——うちと千秋にとって冬馬は、勉強も運動もどっちもできて、物知りでウィッチバトルの楽しさを教えてくれた、憧れやった……。 うちはそんな冬馬に、うちの凄いところを見て欲しかった……。 もっともっと、褒めて欲しかった……。
「——これがウィッチバトルのカッコよさなんだ! どう? 興味出た?」
「わあ〜〜!! うちも……うちもウィッチバトルやってみたい! そしてうちもチャンピオンバディになりたい!」
「俺もや! めっちゃ面白そうやんけ! 俺もこんな凄い機体を作ってみたい!」
夏凛と千秋の双子の姉弟とは、従姉弟の関係だった冬馬は、五月生まれの自分たちよりも遅い一月生まれで、順番的には一番下の弟だった。しかし幼いながらも物知りなこともあり、気づけば一番上の兄の様に慕っていた。
「冬馬〜! ここ教えて〜! 千秋の説明じゃ全然分からん〜!」
「いや、夏凛……。 ここめっちゃ基礎の基礎やんけ……。 これ以上どう教えれば良いんや……」
「アハハ……大丈夫だよ、僕に任せて! それにしても夏凛は本当に頑張り屋さんだね!」
自分は勉強に関しては本当にお手上げで、千秋も呆れる程だったが、それでも冬馬はいつも根気強く丁寧に教えてくれた。とても優しかった。
「冬馬〜! 一緒に遊ぼ〜! 千秋はもうへばってしまったんよ〜!」
「ハァ……ハァ……。 いや、夏凛が……ハァ……めっちゃ体力お化けな……ハァ……だけや……」
「アハハ……大丈夫だよ、僕はまだまだ行けるから! それにしても夏凛は本当に凄いね!」
自分は運動に関しては大の得意で、千秋は勿論、実家の老舗旅館『双子坂』で働く大人でもついて来れない人たちがいる中、冬馬は根性でついて来てくれていた。それがとても嬉しかった。
「……それならさ、千秋が作った機体で夏凛とジェミニたちがバトルするのはどう?」
「「それや!」」
「俺の機体で……」
「うちとジェミニたちがバトルすれば……」
「「チャンピオンバディになれる!!」」
「「ですー!」」
それから六歳になって、待ちに待った冬馬とマーキュリーとの、初めてのウィッチバトルでうちと千秋とジェミニたちが負けな時も、そう優しくアドバイスしてくれた。
そしてそんな冬馬からのアドバイスを元に、千秋とジェミニたちと一緒に強くなる為に努力を重ねた。
そんな中、千秋は「夏凛が使いたい機体を作る」と、言ってくれたので、迷わず「憧れである冬馬たちみたいなのが良い!」と、答えておいた。
「くっ……!」
「……すまない、冬馬……」
「冬馬! マーキュリー! これがうちらの憧れである冬馬たちを参考にした機体とバトルスタイルや! 凄いやろ! もっと褒めて!」
「「あのアドバイスのおかげで、ジェミニたちはののまで強くなれたのですー!」」
そして頑張った甲斐もあって、ジュニアリーグの全国大会小学生の部と言う大舞台で冬馬に勝つことができた。それがとても嬉しかった。冬馬はきっと凄いと褒めてくれるだろうと思った。
だけど冬馬は褒めてくれなかった。涙をボロボロと溢していた。それでも立ち上がって言ってくれた。
「ぐすっ……
「フッ、俺も冬馬の為に頑張らねばな……」
「勿論、受けて立つんよ! だけどうちらも、もっともっと強くなって、もっともっと凄いところを見せたるからね!」
「「見せるのですー!」」
冬馬は負けて尚、カッコよかった。やっぱり自分たちの憧れだった。
だからそんな冬馬たちに負けない様に、自分たちも負けずに努力することにした。
それから冬馬たちとは、ミライトウキョウに住む彼らが長期休暇でレキシキョウトにある実家の老舗旅館『双子坂』に帰省した時や、全国大会の舞台で当たった時に何度もバトルすることになった。
その度に冬馬はどんどん強くなっていったが、自分たちも負けじと強くなった。
それから小学二年生、三年生となる中、冬馬たちは何度負けても、何度でも追いつこうとしてくれた。
だけど四年生の時に自分たちが小学生チャンピオンバディになったのを皮切りに、冬馬たちは変わってしまった。
昔の様な明るく元気な性格では無く、大人びたクールな性格になってしまった。それだけでは無く、昔の様に褒めてくれなくなった。
(冬馬……どうしてしまったんよ……?)
