第81話「皆の願い」
——ワールドユニオンの刺客だったオフィウカスとサーペンスとの戦いの後。競技場内にある一番広い部屋にて。
「——すまない、皆。 私が抑えられたばっかりに、皆に迷惑をかけた上に、心配をかけた。 だけど皆の方も無事で、死者も誰一人出なくて本当に幸いだった」
この場へと急いで駆けつけて来た
どうやらワールドユニオンがJP国に新たに送り込んで来た、
「頭を上げてください、白金代表! それよりもご無事で本当に良かったです!」
「ああ! 悪いのはあくまでもワールドユニオンの奴らだからな!」
そんな白金代表へと、観客席への被害を防いだ二大チャンピオンバディの片方である
そんな中、そのもう片方であるネオンとネプチューンが、いつも通りのマイペースな様子で口を開いた。
「……ん。
「まあ、黒幕の
ネプチューンの言う通り、黒幕の黒穴博士こそは捕えられなかったが、美月とサターンに、命の恩を感じて二重スパイになってくれた
その中にはまだ学生の
ちなみに心とヴァルゴ、それから被害者のオフィウカスとサーペンスは拘束されずに、念の為の監視だけに止められていた。
すると拘束れたまま座り込んでいる秀次が、側にいた
「……お嬢、本当にすみませんでした……。 俺、全ての責任を取る為に、学園から……お嬢の前から消えるっす……。 勿論、それで許してもらえるとは微塵も思っては……アイタッ……!?」
そんな秀次の額に、しゃがみ込んだ咲良がデコピンをかました。
「お、お嬢……?」
「バカね……何が全ての責任を取る、よ? まだ学生……未成年の子供のアンタが今回の事件を計画した訳じゃ無いでしょうに……」
「咲良の言う通りでござる! 秀次殿たちはあくまでも命令された実行役で、責任を取るべきなのはそれを指示したワールドユニオンの大人たちなのでござる!」
「それ……は……」
咲良とキャンサーの言葉に秀次が押し黙った。
するとそれと入れ替わる様に、菜々が狂乱した様子で声を上げた。
「違います! お父様とお母様は関係ありません! 全てはわたくしが独断でやったことなんです……!」
「そんなことありませんわ! 菜々先輩はわたくしと同じ様に、両親からの指示を受けて動いていたではありませんか!?」
「心姉様の言う通りですぅ〜! ヴァルゴたちなんか、かなり圧を受けたのですぅ〜!」
「こればかりは私も心とヴァルゴに同意です……! 菜々様の相棒兼従者として、貴方様が泥を被るなど認めるわけには行きません……!」
「いいえ! 全てはわたくしの独断です! お父様もお母様も……
菜々は心とヴァルゴ、それからアクエリアスの説得に耳を傾けることなく、泣きながら必死に声を上げていた。
「——いいや、責任を取るべきなのは、あくまでも菜々に指示を出した私だ」
すると部屋の自動ドアが開き、年配の男女が入って来た。
美月は明日斗博士の娘として、その人物たちと何度か会ったことがあった。
(あの人たちは確か……雨水瓶自動車の社長の
そんな豪雨と梅雨は拘束されたまま座っている菜々の元へと歩み寄ると、その膝を突いた。
「お父様……お母様……受けた指示を果たせず、申し訳ございません……」
「良いんだ、菜々。 お前が無事なら……。 それとすまない……。 言い訳にはなるが、長年の付き合いがあって、いろいろと恩もある
「……ですが、菜々にそんな手段を取らせたのはきっと私たちのせいなのでしょう……。 ごめんなさい、菜々。 貴方は晩年にようやく授かった子だったから、雨水瓶自動車の後継者として厳しく躾け過ぎました……。 そのせいで貴方はこんなにもプレッシャーを背負ってしまったのですね……」
「お父様……! お母様……! うわあ〜〜ん!!」
梅雨に抱きしめられた菜々は背負っていた物から解放された様に、人目を憚らずに泣き出した。
そんな中、豪雨は立ち上がって白金代表へと声をかけた。
「白金代表。
「
