「——と、冬馬たちまでシンクロゾーンを……!? いや、それも勿論凄いのですけど……!」
(え?? さっきチラッと凄い話が聞こえたんですけど……冬馬ってそうだったんですか……!? あわわわわわ……!?)
ウルフマーキュリーにトドメを刺そうとしていたところ、急に冬馬たちがシンクロゾーンへと至った上に、とんでもない話が聞こえて来たことで、美月の頭は混乱していた。
恋愛初心者の自分には衝撃的な話だった。いやでもまあ、確かに冬馬は小春と一緒にいることが多かった様な……?
と、兎に角、こうして近くにいた自分がチラッと聞こえたくらいだか、多分観客席には聞こえていないと思うし、友達の為にもこの話は胸の奥にしまっておこう……。
「お嬢様! 来ます!」
「ーーッ!? は、はい……ですわ……!」
そんな美月はサターンの声によって現実に引き戻されたことで、冬馬の発狂した様な声と共にウルフマーキュリーが突撃して来ることに気づいた。
ウルフマーキュリーは二本のウルフブレードを合体させてウルフボウへと戻すと、今度はそれを折りたたんで
それから空いた右手で腰のウルフソードを抜刀した。
『行くぞ、マーキュリー! こうなったらヤケだ! 僕もとことんやってやるよ!』
『フッ、その調子だ、冬馬……!』
『『マジカルスキル! マーキュリーアームド!』』
するとウルフマーキュリーは、剣と右腕ごと冷気を纏わせることで、氷の剣を持った武器腕を作り上げた。
さらに大剣と左腕も同じ様にすることで、両手を武器腕へと変化させていた。
やはりシンクロゾーンに至っていることも相まって、一見すると発狂している様に見えても、冬馬はちゃんと冷静だった。
その点美月は、まだ若干混乱したままで、機体の足もずっと止めっぱなしだった。
だからそんな頭を一旦冷静にする為にも、それから冬馬たちに対抗してシンクロゾーンに至る為にも、美月は目を閉じてお守りのペンダントを両手で握りしめ、勇気のお呪いを重ねがけした。
「——頑張れ、私! 頑張りなさい、わたくし!」
そして冷静になった美月は、自分たちのライバルである冬馬たちに負けたくない……勝ちたいと言う想いを胸に相棒であるサターンへと呼びかけた。
「サターン! わたくしたちも冬馬とマーキュリーに負けていられませんわ!」
「はい、お嬢様! 勝ちに行きましょう!」
「「——シンクロゾーン!」」
シンクロ率が百パーセントのその先へと至ったことで、人間である美月の
文字通り二人で一つの存在となり、一心同体、人機一体となる。
「「マジカルスキル! プラネットダーク!」」
そして続けてアークサターンの全身に黒い炎を纏わせ、魔王システムを擬似的に発動させた。
胸部の装甲の一部が展開し、内部にあった魔石が剥き出しになり、さらに背中のアーク
最初に破壊されたアークソードとアークシールドと左腕と左のアーク
「くっ……!」
それでもギリギリのところで今の自分たちの本気モードになれた為、どうにかウルフマーキュリーの氷の剣を受け止めることができた。
しかし相手は氷の剣二本なのに対して、こちらは左腕を失ってアーク
「頑張れ、うちらの憧れー!」
「頑張るんや、冬馬! マーキュリー!」
「「頑張れなのですー!」」
「頑張れ、冬馬!」
「ファイトよ、マーキュリー!」
「頑張れ! あたしのヒーロー!」
「ふぁ、ファイトだよ……!」
そんな中、夏凛と千秋とジェミニたち、それから焔とマーズ、そして小春とジュピターの応援を受けたウルフマーキューが、拮抗した状況を打ち破り、アークサターンに氷の剣を叩き込んだ。
「美月も頑張れー!」
「サターンもファイトよー!」
「負けるな、美月ちゃん!」
「が、頑張れー!」
「美月さんとサターン君も負けるなー!」
「頑張って下さい……!」
「頑張れー! 美月お姉ちゃんー!」
すると今度は自分たちに、焔とマーズ、それから小春とジュピター、そして輝とヴィーナスとレイの応援の声が聞こえて来た。
その応援を受けたことで、美月たちは直ぐにアークサターンに体勢を立て直させ、アーク
「「「「「「「「「「——どっちも勝てー!」」」」」」」」」」
そして皆の応援を受けたアークサターンとウルフマーキュリーが激しい剣撃を繰り広げた。
アークサターンはそのパワーと加速力を活かした強力な攻撃を繰り出した。
その一方で、ウルフマーキュリーはその俊敏性による機動力で致命傷をどうにか躱しながら、カウンターによる攻撃を着実に積み重ねて行った。
やっぱり前のビーチエキシビジョンマッチの時も思ったが、冬馬たちは狙撃だけでは無く近距離戦闘のレベルも高い。狙撃が頭一つ抜けているとは言え、オールラウンダーと言っても差し支えないレベルだった。
その上、シンクロゾーンに至った相手の動きは、美月の一手先の未来が見える目でも追いきれない為、自分たちが押してはいるものの、決めきれない状況だった。
しかしこちらは機体の左半身に大ダメージを受けている以上、長期戦になれば確実にボロが出る。
そこで美月は勝負を決めることにした。
アーク
『くっ……!?』
それによりウルフマーキュリーがバランスを崩した。
その隙をさらに蹴飛ばすことで、チャンスを作る。
今だ……!
