——僕は今でも美月ちゃんと出会ったあの日のことを覚えている。 美月ちゃんに一目惚れしたあの日のことを……。
(——綺麗……まるで精霊みたい……)
今から十年程前、当時七歳だった輝は、とあるパーティーの会場となった建物の裏庭にある噴水のある場所で美月と出会い、その天使の様な笑顔を見て一目惚れした。
そんな美月は、自分だけじゃどうすることもできない問題に直面して泣いていた輝のことを助けてくれた。それから弱虫な自分のことを嫌っていた輝に、自身の秘密を明かしてくれた。いつもは勇気のお呪いを唱えて母の真似をしていることを……。
「——勇気よ輝け。 ……こんな感じで……どうかな……?」
そして美月は輝にも勇気のお呪いを作ってくれた。本当に嬉しかった。
だから貰った勇気のお呪いを使って弱虫な自分を変えて、今度は自分が美月のことを助けると約束した。
「うん、分かった……! 約束だよ、
「……!! うん……! 約束するよ、美月ちゃん……!」
だけどその後、メカニカルウィッチ研究所の事故……いや、事件が起きて、美月が母と兄、それから家族であったメカニカルウィッチを亡くした時に、輝は何もすることができなかった。
美月のことを助ける為に、その隣に立てる様になろうとした輝は、周囲から無謀な勇者だとバカにされ嘲笑われたことで、その声に耐えきれずに逃げ出してしまった。
それからと言うもの、輝は美月のことを助けられなかった自分をずっと責め続けながらも、せめて周りの誰かを助けられる様にと頑張っていた。
そしてそんな輝は、今年の四月に起きたメカニカルウィッチ研究所のテロ事件で、自分の姪のレイを助けてくれた美月と再会した。
「——もう二度と、人工精霊を……メカニカルウィッチを利用して誰かを傷つけさせたりなんかさせません!! メカニカルウィッチを悪いことに使おうとする人たちがいるなら、私はその人たちを止める為に戦います!!」
その際に、メカニカルウィッチを悪用させない為に、テロリスト相手に戦うことを選んだ美月の姿を見て、輝は改めて惚れることになった。
それから輝は、その数日後にメカニカルウィッチ研究所に入学して来た美月のことを今度こそ助けられる様にいろいろと動くことにした。
でも以前約束を守れなかった負い目から、美月に対して深く踏み込むことも、彼女が忘れてしまった昔の輝のことを話すこともできなかった。
そして輝が足踏みしている内に、美月は焔と出会い、二人はお互いに惹かれていった。
「——ありがとう……ございますわ、焔……!」
美月は明日斗博士の娘として昔からいろいろと苦労していて、それが原因でトラウマもできていたが、焔はそんな彼女の心を救っていった。
周囲から無謀な勇者だと笑われて逃げ出した自分とは違って、焔は以前の輝と同じ様なことを言われても逃げることなく、美月の隣に立つ為に努力を重ねていた。
そして学園リーグ戦で引き分けたことで、焔は本当に美月の隣に立って見せた。
そのバトルの後、どんなやり取りをしたのかは分からなかったが、美月は昔の様に天使の様な満面の笑顔を焔に見せていた。それからその直後、
そんな美月の姿を見た輝は心を激しく乱された。そして美月のそんな表情を引き出した焔に激しく嫉妬した。
そのせいでヴィーナスにはいろいろ心配をかけてしまうことになり、その後いろんな問題が発生することになってしまった。それについては輝も大いに反省した。
きっと美月は焔のことが好きなのだろう。生まれ育った環境のせいで、自身の気持ちをまだ明確にはできていない様だが、焔に対する態度の節々からその気持ちが見て取れた。
一方で焔もその行動から見て美月のことが好き?なのだろうが、どうにも
つまりは二人は両片想いの様な状態になっていた。
それに対して輝は鈍感な焔とは違って、自分の美月への想いを自覚していた。
しかしその当の美月が、昔会った自分のことをずっと女の子だと勘違いしていて、昔の輝のことを思い出した後も、変わらず「輝ちゃん」呼びを続けていることから、そもそも恋愛対象として意識されるどころか、ちゃんと男として認識されているかすらも怪しかった。
ハッキリ言って今のままではかなり厳しいのは輝も自覚していた。
だけどそれでも諦める気なんて微塵も無かった。
——僕は美月ちゃんのことが好きだ。 美月ちゃんと焔君が両片想いの様な状態になっているのは分かっている……だけどそれでもこの想いだけは諦めることができないんだ……! だから個人的な事情だけど、準決勝戦の相手である焔君にだけは絶対に負けたくないんだ……! そして焔君たちに勝って、決勝戦で美月さんたちに勝って、僕はこの想いを美月ちゃんに伝えるんだ……!