「無論だ」
豪雨はそう答えると、最後に菜々たちの方へと目を向けた。
「梅雨、雨水瓶自動車のことは任せた」
「はい、豪雨さん」
「アクエリアス、菜々のことは頼んだぞ」
「はい、勿論です。 私は菜々様の件であり、盾ですので!」
「菜々、今まで本当にすまなかった……。 これからは私のことは忘れて……」
「嫌です……! わたくしはお父様が帰ってくるのをずっと待っていますから……! だから……!」
「ああ、そうだな……。 約束するよ、罪を償って帰ってくると……。 だから菜々もどうか元気でいてくれ。 そして雨水瓶自動車の次期社長は任せたぞ」
「はい、お父様……!」
そして豪雨は白金代表が呼んだ職員に拘束される形で連れて行かれた。
するとその光景を見ていた天魔が不機嫌そうな声を上げた。
「あ〜あ、大企業の一人娘は庇って貰って羨ましいこった! どうせ次男坊の俺と秀次は切り捨てられるだろうからな!」
「まあ、そうっすね……。 俺らの親は仕事上、こう言う件からのらりくらりと避けるのが得意っすからね……」
天魔の愚痴に、秀次も思わず同意していた。
そんな中、白金代表のマジカルウォッチに連絡が入った。
「何……?
すると部屋の空中にモニターが映し出され、そこに自分たちよりも少し年上の男女が現れた。
あれ……?どこかで見たことがある様な……?
「兄ちゃん……!?」
「
「姉ちゃん……!?」
「しあく……!?」
それを見た秀次とスコーピオ、それから天魔とカプリコーンが思わず声を上げた。
『白金代表。 秀次たちにこんな指示を出した両親は必ず俺たちが突き出します……!』
『だからどうか、天魔たちの責任を軽くして貰えて無いでしょうか……? 私たちも一緒に背負いますので……!』
「安心してくれ。 元より指示を受けただけの子供たちに大きな責任を問うつもりはない。 だから君たちの協力は助かるが、あまり無茶はしない様に」
『『ありがとうございます……!』』
優一たちは頭を深く下げると、改めて秀次たちの方へと目を向けた。
『秀次、スコーピオ、すまない……! 俺がバトルから逃げ出したせいで、お前たちにこんな役目を背負わせてしまった……! 俺はカッコ悪い兄ちゃんで、ヒーローにはなれなかったけど……せめてこれくらいはさせてくれ……!』
「そんなこと無いっすよ……兄ちゃんは今でも俺のヒーローっすよ……」
「ああ、自分も秀次と同じ気持ちだ……。 流石に相棒を解消した件については許すつもりは無いが……」
そんな秀次たちのやり取りを見ていた美月は、優一に覚えていた既見感の正体を思い出した。自分の罪の証を……。
美月は震える声で呟いた。
「貴方はもしかして……あの時のエキシビションマッチの相手の……!」
「お嬢様、私も思い出しました……。 優一様とスコーピオ様はあの時、私たちに敗れてバトルを辞めてしまったあの子たちだったのですね……」
優一と秀次の性格が正反対で、スコーピオも殆ど無口だったから気づかなかったが、美月を心配してこの場について来たリンもそう言っているのだから、間違いは無いのだろう。
美月が自分のせいで優一とスコーピオの相棒の絆を壊してしまったと言う事実を改めて噛み締めていると、その当が彼が慌てた声を上げた。
『黒土さんが責任を感じる必要なんて無い……! あれは全部……秀才止まりの凡人の癖に、世界で一番の相棒であるチャピオンバディになろう、なんて身の丈に合わない夢を見て、勝手に折れた俺が悪いんだから……』
優一の声は後半に行くに連れ、だんだん静かになっていた。
「——そうだね、美月さんに責任は一切ないのは同意だ。 だけど、
すると
『
「優一君……それからしあくさんも、
「そうですね、僕たちは今でもお二人のことはライバルだと思っていますよ……」
「プルートの言う通りさ! それに……私の勝手な判断だが、彼も……陽太もきっとそう思っていた筈さ……」
