——控え室にある個人用のスペースにて。
五回戦の試合までまだ時間がある為、咲良とキャンサーはその待ち時間を利用して、自分と対戦相手の直前の試合内容を振り返っていた。
そんな咲良のマジカルウォッチが、自分たちの四回戦の録画を空中に映し出していた。
映像に映っている『花畑』のバトルフィールドでは、咲良とキャンサーのオーガキャンサーと、菜々とアクエリアスのレインアクエリアスが激しい攻防を繰り広げていた。
『『マジカルスキル!
両手とバックパックの四本のサブアームに鬼ノ太刀を六本装備したオーガキャンサーが、腰部のサブアームで鬼ノ小太刀を装備して七刀流になると、刀と足裏に炎を纏わせた。
漆式は実家の兜蟹流にも無い、咲良たちが独自に生み出したもので、攻撃よりも移動や回避に重きを置いたスピード重視の技だった。
そしてまるで舞を踊っている様な動きで、レインアクエリアスの背中のレインマルチブースターからオート操作のドローン武器として発射された無数のビームの弾丸を、軽々と避けて行った。
『くっ……! それならば……!』
そんな中、レインアクエリアスはレインツインスピアを二つの『レインスピア』へと分離させ、オーガキャンサーを迎え撃った。
さらに両脚の『レインブレードシューズ』も使用して、オーガキャンサーの七刀流と激しく切り結んだ。
しかし咲良たちは同い年のライバルとして長年バトルして来たこともあり、菜々たちの癖も機体の特徴も知り尽くしていた。その巧みな槍術も、ホバーユニットによるスピードと受け流し性能に優れた機体性能も……。
相手の攻撃を受け流しつつ、こちらの攻撃は受け流せない様に、兜蟹流の技を利用して的確にダメージを入れていく。
『まだです! アクエリアス!』
『はい、菜々様!』
『『マジカルスキル! アクエリアスダブル!』』
するとレインアクエリアスはレインスピアを再び連結させてレインツインスピアに戻すと、魔法によって十本の槍へと分身させて、同時に突きを放って来た。
『『
それに対しオーガキャンサーは、鬼ノ小太刀をもう一本追加した八刀流になって、炎を纏った刀でその場で連続切りを行った。
捌式は防御重視の技なこともあり、分身した槍を全て弾き返した。
『負けない……! 負けられない……! お父様とお母様からの指示を果たさなければ……! アクエリアス、お願いします……!』
『お任せ下さい、菜々様! 私は貴方様の剣であり、盾なのですから!』
『『マジカルスキル! アクエリアスレインサウザンド!』』
攻撃を防がれたレインアクエリアスは、オーガキャンサーが足を止めている内に、一度後ろに大きく飛んだ。
そしてレインマルチブースターから発射した無数のビームの弾丸を貫通力を持つ槍へと変化させ、視界を埋め尽くす雨の様に一斉に放った。
『『
それに対しオーガキャンサーは、脚部のサブアームで鬼ノ小太刀を引き抜いて九刀流になると、炎を纏った全ての刀を一本の刀として扱う様なシンクロした動きで薙ぎ払いを行った。
玖式は攻撃重視の技なこともあり、視界を埋め尽くす雨の槍の一部を打ち砕いた。
それにより攻撃が止んだ空間が生まれた。
『決めるわよ、キャンサー!』
『了解でござる、咲良!』
『『
そしてオーガキャンサーは最後の鬼ノ太刀を追加した十刀流になり、刀と足裏に炎を纏わせると、攻撃が止んだ空間を潜り抜けて、一気にレインアクエリアスの懐へと飛び込んだ。
『そんな……!? アクエ……』
『遅い!』
オーガキャンサーはレインアクエリアスに何かさせる隙を与えることなく、そのまま相手の機体を一刀両断にした。
『お父様……! お母様……! 申し訳ありません……!』
『菜々様!?』
そしてレインアクエリアスはマジカルバリアを破壊されたことで戦闘不能になった。
それを見たMCのステラがバトルの決着を宣言した。
『決まったー☆ 勝者はミライトウキョウ校の二位で三年生の兜蟹咲良ちゃんとキャンサー君のオーガキャンサーだー☆ 流石は去年の全国大会高校生の部の準優勝者☆ カガクアイチ校の一位を見事に打ち破ったね☆』
「……ふむ、こうして勝てはしたものの、まだまだアタシたちの理想とは程遠いわね……。 雨水瓶たちが完璧な状態だったらこうは行かなかったわ」
「そうでござるな。 雨水瓶殿たちは心技体の心が些か不安定でござるからな」
咲良たちは自分たちの試合を冷静に分析しながら、今度は零とサーペンスの四回戦の録画へと映像を切り替えた。
『——さあ、全国大会高校生の部の四回戦☆ 続いての試合は、シゼンホッカイドウ校の一位で一年生の蛇遣異零ちゃんとサーペンス君☆ そして、カイウンフクオカ校の一位で三年生の四天秤正義君とリブラちゃんのバトルだよ☆ 学園リーグランキングの一位同士のバトルは果たしてどちらが勝つのか☆ それじゃあ皆お待ち兼ね☆ バトルスタートだよ☆』
映像に映っている『戦地』のバトルフィールドでは、バトル開始早々に、正義とリブラのエンジェルリブラが、零とサーペンスのカオスサーペンスの元に突っ込んで行った。
『行くぞ、リブラ!』
『はい、正義様!』
『『マジカルスキル!
