——全国大会八日目。
「——冬馬……!」
「ーーッ!? マーキュリー……?」
マーキュリーの声で冬馬はハッと意識を取り戻した。
「トーナメント表を見てボーッとしていたぞ。 四回戦の相手が気がかりなのは理解できるが……そんな調子では三回戦を落としてしまうぞ……」
「分かってる……分かってるけど……!」
冬馬がふと昔のことを思い出していたのは、マーキュリーの指摘したことが原因だった。
冬馬たちの四回戦の相手になるのは、今日の自分たちの三回戦の試合の一個前に行われる、美月とサターン対夏凛とジェミニたちの試合の勝った方だった。
(美月さんたちにも……夏凛たちにも勝てるイメージが湧かない……!)
夏凛たちの方は言わずもがな。夏凛たちに勝ったのは、夏凛と千秋がバラバラにバトルしていた時だけで、二人が一緒にバトルすれば良いと自分がアドバイスをして以来、一度も勝てた試しがなかった。
そんな夏凛たちは、小学四年生の時に全国大会で優勝して以来、中学一年生の時に
つまり小学生チャンピオンバディ三期並びに中学生チャンピオンバディ二期の記録を持っていた。まだ一度も全国大会で優勝したことがない自分とは違って……。
その一方で美月たちは、ジュニアリーグの小学生の部と中学生の部の大会参加記録は無かった。しかし以前リンから聞いた過去の通り、一時期の間しかバトルしなかったにも関わらず、あの
そんな美月たちと出会ったことで、自分たちの最初のライバルである焔たちは急成長を遂げ、シンクロゾーンへと至り、前代未聞の合体マジカルスキルまで生み出した。しかしそれでも美月たちと引き分けるのが限界だった。また小春たちも先の試合でシンクロゾーンに至ったにも関わらず、それでも美月たちに敗れてしまった。
そんな中、シンクロゾーンにまだ至れない自分なんかが……いや仮に、至れたとしても勝てる気がしなかった。
(焔……)
目の前に立ち塞がる大きな壁を前に思考が憂鬱になる中、冬馬はまだ勝ち残っている焔たちの対戦相手を見た。
焔たちの次の相手は
焔たちの最初の学園リーグ戦の相手であり、タッグマッチと言う条件ではあったものの、
そして自分たちが夏凛たちに一度も勝ててない様に、焔たちがまだ一度も勝てていない相手でもあった。
それにもし焔たちが歌たちに勝てたとしても次の相手は……。
冬馬は心配する様に自分の最初のライバルの名前を口にした。
「焔……」
*****
『——さあ、全国大会高校生の部の三回戦☆ 続いての試合は、ミライトウキョウ校の七位で一年生の
MCのステラの選手の紹介をする声が聞こえて来る中、『氷海』のバトルフィールドにブラッドマーズが立っていた。
今回のバトルフィールドの『氷海』は、大半が海を再現した水中に沈んでおり、一応は地上戦用の足場となる氷があちこちに浮いてはいるが、不安定で壊れやすいので、必然的に水中戦を強いられる上級者向けのステージになっていた。焔たちはバトルしなかったが、二大チャンピオンバディの海姫ネオンとネプチューンとのエキシビジョンマッチの舞台もこれだった。
そしてバトル開始の時刻となったことで、MCのステラがバトルの開始を宣言した。
『それじゃあ皆お待ち兼ね☆ バトルスタートだよ☆』
「マーズ! 今日こそ歌先輩たちに勝つよ!」
「ええ、焔君! リベンジするわよ!」
バトル開始の合図と同時にブラッドマーズが全身のスラスターに火をつけて飛び出した。いつも通りの先手必勝だが、今回はいつも以上に重要だった。
それは今回のバトルフィールドが、歌とピスケスのマーメイドピスケスが一番得意とする水中戦ステージである為、まだ水中に潜っていない上に、最初から姿が見えている今のうちに決める必要があったからだった。
しかも時間を与えれば最強のマジカルスキルであるフィールド魔法を発動されてしまう。
だから……!
「「マジカルスキル! マーズファイア!」」
ブラッドマーズはブラッドロッドを構えると、追尾性能を持つ蝙蝠の形をした赤い炎を放った。
それに対してマーメイドピスケスは水中に逃げることなく、五つのマーメイドスフィアを展開した。
『焔君! マーズちゃん! あなたたちとこの全国大会の舞台でバトルするのを楽しみにしていましたよ!』
『ええ、だけど……私と歌もそうやすやすと負けるつもりはないわ』
『はい! だから焔君たちにいろいろ教え込んだ師匠の一人として、私とピスケスはあなたたちの目の前に立ち塞がる大きな壁になりましょう! ピスケス!』
『ええ、歌!』
『『マジカルスキル!
