「「——お〜い、冬馬」」
「父さん!? 母さん!?」
「青水先生……?」
誤解?が無事に解けたことで、美月が冬馬、そしてサターンとマーキュリーと一緒に、バトルの準備をしに控え室へと向かっていると、その途中で冬馬の両親とバッタリと遭遇した。
「やあ、美月さん。 患者としてではなく、こうしてプライベートで会うのは初めてになるね」
「は、はい……ですわ……!」
冬馬たちと一緒だった為、素の精霊人格に戻っていた美月は、慌てて対面用のお嬢様口調の人間人格へと切り替えた。
そんな中、冬馬から父さんと呼ばれていた男性が話しかけて来た。
「僕の方は初めましてになるよね? どうも、冬馬の父で、
「は、はい……! それは私の方から是非お願いしたいくらいで……!」
冬馬の両親は、クールでカッコいい彼と同じく、男性の京夜は勿論、女性の小雪もイケメンと言う言葉が似合うクールビューティーな人たちだった。
すると冬馬が疑問を口にした。
「父さんと母さんは何でここに?」
「今日は病院の仕事が休みでね。 京夜さんの方も同じく仕事が休みだったから、こうして冬馬の応援に来たんだ」
「だけどそのことを冬馬に何度も電話したけど、全然繋がらなかったんだよ! メッセージも送ったんだけど、全然返事が無いし! 本当に心配だったんだよ?」
「うっ……! ごめんなさい……最近ちょっといろいろあって……」
冬馬は申し訳なさそうに頭をかいていた。
それでも改めて真っ直ぐな眼差しになった。
「でも、もう大丈夫! 安心して次の試合を見てて!」
「うん。 その様子だと大丈夫そうだね」
「頑張れよ、冬馬!」
冬馬が彼の両親と仲睦まじいやり取りをするのを見て、美月が少し羨ましく思っていると、小雪もとい、青水先生が美月の方へと視線を向けた。
「美月さん。 私は今日は冬馬の母として応援に来たけど……美月さんとも顔見知りであるからね。 美月さんのことも応援しているよ」
「は、はい……! ありがとうございますわ……!」
*****
『——さあ、全国大会高校生の部の四回戦☆ 続いての試合は、明日斗博士の娘で、ミライトウキョウ校の六位で一年生の黒土美月ちゃんとサターン君☆ そしてら同行の八位で一年生の青水冬馬君とマーキュリー君のバトルだよ☆ 同じ学校同じチームメイト同士と言う、正に仲間でありライバルである両者のバトル……これは美月ちゃんたちの二回戦の時と同じくらい凄いバトルになるのを期待しちゃうね☆』
MCのステラの選手の紹介をする声が聞こえて来る中、『工場群』のバトルフィールドにアークサターンが立っていた。
今回のバトルフィールドの『工場群』は、工場を模した陸地部分の周りを海を模した水場で囲んでおり、以前入学式の日に美月とサターンが輝とヴィーナスとバトルした時もこれだった。
美月がふとその時のことを思い出していると、MCのステラのバトルの開始を宣言する声が聞こえて来た。
『それじゃあ皆お待ち兼ね☆ バトルスタートだよ☆』
「サターン! 冬馬たちの狙撃は本当に脅威ですわ! 警戒して行きますわよ!」
「はい、お嬢様! 特に最初の狙撃は最大限警戒しましょう!」
バトル開始の合図を受けて、アークサターンの全身のスラスターに火をつけた。
そして美月たちは、冬馬たちの狙撃への対策として、開けた海では無く、遮蔽物の多い工場へと機体を向かわせた。
冬馬たちの狙撃は本当に脅威で厄介だった。
——せめて最初の狙撃が真正面からだったら回避できるのに、と美月がありもしないこと考えていた……その時だった。
アークサターンの視界の先にある道にウルフマーキュリーが姿を現した。
「え……?」
条件付きの必中効果を持つ最初の狙撃を捨てると言う謎の行動に、美月の思考は混乱した。
そんなウルフマーキュリーは、アークサターンやブラッドマーズ、それからゴーレムジュピターやノーブルヴィーナスと同じく、全国大会用に改造が施されていた。
ウルフマーキュリーの機体のベース部分はそのままだったが、『ウルフボウ
するとウルフマーキュリーはウルフボウCを構えた。
『『マジカルスキル! マーキュリーウルフハント!』』
「お嬢様!」
「ーーッ!? は、はい……!」
サターンの声によって混乱した思考から引き戻された美月は、放たれた狼の形をした複数の矢へと、咄嗟にアークサターンにアーク
しかし冬馬たちの予想外の行動に驚いていて反応が遅れたことで、仕留めきれなかった狼の形をした矢が、左右の二手に分かれる形で襲って来た。
仕方が無いので、アーク
それと同時に左腕のアークシールドに収納されているアークソードを展開して、左側の狼の形をした矢を受け止めた。
「くっ……! 完全に後手に回ってしまいましたわ……!」
「ですが、こちらもウルフマーキュリーの位置を掴むことができました! このまま逃さなければ……」
——その時だった。
「ーーッ!?」
耳で死角から飛来して来る存在を感じ取った美月は、咄嗟にアークサターンをその場から動かそうとした。
しかし一歩遅く、飛んで来た不可視の矢がアークソードとアークシールドこと機体の左腕と、左のアークウィングを破壊した。
「何!? 上からの狙撃だと!? いつの間に……いや、一体どんな角度で撃てば……!?」
「違いますわ、サターン! これはビーチエキシビジョンマッチの時に、
サターンが驚愕の声を上げる中、美月は魔力が見える目でそのトリックを見破っていた。
ウルフマーキュリーが敢えて姿を現したのは、この不可視の矢の存在を隠し、同時にアークサターンをこの場で足止めする為……!
