パ リ ピ 時 臣   作:融合好き

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「え? あたしちゃんとオジサマの共通点? 目二つ鼻一つ口一つ手足がそれぞれ二つ!! おおおばっちりぴったりじゃん!!……え? そういうことじゃない? あっそう」


エモコア・ハンマー:EX

 

 

 

マスターとしての資格を得ていなくても、私は私なりに聖杯戦争に備えてきたつもりだった。

 

否、だからこそ、というべきだろうか。囮役、もしくは景品として出生から定められた私は、聖杯戦争こそが自身の生き甲斐あるいは目標として刻まれている。そんな私が愛する伴侶を得て子を成し、私自身も賛同できる目的を有して戦争に参加するというのは誉高いことであり、だからこそ全霊を尽くすつもりでいた。

 

彼のためになるのなら。安い自己犠牲だとは言わせない。考え無しとは思わない。私にだって意思はあるのだ。キリツグのため、イリヤのため。僅かな交友関係であろうとも、これまで関わってきた全てに報いるため努力することの何がおかしいのか。

 

確かに、アインツベルンのホムンクルスには魔力を充填するためだけに存在する、いわゆる肉の塊とも呼ぶべき“お人形”も多数存在する。広義の意味では私もそれと同じで、それを憐れむ誰かがいるのも否定はしない。でも。

 

「アイリスフィール?」

「え? ああ、ごめんなさい。何でもないの」

 

揺られる車内に釣られて眠気に襲われたのか、運転席のセイバーに声を掛けられて、少し惚けていた意識を浮上させる。たったの一騎、まだ序盤も序盤であるのに、既に全身の違和感が凄まじい。

 

『そうですか、キャスターが……』

 

キャスターが脱落した、ということを彼女へ伝えたのは昨日のこと。まさか昨日の今日、たった数日でこんなにも状況が変わると思わなかった我々にとって、それはまさしく驚天動地の情報だった。

 

あの場で姿を見せなかったキャスターが、一体何者であったのか、どのような思惑があったのか。その人物像はおろか存在していたことすら我々は知らない。それなのに既にそのサーヴァントを特定し、仕留め、戦況の駒を進めた参加者が存在する。その情報は我々の警戒を高めるには十分で、未だ腕が満足に動かせないというのに、この小さな騎士様は私をべったりと付いて守ってくれている。

 

本音を言えば、私なんてどうでもいいからキリツグのそばにいて欲しいのだが、私を守ることこそが彼の望みだと言われたら引き下がる他ない。ならば囮役を十分にこなそうとしても、いつ不具合が起きるか分からないこの身体では正直なところ難しい。

 

つくづく、己の不甲斐なさが嫌になる。最も可能性があるとすれば、それはキャスターと同じくあの倉庫街で姿を見せなかったアサシン。暗殺者のクラス名が示すように、マスター殺しに特化した存在で、そのようなサーヴァントが相手となれば、先のようにほんの少し惚けていただけで命を奪われる可能性だって十分にあり得る。

 

だったら尚更キリツグも、とは何度も何度も説得したが、彼は自分は大丈夫だの一点張り。彼への心配は確かに私の杞憂なのだろうが、心細いからそばに居てくれと何故言えないのか。私は弱い。どうしようもなく。辛くて、泣きそうで、彼のように強くなれなくて──

 

「アイリスフィール!」

 

また意識が飛びかけたのか、不意にセイバーが声を荒げる。すわ襲撃かと思い正面を見ると、そこに広がる光景は襲撃などではなく、いやある意味では襲撃なのか、このような山道で待ち伏せる人影が見える。

 

暗闇だろうと目立つ派手な髪色の少女と、赤いスーツが特徴的な壮年の男性。覚えがある。つい先日の倉庫街にて、「キラキラのアーチャー」と名乗った陣営。

 

キリツグからの資料によれば、男性はこのフユキの管理人であるトオサカの当主であり、かのアーチボルトにも匹敵し得る一流の魔術師であるのだとか。あのアーチャーに関しては未だ未知数ではあるが、曲がりなりにもあの不気味な黒い鎧のサーヴァントを退けた辺り、一定の実力はあるのだろう。

 

彼女がアーチャーを名乗る以上、車の中では格好の的であると、慌てて車を停めて車外へと飛び出す。彼女たちに動く様子はない。だからと言って警戒を緩める理由にはならない。

 

「やぁやごめん遊ばせセイバーちゃん!