マーメイドピスケスは機体の周りに水蒸気による炎の盾を展開すると、その熱でマーズファイア燃やし尽くした。
「熱ッ!?」
「焔君!?」
さらに広がった水蒸気はブラッドマーズ本体をも包み込み、その熱で燃やそうとして来た。
それだけではない。
「足場が……!?」
「しまっ……!?」
バトルフィールドの足場となる氷がその熱によって溶かされた。
ブラッドマーズはそのまま水中へと落下した。
「まだだ……!
「ええ! 一気に行くわよ、焔君!」
「「マジカルスキル! マーズブラッドサイス!」」
ブラッドマーズは機体を燃やそうとしていた熱を、ブラッドウィングに吸収させ、その残りを水中にいるのを利用して消すと、ブラッドロッドの先端に血の様な赤い鎌を作り出した。
水中で動きは鈍くなっているが、幸いにもマーメイドピスケスとの距離は近い……!
『甘いですよ! 私たちだって、近距離戦闘はできるんですから! ピスケス!』
『ええ、見せてあげましょう、歌!』
『『マジカルスキル!
マーメイドピスケスは氷の槍と盾を生み出してそれを装備すると、ブラッドマーズの攻撃を真正面から受け止めた。
そして歌たちはそのまま、近距離戦闘でも焔たちを圧倒し始めた。
今のマーメイドピスケスは機体本体のギミックにより、腰のスカートで両足を包んで人魚の姿になることで、地上にいた時はまるで別物の動きになっていた。
「くっ……!?」
マーメイドピスケスによってブラッドマーズが突き飛ばされた。
歌たちの目的はこの近距離戦闘で勝つことじゃない。あくまでもフィールド魔法を発動する時間を稼ぐ為に、追いかけて来れない様にすることだ。
だから絶対にここで逃す訳にはいかない。
「「マジカルスキル! マーズバースト!」」
ブラッドマーズは左手のブラッドステッキをマーメイドピスケスへと向けると、火の魔力が込められたビームを放った。
「「マジカルスキル!
しかしマーメイドピスケスは発生させた水柱の中を泳ぎ、さらにそのスピードを増すことで、その攻撃をアッサリと回避した。
しかもそれと同時に一気に水中の奥深くへと潜って行く。このままでは逃げられる……!
焔たちは急いでブラッドマーズを水中の奥深くへと潜らせるが、やはり動きが鈍い。
そしてモタモタしている間に、水底に巨大な魔法陣の光が発生した。
『『マジカルスキル!
水底からマーメイドピスケスの分身たちが次々に浮上して来る。
不味い。フィールド魔法の発動を防げなかった。
しかも歌たちのフィールド魔法は、水の魔力があれば無限に実体を持つ分身を生み出し続けられるものだった。
そんな相手に水中戦を挑むなど、勝ち目が無いに等しいが、それでも地上戦用の足場となる氷を全て溶かされた以上、やるしかなかった。
「マーズ! こうなったら合体マジカルスキルで迎え撃つよ!」
「分かったわ、焔君! それしか方法はないものね!」
「「マジカルスキル! 幻影の炎!
ブラッドマーズは炎の影分身を、炎を纏った実体を持つ分身へと生まれ変わらせた。
そしてそのままドローン武器を操る要領でマーメイドピスケスの分身たちを迎撃させる。
『そうは行きませんよ!! この前のビーチエキシビジョンマッチでも見せましたが、私とピスケスだって合体マジカルスキルを使える様になったんですから!! こっちも行きますよ、ピスケス!!』
『ええ、歌! まずは
『『
するとマーメイドピスケスの分身たちが次々に氷の武器を装備していった。
『『合体マジカルスキル!
氷兵となった分身たちが、マーズファイア・
やはり水中戦では分が悪い……!それなら……!
「「マジカルスキル! 爆炎の盾!
ブラッドマーズは今度は炎の盾と火の魔力が込められたビームを合体させた、爆炎を纏った巨大なビームの剣を剣を生み出した。
そしてそれを使って遠距離から一方的に氷兵となった分身たちを切り裂いて行く。
『やりますね!! ですがこれならどうです!!』
『次はあれね!』
『『
すると水中から再びマーメイドピスケスの分身たちが生み出され、今度は水蒸気になることで霧の様な存在へと変化した。
『『合体マジカルスキル!