御影とプルートの言葉に、サターンも「その通りだ」、と頷いていた。まあ、流石にここで自身が陽太だとは明かすことはできないが……。
すると優一としあくは長年の憑き物が落ちた様な表情になった。
『ありがとう、冥道さん……。 そう言ってもらえて、俺たちも救われたよ……』
『はい……こんな私たちのことを覚えていてくれてありがどうございます……』
『それからスコーピオ、本当にすまなかった……』
『カプリコーンもごめんなさい……』
「自分は今もう秀次の相棒だ……。 だから許すことはないが……それでも謝罪は受け取っておく……」
「アタシもスコーピオと同じよ……! 今更もう遅いのよ……! しあくの馬鹿……!」
優一たちは何やかんや和解した様だった。
それなら自分もこれ以上は話を広げるのを止めようと、美月は決断した。
そんな中、一人だけ不貞腐れた様子をしていた天魔へと、
「……山羊沼君。 さっきは話しそびれましたが……山羊沼君のお姉さんのことをあなたが応援していた様に、あなたのことを応援していた子だっていたんですよ?」
「うんうん、例えば輝君の姪っ子のレイちゃんとかね〜」
御影たちがそう言うと、レイが母親の
「ーーッ!? レイ……!」
「天魔お兄ちゃん……。 私、天魔お兄ちゃんたちが悪いことをしたって聞いたよ……。 だけどね、それでも天魔お兄ちゃんたちのことはこれからも応援し続けるから! だって天魔お兄ちゃんたちは私の大事なお友達だから!」
レイのその言葉を聞いた天魔とカプリコーンは申し訳なさそうに顔を伏せた。
「そっか……レイは俺らなんかを応援してくれていたんだもんな……」
「それをアタシたちは裏切ったのね……」
「ごめんな、レイ……」
「ごめんなさい、レイ……」
そしてワールドユニオンについての話し合いが一旦終わったことで、話の内容は全国大会の今後について映った。
「……さて、全国大会の今後なのだが……やはり安全面を考慮して中止に……」
「——白金代表、続けさせて貰えるませんか」
全国大会の中止を口にしようとした白金代表の声を、咲良が頭を下げながら遮った。
「残っている試合は輝たちと焔たちの準決勝……そしてそれに勝った方と美月たちの決勝のみです……。 この三者たちは絶対にワールドユニオンとは関係ないので、同じ様なことは起きない筈です」
「俺も咲良と同意見だぜ! 俺様たちの全国大会をここで終わらせないでくれ!」
「頼むのであーる!」
「白金代表! 私たち皆この日の為に頑張って来たんです!」
「どうお願いするわ!」
咲良の言葉に、
「うんうん! あたしも焔たちと輝先輩たち、それから美月ちゃんたちのチームオールスターズのメンバー同士のバトルを最後まで見届けたい! ね、ジュピター!」
「う、うん……
「ああ! 残る準決勝と決勝は間違いなく最高のバトルになる筈だ! それを中止するなんてとんでもない! そうだろ、マーキュリー!」
「フッ、そうだな、冬馬。 俺も同じことを思っていた」
さらに小春とジュピター、それから冬馬とマーキュリーも同調した。
するとそれに続く様に、この場にいた
そんな皆の願いを聞き届けた白金代表はゆっくりと口を開いた。
「……皆の願いは分かった。 それなら、全国大会をこのまま最後まで続けられる様に、どうにか安全面を確保できる様にいろいろやってみよう」
全国大会の継続の決定に、皆は喜びの声を上げた。
そんな中、白金代表は咲良たちへと声をかけた。
「……しかし、
「良いんです……」
咲良は首を横に振ると、オフィウカスとサーペンスの方に目を向けた。
「オフィウカスとサーペンスは、確かにいろいろとルール違反を犯しましたが……どれもあの子たちが望んでやったことではありません……。 あくまでも悪いのは裏にいたワールドユニオンです……。 だからそんなあの子たちの頑張りをこのまま残しておいて欲しいんです……。 それに……