ビーチエキシビジョンマッチの時に同じ様な攻撃を受けていた為ギリギリ反応できたが、機体の左側に大ダメージを受けてしまった。
『『マジカルスキル! マーキュリーアロー!』』
ウルフマーキュリーはさらに追撃として、ウルフボウ
「くっ……!」
美月は一手先の未来が見える目でその軌道を読むと、アークサターンにアーク
「サターン! これ以上、冬馬たちの思い通りにさせる訳には行きませんわ!」
「はい、お嬢様! 今度はこっちの番です!」
「「マジカルスキル! プラネットファイア!」」
アークサターンは背中に炎の光輪を発生させた。
するとそれを見たウルフマーキュリーは攻撃を中止してる、その場から逃げ出した。
もしここで見失ったら、また回避不可能な狙撃が飛んで来る。
だからこそこのまま仕留める必要があった。
「絶対に逃しませんわ!」
*****
「——くっ……! 作戦通り、仕留めきれなかったか……!」
「フッ、だが、冬馬。 アークサターンに大ダメージを与えることには成功しているんだ。 ここからが正念場だ」
ウルフマーキュリーはその俊敏さと、腰のウルフマントに内蔵された四本のアンカーを利用して、工場の建物を上を跳び回る形で移動していた。
この前のビーチエキシビジョンマッチで美月たちを負かした流れを参考に組み立てだ作戦だったが、半分成功半分失敗と言う結果になった。
秀次とスコーピオのステルススコーピオのスコーピオスナイプを参考に編み出した、同種の効果を持つマーキュリースナイプを最初に放ち、その後ウルフマーキュリー本体とマーキュリーウルフハントを囮にすることで、最初の本命の攻撃で仕留めるつもりだった。
だけど以前リンから聞いた、美月の一手先の未来を見ているに等しい力によってギリギリのところで回避されてしまった。
さらに詰めとして撃ったマーキュリーアローも完全に防がれたし、美月たちしは本当に凄かった。本当に強かった。
するとそんな美月たちの駆るアークサターンが、プラネットファイアの炎で加速しながら追いかけて来た。
知ってはいたものの重装備とは思えない速さだ……!
「っ……! マーキュリー!」
「分かっている、冬馬……!」
「「マジカルスキル! マーキュリースナイプ!」」
ウルフマーキュリーはウルフボウ
しかしアークサターンは、背後に回り込む様な軌道で飛んで来る不可視の矢を見ることも、足を止めることもなく、糸も簡単に撃ち落とした。
やっぱり少なくともこのバトルでは、もうこの攻撃は通用しないのだろう……。
『『マジカルスキル! プラネットツリー!』』
「しまっ……!」
「冬馬!?」
するとアークサターンは地面から巨大な木の根を伸ばし、跳び回っているウルフマーキュリーを叩き落とした。
さらに地上へと落下したウルフマーキュリーの元へとそのまま突っ込んで来る。
「くっ……!」
ウルフマーキュリーは咄嗟にウルフボウ
しかしそのまま背後の巨大な木の根へと吹っ飛ばされた。相手は片腕なのに、凄いパワーだ……!
だけど……!