*****
『——さあ、皆お待たせ☆ 全国大会高校生の部の準決勝戦☆ 準決勝戦の試合でバトルするのは、現在の高校生チャンピオンバディで、ミライトウキョウ校の一位で生徒会長の三年生の白金輝君とヴィーナスちゃん☆ そして、同校の六位で一年生の
MCのステラの選手の紹介をする声が聞こえて来る中、『科学館』のバトルフィールドにノーブルヴィーナスが立っていた。
今回のバトルフィールドの『科学館』は、プラネタリウムに、実寸大の人工衛星や宇宙ステーションの一部などの展示場などがある屋内と、実寸大のロケットのモデルとその発射場を再現した屋外の二つに分かれてた。そしてその上空には月のレプリカが飾られており、その性質上、宇宙や星が大好きな人たちからは大人気のステージだった。
そしてバトル開始の時刻となったことで、MCのステラがバトルの開始を宣言した。
『それじゃあ皆お待ち兼ね☆ バトルスタートだよ☆』
「ヴィーナス! 個人的な事情で悪いけど……僕は焔君だけには絶対に負けたくないんだ! だから僕に力を貸してくれ!」
「勿論です、マスター……! ヴィーナスとしても、先に決勝戦で待っている、
「……? う、うん! よろしくね、ヴィーナス!」
「はい、マスター……!」
ヴィーナスは六月に起きたメカニカルウィッチ学園での事件の際に、改めてちゃんと話し合って以降、明るくなり、かなりグイグイ行く様になった。
それと同時に何故か美月のことをやたらライバル視する様になったのだが……。う〜ん、何でだろう?
輝はそうこう考えながらも、ノーブルヴィーナスの全身のスラスターに火をつけた。
そして屋内スタートと言うこともあり、ロケットが発射する映像が映っている巨大なシアターのある、一番広い展示スペースへとやって来た。
(……
それから焔たちの気配を感じ取った輝は、ノーブルヴィーナスに二丁のノーブルガンソード
「さあ、焔君! マーズさん! 白黒つけようか!」
そしてノーブルヴィーナスはビームを放って、開戦の狼煙を上げた。
するとシアターの裏に隠れていたブラッドマーズが、ブラッドロッドにマーズブラッドサイスの血の鎌を展開させながら飛び出して来た。
『くっ……!? マーズ! 見つかった以上、一気に行くよ!』
『ええ、焔君!』
『『マジカルスキル! 幻影の炎!』』
ブラッドマーズは炎の影分身を生み出して、四方八方から切り掛かって来た。
本物は一つだけとは言え、四月の頃と比べて分身の使い方が格段に上手くなっているせいで、偽物との区別がつきにくくなっていた。本当に凄い成長性だ。
「それならこっちも行くよ、ヴィーナス!」
「はい、マスター……!」
「「マジカルスキル! ヴィーナスセイバー!」」
それに対し、ノーブルヴィーナスは再び分離したノーブルガンソード
そして次々に分身を消し、本体を見つけたノーブルヴィーナスは、そのまま攻撃に移る……ことなく、後ろを振り返って、密かに飛んで来ていたマーズファイアを撃ち落とした。
『そんなっ……!? 隠密仕様のマーズファイアが……!?』
『本体を囮にしたのに気づかれるなんて……!?』
「……悪いけど、焔君たちが今使った作戦は僕も覚えていたからね。 以前君たちが美月さんたちとの学園リーグ戦で使っていたものだから」
「はい、甘かったですね。 それでは反撃です」
『ーーッ!? うわぁっ!?』
『焔君!?』
ノーブルヴィーナスの蹴りを喰らったブラッドマーズは、実寸大の人工衛星が展示されている場所へと吹っ飛ばされた。
しかし……。
『だったら別の手を使うまでだ! 行くよ、マーズ!』
『ええ、焔君! 合体マジカルスキルを使うわよ!』
『『マジカルスキル! 幻影の炎!