知ってるかもだけど、あたしちゃんはキラッキラのアーチャー、略してキラちゃんでも普通にアーチャーでも、好きなように呼んでくれやぃ」

 

冗談なのか本気なのか判断が付かない少女からの発言。ここまで根底から緊張感に欠けていると、いっそ罠ではないかと過剰に警戒してしまう。

 

剣を構えるセイバーと、全身を強張らせる私に、アーチャーは気にした様子もなく「まあそんな事はさておき」と続け、

 

「知ってるかは分からんけど、昨日キャスターってあほたれを潰したのはこのあたしだ。これでもかってくらい他人様に迷惑を掛けまくった、もう信じらんないくらいの困ったちゃんだった。

でもね、あたしちゃんだってそいつと同じなんだ。当然だけど他のヤツも。だから心配になったのさ」

「心配だと……?」

 

衝撃的な発言に、セイバーが表情を険しくする。キャスターを倒した? この少女が? 言ってはアレだが、外見からは到底そのようなことが出来るように思えない。武装はおろか(刀身は見えないけれど)剣を構えるセイバーを前にしても、傘を退屈そうに広げているだけの彼女が──

 

「きっと、アンタにも譲れないモンってのがあるんだと思う。でもね、それで他人様に迷惑をかけるのはマジでアカンでしょ。

やるならあたし。もしくは他の人。あるいは自分自身。他はスルー安定。どぅーゆーあんだすたん?」

「………。………それで、貴様はどうして我々の前に現れた」

「え? 分かんない? そんなはずはないんだけど──ねぇ、本当に心当たりはない???」

「──………」

 

ある。からこそ──私の表情は固まる。横目で見たセイバーも、僅かに表情が強張っている。

 

やられた、とは思ったが──少女の表情は困惑のままだ。それを暴くことが目的だったわけではないのか。元より、我ながら複雑なこの状況、他陣営である彼女が理解できるはずもないのだけど。

 

更に警戒を深める我々に、彼女はあっけらかんとむしろ軽い口調で、

 

「あ、オッケー? じゃあその人止めといて。大丈夫大丈夫。もう辞めるってんなら悪いようにはしないから。

というかさ、あたしちゃんを見りゃ分かんでしょ。アンタらが普通にやってればまず負けないってのが。どうしてそういうことすっかなぁ──………()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ぞくり、と背筋が泡立つ。大した事は言っていない。声色だってさほど変わりない。なのにどうしてか、全身の震えが止まらない。

 

見捨てられる。見限られる。それはまるで、アハト翁(おじいさま)に廃棄を言い渡されたホムンクルスのように。計る視線。見定める視点。絶対的で超越的な、支配者としての観点。

 

「アイリスフィール……?」

 

様子がおかしい私に、セイバーが声を被せる。大丈夫だと返すが、震えは隠せているだろうか。どうしよう、どうすれば、どうやったら──キリツグに連絡するべき? それこそが彼女の狙いなら。判断は私に委ねられている。私の行動でこの先が変わる。彼女を倒す? そんな、まるで()()()()()()に──

 

 

()()()?」

 

 

声が。

 

その()()()が、目の前の少女から発せられたものであるのにしばしの時間を有した。()()()()、と見当違いな感想を抱いたのも一瞬、彼女は気付けば私たちではなく、その背後に現れたナニカを見つめている。

 

「アイリ!!」

 

今度こそ、セイバーが私を抱き抱えて跳躍する。少女からも背後からも離れるように反車線側のガードレール付近に降り立てば、そこには先日の倉庫でも姿を見せた、謎の黒い鎧のサーヴァントの姿。

 

「あー……そういや、どうしてアンタがあたしちゃんを狙うのかとか、聞けてなかったっけ」

 

呆れたようにそう呟いて、彼女は開いていた和風の傘をバサっと閉じる。かと思えばその一瞬後にはその傘は手品のように打面が特徴的なハンマーに入れ替わっていて──否応無しに、この場が戦場に移り変わりつつあることを察する。

 

「話は聞いてた感じ? こんなトコで仕掛けて来るってコトは配慮は出来てんのかな……まいっか」

 

ぐるんと巨大なハンマーを回して、その重さ故にか「おとと」と姿勢を崩すアーチャー。コミカルな絵面だが、道路に突き立てたハンマーが作り出したクレーターが得体の知れなさを加速させている。装いと武器からして、時代も国も何もかもがちぐはぐな少女。クラス名が示す弓兵であるのかさえ怪しい。

 