エンジェルリブラは機体に風の力を付与すると、飛行魔法の様に空へと飛翔した。
『『……迎撃』』
それに対しカオスサーペンスは、カオスシールブースターを背中に装備することで飛行すると、二機のドローン武器のカオスドールユニットを発射した。
『何と言う動きだ……!』
カオスドールユニットはそのスピードもさることながら、ドローン武器とは思えない独立した機体の様な動きで、エンジェルリブラを翻弄した。
さらにその隙にカオスソードライフルを構えたカオスサーペンスが狙撃を行った。
『ぐっ……!?』
『正義様!?』
攻撃を喰らったエンジェルリブラが地上へと墜落すると、そこ目掛けて合計八機のドローン武器の『カオスナノブレード』が襲いかかった。
これは三回戦から出して来た武装で、厄介極まりない特性を持っていた。
『『マジカルスキル!
エンジェルリブラは機体の水の力を付与して、水から生み出した銃剣を両手に装備した。
そして次々に襲いかかって来るカオスナノブレードを撃ち落としながら、その撃ち漏らしを切り落とした。
しかし破壊された筈のカオスナノブレードは
これこそがこの武装の厄介な特性であった。
『やはりダメか……! それならば……リブラ!』
『お任せ下さい、正義様!』
『『マジカルスキル!
エンジェルリブラは機体に火の力を付与すると、炎を纏った巨大な拳を作り出し、カオスナノブレード諸共、カオスサーペンスを攻撃した。
しかし……。
『『……防御』』
この四回戦から出して来た合計八機の水晶型のドローン武器の『カオスエネルギースフィア』がマジカルシールドを発生させることで、その攻撃をシャットアウトした。
その上、焼き尽くした筈のカオスナノブレードも次々に再生していった。
そしてさっきお返しと言わんばかりに、カオスエネルギースフィアからビームを一斉に発射した。
『『マジカルスキル!
それに対しエンジェルリブラは機体に土の力を付与して、土の鎧を身に纏い、防御の姿勢を取った。
しかし圧倒的な火力を前に周囲の建物ごと吹き飛ばされた。
戦地にある建物はそのどれもが崩れかけの瓦礫になっている為、連鎖的に倒壊を起こして、巨大な土煙を巻き上げた。
するとその土煙の中から大ダメージを受けたエンジェルリブラが飛び出して来た。
『まだだ! 私たちは最後の瞬間まで、決して諦めたりなどしない!』
『はい! 最後まで正々堂々真っ直ぐと……それがワタクシたちの信念ですから……!』
『『マジカルスキル!
エンジェルリブラは合計四機の水晶型のエンジェルスフィアを起点に、最強のマジカルスキルであるフィールド魔法を発動させると、機体に火と水と風と土の力を付与し、同時にそれぞれの力を持った四体の実体を持つ分身を生み出した。
そのまま空を飛ぶ風の分身と武器を生み出す水の分身に二機のカオスドールユニットの足止めをさせる中、カオスナノブレードを火の分身の火力によって一時的に破壊し、カオスエネルギースフィアのビームを土の分身の鎧を盾にすることで逸らした。
その隙に本体は、風の力で飛翔する中、エンジェルナックルを水の力で巨大な武器へと変化させ、土の力で強度を増し、火の力で火力を増強させることで、カオスエネルギースフィアのマジカルシールドを打ち砕いた。
『『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッーー!!』』
『『……』』
エンジェルリブラはその勢いのまま殴りかかるが、カオスサーペンスはまるで全てを予測しているかの様な最小限の動きで受け流していく。
『蛇遣異零! サーペンス! 君たちは確かに強い! だが私には
『貴方たちからは勝利の喜びやバトルの楽しさなどと言った感情が一切感じられません……! 貴方たちの信念は一体何なのですか……?』
正義たちは拳によるインファイトを繰り出しながらそう問いかけた。
『……
『何……? ぐっ……!?』
しかし零たちは拒絶する様に、カオスサーペンスでエンジェルリブラを蹴り飛ばした。
『『……マジカルスキル。 ……
カオスサーペンスはカオスソードライフルを大剣へと変形させると、バランスを崩したエンジェルリブラへと
『ぐわあッ!?
