——兄ちゃんは俺のヒーローだった。 兄ちゃんは俺に、ウィッチバトルの楽しさを教えてくれた。 だから俺も、兄ちゃんの様なヒーローになりたいと
「——秀次! 俺はスコーピオと一緒に、世界で一番の相棒であるチャンピオンバディになって見せるからな!」
「はい。 自分も優一に選んで貰った以上、力になります」
そんな兄は、家で働くメカニカルウィッチのことを召使の様な便利な道具としか見ていない両親とは違って、大事な家族の一員として扱っていた。
そんな訳で、両親から相棒を用意されなかった兄は、お世話係として一番親しかったスコーピオを自身の相棒に選び、一緒にウィッチバトルの世界へと飛び込んでいた。
「わあ〜、流石は俺のヒーローっす!」
「はい……! カプリコーン……! 私たちも優君たちの背中を追いかける為にも、頑張りましょうね……!」
「ええ! アタシもしあくに選んで貰った以上、頑張るわ!」
「秀次も姉ちゃんもカプリコーンも、優一君とスコーピオに当てられちゃってよ……まあでも、俺もその気持ちは分かるぜ」
兄は弟の自分だけでは無く、親ぐるみの付き合いがある幼馴染のしあくと天魔にもウィッチバトルの楽しさを教えていた。
自分たちにとってのヒーローである兄と、そんな兄と同い年で優一のことを慕っているしあく、それから自分と同い年で親友兼悪友の様な関係になった天魔、そしてそんな自分たちを見守るスコーピオとカプリコーンの六人で過ごす日々は本当に楽しかった。
兄たちが世界で一番の相棒であるチャピオンバディになると言う夢を叶えるのを、これからも特等席で見られるんだと無垢にそう思っていた。
だけど現実はそんなに甘くは無かった。
兄たちの世代には、あの明日斗博士の息子である黒土陽太とサンがいて、その圧倒的な強さと才能で一強状態を作り上げていた。
「流石は明日斗博士の息子だ! これこそが本物の天才だ!」
「それに比べて他の子たちは、本物の天才と比べれば、所詮は秀才止まりの凡人だな……」
そんな明日斗博士の息子と同世代の兄たちを、周囲はいつも比較して来た。
「やっぱり天才じゃ無い……秀才止まりの凡人の俺なんかじゃ、陽太には……
「優君、そんなことは……! っ……!」
「優一……」
「しあく……」
そんな周囲の無意識の悪意に、兄たちの世代は苦しんでいた。
さらにそんな中、メカニカルウィッチ研究所の事故で陽太とサンが亡くなってしまい、その結果、明日斗博士の息子と兄たちの世代の比較は無くなるどころか決定的になってしまった。『王者を失った世代』として……。
そのせいで兄たちがどれだけ頑張って結果を出しても、明日斗博士の息子との比較が覆ることは無くなってしまった。
「やっぱり……皆は天才にしか興味が無いんだ……。 道端の石ころの凡人がいくら頑張ったって、興味が無いんだ……」
そしてメカニカルウィッチ研究所の事故から一年ちょっとが経った頃だった。
明日斗博士の娘で陽太の妹である黒土美月のエキシビジョンマッチの相手になって欲しいと、彼女の学校の校長が優一たちに依頼して来た。
それは美月が陽太と同じ才能があるかを調べる敷居石にする為なのは分かっていたが、そんな彼女に勝てば『王者を失った世代』の評価も覆ると言われたことで、兄たちはその話を受けた。
それから兄たちはエキシビジョンマッチの為に、シゼンホッカイドウからミライトウキョウへと向かい、秀次もその応援として同行した。
そして行われたエキシビジョンマッチの結果は……兄たちの完敗だった。
兄たちはスナイパーライフルをメインに、様々な銃火器による正確無比な射撃を行っていたが、美月たちはまるで一手先の未来が見えているかの様に、兄たちの攻撃を全て紙一重で避け、逆に自身の攻撃を全て必中させていた。
その強さはまるで歴代最強にして、例外中の例外だと言われていた海姫ネオンを彷彿とさせる物だった。
「流石は明日斗博士の娘だ! 亡くなった兄をも凌ぐ、素晴らしい才能だ! まさに本物の天才だ!」
「それに比べて『王者を失った世代』は、やはりこんなものか……」
(兄ちゃん……!)