「決めますわよ、サターン!」
「はい、お嬢様!」
「「マジカルスキル! サターンアークストライク!」」
アークサターンはアーク
『ーーッ!? まだだ! まだ最後まで諦めない! マーキュリー!』
『ああ、冬馬……!
『『簡易変形!
するとウルフマーキュリーは、氷の武器腕を盾にしながら、機体本体を
「え!?」
「何だと!?」
シェルエットが大きく変化したことに加え、完全に初見だったこともあり、サターンアークストライクの攻撃を急所から外してしまった。
だけどウルフマーキュリーも両腕を破壊されたから、これで狙撃を含めた殆どの武装は使えない筈……。
するとウルフマーキュリーは、二本のウルフブレードに分離したおかげでギリギリ破壊を免れた主武装と、真っ二つに折れたウルフソードを、狼の尻尾の様になったウルフマントに内蔵された四本のアンカーで回収した。
そしてウルフボウ
まさか……!?
『『マジカルスキル! マーキュリーアロー!』』
ウルフマーキュリーはウルフソードを、いつもの氷の矢の依代にすることで修復し、そのまま発射して来た。
「しまっ……!?」
完全に予想外の狙撃だった上に、サターンアークストライクで攻撃した直後を狙われたせいで、回避はできなかった。
咄嗟にアークサターンにアーク
どうにか直撃コースは逸らしたものの、かすめた氷の矢が残っていた右のアーク
『今だ! マーキュリー!』
『ああ、決めるぞ、冬馬……!』
『『マジカルスキル! マーキュリーウルフハント!』』
それを見たウルフマーキュリーが固定砲台の様な状態のまま、狼の形をした複数の矢を放って来た。
アーク
だって
アークサターンはバラバラになったアーク
「サターン! わたくしの力着いて来て下さい!」
「はい、お嬢様! お任せ下さい!」
「「マジカルスキル! プラネットウォーター!」」
そしてそのまま、シンクロゾーンで繋がった美月とサターンの思いが、新たな魔法を呼び覚ました。
アークサターンの周囲に現れた水が、次々にいろんな武器へと変化すると、相手を絶対に仕留める追尾性能による正確な軌道で、ウルフマーキュリー目掛けて飛んで行った。
それはまるで冬馬とマーキュリーをイメージしている様だった。
*****
「何!? 杖だって!? くっ……! これが美月さんたちの隠し札か……!」
「それにまたもや新しいマジカルスキルか……! 本当に末恐ろしいな……!」
冬馬たちはマーキュリーウルフハントの狼の形をした複数の矢を打ち破って飛んで来る武器を見て驚きの声を上げていた。
美月たちのこれまでのバトルを見て、バトル中に新しいマジカルスキルを生み出す可能性は予測していたが、それが隠し札の杖によって予想以上の威力になっていた。
確か……美月が十年前、リンと一緒に一時期バトルしていた時は杖を武器にしていて、その規格外の強さから第二の海姫ネオンと呼ばれていたらしい。
だけどこうして実際に、美月が杖を使って魔法を発動させる姿を見て納得した。明らかにいつも使っている槍や剣や盾よりも使いこなしているのだ。
きっとこれが美月の本来のバトルスタイルなのだろう。
流石は自分たちの世代の幻の王者……!