五年生、六年生、それから中学生になっても冬馬は元には戻ってくれなかった。むしろどんどん余所余所しくなってしまった。
全然電話にも出てくれなくなった。メッセージも短いのしか返してくれなくなった。長期休暇で実家の老舗旅館『双子坂』に帰って来ても、あまり顔を合わせてくれなくなった。それがとても悲しかった。
「……なあ、千秋。 冬馬はどうしてしまったんやろうか……? うちは何かしてしまったんやろうか……?」
「そうやなぁ……冬馬は今ちょっと、俺らに負け続きで足踏みしてしまっているんやろうなぁ……」
「じゃあうちはどうすれば良いん……? 負ければ良いん……?」
「それはアカン。 その選択は冬馬を一番傷つけてしまう……。 だから俺らにできるのは、
そのことを相談したところ、千秋はそう言ってくれた。
だから夏凛もそうすることにした。
「うん! せやな! だって冬馬はうちらの憧れやもんな! それならうちも、
「おう!」
「「勿論なのですー!」」
——うちは信じてる……冬馬ならきっとまたもう一度立ち上がって、絶対に追いついて来てくれると……。 だからうちは、チャンピオンバディになりたいと言う同じ夢を持つ冬馬たちのライバルとして、千秋とジェミニたちと一緒に先に進むって決めたんや! その姿を見せればきっと冬馬も……! そしてどうか願わくば、もう一度昔の様に……!
*****
「「「簡易変形! アクエリアスモード! そして、マジカルスキル!
デュアルジェミニは双子丸に搭載していた『
さらに水瓶ノ瓶から発射した無数のビームの弾丸を槍の形へと変化させ、流石にオート操作ではあるもののドローン武器の様に操る形で射出した。
これはカガクアイチ校の一位のレインアクエリアスと同じ武装とマジカルスキルで、元になった『アクエリアスレインサウザンド』は、貫通力を持つ無数の槍を一斉に放つ魔法で、本来なら防御も回避も難しい筈なのだが……。
『『マジカルスキル! プラネットダーク! そして、マジカルスキル! サターンアークブレイク!』』
アークサターンは全身に黒い炎を纏わせると、胸部の装甲の一部を展開させ、内部にあった魔石を露出させ、さらに背中のアーク
その状態でさらに、美月たちの最強のマジカルスキルと噂される魔法を発動させることで、暴力的なまでの紫色の光が槍の雨を消し飛ばした。
「くっ……!?」
さらにその余波がデュアルジェミニにも降りかかって来た。アクエリアスモードのスピードのおかげで致命傷は回避できたが、その代償として武装が壊れてしまった。
今の自分たちがバトル中に完璧に使いこなせる
今の攻撃で、千秋が用意したとっておきであるリブラモード、アリエスモード、サジタリウスモード、アクエリアスモードの四つの武装を失ってしまった。これが噂のシンクロゾーン……!
(これが美月ちゃんたちの強さ……!)
自分たちの世代の幻の王者と言われた美月の強さは予想以上だった。もはや一年生最強どころでは無い。
まだ夏凛たちがバトルしたことが無い現在の高校生チャンピオンバディの輝とヴィーナスを除けば、自分たちが今までバトルして来た相手の中では一番の強さだった。つまり今の高校三年生まで含めた同世代最強だった。なんならプロにも匹敵する強さだった。
「夏凛ー! ジェミニーたち!」
(千秋……?)