気体となったマーメイドピスケスの分身たちは、マーズバースト・
物理的に倒し辛くなっている……!しかも接近を許してしまった……!こうなったら……!
『『マジカルスキル! マーズブラッドムーン!』』
ブラッドマーズは今度はブラッドロッドの先端に、魔力の塊である巨大な赤い月を宿した。
そしてその
自分たちのこのフィールド魔法は、以前歌たちとの学園リーグ戦でも、相手のフィールド魔法の効果を乱して実質的に解除に至らせたものだった。
だからこの状況から歌たちに勝てるとすればこの魔法しかなかった。
しかし……。
『無駄ですよ、焔君!! マーズちゃん!! 以前の学園リーグ戦で、私たちのフィールド魔法が焔君たちのフィールド魔法によって破られてから、私とピスケスはずっとその対策を考えて来たんですから!! ピスケス!!』
『ええ、歌! 目にもの見せてやりましょう!』
『『
すると水中から再びマーメイドピスケスの分身たちが生み出されると、その全てが美月の柱を身に纏い、巨大な渦を描く様に水中を泳ぎ、巨大な大嵐を巻き起こした。
不味い。マーズブラッドムーンの効果範囲が狭い弱点を突いて、その効果範囲外からバトルフィールド全体に作用する攻撃を放たれてしまった。
一応自分たちもフィールド魔法をちゃんと貼れる様にはなっていたが、そうしたら範囲は広くない分強力と言う長所が消える上に、練度差で絶対に押し負けてしまう。
「くっ……!? やっぱり歌先輩とピスケスは煌めき強いや……!」
「ええ、本当に……! だけど焔君もまだ諦めていないんでしょう?」
歌とピスケスは本当に強かった。
最初の学園リーグ戦の時に最後の最後で届かなかったのを皮切りに、特訓を合わせて今まで一度も届かなかった相手だった。
それでもマーズの言う通り、何度負けても勝つことを諦めたりなんかしなかった。
だから今回こそは……!
「勿論! だから今度こそ、そんな煌めく強さを持つ歌先輩たちに勝って見せるんだ! その為にももっともっと限界を越えよう!
「ええ、焔君! お姉ちゃんに任せなさい!」
「「——シンクロゾーン!」」
焔とマーズは、そんな歌とピスケスと言う目の前に立ち塞がる大きな壁を乗り越える為に、シンクロゾーンを発動させた。
シンクロ率が百パーセントのその先へと至ったことで、人間である焔の赤い瞳にも、マーズの紫の色が混じり合った。
文字通り二人で一つの存在となった焔たちは、歌たちに勝つ為に、合体マジカルスキルをさらに進化させた。
「「
歌たちに勝つ為には、フィールド魔法の威力を凝縮させたマーブルブラッドサイス・
だからマーズブラッドムーンを宿しているブラッドロッドからさらにマーズファイアを発動して、その威力を増大させた。
さらに……。
「「
空いているマーズステッキをマーズブラッドムーンへと向けて、マーズバーストを放った。
そしてマーズブラッドムーンを核に、三種類の炎が合体することで太陽の如き赤い月が完成した。
「「合体マジカルスキル! マーズブラッドムーン・
『三つ合体!?』
『嘘でしょ!?』
三つのマジカルスキルの融合を見た歌たちが驚愕の声を上げる中、太陽となった赤い月が、その規格外の炎でマーメイドピスケスの分身たちごと、バトルフィールドの水を一気に蒸発させた。
そしてそれにより水場を失ったマーメイドピスケスが、強制的に地上へと打ち上げられた。
このまま一気に決める……!
