パ リ ピ 時 臣   作:融合好き

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今更召喚前に凛や葵さんが冬木の外へ避難してるっぽいことに気づきましたが、今となっては逆に遠坂邸から離れた方が危険だから別に良いかなって……


歌仙の詩歌:B

 

「おっはようオジサマ! 今日もテンションあげぽよでよろしく!!」

 

時間は10時、僅かに遅めの朝の挨拶。あげぽよの意味は理解できないが、文脈からは何となく想像が出来る。思えば、私も学生時代には女生徒との会話について行けず戸惑っていた時期もあった。まあ彼女に関しては日本語を使えというか、こいつは本当にこの国のサーヴァントなのかと疑うのが常ではあるが。

 

などと私が軽く過去を思い出していると、アーチャーはもはや恒例のように軽い口調で、あっけらかんととんでもないことを言い放つ。

 

「今日の予定を発表します」

「………。………うむ」

「今日はライダーのおっちゃんと約束してるので、お昼は一緒にタコパして、後は流れでまっくろチャンのトコにカチコミを掛けます。よろしく」

「は?」

 

嫌な予感がすると思えば、予感ですら無かった。なんだそれは。まるでよろしくない。いきなり何を言っているのだこいつは。

 

色々と突っ込みたいところはあるが、そもそもそんなことをいつ約束した。認めたくはないがここ最近の私はアーチャーに振り回されっぱなしで、四六時中を共に過ごしたと言って過言ではない。そんな暇が一体何処にあった? それ以前にどうやって彼らとコンタクトを取ったのだ? もっと言うなら既にバーサーカーのマスターに見当がついていたならせめて報告をしてくれ。

 

「そりゃあもうTEL(でんわ)っしょ。トッキーが使う伝書鳩もかくやの謎技術もオシャレで良いけど、今ドキこんな便利なモンがあるならガンガン使わなきゃ損だって」

「…………」

 

アーチャーが時折懐から取り出す謎の機械をプラプラさせながら言う。何か遠回しに電話の無い遠坂家を馬鹿にされている気もしたが気のせいだと信じよう。そもそもあの機械はアーチャーが召喚された当初からたまに取り出していた気がするのだが、ならばどのような理屈で現世の電話と通信が出来るのか。生憎と私はその手の法に詳しくはないが、当然無断での通話だろうし、出るとこに出れば罰金くらいは課せられそうだ。

 

「んなわけでさっそくレッツゴー!! へーきへーき、最悪空気がエッグいことになるだけだから」

「そこが一番心配なのだが……」

 

最終的にはそうなる間柄とはいえ、それがきっかけで殺し合いになったら笑えないだろうと説得するも、しかし腐ってもサーヴァントである彼女の腕力には敵わずに、あれよあれよと私もその“たこぱ”とやらに参加させられる羽目になったのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ウェイバーちゃぁん、お友達からお電話よぉ」

 

そんなわけはないだろうと、階段下から聞こえるマーサ老の間延びした声にツッコミを入れる。

 

方便で僕の友人として紹介したライダーのことを指しているのかとも思ったが、そいつは今も僕のそばで呑気に先日の買い物で得た物を物色している。だったら噂に聞く詐欺電話だろうか。この国では怪我なり事故なりをした息子のフリをして高額な請求をする悪質な詐欺が流行っていると聞く。だったらガツンと言ってやらねばとやや喧嘩腰に受話器を取れば、そこから予想だにしない声が聞こえてくる。

 

『おうおう元気だねぃウェイっち。せっかくだからそのぱぅわー、もっと健康的に発散してみない??』

「お、お前は……?!」

 

その声を聞いた瞬間、思わず受話器を取り零しそうになる。妙ちきりんなあだ名や特徴的な口調を抜きにしても、問答無用で「あいつだ」と全身に叩き込まれるような話し言葉。

 

改めて聞くまでもない。つい先日に流れで肩を並べたアーチャーを名乗るサーヴァント。その存在から過去の人物であるはずの彼女が、どういうわけか文明の利器を利用し接触して来たのだから。

 

「……何が目的だ?」

『え? ないよそんなの。ヒマだから遊ぼうぜベイビー』

「………」

 

割と本気で言ってそうで戸惑う。破天荒なサーヴァントだとは初対面の時から思ってはいたが、彼女の場合は輪にかけてそれが酷い。

 