「まだや! ここからが本番やで! 俺と夏凛とジェミニたちの絆の力を見せるんやー!」
するとそんな夏凛の耳に、バトルフィールドへと繋がる選手用の通路にいる千秋の大声が聞こえて来た。
双子の弟の千秋は、自分の半身の様な存在だった。
立場的には弟だったが、いつも姉の自分の面倒をいろいろと見てくれた。
そしてこうして自分たちの為に最強の機体を作ってくれた。
相棒のジェミニたちは、祖母の花見が用意した存在だった。
最初はマーキュリーの様にお目付役として大人びた性格だったが、自分が何度も遊びに誘う内に子供の様なお茶目な性格になり、いつの間にか四つ子の兄弟姉妹の様な関係になっていた。
そしてこうして自分と一緒にバトルしてくれた。
「せやな! うちらは四人で最強やもんな!」
「「その通りなのですー!」」
美月たちは久しぶりの格上の存在だったが、夏凛の心は折れることなく、寧ろ燃え上がっていた。
だって自分たちなら絶対に乗り越えることができると信じているから。
だから夏凛は、そんな美月たちに勝つ為に、そして冬馬たちに自分たちのもっと凄いところを見せる為に、今ここにいる世界で一番の相棒たちと、離れた場所にいる自分の半身へと呼びかけた。
「——さあ、ジェミニたち! それから
「ああ! 行け、夏凛! ジェミニたち!」
「「今こそ限界を超える時なのですー!」」
「「「「——シンクロゾーン!」」」」
お互いを心から信頼し合った夏凛と千秋とジェミニたちは、明確な格上である美月たちの強さと言う、目の前に立ち塞がる大きな壁を一緒に乗り越える為に、限界を超えた。
シンクロ率が
文字通り四人で一つの存在となり、一心同体、人機一体となったデュアルジェミニは、憧れである冬馬たちを参考にした
腰の大きな着物の帯の様な物を大型の弓の『
「「「マジカルスキル!
*****
「ーーッ!? アーク
美月の一手先の未来が見える目でも追いきれない動きとなったデュアルジェミニの狙撃によって、アークサターンのアーク
「それにこの動きはシンクロゾーン……!」
「くっ……! 流石は中学生チャンピオンバディだ……!」
中学生限定とは言え、やはりチャンピオンバディの称号は伊達ではなかった。
『『『マジカルスキル!
そんな夏凛たちの駆るデュアルジェミニは、魔力でできた複数の矢を一斉に放ち、それらを狼の形をした矢へと変化させた。
やはり
だけどその練度の高さを見るに、これは先程までの外付けのものとは違う、
だけどその元となった冬馬たちと、同じチームオールスターズのメンバーとして何度も何度もバトルして来た美月たちには、その対処法を知っていた。
「サターン! 相手の懐に飛び込みますわよ!」
「はい、お嬢様! それが一番ですからね!」
「「マジカルスキル! サターンアークストライク!」」
アークサターンはアーク
数が多い分、一つ一つの威力はそこまででは無い狼の矢を真正面から弾き、同時に狙撃を得意とする機体の弱点である懐へと飛び込んだ。
『まだや! うちらの切り札はもう一つ残っている! ジェミニたち!』
『『これがジェミニたちの切り札なのですー!』』
『『『マジカルスキル!
するとデュアルジェミニは、サポートメカの双子丸を分解させ、その手足で本体の四肢を延長し、双子丸の胴体を背負ってその犬……否、狼の頭部を仮面のように被り、亜人型の
さらに狼の形をした青いオーラを全身に纏うことで、接続強度と機体性能を極限にまで高めた。
そして両手両足の『
「ーーッ!? サターンアークストライクを受け止めた!?」
『『『ワオーーン!!』』』
「しまっ……アーク
自分たち最強のマジカルスキルを防がれたことに美月が驚愕していると、デュアルジェミニが受け止めたアーク
不味い。これでアーク
『『『ワオーーン!!』』』
「ぐっ……!?」
「お嬢様!?」
さらに月に照らされて、姿だけでは無くまるで心まで人狼になった夏凛たちの駆る、デュアルジェミニの爪に引き裂かれたアークサターンが吹っ飛ばされた。
そんなアークサターンの元へと、まるで野生の獣の様に四肢で地面を駆け抜ける形で、デュアルジェミニが突っ込んで来た。
まさかこんな切り札を隠し持っていたなんて……!だけど自分たちにだってまだ手は残っている……!
「サターン! こっちも残っている手札を総動員しますわよ!」
「了解です、お嬢様!」
アークサターンはアーク
デュアルジェミニはそれを跳ぶ形で回避した。
今だ……!