「まだだ!」
ウルフマーキュリーは臆することなく立ち上がって、アークサターンの懐へと飛び込んだ。
二本のウルフブレードと両足のウルフクローを使い、必死に喰らいつこうとするが、その攻撃の軌道を全て読まれているかの様に回避されてしまう。
逆に相手の攻撃は全部必中し、機体にダメージが蓄積していく。
だけど決して最後まで諦めたりなんかしなかった。だってその大切さを焔たちが教えてくれたのだから……!
「行っけー! 冬馬ー! マーキュリー! 美月ちゃんたちに喰らいつくんよ!」
「せや! 冬馬とマーキュリーのガッツを見せたるんや!」
「「頑張れなのですー!」」
(夏凛……! 千秋……! ジェミニたち……!)
すると観客席から夏凛と千秋とジェミニたちの大声が聞こえて来た。
自分は夏凛たちを避ける様な態度を取っていたのに……。それでもまだ応援してくれる夏凛たちの声に応えたかった。
応援の声を受けたウルフマーキュリーがアークサターンに攻撃を掠らせた。
「頑張れ、冬馬!」
「ファイトよ、マーキュリー!」
さらに焔とマーズの応援によってさらに力が増した気がした。
「美月も頑張れー!」
「サターンもよー!」
しかし焔たちの応援を受けたアークサターンにカウンターを喰らわされた。
さらに……。
「行っけー! 美月ちゃん! サターン! 冬馬たちをぶっ倒せー!」
「こ、小春ちゃん……!? あ、どっちも頑張れー!」
小春たちの応援を受けたアークサターンによって、ウルフマーキュリーが巨大な木の根へと吹っ飛ばされ、そのまま叩きつけられた。
そのダメージによってウルフマーキュリーが膝をついた。
(……やっぱり、小春には幻滅されてしまったのだろうか……?)
小春には散々情けない姿を見せた上に、泣かせてしまった。嫌われても無理は無かった。
その事実が心に突き刺さり、泣きそうになる。
『——うん! ありがとう、
小春はヒーローに憧れていた自分にそう言ってくれた。それがとても嬉しかった。
だからそんな小春のヒーローでありたかった。
だけど今更もう手遅れなのかもしれない……。
それでも……!
「——頑張れ!
「……!!」
そんな冬馬の耳に、小春の声が届いた。
彼女はこんな自分をまだ自身のヒーローだと言ってくれた。
冬馬はその声に、小春のヒーローとして応えたかった。
だから冬馬は、今度こそヒーローになる為に、世界で一番の相棒へと呼びかけた。
「マーキュリー! 夏凛たちの憧れでありたい……! 焔たちのライバルでありたい……! そして、小春たちのヒーローでありたい……! だけど僕は弱い……! 一人じゃ何もできない……! だから……! こんな僕に力を貸して欲しいんだ……! 僕の世界で一番の相棒であるマーキュリーの力を……!」
「……!!」
*****
——俺はお目付役として、ずっと冬馬を見守って来た。
「——良いですか、マーキュリー。 それからジェミニたちも。 貴方たちはこれから生まれて来る冬馬と夏凛と千秋の相棒兼お目付け役として、あの子たちを必ず守るのですよ?」
「はい、花見様」
「「了解です」」
マーキュリーとジェミニたちは、冬馬たちの祖母の花見が生まれて来る孫の為にかなり早い段階で用意された存在だった。
冬馬たちのお目付役としていろいろと指導された結果、自分たちは大人びた性格を手に入れることになった。
「ほらほら! ジェミニたちも一緒に遊ぼ!」
「で、ですが……! ジェミニたちは夏凛と千秋のお目付役で……!」
「まあまあ、そう硬いこと言わんで、夏凛の遊びに付き合ってやってや!」
「で、では……少しだけ……」
ジェミニたちも最初は自分と同じく大人びた性格をしていたが、夏凛たちに誘われて一緒に遊ぶ内に、いつの間にか子供の様なお茶目な性格になっていた。きっと相棒に影響されたのだろう。
「ねえ、マーキュリーも一緒にヒーローごっこをして遊ぼうよ!」
「フッ、俺は冬馬が楽しそうなのを見ているだけで十分さ」
「そっか……」
その一方でマーキュリーは、ずっと一歩引いた立ち位置で冬馬のことを見守り続けた。
それはお目付役として、ジェミニたちの分も自分がしっかりしなければと言う思いもあったが、きっと大人ぶっている身としての気恥ずかしさもあった。
そんな訳で、別に冬馬と距離を取っている訳ではなかった。寧ろずっと冬馬の力になれる様に努めて来た。