何よりも恐ろしいのが、彼女自身はこんな軽いノリでありながら、抜け目なく連絡先をバッチリ掴まれていることだ。僕がマッケンジー夫妻の孫としてこの国に潜り込んだのは言ってしまえば思いつきに等しく、当然サーヴァントである彼女にそれを知る術は無いというのに。

 

『じゃ! そんなカンジでよろぴくー』

「あ、ああ……」

 

しばらく電話越しに抵抗していた僕だが、結局は押し切られる形でその遊びとやらに付き合うことに。これで待ち合わせ場所に着いた途端に罠にでも嵌められたら笑うしかないが、断れば家に直接乗り込んできそうだし、その場合は勉強代と割り切って令呪でなんとかしようと思う。

 

ポジティブに捉えるなら、こうしてなし崩し的に交流を深めることで、同盟のような間柄になるのは決して悪いことじゃないはずだ。ただでさえ僕は他よりも出遅れているのだから、数の優位はいくらあってもいい。

 

「おう。その考え自体は決して悪くないぞ坊主。何事も挑戦あってこそだ」

「なんだ……見ていたなら何か言えよ」

 

後ろでニヤニヤと笑うライダーに悪態をつく。僕の戸惑う姿の一体何が楽しいのやら。妙な柄のTシャツやそれのデザイン元であるゲームをエンジョイしていることといい、こいつもこいつであまりに振る舞いが英霊らしくない。どちらもある意味で大物なのは間違いないんだろうが。

 

彼も彼で、彼なりに僕を尊重してるつもりなのか。分からないことだらけではあるが、自業自得だと言われたらそれまでで、だけど逃げることだけはしたくないと、せめて堂々と指定された場所へ向かう僕だった。

 

 

 

……………………

 

 

 

………………

 

 

 

…………

 

 

 

全国でも有数の大きさを有する冬木大橋のかかる未遠川は、同様に国内でも有数の海運量を誇っていると聞く。

 

とはいえ、アーチャーにとってそのような情報は蛇足でしかなく、たとえこれが人が軽く跨げそうなちょろちょろとした水が流れるだけの川辺であったとしても、彼女は変わらない態度で朗らかに笑うことだろう。

 

「おっすお疲れ〜」

 

キャンプ用のテーブルの上に奇妙な形状のホットプレートを乗せながら、彼女は慣れた様子で食材を広げる。馴染みすぎだろ、と考えたのも一瞬、視界の端にどこか居心地悪そうにしている赤いスーツの男性の姿が目に入る。

 

(確か、この地のセカンドオーナーだっていう……)

 

キャスター討伐の際に軽く自己紹介をした覚えはあるが、あの時は正直なところ彼自身に目を向ける余裕はなかった。しかし、ビシッと高級そうなスーツに身を包んだ壮年の男性が、こんな何もない河原でぎこちなく食材を用意しているのはどこか滑稽に見えて、彼も彼で自分のサーヴァントに振り回されてこんなことをしてるのだと思うと、不思議と謎の連帯感が生まれてくる。

 

目が合う。仲間を見つけた、という眼差し。思わず目を逸らしてしまいそうになるが、仮にも共闘した仲である彼を見捨てるのは気分が悪いと、意を決して彼女へと話しかける。

 

「……いいのかよ。聖杯戦争中だってのにこんな悠長にしてて」

「フッ……分かんない!」

「おい!!」

「しょーがないじゃん。あたしちゃんはライダーのおっちゃんみたいに武闘派ってわけじゃないんだから。

だからこうして少しでも多く味方を用意して、あわよくば勝者のお零れに預かろうってするのが、巡り巡って勝利への近道になるわけ」

「別に……僕は、お前の味方ってわけじゃ」

「ほう! じゃあウェイっちはチャンスさえあればすぐにでもあたしちゃんの首を取れると? いやはやそれほどの覚悟とはまこと恐れ入りました。勝者にはあたしちゃんとバトる権利をプレゼント!──………で、いっちょヤるかい?」

「…………」

 

無言で否定する僕に、それを見透かしたようにアーチャーはケラケラと笑う。僕がどう反応するかを見越してわざわざ挑発してくるあたり、こいつもこいつでいい性格をしてる。

 

熱せられたホットプレートに油を敷き、具材を雑に、けれど満遍なく広がるように乗せる。一つ一つにタコの切れ端が入れられて、徐々に区画ごとに丸い粉物が形成される工程は中々に興味深い。

 

「ほぉ。こりゃあ洒落てるのお。鉄板の妙ちきりんな形状はこのためであったか。効率的で良いではないか」

「お前本当にサーヴァントかよ……」

「こんなん慣れりゃ誰でも出来るって。サーヴァントだからって料理も出来ない女だと思われるのは心外だねぇ、っと」

 