「「マジカルスキル! プラネットツリー!」」
その隙にアークサターンは足元の地面から巨大な木の根を伸ばし、その物量差でデュアルジェミニを拘束した。
『『『ワオン!?』』』
「「マジカルスキル! プラネットファイア!」」
さらにアークサターンは両腕のアークガントレットを構えながら、背中にに炎の光輪を発生させると、拘束されたデュアルジェミニの元へと一直線に突っ込んだ。
デュアルジェミニも『
「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!!」」
『『『ワオーーン!?』』』
そしてプラネットツリーで拘束されたデュアルジェミニを、プラネットダークとプラネットファイアの紫の赤の二色の炎を纏ったアークサターンが貫いた。
そのままアークサターンがすれ違う様に、中央の浮島にある城の頂上へと着地すると、デュアルジェミニは双子丸との合体が解除されバラバラになりなかまら、マジカルバリアを破壊されて戦闘不能になった。
それを見たMCのステラがバトルの結着を宣言した。
『決まったー☆ 勝者はミライトウキョウ校の六位で一年生の美月ちゃんとサターン君のアークサターンだー☆ 優勝候補同士にして、共に今の一年生世代最強と名高い両者によるバトルを制したのは、中学生チャンピオンバディの夏凛ちゃんたちを倒した美月ちゃんたちだー☆ これで美月ちゃんたちは名実共に一年生最強の座を手に入れたー☆』
*****
ステラの声と共に、観客席から大観声が聞こえて来る中、機能を停止したデュアルジェミニのコックピットの中にいる夏凛は、負けた悔しさで膝を突きながら涙を流していた。
「うぅ……ぐすっ……うちらの……負けやな……! ぐすっ……久しぶりに負けたけど……ぐすっ……やっぱり負けるのは悔しいな……!」
「「だけど……今のジェミニたちの全力をぶつけられたのです……」」
「ぐすっ……せやな……!」
相棒のジェミニの言葉を聞いた夏凛は、涙をゴシゴシと拭いながら立ち上がると、バトルフィールドへと続く選手用の通路で涙を流している千秋の姿を遠目に見つめた。
そして自分を鼓舞する様に宣言した。
「
「「ジェミニたち四人なら絶対になれるのですー!」」
それから夏凛は冬馬たちがいるであろう観客席の方を見た。
流石に人が多過ぎで冬馬たちの姿は見つけられなかったが、それでも夏凛は冬馬へと声をかけた。
「……冬馬、見ててね……。 うちはこの敗北から立ち上がるから……! いつか絶対に美月ちゃんたちにリベンジするから……! だから冬馬も……!」
*****
——一方その頃。観客席では。
「そ、そんな……馬鹿な……!? な、夏凛たちが負けた……!? あり得ない……!?」
「冬馬……! 落ち着くんだ……!」
冬馬は目の前で起こった信じられない光景に思考が錯乱していた。マーキュリーが何か言っているが、もはやそれどころでは無かった。
冬馬にとって夏凛たちは絶対に越えられない壁の象徴だった。
そんな夏凛たちはさらに、シンクロゾーンと言う遥か高みに登った。
しかしその上で美月たちに負けた。逆に言えば、そんな夏凛に美月たちは勝った。勝ってしまった。
美月たちが元々強いのは冬馬も知っていた。事実自分たちも今まで一度も勝ったことが無かった。
それでも学園でできた新しい友人だったし、敵に狙われていることや、明日斗博士の娘として過去にいろいろあったことを聞いて、力になりたいと思った。助けたいと思った。それは決して嘘じゃ無かった。
確かにその才能に……正確に言えば、自分の最初のライバルである焔の目標になったことに嫉妬したことも否定できなかった。
だけどそんな小さな嫉妬は完全に消え、今や恐怖に変わっていた。
強いだけなら輝たちも同じだったが、夏凛たちは冬馬にとってトラウマの象徴だった。そして今、その枠に夏凛たちに勝った美月たちがスライドしてしまった。
冬馬は夏凛たちを超える絶対に越えられない壁……トラウマの出現に絶望の声を漏らした。
「む、無理だ……! 勝てる訳が無い……! 届くはずが無い……! 美月さんたちみたいな、遥か高みにいる存在に……! ヒーローになれない小っぽけな存在の僕なんかが……!」