「マーキュリー! 僕はきららさんたちみたいな本物のヒーローになりたい! だからお願い! 僕と一緒にウィッチバトルをやって! チャピオンバディになって!」
「だが花見様は冬馬には……いや、無粋か……。 それが冬馬のやりたいことならば、俺も相棒兼お目付け役として、少しは手を貸さないとな……」
「ありがとう、マーキュリー!」
だからマーキュリーは、自分の主である花見の後継者を求める望みをよりも、冬馬自身の夢を優先した。
冬馬の夢を叶える為に力を貸したし、強くなる為に一緒に努力を重ねた。
だけど冬馬は、同じ夢を目指す夏凛たちと言う壁にぶつかることになった。
その壁を乗り越えようともがく冬馬に、自分も力を貸したが、何度挑んでもダメだった。
「……マーキュリー。 僕はもう……二度と、ライバルの焔に、ヒーローだと言ってくれた小春にカッコ悪いことろを見せたく無い……。 だから僕も、
「と、冬馬……!? それはッ……!?」
「いつまでも泣いてばかりの子供じゃダメなんだ……。 そんなんじゃ、焔と小春に失望されてしまう……。 それだけは……絶対に嫌なんだ……」
「ーーッ!? 冬馬、すまない……! 俺が弱かったばかっかりに……!」
「ううん、違うよ……弱かったのは僕の方だよ……」
そして冬馬はそう口にした後、自分を真似てクールで知的に振る舞う様になった。
ジェミニたちは夏凛たちを真似て子供の様なお茶目な性格になり、どこまでも高く羽ばたいていった。
逆にマーキュリーはそのままこうして足踏みしている内に、冬馬が逆に自分を真似てしまった。
最初は殆ど同じだった筈なのに、正反対の結果になってしまった。
——きっと……冬馬がずっと夏凛たちに勝てなかったのは、俺が大人振って、いつも一歩引いた立ち位置にいたからなのだろう……。 おそらくそこで差が開いてしまったのだろう……。 だけどそんな中、焔と小春、それからマーズとジュピターのおかげで冬馬はこうして立ち上がってくれた……! だからそんな冬馬の力に今度こそなる為にも、俺も大人振るのを止めよう……! ジェミニたちの様に童心に戻って、お目付役では無く冬馬の相棒として、その隣に立とう……!
*****
「フッ、そうだな……! せっかく冬馬がこうして昔の熱さを取り戻してくれたんだ……! 俺もそれに乗ろうじゃないか……!」
「マーキュリー!」
マーキュリーは冬馬のお目付け役役として、いつも一歩引いた立ち位置にいたが、今この時は本当の意味で自分の隣に立ってくれていた。自分の思いに応えてくれた。
だから冬馬は、そんなマーキュリーと一緒にライバルである美月たちに勝つ為に、そして夏凛たちの憧れに、焔たちのライバルに、小春たちのヒーローになる為に、自分の世界で一番の相棒へと声をかけた。
「——さあ、マーキュリー! 始まりの気持ちを胸に抱いて行くぞ!」
「ああ、冬馬……! ここからもう一度始めるぞ……!」
「「——シンクロゾーン!」」
お互いを心から信頼しあった冬馬とマーキュリーは、ライバルである美月たちの強さと、何度も足踏みした原因になった自分たちの弱い心と言う、目の前に立ち塞がる大きな壁を一緒に乗り越える為に、限界を超えた。
シンクロゾーンが
文字通り二人で一つの存在となり、一心同体、人機一体となったウルフマーキュリーが、再び立ち上がった。
「——さあ、行くぞ!冬馬……!
マーキュリーの言葉にドキリとした冬馬は慌てて反論した。
「うえっ……!? べ、別に……小春のことは……そのっ……好きとか……そんなんじゃ……!」
「……ふむ、俺は別に小春だとは言っていないのだが……」
「ま、マーキュリー!! 計ったな!!」
マーキュリーは急に、ジェミニたちみたいな子供の様なお茶目な性格を見せる様になっていた。
(……いや、待て。 今のやり取り、美月さんたちや観客席には聞こえていないよな……!? もし万が一聞かれていたら恥ずかしさで死ぬんだけど……!?)
冬馬が思わず冷や汗を流す中、マーキュリーがどこ吹く風でと言った様子で口を開いた。
「フッ、だが俺の予想が間違っていなくて安心したよ。 さあ、気を取り直して、小春たちに冬馬の……いや、俺たちのカッコいいところを見せるとするか……!」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!!」
——普段のクールで知的な雰囲気が完全に消えた冬馬は、恥ずかしさで発狂しながら、ウルフマーキューをアークサターンの元へと突撃させた。