『これは……
攻撃を喰らったエンジェルリブラが火と水と風と土の力を失うのと同時に、連動していた四体の分身も消えてしまった。
『……
そしてカオスサーペンスはカオスソードライフルとカオスシールドブースターを組み合わせる様に構えた。
『『……マジカルスキル。 ……
『ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッーー!?』
『正義様!?』
カオスサーペンスの放った暴力的なまでの赤色の魔力に飲み込まれたエンジェルリブラは、マジカルバリアを破壊されて戦闘不能になった。
それを見たMCのステラがバトルの決着を宣言した。
『決まったー☆ 勝者はシゼンホッカイドウ校の一位で一年生の蛇遣異零ちゃんとサーペンス君のカオスサーペンスだー☆ 流石は今大会のダークホース☆ カイウンフクオカ校の一位を見事に打ち破ったぞー☆』
「……本当にとんでも無いわね。 これだけのドローン武器を操れるなんて……」
「しかも御霊殿たちによれば、これでまだ本気を出していないらしいのでござる」
咲良たちは零たちの試合を見て、改めて戦慄していた。
ドローン武器は通常、操作にマルチタスクが要求される以上、マニュアル操作は一桁が限界で、二桁以上の運用はオート操作で行われていた。
しかし零たちはその通説を破り二桁以上の数をマニュアル操作で操っていた。ハッキリ言って、人間業じゃ無い……。
しかも御霊とプルートの言う通り、まるで実験の様に試合ごとに武装を追加して来ている以上、次の試合でさらに数が増える可能性が高かった。
「……これは苦戦どころじゃすまないかもしれないわね……」
「むむむ……」
*****
——一方その頃。バトルフィールドへと繋がる選手用の通路にて。
「あ! 零お姉ちゃんもサーペンス君もさっき振りだね! それから天魔お兄ちゃんとカプリコーンちゃんはこんにちは!」
「レ、レイ!? 何でまた!? 控え室もそうだが、ここも関係者以外立ち入り禁止だぞ!?」
「だって……人混みのせいで、またママとルミとエールと逸れちゃって……それで気づいたらここに……」
「レイ、アンタ……そんなこと言って、迷子のフリをして来たんじゃないの?」
「む! そんなことないもん! 私、こう見えて方向音痴なんだから!」
「「……」」
また迷子になったレイがそう口にすると、それを聞いた天魔とカプリコーンが頭を痛そうにしていた。
「おい! 何で子供がここにいるのだ!」
「そうだ! 早く追い返さんか!」
「山羊沼天魔! 早くしろ!」
するとこの場にいた白衣を着た研究者の様な大人たちがそう怒鳴って来た。選手の関係者なのだろうか……?何だか怖い……。
「は、はい……! ほら、レイ!」
そんな大人たちの指示を受けた天魔に追い返される前に、レイは慌ててさっき見た試合のことを口にした。
「あ! 待って、待って! 天魔お兄ちゃん! カプリコーンちゃん! さっきの試合を見たけど、美月ちゃんたち相手に頑張っていて、本当に凄かったよ!」
「「ーーッ!?」」
すると天魔たちは足を止めて、ポツリと呟いた。
「……何も凄くねぇよ。 凡人の俺らが天才の黒土美月にボコボコに負かされただけだろ……。 こうなるって皆も分かっていたのに……何でレイは俺らなんかを応援してたんだよ……。 そんな意味の無えことを……」
「そうよ……。 それにレイは黒土美月に憧れてるんでしょ? だったらアタシたちなんか無視して、そっちだけ応援してなさいよ……」
「む! 前にも言ったじゃん! 私、天魔お兄ちゃんたちのことも応援しているって! だから美月お姉ちゃんたちが勝ったのは勿論嬉しかったけど、天魔お兄ちゃんが負けのは私も悔しかったの!」
「「……!!」」
自嘲する天魔たちにレイは思わずそう言った。
すると天魔たちは苦しそうな表情をしながら、顔を暗くした。
うーん、やっぱりさっきの試合で負けたショックがまだ残っているのかな……?