再び形成が逆転してしまった上に、今のウルフマーキュリーは両腕を失っているせいで、狙撃をするには今の四足歩行の姿で固定砲台になるしかない状況……。
一応、二足歩行の姿に戻れば狙撃が出来なくなる代わりに移動できる様になるが、ジリ貧になるのは目に見えている。勿論、このままでも蜂の巣になるのは確定だが……。
絶体絶命の状況ではあるが、冬馬はまだ諦めていなかった。
「まだだ! 最後まで諦めないのがヒーローなんだから! そして僕は、小春のヒーローなんだから!」
「そうだな、冬馬……! 最後の一秒まで全力で抗おうじゃないか……! 俺たちのライバルの様に……!」
美月たちが新しいマジカルスキルを生み出したのなら、こっちも同じ様にすれば良い。
ウルフマーキュリーは足元に巨大な魔法陣を発生させると、膨大な青いオーラを全身に纏った。
するとウルフマーキュリーを包んだ青いオーラが巨大な狼へと変化し、さらにその余剰のオーラが周囲に飛び散って何匹もの狼へと変化していった。
そして巨大な狼を長とする狼の群れが完成した。
「「マジカルスキル! マーキュリーサーガウルフ!」」
シンクロゾーンで繋がった冬馬とマーキュリーの思いが新たな魔法を呼び覚まし、それによってウルフマーキュリー自身が矢となった。
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッーー!!」」
そして狼の群れが、こちらに飛んで来る武器に尻込みすることなく、その奥にいるであろうアークサターンに向けて一斉に突撃した。
まさに雨と言っても過言ではないくらいの物量の武器に、狼たちは次々に打ち取られながらも、本体のとなり、その道を切り開いて行った。
そんな本体も、膨大な青いオーラによって、突き刺さる武器のダメージを最小限に止めながら、真っ直ぐに突撃した。
「「届けえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッーー!!」」
そしてボロボロになりながらも武器の飴を掻い潜り、アークサターンの元へと辿り着いた。
*****
自分の魔女としての力も加わったプラネットウォーターを突破されたことに、美月は微塵も焦ってはいなかった。だって冬馬たちならきっと突破して来るだろうと思っていたから……。
だからこうして、最後まで油断せずに、準備しておいたのだ。トドメの為の一撃を……。
武器が突き刺さってボロボロになりながらも、目と鼻の先まで迫って来た巨大な狼へと、アークサターンはアークステッキを向けた。
「決めますわよ、サターン!」
「はい、お嬢様!」
「「マジカルスキル! サターンバースト!」」
アークサターンはアークステッキの先端に魔法陣を発生させると、闇の力を持った巨大なビームを放った。
「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!!」」
『『あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!!』』
ほぼゼロ距離から放たれた巨大なビームを受けた巨大な狼は、その場に踏ん張ってどうにか耐えようとしていた。
それでもやがて限界が訪れたことで吹っ飛ばされ、その中にいたウルフマーキュリーが現れた。
そしてウルフマーキュリーは巨大なビームを直に受けたことで、マジカルバリアを破壊されて戦闘不能になり、そのまま工場の中へと突っ込んだ。
それを見たMCのステラがバトルの決着を宣言した。
『決まったー☆ 勝者はミライトウキョウ校の六位で一年生の美月ちゃんとサターン君のアークサターンだー☆ 二回戦の時と同じく、同じ学校同じチーム名と同時と言う、正に仲間でありライバルである両者がシンクロゾーンへと至ったこのバトルは、お互いに一歩も引かずに最後まで凄かったよー☆ どっちも本当にカッコよかったよ☆ このバトルも私のマイベストバウンドに登録だね☆』
ステラの声と共に、観客席から大観声が巻き起こる中、冬馬たちから、相手の顔が見える個別回線が繋げられて来た。
美月はバトルが終わったこともあり、素の精霊人格に戻ってから応答した。
「冬馬……?」
『ぐすっ……美月さん……!』
「……!!」
冬馬はその瞳からボロボロと涙を溢していた。