ブラッドマーズは直ぐに立ち上がると、炎の影分身を、炎を纏った実体を持つ分身へと生まれ変わらせ、ドローン武器を操る要領でこちらへと突撃させて来た。流石は何度負けても絶対に折れない心を持っているだけのことはある。
「迎え撃つよ、ヴィーナス!」
「了解です、マスター……!」
「「マジカルスキル! ヴィーナスノーブルゲート!」」
それに対し、ノーブルヴィーナスはノーブルマルチウィング
ビームの嵐が炎の分身を飲み込んだことで、両者のマジカルスキルが打ち消された。
「今だ、ヴィーナス!」
「はい、マスター……! 行きなさい、ノーブルマルチウィング
ノーブルヴィーナスは四機のドローン武器から大火力のビームを一斉に放った。
『『マジカルスキル! マーズブラッドムーン!』』
それに対し、ブラッドマーズはブラッドロッドの先端に、魔力の塊である巨大な赤い月を宿すと、
さらに……。
『マーズ! 当たって砕けろの精神でどんどん行くよ!』
『ええ、焔君! 私たちは
『『
ブラッドマーズはマーズブラッドムーンを依代に、三日月の様な形をした巨大な星の鎌を作り出した。
不味い。あれはどこまでも進化し続ける焔たちの様に、どこまでも成長し続ける魔法だ。
だから輝は成長する前に摘み取ってしまうことを選択した。
「そうはさせない! 行くよ、ヴィーナス!」
「はい、マスター……! ヴィーナスが力になります……!」
「「マジカルスキル! ヴィーナスフォーリンエンジェル!」」
輝たちは、暗闇博士がヴィーナスに搭載した
ノーブルヴィーナスは白い光と黒い光が無限大を描く様に重なり合った光輪を頭部に浮かべると、天使の様な白い翼と悪魔の様な黒い翼の二組の対となる四つの翼をはためかせ、飛行魔法を超える神速のスピードを獲得した。
そしてノーブルヴィーナスは、そのまま目には見えないスピードで次々に攻撃を仕掛け、ブラッドマーズを押さえ込んだ。
いくらマーズブラッドサイス・
『くっ……!? 速過ぎる……!?』
「焔君! マーズさん! 悪いけど、このまま決めさせてもらうよ!」
「お覚悟を……!」
『マーズ! 防御だ!』
『分かっているわ、焔君!』
『『簡易変形!
ブラッドマーズは展開していたブラッドウィングを閉じて、遠距離での魔法の撃ち合いを想定した防御よりの姿になろうとした。
「遅い!」
しかしその為に動きを止めた瞬間を狙って、ノーブルヴィーナスが強力な一撃を叩き込んだ。
『うわあっ!?』
『焔君!?』
*****
「イテテ……」
「焔君、大丈夫!?」
「うん、マーズ。 何とか……」
攻撃を喰らったブラッドマーズは、さっきいた場所の壁を貫通する形で、別の場所まで吹っ飛ばされていた。
だけどギリギリの所で『
「ここは……プラネタリウム?」
焔が辺りを見回すと、天井や壁にはたくさんの星が映し出されていた。
凄く綺麗な景色だ。美月は確か、星空が好きだと言っていたので、きっとこれを見たら気にいる気がする……。
焔がふとそんなことを考えていると、ブラッドマーズが吹っ飛ばされて来た壁の穴からノーブルヴィーナスが現れた。
そしてそのまま展開していた四機のドローン武器から大火力のビームを一斉に放って来た。
「ーーッ!? マーズ!」
「任せて、焔君!」
「「マジカルスキル! 爆炎の盾!」」
それに対し、ブラッドマーズはブラッドロッドで炎の盾を作り出すことで防御した。
さらに……。
「「マジカルスキル! マーズバースト!」」
ブラッドマーズは炎の盾で発射タイミングとその狙いを隠しながら、ブラッドステッキの先端に発生させた魔法陣から火の魔力が込められたビームを放った。
『良い使い方だ! だけど……!』
『当たりませんよ……!』
しかしノーブルヴィーナスには避けられてしまう。
流石はミライトウキョウ校の学園リーグランキングの一位にして、高校生チャンピオンバディだ。
焔たちはほぼ一方的に押されている上に、今だに輝たちに明確なダメージを与えられないでいた。
それでも……!