そんな周囲の声に、秀次は怒りと悔しさを感じていた。
するとそんな自分の耳に、兄の怒りと悔しさの籠った声が聞こえて来た。
「——くっ! やっぱり
バトルの後、自分たち以外は誰もいない場所で、兄はその瞳からボロボロと涙を流しながら、スコーピオを自分へと手渡して来た。
「兄ちゃん……?」
「優一……?」
「ぐすっ……ごめんな……スコーピオ。 俺はもう二度と……ウィッチバトルなんかやらない……。 凡人の俺じゃ、本物の天才の足元にも及ばないからな……。 だから……これからは俺なんかとじゃ無く、秀次とバトルをしてくれ……」
「「ーーッ!?」」
兄は完全に心がへし折られてしまっていた。
「何言ってんすか、兄ちゃん……! そんなことないっすよ……! だって兄ちゃんは俺のヒーローなんっすから……! しあくちゃんや天魔だって……!」
「優一……! 秀次の言う通りだ……! それに約束しただろう……? 一緒に世界で一番の相棒であるチャンピオンバディになろうって……!」
秀次とスコーピオは震える声で必死に兄を説得した。
しかし兄は目を逸らしてしまった。
「……ごめんな、スコーピオ……。
——そんなこと無かった……。 兄ちゃんは俺のヒーローだった。 だけど黒土美月と言う本物の天才を目にした俺は、兄ちゃんならいつか絶対に勝てる、なんて無責任なことを口にすることができなかった……。
*****
——バトルフィールドへと繋がるもう一方の選手用の通路にて。
「「マジカルスキル! カロンシャドウダイブ!」」
魔法で影から現れた御影とカロンのシャドウカロンの攻撃が、天魔とカプリコーンのハイドカプリコーンのハイドソードライフルとハイドシールドブースターを破壊するのと同時に、光学迷彩の効果を持つ魔力でできたマントを引き裂いた。
『チッ!』
『ああもうッ!!』
それから腰のハイドショットガンを両手に装備し、散弾を放って来た。
「「完全変形!
それに対し、シャドウカロンは一瞬で潜水艦から人型へと完全変形を行うと、両腕のシャドウマルチシールドに内蔵されたビームガンを連射し、続けて防御の姿勢を取った。
『くっ……!?』
シャドウカロンが散弾を防御する中、ハイドカプリコーンはハイドショットガンを破壊された上に地上へと撃ち落とされた。
今だ……!
「「マジカルスキル! カロンブレード!」」
シャドウカロンはすかさず足元の影から影の刃を発生させた。
『チッ! カプリコーンッ!!』
『分かってるわよ、天魔ッ!!』
『『マジカルスキル! カプリコーントリック!』』
するとハイドカプリコーンの魔法により位置が入れ替わり、シャドウカロンが自分の影の刃の前へと突き出された。
「ホワッツ!? カロンちゃん!」
「はいは〜い」
「「マジカルスキル! プルートアルターエゴ!」」
シャドウカロンはすかさず、中に乗っている自分たち以外は完全に同一の存在の分身を生み出して、それを盾にした。
危ない、危ない……。
『チッ! 俺らの目の前で冥道御霊のマジカルスキルを使ってんじゃねぇッ!!』
『イラつくのよッ!!』
するとハイドカプリコーンがハイドナイフを両手に切り掛かって来た。
シャドウカロンはシャドウマルチシールドからビームソードを発生させて迎え撃ち、激しい剣撃が巻き起こった。
そんな中、御影は思わず問いかけた。
「くっ……! 貴方たちはお姉ちゃんに何か恨みがあるんですか……!?」
『ああ、あるぜッ!! 何たって俺の姉ちゃんと、秀次の兄の優一君は、黒土陽太と冥道御霊によって滅茶苦茶にされた『王者を失った世代』だからなッ!!』
「ーーッ!?」
その世代のことは御影も知っていた。同世代に当たる姉と陽太と常に比較されるなどの様々な要因によって、バトルを辞める子たちが続出した世代のことだ……。
「そんなの逆恨みだよ〜」
『そうよッ!! だけどアタシたちはお利口さんな良い子じゃないのッ!! だから逆恨みだろうと何だろうと、しあくが受けた苦しみを、アイツの妹にぶつけてやるのよッ!!』
するとハイドカプリコーンは両足の『隠しナイフ』を展開して、さらに激しい攻撃を繰り出して来た。
それに対し、シャドウカロンも両脚のシャドウクローも使用して応戦した。
『分かってるさッ!! 全ては凡人の癖に、相棒と一緒に世界で一番の相棒であるチャンピオンバディになりたいって言う、叶う訳ないくだらない夢を見て、勝手に潰れた姉ちゃんが悪いんだってことはッ!!』