「ちょーっと今あたしちゃんってば気が立っててさぁ。あんまり加減とか出来ないカンジなんだけど?」

「A──rrrrrrr!!」

 

返事は咆哮。声なき唸り。道路を砕き接近する狂戦士に、襲われたアーチャーが応対する。

 

「へぃらッシャイ!!」

 

信じられない速度に、しかしアーチャーはそれを迎撃する。どうやら近接戦によほどの自信があるようなのだが、如何に全身鎧とはいえ流石に無手で鈍器を相手にするのは無謀が過ぎるか。いや、それ故に狂戦士のクラスなのか。あるいはそれ以上に、あのアーチャーの能力が優れているのか。

 

「Arrrrrrrrr……」

 

私たちとは反対側のガードレールに吹き飛ばされたバーサーカーが、付近にある標識に手を掛ける。山道には付き物である黄色の看板。意味は確か「スリップ注意」であったか。しかし、黒騎士がそれを力尽くで引き千切った瞬間、まるで侵食されるかのようにポールから徐々に看板が黒く染まっていく。

 

「おお??」

 

掴んだものを侵食する力? 詳細は分からないが──再びアーチャーへと襲い掛かるバーサーカーが、今度は器用に横薙ぎでアーチャーのハンマーを弾き飛ばす。かと思えば一瞬後には再びハンマーが握られていて、それが幾度となく繰り返される。

 

「おいおい器用だなまっくろチャン! そんな握りづらい武器で良くやんよ!! あ、それはあたしちゃんも同じかあはは! こりゃあ一本取られたね、っと!!」

 

言い切る前にぶうんとハンマーを上から振り降ろしたアーチャーが、飛散するコンクリートの破片に紛れて姿を消す。彼女の宝具なのか、また瞬きの間にハンマーは消え失せていて、咄嗟に目を庇っていた腕を下ろすと、どこかしらか声がこだまする。

 

「はっはー悪いねぇとっつぁぁん!! アンタみたいのと真面目にやってられっかばーかばーか!! 悔しかったら追いついてみやがれあほー!! いやホント勘弁してくっさぁいごめんなさい許して許して逃げるんだよォォおおお!!」

 

いつの間にあれほど離れていたのか、声の方向を見れば既に彼女は山の向こう端の山道を、マスターを抱えた状態で凄まじい勢いで爆速しているのが見えて──その場には、バーサーカーと我々だけが残される。

 

「アイリ。下がっていてください」

「ええ……」

「Arrrrr……thrrr……」

 

しばらくはその姿を見ていたバーサーカーであるが、やがて追い付けないことを悟ったのか、ゆっくりとこちらを見て──意味のない静かな唸り声を上げた後に、霧のようにその場から消え失せてしまう。

 

「去った……?」

 

念の為にその場へ探知、結界、思い付く限りの魔術で念入りに確認して、どうやら本当にその場から離れたらしいことを確認し、深い深いため息を溢す。

 

一瞬の出来事だった。時間にして10分にも満たない僅かな期間。けれど確かに、その戦いは私の価値観を一変させた。先のランサーとの尋常の立ち合いではなく、正真正銘のコロシアイ。

 

(死ぬ……私が……?)

 

「あ──」

「アイリスフィール!!」

 

不意に緊張が解け、膝から崩れ落ちる私を、すぐさま反応したセイバーが支える。分かっていたはずだった。理解したつもりでいた。けれど現実は、あまりに重いものだった。

 

ほんの僅かに向けられた殺意が、ひとかけらにも満たない悪意が、私の足から力を奪う。立たなければ。動かなければ。彼は、夫は、セイバーは、どうやってこれに立ち向かっているのだろう。分からない、解らない──

 

(キリツグ……)

 

ここにはいない彼を想い、私はその場で意識を手放してしまう。彼は今、無事でいるのだろうか。セイバーが彼ではなく、私を呼びかけていることへの客観的な事実すら読み解くことも出来ずに、どこまでも見当違いな心配をする私だった。








トッキーは多分思いのほか真面目な話が始まってずっと困惑してるうちにGで気絶した。



エモコア・ハンマー:EX

遥か遠きスペースナゴンより人理の最果てで授かった並行宇宙干渉弾装填型スペースガジェット。……まるで意味が分からんぞ! 考えるな、感じろ。(※公式です)
つよい。かたい。おもい。でかい。なんか戻ってくる。なんでこんなん持ってんのか分かんない。けど便利だから使う。にんげんだもの。みつを。
真面目に使うと人理くん激怒案件なので真価が発揮されることはない。
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