「まだだよ、マーズ! 輝先輩とヴィーナスは煌めき強いけど、俺たちだって絶対に負けない! この準決勝戦に勝って、決勝戦で美月とサターンとバトルするんだ!」
「そうよ、焔君! 輝君たちと美月ちゃんたちを倒して、私たちが高校生チャンピオンバディになるのよ!」
「「簡易変形!
ブラッドマーズはブラッドウィングを展開し、近距離戦闘を想定したスピード特化の『
そして展開したブラッドウィングから、先の攻防で吸収した魔力で作り出した蝙蝠の形をした赤いビームを無数に放ちながら、突撃した。
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッーー!!」」
ブラッドマーズは威力と取り回しに優れた巨大なビームの剣を振り回した。
確かにノーブルヴィーナスは速い。それこそヴィーナスフォーリンエンジェルにより神速の如きスピードになっていた。だけど今いる屋内では、屋外程そのスピードを生かすことはできていない様に見えた。
その為ノーブルヴィーナスは、四機のドローン武器で無数の蝙蝠の形をした赤いビームを防ぎ、プラネタリウム内の空間を確保しながら、ガードブレイク効果のあるマーズバースト・
『くっ……! 流石だよ、焔君! 美月さん相手に引き分けて、その隣に並び立っただけでは終わらず、そこからさらに進化を続ける君は、いつかマーズさんと一緒に、高校生チャンピオンバディの僕たちすらも超えて、世界での一番の相棒であるチャンピオンバディになるのだろうね!』
輝の声はいつも以上に感情が込められたものになっていた。
『それでも僕は、君にだけは負けたくないんだ! この準決戦勝で焔君たちに勝って、その次の決勝戦で美月さんたちに勝って、僕は美月さんの隣に並び立つんだ!』
輝は堂々とそう宣言した。
『その為にも、
そして輝は一呼吸置いてから、改めてその口を開いた。
『——勇気よ輝け!』
その瞬間、ノーブルヴィーナスの動きが一変した。
しかし、それだけでは終わらない。
『ヴィーナス! 個人的な事情に巻き込んでしまって本当に悪いけど……行くよ!』
『はい、マスター……! ヴィーナスとしては大変複雑ですが……それでもマスターの想いは尊重します……!』
『『——シンクロゾーン!』』
さらに輝たちはシンクロゾーンを発動させた。
シンクロ率が百パーセントのその先へと至ったことで、文字通り二人で一つの存在となり、一心同体、人機一体の動きとなったノーブルヴィーナスが襲いかかって来た。
『
「ひ、輝先輩……?」
そんな中、輝が口にした衝撃的な言葉を聞いた焔は、思わず機体の動きを止めてしまった。
『マスター……! テンションが上がり過ぎて、心の声が漏れてしまっています……!』
「アハハ……
『ハッ……! い、今のは違う……いや、違わなくないけど……! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ〜〜!?』
輝はヴィーナスとマーズの指摘に思わず発狂していた。
するとまるでそれに連動する様に、ノーブルヴィーナスがいろんな意味で凄い動きをしながら、ブラッドマーズを吹っ飛ばした。
「うわあッ!?」
「焔君!?」
またもや吹っ飛ばされたブラッドマーズは建物の壁をいくつも貫通する形で、屋外へと強制的に弾き出された。
するとそんなブラッドマーズに乗っている焔の耳に、美月とサターンの声が聞こえて来た。
「輝先輩! ヴィーナス! 本当に凄いですわ! このまま頑張って下さい!」
「輝ッ!! 貴様さっき、何か変なことを口走っていなかったかッ!? 良く聞こえなかったが……僕のセンサーが全力で警報を鳴らしているのだがッ!?」
どうやらさっきの輝の言葉は美月たちには聞こえていない様だった。
「——焔!」
すると今度は美月が自分の名を呼ぶ声が聞こえて来た。
「焔! マーズ! このまま負けてはダメですわ! どうか焔たちの凄いところをわたくしに見せて下さい! 頑張って下さい!」
(……!! 美月……!)
——さっきの輝の言葉を聞いたせいか、焔は自分でも良く分からないが、美月の応援を聞くと、体の奥底から無限に力が湧き上がって来るのを感じていた。