「そんなことないっす! 俺が邪魔さえしなければ、お嬢は絶対に勝っていたっす!」
すると秀次が口を挟んで来た。
「いいえ、負けていたわ。 そりゃただでさえ負ける気は無いし、腕の一本や二本は取れたでしょうけど……やっぱり最終的には届かなかった筈だわ……。 自分のことくらい自分で分かるわよ……」
「お嬢、俺に気を使うのは止めて下さい……!」
「あ〜、もう! しつこいわね!」
「アイタッ!?」
咲良は再び秀次のオデコにデコピンを放った。
「そんなに責任を感じているなら、アタシから逃げるなんて甘えた選択肢は捨てなさい! 今度から学園で本気でバトルをして、生徒会の仕事もサボらずにちゃんと頑張ったら、許して上げるわ!」
「お嬢……ありがとうございます……」
「……全く、しょうがない奴なんだから……」
咲良は呆れた顔をしながら立ち上がると、正義たちの方に目を向けた。
「勝手に決めちゃって悪いわね、正義。 勿論、三回戦でバトルしたアンタたちの意見もちゃんと聞くわ」
「いや、構わない。 少なくともその子たち自身は正々堂々とバトルをしていたのだから」
「はい、ですので、ワタクシたちも文句はありません」
「それに二回戦でバトルしたのは、私の後輩だったからさっき連絡を取っておいたが、このままで構わないそうだ。 ただもしいつか叶うのなら、
「確かにそうね……」
そして全国大会もこの結果のまま続きを行うことになった。
「……さて、後は今の結果のまま全国大会を続けることを皆に伝えるだけだが……」
「——はい! それなら俺に一つ提案があります!」
すると焔が白金代表に向かって手を挙げた。
「きっと皆全国大会がどうなるのかって、不安になっていると思います! だからそんな皆を元気付けて、全国大会を最後までやると伝える為にも、今から俺たちも準決勝を行いたいんです!」
「そうね、焔君! それが一番だわ!」
それから焔は輝とヴィーナスに向かって頭を下げた。
「輝先輩、ヴィーナス、急にこんなこと言ってすみません! でも……!」
「良いんだ、焔君。 僕も丁度同じことを思っていたからね……。 それに美月さんたちは同日に五回戦と準決勝を行ったんだから、僕たちもそうしないとフェアじゃないからね」
「はい、マスターの言う通りです。 ……とは言え、ヴィーナスたちは手加減するつもりも、負けるつもりもありませんよ?」
そしてこの後、焔たちと輝たちの準決勝を行う流れになった。流石に準備に時間がかかるので、少し時間は空くが……。
するとそれを聞きつけたMCのステラが手を挙げた。
「そう言うことなら、準決勝が始まるまでの間、私が歌で皆を盛り上げておくね☆ ……と言う訳で、
「……全く、ステラはいつも急なんですから……。 でもまあ、それがステラですし……マネージャーの私が何とかしましょう」
ステラの無茶振りを受けたマネージャーの空は、マジカルウォッチを使ってどこかに連絡を入れ始めた。
そして国民的アイドルのステラのライブが決まったことで、その場にいた面々が盛り上がり始めた。
するとそんな中、咲良たちが美月たちの元へとやって来た。
「美月!」
「咲良先輩……! キャンサー……! そのっ……本当に良かったのですの……?」
美月としても咲良たちの意見は尊重したったが、以前交わしていた全国大会の舞台でバトルをしようと言う約束が叶わなかったことに、少し引っ掛かりを感じていた。
「良いのよ……。 でも、約束を守れなくてごめんなさい。 だからその代わりと言っては何だけど……一つお願いがあるの」
「お願いですの……?」
「ええ、直ぐにとは言わないけど、いつかアタシとキャンサーと本気のバトルをして欲しいの!」
「どうか頼むのでござる!」
「……!!」
そのお願いは美月としても願ってもいないことだった。
だからその答えは勿論決まっていた。
「はい、咲良先輩……!」
「ああ、僕とお嬢様が受けて立つ!」