「……!! そんなとありません! 山羊沼君のお姉さんも含めた誰もが一度は夢見るその夢は、決してくだらないものなんかじゃありません! その夢は叶う叶わないだけのものじゃないんです!」
御影が咄嗟に反論すると、天魔たちはさらに怒りを募らせた。、
『うるせえッ!! そんな綺麗事を、よりにもよって本物の天才のテメェが口にするんじゃねえッ!! カプリコーンッ!!』
『しあくの恨みッ!!』
『『マジカルスキル! カプリコーンハイドアンドシーク!』』
ハイドカプリコーンは足元に魔法陣を発生させると、辺り一体ごとシャドウカロンを真っ暗な底なし沼へと引き摺り込んだ。
『どいつもこいつも馬鹿の一つ覚えみたいに、相棒と一緒に世界で一番の相棒であるチャンピオンバディになりたいと言いやがるッ!! その夢を叶えられるのは一握りの本物の天才だけなのに、何故それがどいつもこいつも理解できねぇんだッ!! 本当に馬鹿みてえだッ!!』
暗闇の中から天魔の激情が聞こえて来る。御影も彼の言わんとすることは理解できた。
御影は皆十人十色の良さがあると思っているが、やっぱり才能の差による強さの違いと言う目立った部分に皆目が向きがちなのは分かっていた。
確かにいくらそれぞれの良さがあると言っても、才能の差と言う話の前にはただの綺麗事なのかもしれない……。
それでも……!
「確かに山羊沼君の言う通り……その夢を叶えられるのも、皆の注目を集めるのも、才能ある一握りの本物の天才だけなのでしょう……。 だけど、きっと山羊沼君がお姉さんの夢を応援していた様に……家族や友人が一緒にその夢を見てくれていた筈なんです……! だから例え叶わなくても、その夢は決してくだらないものなんかじゃないんです!」
御影の魂の叫び声に共鳴する様に、シャドウカロンは胸部のシャドウマルチライフルから高火力の拡散型のビームを放って、真っ暗な空間を内部から無理やり破壊した。
『チッ!』
『くっ……!?』
さらにドローン武器へと分離した四肢と四つのシャドウマルチシールドから内蔵型アンカーを発射して、ハイドカプリコーンを拘束した。
このまま一気に決める……!
「カロンちゃん!
「了解だよ〜、御影ちゃん」
「「マジカルスキル! プルートゴーストキ……」」
『チッ! それでトドメをさされるのはごめんだぜッ!!』
『そうよッ!! アンタたちが喰らいなさいッ!!』
『『マジカルスキル! カプリコーントリック!』』
お互いの位置が再び入れ替わるが、シャドウカロンはプルートゴーストキャノンを発射しなかった。
『『ーーッ!?』』
天魔たちが御霊に複雑な感情を持っている以上、姉の魔法でトドメを刺すのは気が引けた。
だけどこうしてフェイクをかけることで、相手の最後の逆転の手段を無駄撃ちさせることができた。
これでもう
シャドウカロンは頭部の口を展開させると、内部の『隠しビーム砲』を放った。
『ぐっ……!?』
『天魔!?』
そして腹部にビームが貫通したハイドカプリコーンはマジカルバリアを破壊されて戦闘不能になった。
『チッ! やれ、カプリコーンッ!!』
『ああもうッ!! 仕方がないわねッ!!』
しかし突如、バトルフィールドへと繋がる選手用の通路が爆発した。
そして爆発によって天井が崩落し、大量の瓦礫が降って来た。
「「ーーッ!?」」
*****
「……全く、天魔たちも無茶をするっす……。 まあでも、こっちとしても助かったっすけどね……」
「ああ。 咲良たち相手に仕掛けておいた罠もつきかけていたからな……」
秀次とスコーピオは、ステルススコーピオのステルススナイパーライフルを咲良とキャンサーのオーガキャンサーに向けながらそう呟いた。
あと少しのところで、事前に張っておいた罠を咲良たちに突破されそうになったところを、最終手段として仕掛けておいた爆弾を天魔たちが起動してくれたおかげで、こうして盤面を一度リセットすることができた。
しかもラッキーなことに、崩れた瓦礫によって通路がさらに狭くなり、バトルフィールドへと繋がる自分たちがいる方に咲良たちが来るには、瓦礫の隙間にある唯一の直線の一本道を通るしかなくなっていた。
「お嬢、ここまでっす……。 この距離とこの直前の一本道と言う条件なら、いくら
『ハッ! アタシたちを一度倒せるだけの強さを持っていながら何が凡人よ……!』