天魔たちも美月たちに負けないくらい凄かったっていっぱいフォローしたいところだったが、レイは今追い返されそうになっていて時間が無かった。
だから申し訳ないけど、これから試合のある零たちに応援していると伝えることを優先することにした。
「零お姉ちゃん! サーペンス君! 五回戦の相手は去年の全国大会高校生の部の準優勝者らしいけど……頑張ってね! 私も応援しているから! 後ね……」
「おい、八木沼天魔! 早く追い返……」
「……」
レイの言葉を大人たちが遮ろうとすると、零が自身から歩み寄って来た。
そしてレイの目の前まで来ると、制服のポケットから以前自分がお守りとして渡した紙の花を取り出した。
「……どうして君は、ボクたちのことを応援してくれるの……? ……どうして君は、ボクにコレをくれたの……?」
零からの問いに、レイは一瞬考え込んだ。
どうしてって言われると……うーん?零を見て一目惚れしたから?迷子で不安の中、運命的な出会いをして、知り合いになったから?いや、きっと……。
「
それが一番の理由だった。
「……友達?」
「うん! あ、でも、確かに……まだちゃんと言ってなかったね……! それなら、零お姉ちゃん! これでちゃんとお友達だね!」
レイは笑顔を浮かべながら自分の手を差し出した。
すると零は少し面を喰らった表情をしながらも、恐る恐ると言った様子で空いている方の手を伸ばして来た。
しかし……。
「何をしているのだ! お前は見た目は完璧だが、触れられると正体が露見するから、他者とは接触するなと厳命した筈だ! それにそのゴミは何だ?」
急に割り込んできた大人たちが零が伸ばしていた手を無理やり掴んだ。
そのあんまりな行動に加え、自分がお守りとして渡した紙の花のことをゴミ呼ばわりしたことに、レイは思わず抗議の声を上げようとした。
しかしその直前に、天魔が仲裁する様に間に割り込んで来た。
「まあまあ……! それはファンの子がくれた物なんで大目に見て下さいよ……! それすら拒絶したら逆に怪しまれますよ……!」
「むぅ……」
天魔の必死を前に、大人たちも引き下がった。
すると天魔はレイの手を掴んで、この場を後にする様に促して来た。
「ほら、行くぞ、レイ。 それから、オフィ……蛇遣異も、それを没収されたくなかったら、隠しとけって言っただろ……!」
「……全く、大事にしまっときなさいよね……。 ほら、レイ。 アタシたちがまた送って上げるわ」
「う、うん……!」
天魔たちに連れられる中、レイは最後に零の方を振り返った。
「……」
すると零は、どこか縋る様な目で自分の方を見つめていた。
レイはそんな零の元に駆け寄りたかったが、そうすることは許されなかった。
*****
——『戦地』のバトルフィールドにて。
『——さあ、全国大会高校生の部の五回戦☆ 続いての試合は、シゼンホッカイドウ校の一位で一年生の蛇遣異零ちゃんとサーペンス君! そして、去年の全国大会高校生の部の準優勝で、ミライトウキョウ校の兜蟹咲良ちゃんとキャンサー君のバトルだよ☆ 今大会のダークホースの零ちゃんたちと、今大会の優勝候補の咲良ちゃんたちのバトルですが、果たしてどちらが準決勝の最後の枠を手に入れるのかな☆』
MCのステラの選手の紹介をする声が聞こえて来る中、『戦地』のバトルフィールドに
『むむむ? どうやらカオスサーペンスは四回戦でも新しい武装を出して来たみたいだね☆ え〜と、運営からの情報によると……『カオスマルチコンテナ』って言うサポートメカみたい☆ 蛇みたいなサポートメカを従えているし、これじゃあ
ステラは冗談のつもりだろうが、それは的を得ていた。
だって
そんなカオスオフィウカスのコックピットの中で、無数のコードに繋げられていた零もとい、
レイは不思議な子だった。綺麗なコレをくれたし、自分たちなんかを友達だと言ってくれた。心が不思議とポカポカした。
だけど……。
「……ボクにはあの子の手を掴む資格は無い……。 ……ボクはあくまでも
「……オフィウカス」
「……サーペンス。 ……それが変わらぬ事実なんだよ……」
自分たちは、建てられている建物のどれもが崩れかけの瓦礫になっていて、その周りにある木々も川も枯れ果てて、その空も黒い雲で覆われている、この『戦地』のバトルフィールドにお似合いの存在だった。
花の様に綺麗なあの子の隣に立つ資格なんて、最初からある訳が無かった。
そんな中、MCのステラがバトルの開始を宣言する声が聞こえて来た。
『それじゃあ皆お待ち兼ね☆ バトルスタートだよ☆』
「……ボクたちは
「……了解。 敵の殲滅を開始する」