こんなにも泣いているのを冬馬を見たのは、美月は初めてだったが、それをカッコ悪いなんて思ったりはしなかった。寧ろ負けて尚立ち上がる姿はカッコよかった。
『ぐすっ……
『フッ、そうだな、冬馬……! 美月さんたちは規格外の強さを持つが……それでも
『ぐすっ……マーキュリーの言う通り……僕たちはいつか必ず勝って見せる……届いて見せる……! ぐすっ……だって僕たちは美月さんたちの友達で……ライバルなんだから……!』
かつて美月がリンと一緒にバトルしていた時、その規格外の強さを見て心が折れて、バトル自体を止める子たちもいた。
だけど冬馬は折れることなく立ち上がって、何度でも挑み続けることを宣言してくれた。それがとても嬉しかった。
「はい……! 冬馬……! マーキュリー……! ありがとうございます……!」
「ああ、これからもお嬢様……ううん、美月と仲良くしてやってくれ」
『『勿論!』』
*****
——一方その頃、観客席では。
「うぅ……ぐすっ……うちらの憧れが帰って来た……! 昔の冬馬に戻ってくれた……!」
「せやな……! 冬馬たちはきっと、これからもっと強くなるで!」
「「楽しみなのですー!」」
一緒に試合を見ていた夏凛と千秋とジェミニたちが、涙を流しながらも、笑顔でそう口にしていた。
そしてそれは冬馬のライバルである焔とマーズも同じだった。
「美月たちも冬馬たちも、本当に煌めき凄かったよ! 流石は俺たちのライバルだよ!」
「ええ、私たちも負けてられないわね!」
そんな中、小春とジュピターも嬉しさと悔しさが混じった涙を流していた。
友達でライバルの美月たちが勝ったのは勿論嬉しかった。だけどそれと同じくらいの冬馬たちが負けたのが悔しかった。
「おめでとう、美月ちゃん、サターン……! 頑張ったね、冬馬、マーキュリー……!」
「う、うん……どっちも凄かった……!」
冬馬はこうして負けてしまったけれど、それでも最後まで諦めない姿は、紛れも無くヒーローのものだった。流石は自分のヒーローだった。
だから小春は、例えここからでは冬馬には聞こえなくても、それを伝える為に口を開いた。
「——カッコよかったよ、あたしのヒーロー……!」
*****
そんな冬馬の従姉妹の夏凛たちと、友人の小春たちの声を少し離れた場所から聞いている女性がいた。
するとそんな女性を見つけた冬馬の父の京夜と母の小雪がやって来た。
「お母さん……!? それに京香も……!? どうしてここに……?」
「お義母さんたちもいらっしゃるなら、言ってくだされば良かったのに……!」
女性の正体は、レキシキョウトにある老舗旅館『双子坂』の女将にして、冬馬たちの祖母である
そしてそんな花見と一緒にいた、夏凛たちの母の
「夏凛たちは昨日の試合で負けちゃったけど……そうならなければ今日は冬馬君たちとの試合になる予定だったから、こうしてお母さんと一緒に試合を見に来れる様にスケジュールを組んで、旅館の方をお休みにしていたの」
「ええ。 特に冬馬の方はずっと弱気になっていたので、そろそろ見定めるつもりでしたが……この様子では大丈夫そうですね」
花見はそう口にしながら、冬馬たちの乗っているウルフマーキュリーの方へと目を向けていた。
その後、夏凛たち方にも目を向けた。
「……きっと冬馬と夏凛と千秋、それからマーキュリーとジェミニたちは、ウィッチバトルのプロの選手になるのでしょうね……。 旅館の跡取りになってくれないのは残念ですが……」
花見はそう口にしながらも、残念そうにはしていなかった。
「……まあ何とかなるでしょう。 今の時代、
花見はそう言うと、小春の方に目を向けて、微笑みを浮かべた。
「……それに、ひ孫の顔を見る日もそう遠くはなさそうですし……その子にも少しだけ期待しておいても良いかもしれませんね。 やっぱり冬馬の一途なところは京夜そっくりですよ。 それから無自覚に惚れられるところは小雪さんそっくりですね」
「フフッ、そうですね、お母さん」
「「……!!」」
花見と京香からの評価に、京夜と小雪は恥ずかしそうに顔を赤くした。
そんな中、花見はそんな冬馬と小春、それから夏凛たち子供たちと、その相棒のメカニカルウィッチたちを一瞥しながら改めて口を開いた。
「——頑張りなさい、若人たち。 これからの未来を創って行くのは、私たちの様な大人ではなく……貴方たちよ様な子供たちなのですから……」