互いの超火力のビーム同士がぶつかり合ったことで大きな爆発を起こし、その余波で周りの古い遺跡を吹っ飛ばした。
「ーーッ!?」
そんな中、爆発の中から次々にビームが飛んで来た。
流石は
しかしそれは機体を重装甲にするついでに着いたもので、その一番の強みはあくまでも、小春たちのガッツを体現した防御力だ。
だからいくらパワーが互角でもこのまま撃ち合いをするのは不利……。
それならゴーレムジュピターの弱点である機動性に難があるのを突くだけだ。
「サターン! スピードを活かして小春たちの懐に飛び込みますわよ!」
「はい、お嬢様! 僕もそれが一番だと思います!」
アークサターンは全身のスラスターと武器のブースターに火を灯した。
そして固定砲台となったゴーレムジュピターからの攻撃を、美月の一手先の未来が見えるに魔力が見える目を使って躱したり、遺跡の瓦礫を盾にしたりしながら、その背後を取るように移動しながら距離を詰めて行く。
「くっ……! 速い!?」
「ま、不味いよ……小春ちゃん……!」
それに対してゴーレムジュピターも腰部と脚部のホバーユニットを使って機体を回転させることでそれに対応しようとしていたが、全然追いつけていなかった。
どうやら機動性も向上させようとしていたみたいたが、新しい武器と増加装甲が重過ぎて殆ど意味をなしていない様だった。
アークサターンも似た様な改造をして運動性が低下していたが、こちらは逆に追加のスラスターとブースターのおかげで、加速力に関しては寧ろ上がっていた。
そしてアークサターンは左腕のアークシールドに収納されているアークソードを展開した。
「このまま一気に行きますわよ、サターン!」
「はい、お嬢様!」
「「マジカルスキル! プラネットファイア! そしてマジカルスキル! サターンスラッシュ!」」
アークサターンは背中に炎の光輪を発生させると、その炎をサターンスラッシュに纏わせることで威力を増大させた。
『防ぐよ、ジュピター!』
『う、うん……やるよ、小春ちゃん……!』
『『マジカルスキル! ジュピターウォール!』』
それに対してゴーレムジュピターは、機体ごと地面に突き刺さると、盛り上がらせた地面に樹木を絡みつかせ自然の盾を作った。いつもよりも大きい。
だけどこっちもゴーレムジュピターの防御力を見越して撃ったのだ。
そしてプラネットファイアの力を受け取ったサターンスラッシュが、ジュピターシールドを破壊した。
*****
「きゃあっ!?」
「小春ちゃん!? そ、そんな……! ジュピターシールドが……!?」
ジュピターシールドが破壊されて、そのままゴーレムジュピターも吹っ飛ばされる中、ジュピターは焦りを募らせていた。
機体こそは大丈夫だが、今の余波で
しかも視界の先にいるアークサターンは剣と盾を合体させてアーク
「さ、サターンアークブレイクが来る……!?」
「ジュピター! あたしたちも最強のマジカルスキルで迎え撃つよ!」
「わ、分かった……小春ちゃん……!」
「「マジカルスキル! ジュピターゴーレムサモン!」」
ゴーレムジュピターはその場に踏み止まると、急いで両腕を地面に突き刺して、遺跡の瓦礫でできた巨人を呼び出した。
『『マジカルスキル! サターンアークブレイク!』』
それと同時にアークサターンが暴力的までの紫色の魔力の光を放って来た。
それを巨人に防がせるが、威力が高過ぎて全然受け止めきれない。
そしてそのままゴーレムジュピターは巨人ごと吹っ飛ばされた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ〜〜!?」
「小春ちゃん!?」
吹っ飛ばされたゴーレムジュピターがバトルフィールドの大きな川へと落ちた。
機体が川底へと沈みゆく中、ジュピターは不甲斐ない自分を責めた。
(小春ちゃんは機体を改造したり、いろいろな作戦を考えたりして……自分の夢であるチャンピオンバディに向かってこんなにも頑張っているのに……! 私が臆病なせいでいつも足を引っ張ってしまった……! 私は小春ちゃんの力になりたいのに……!