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッーー!!」」
『トリプル合体マジカルスキルを作り出すなんて、焔君もマーズちゃんも本当にお見事です!! ですが私とピスケスも直ぐに追いついて見せますから!! 追い越して見せますから!!』
『歌!? くっ……!? 次は絶対に負けないわ!』
歌たちは太陽となった赤い月に飲み込まれながら、最後にそう叫んでいた。
そして歌たちのマーメイドピスケスも、そのままマジカルバリアを破壊されて戦闘不能になった。
それを見たMCのステラがバトルの決着を宣言した。
『——決まったー☆ 勝者はミライトウキョウ校の七位で一年生の赤火焔君とマーズちゃんのブラッドマーズだー☆ 合体マジカルスキル同士の撃ち合いを制したのは、何と焔君たちのトリプル合体マジカルスキルだー☆ 焔君たちは一体どこまで進化すると言うのかー☆ これは焔君たちの次の試合も要注目だね☆』
*****
「やったー! 焔たちの勝ちだー! しかもトリプル合体マジカルスキルなんて本当に凄い、凄ーい! ね、ジュピター!」
「う、うん……小春ちゃん……! 私たちももっと頑張らないとね……!」
「いや〜、歌さんとピスケスも勿論凄かったけど、焔とマーズはもっと凄かったな! もはや俺でも焔たちの進化の予測が難しくなって来たぜ!」
「だな! これはひょっとすると……焔たちはこのまま本当に高校生チャンピオンバディになっちまうんじゃねぇか?」
観客席で焔たちの試合を見ていた美月の耳に、小春とジュピター、それから
小春は幼馴染で、麗は従兄弟なのもあって、焔たちの勝利をとても喜んでいた。
だけど今回はそれ以上に嬉しそうな声が聞こえて来た。
「ハッ! あの歌とピスケスに勝つなんて、焔とマーズは本当にやるじゃねえか! 流石は
「ああ、
「当然だぜ! 勝つのは俺様とレオだからな!」
焔たちの一個前の試合で勝利していた王牙とレオは、四回戦の相手が焔たちに決まったことで、メラメラと闘志を燃やしていた。
焔たちの次の対戦相手の王牙たちは、美月たちの学園リーグランキング三位で去年の全国大会高校生の部の三位だ。きっと一筋縄ではいかないだろう……。
美月がそんなことを考えていると、隣に座っているネオンとその肩の上に乗っているネプチューンが声をかけて来た。
「……ん。 そろそろ美月の三回戦の試合だね……。 この調子で頑張ってね、美月」
「相手は確か……現在の中学生チャンピオンバディの子たちなんでしょ? まあでも、美月たちが不在の上での話だし、この際その称号をサクッと取り返しちゃいなよ♪」
「アハハ……簡単に言わないで下さい……。 でも精一杯頑張ります。 ね、サターン」
「はい、お嬢様」
ネプチューンの相変わらずの言いように、美月は苦笑いをしながらも、そう言えば今日はまだレイが来ていないことを思い出した。
そこでレイの叔父に当たる輝とヴィーナスに尋ねてみた。
「そう言えば輝先輩……レイちゃんは……?」
「ああ、それが姉さんから、今日は人混みが多くて遅れるって連絡が来てね……。 今日は美月さんたちと中学生チャンピオンバディの双子坂さんたちの試合があるから、皆注目しているんだよ」
「はい。 ですがレイは方向音痴なところがあるので、また迷子になっていないと良いのですが……」
確かに四月に起きたメカニカルウィッチ研究所でのテロ事件の際も、レイは母親の
だけど三回戦の準備がある為、レイのことは輝たちに任せて、美月はサターンと一緒に観客席を後にすることにした。
するとポツンと離れた場所でマーキュリーと一緒にいた冬馬と目があった。
「あ、冬……」
「ーーッ!?」
美月が思わず声をかけようとすると、冬馬は目を逸らしてそのまま何処かに行ってしまった。
この前のビーチエキシビジョンマッチ以降、美月は冬馬から避けられている様な気がしていた。
(ど、どうしよう……! 私……冬馬に何かしてまったんでしょうか……?)
友達に嫌われたかもしれないと言う不安で、美月が泣きそうになっていると、背後からバタバタとした足音が聞こえて来た。
「美月ちゃん! サターン! 見つけたんよ!」
美月が振り返ると、そこには夏凛と千秋とジェミニたちがいた。
急に声をかけられたことで、美月が慌てて人間人格のお嬢様口調へと切り替えようとする中、夏凛たちはそのまま宣戦布告をして来た。
「美月ちゃん! サターン! 前にも言ったけど、次の試合で、うちらの世代の幻の王者である美月ちゃんたちに勝って、名実共に今の一年生世代最強を名乗らせて貰うんよ!」
「ああ、中学生チャンピオンバディである夏凛と俺とジェミニたちの強さを見せてやるで!」
「「いざ、尋常に勝負なのですー!」」
——そしていよいよ、今の一年生最強を決める、美月たちと夏凛たちのバトルが始まろうとしていた。