すると咲良はそう呟きながら、オーガキャンサーをヨロヨロと立ち上がらせた。
「凡人っすよ……。 俺じゃ、白金会長や黒土さんみたいな本物の天才には絶対に勝てないっすからね……。 例えどれだけ頑張っても、せいぜい秀才止まりが限界っす……」
秀次は兄のことを頭に思い浮かべながらそう呟いた。
『……それなら、輝たちに今だに勝てないアタシたちも凡人って訳ね……』
「それは……」
秀次は言葉を詰まらせた。
咲良の強さは同じチーム鬼神のメンバーとして、それから同じ生徒会のメンバーとして、ずっと近くで見て来たから良く分かっていた。
咲良は確かに強い。だけど以前兄に言えなかった様に、咲良なら本物の天才相手にも絶対に勝てる、なんて無責任なことを口にすることはできなかった。
だから代わりに銃を構えることで返答した。
しかしオーガキャンサーは臆することなく鬼ノ太刀と鬼ノ小太刀を構えた。
『確かにアタシじゃ、本物の天才には敵わないのかもしれない……。 アンタの言う通り、秀才止まりの凡人なのかもしれない……。 だけど……
『咲良の言う通りでござる! 周りに何と言われようが、拙者たちは絶対に諦めないでござる!』
「「ーーッ!?」」」
そう言い切る咲良たちはとても眩しかった。
だから秀次たちその光を拒絶する様に引き金を引いた。
「お嬢! 口では何とでも言えるっす!」
「だが、これが現実だ……!」
そしてビームによる狙撃がオーガキャンサーへと真っ直ぐに向かい……。
『それならアタシたちがそれを証明してあげるわ!』
それをオーガキャンサーが今までとはまるで異なる動きで撃ち落とした。
この動きはまさか……!?
『『——シンクロゾーン!』』
*****
「「マジカルスキル!
お互いを心から信頼し合った咲良とキャンサーは、目の前に立ち塞がる大きな壁を一緒に乗り越える為に、限界を超えていた。
シンクロ率が
文字通り二人で一つの存在となり、一心同体、人機一体となったオーガキャンサーは、刀と足裏に炎を纏わせて動き出した。
『何で!? お嬢はシンクロゾーンが使えなかった筈なのに……!? それにここにはオフィウカスやサーペンスの様な立ち塞がる大きな壁も無いのに……!?』
『そうだ……! こんなことあり得ない……!』
「あるわよ!
「だから拙者たちはそれを乗り越えて見せるのでござる!」
オーガキャンサーが爆発的なスピードで突撃する中、ステルススコーピオはサブアームを使ってバックパックのコンテナに装備した二丁のステルスアサルトライフルと、腰に装備した二丁のステルスハンドガンを展開した。
『俺たちなんかがお嬢の壁になる訳ないっす! スコーピオ!』
『これ以上先には進ませない!』
『『マジカルスキル! ステルススコーピオショット! そして、マジカルスキル! スコーピオスナイプ!』
ステルススコーピオは展開した武器と肩部と胸部の側面に搭載したビーム砲から、
「「
それに対し、オーガキャンサーは連続斬りを行うことで、その攻撃を防御した。
「「
さらに薙ぎ払いによる攻撃を放って、一発だけ混じっていた、不可視の追尾弾ごと周囲の瓦礫を破壊した。
「「
そしてオーガキャンサーは十刀流になり、刀と足裏に炎を纏わせると、壱式から玖式までの技を次々に繰り出して、ステルススコーピオの武器と獅子を切り飛ばしてダルマにした。
地面に倒れ伏したステルススコーピオへと、オーガキャンサーは刀を突きつけた。
「秀次……。 スコーピオ。 御影たちと八木沼たちの話はアタシたちにも聞こえたわ……。 アンタたちはきっとお兄さんのことを応援していたんでしょう? 好きだったんでしょう? だからアンタたちはこんなにも強いのよ……。 本当はウィッチバトルが大好きだから……」
「「……!!」」
咲良の言葉に秀次たちは固まった。
「……ねえ、秀次。 アンタは本当にこんなことしたかったの……?」
「スコーピオもでござる。 お主は寡黙ではあるが、決して悪い奴では無い筈でござる」
「そうよ……。 アンタたちは本当はどうしたかったのよ……? 本当は何になりたかったのよ……?」
『……俺だって……本当は兄ちゃんみたいなヒーローになりたかったんすよ……。 こんな人間にはなりたくはなかったんすよ……』
『秀次……そうだな……』
秀次たちは涙の混じった声を溢していた。
そんな悲痛な叫びを聞いた咲良は独り言の様に呟いた。
「……本当に馬鹿なんだから……」