*****
——私は小春ちゃんが頑張る姿を、ずっとずっと側で見て来た……。
「——ジュピター。 どうか、もう直ぐ生まれて来る小春の家族として、姉妹として、そして相棒としてずっと一緒にいてあげてね?」
「小春のことは任せたよ、ジュピター?」
「うん! わたし、がんばるね! たのしみだな! こはるちゃんとあうのが!」
小春の両親は、風花が病気の身で中々子供に恵まれなかったこともあって、やっと授かった小春のことをとても大切にしていた。
だから気が早くなったのだろう。ジュピターも小春が生まれる前の早い段階から用意された。
小春の両親から、これから生まれて来る自分の相棒のことを聞かされたジュピターも、小春が生まれて来るのを今か今かと待ち望んでいた。本当に楽しみだった。
しかし……。
「——先生!! 妻と娘は!?」
小春は先天性心疾患により生まれた時から生死の境を彷徨っていた。
良馬の焦った声が聞こえて来る中、ジュピターはずっと待ち望んでいた自分の相棒が生まれて直ぐにこの世を去ろうとしている事実を知って、自我崩壊を起こしかける程の強い精神的なショックを受けた。
「う……あ……! いやあっ!?」
「ジュピター!? しっかりするんだ!」
結局、小春もジュピターも一命を取り留めることはできた。
だけどそれで万事解決とはいかなかった。これはあくまでも長い闘病生活の始まりでしかなかった。
「——ジュピター! あたし、早く病気を治してお外で遊べる様になりたいんだ!」
小春も初めは、生まれ持った明るい性格により、幼い身でありながらも病気にめげずに頑張っていた。
「——どうしてあたしは皆みたいに遊べないんだろう……」
それでも長い闘病生活の中で、その明るさは徐々に失われていき、次第にストレスを溜めるようになっていった。
「——どうせ病気のあたしにはできないもん……」
そしてとうとう全てを諦める様になってしまった。
だけど……。
「——それならさ! ウィッチバトルはどうかな?」
ある日偶然、小春と出会った冬馬が、彼女の明るさを取り戻すキッカケを作ってくれた。
「——お願い、ジュピター! あたしはジュピターと一緒に、きららさんたちみたいなチャンピオンバディになりたいの!」
「……! わ、分かった……! それが小春ちゃんのやりたいことなら……
冬馬がきららたちのことを教えてくれたおかげで、小春はきららたちみたいな夢と感動を与えられるチャンピオンバディになりたいと言う夢を見つけた。
「——冬馬君! あたし、手術頑張るよ! この病気を治して、元気な体で皆と遊べる様になりたいから! そして、今度はあたしが冬馬君の様に、病気で苦しんでいる子たちにウィッチバトルの楽しさを教えられる様になるよ! あたしのヒーローみたいにさ!」
そして小春は自身が冬馬にして貰った様に、病気で苦しんでいる他の子たちの為に頑張る様になった。
——小春ちゃんは自分だって病気で苦しい筈なのに、いつも他の誰かの為に頑張っていた……。 本当凄いと思った……。 それなのに私は小春ちゃん為に頑張るので精一杯だった……。 他の誰かに目を向ける余裕なんて無かった……。 でも……それすらもちゃんとできていなかった……。 私は小春ちゃんの相棒なのに……!
*****
(——くっ……! 美月ちゃんとサターンは本当に凄いよ……! だけどあたしとジュピターだって……!)
川の中に向かって容赦なく飛んでくるアークサターンからの攻撃をゴーレムジュピターに防御させながら、小春は逆転の糸口を必死に考えていた。
するとコックピット内にいるジュピターのホログラムが、急に泣き始めた。
「うぅ……ぐすっ……ごめんね……小春ちゃん……!」
「ジュピター? どうしたの? 泣かないで?」
「だって……! 小春ちゃんは病気の子供たちの為に頑張って……スタースピリットとワールドユニオンから美月ちゃんを守る為に頑張って……いつも他の誰かの為に頑張っていたのに……! 小春ちゃんの為に頑張るので精一杯だった私は、いつも足を引っ張ってばかりだった……!
悩み苦しんでいるジュピターの姿を見た小春は、バトル中だと言うことを一旦思考の隅に投げ捨てた。
そしてジュピターを宥める様に、自分の両手で優しく包み込んだ。ホログラムだから触れられないけど、そんなことは関係なかった。
「……そんなことないよ? ジュピターはいつだって私の力になってくれていたよ? それに他の皆の為にも頑張っていたよ?」
「私が……? 本当に……?」
「本当だよ……! だから舞冬ちゃんたちはあたしだけじゃなくて、ジュピターのことも応援してくれているんだよ? それにね、ジュピターだってスタースピリットとワールドユニオン相手に怖がりながらも、逃げずに立ち向かえていたよ……!」
ジュピターだってちゃんと皆の為に頑張っていた。それは紛れもない事実だった。
自分が病気でずっと心配させてばかりだったせいで、ジュピターは臆病な性格になってしまった。自信が持てないくらいに気を小さくしてしまった。
だからそうさせてしまった自分がちゃんと伝えなければならなかった。それからジュピターの相棒である自分が……。
それともう一つ、伝えなければならないことがあった。
「——ジュピター、
「私も一緒に……?」
「……うん。 ジュピター、あたしはね……あの日見たきららさんたちみたいな夢と感動を与えられるチャンピオンバディになりたいの……。 冬馬にその夢のきっかけを作って貰ったみたいに、あたしも他の誰かにそうしてあげられるようになりたいの……。 そしてその夢を、ジュピターと一緒に世界で一番の相棒であるチャピオンバディになることで叶えたいの!」
「……!!」
それが小春が、自分とジュピターの二人で叶えたいと願った夢だった。
「私にも……できるかな……?」
「できるよ! だってジュピターは、あたしの家族で、姉妹で、そして世界で一番の相棒なんだもの!」
「……!! うん! そうだね! 私、頑張るよ!
ジュピターは自分たち二人の夢に応えてくれた。
だから小春は、そんなジュピターと一緒にライバルである美月たちに勝つ為に、そしてこの試合を見てくれている両親や病院の子供たちと先生たち、そして冬馬たちに夢と感動を届ける為に、自分の世界で一番の相棒へと呼びかけた。
「——さあ、ジュピター! あたしたちの夢を皆に届けるよ!」
「うん、小春ちゃん……! 一緒に行こう……!」
「「——シンクロゾーン!」」
お互いを心から信頼し合った小春とジュピターは、ライバルである美月たちの強さと、自分たちの夢を叶えるまでの果てしない道と言う、目の前に立ち塞がる大きな壁を一緒に乗り越える為に、限界を超えた。
シンクロ率が
文字通り二人で一つの存在となり、一心同体、人機一体となったゴーレムジュピターが、川底の中でまるで生まれ変わった様に動き出した。
「「——皆に届け、あたし(私)たちの夢!」」