言うや否や、はいこれ、と紙皿に乗せられた丸い物体を複数個渡される。熱いうちに食べるようにも言われるが、本当に口にしても良いものか。

 

ちらりとライダーの様子を伺えば、彼は既にアーチャーへとおかわりを強請っていた。オマエはオマエで少しは警戒しろ、などと思ったが、騙すつもりならもっとやりようはあるだろうと一息にそれを食べる。

 

「あ、熱っっ……!!」

「あっはっは。がっつくのは良いけどヤケドしちまうぜぇ? なんせあたしちゃんってば真夏の太陽すら平伏すピッカピカの女。取り扱いには要注意なのさ」

 

絶対適当なことを言ってるだろ、という声も、火傷をした口内ではうまく紡げない。

 

味は良い。美味い。それは間違いない。けれどこの形状で中身がマグマのようにドロドロしていて、カリカリに焼けた外側よりも更に熱いなんて罠なんじゃないかこれは。絶対僕と同じような経緯で舌を火傷するやつがいるだろうこんなの。

 

それからしばらく、僕らはそのタコヤキとやらに舌鼓を打ったり、アーチャーが禁断の焼きそばやらを持ち出して絶対焼きにくいだろう形状の鉄板で強引に麺を焼いたり、どこからか取り出した丸いボールを投げ付けられたりと、戦争中であるのを忘れそうなほど穏やかな時間を過ごす。

 

「あれは……」

「使い魔、だな。術式から察するに、おそらくはアーチボルトの物だろう」

 

途中、鳥を模った奇妙な生物が隅で僕らを監視するアクシデントもあったが、トラブルと呼べるのはそれくらいで。日が暮れるころにはすっかりと全身が弛緩し──

 

「じゃーまたね〜」

 

マスターに片付けを任せながら、どこからか取り出した傘を広げつつこちらにひらひらと手を振る少女。お前はお前でサーヴァントの自覚があるのかとこれまた突っ込みたくなったが、好んで薮に手を入れる趣味はない。

 

結局、ただただ警戒していた自分が馬鹿なだけだった。アーチャーがこういう人物であるのは名乗りの時点で察せられたことで、如何にも方便に思えた「暇だから遊ぼう」という文言も、彼女に限ればどこまでも本気で言っていたのだろう。

 

気付けばこちらを覗いていた使い魔もいなくなっていた。警戒するだけ馬鹿馬鹿しいと思わせる雰囲気は天然か策略か。僕には理解が出来なかったが、それは監視をしていたケイネス先生も同様だったようで、お高く止まった彼もそういうところは僕と同じなんだなぁと嫌なところで彼との共通点を知る。

 

「……良かったのかよ。僕なんかと仲良くして」

「お???」

 

つい、去り際にそんな言葉を残してしまう。朗らかに笑う彼女と接するうちに、どこか疎外感のようなものを抱いたからだろうか。

 

本音を言えば、ライダーにだって感じている。どんなに口では悪態を吐いていても、理屈ではなく本能の如く。彼は僕とは違う存在で、僕なんかよりずっと凄いやつなんだと、問答無用で分からされるのだ。

 

そんな僕の様子を見て、このアーチャーは何を思ったのか。彼女も僕とは“違う”だろうに、けれど少女はわざわざ傘を閉じ座り込んで、俯く僕に視線を合わせてこう告げる。

 

「じゃあさ。トモダチとして、ちょっちこれから協力してくんない?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

()()()()()()()調()()だと、あのまっくろチャンのマスターはここに住んでる可能性が高いって」

 

冬木大橋から遠坂邸へと向かう道から一つ道を逸れた先に、遠坂邸にも劣らぬその豪邸は存在する。

 

表札に『間桐』とあるその家は、読みをマトウと言い、我が遠坂やアインツベルンと並んでこの冬木を統べる御三家の一つ。ならば当然そこにマスターがいるという説は他家を考えればむしろ自然で、これまでその可能性に思い至らなかった自分を恥じ入るほど。

 

確かに今回の戦争では、私は事前に間桐の翁から此度の戦争には参加しない旨の話を聞かされていた。だが、敵である私に誤情報を伝えるのは常套句であり、特に今回は命をすら賭すわけなのだから、まずはそこから疑って然るべきなのは当然であろう。

 

間桐の翁からも度々言われた話だが、やはり私は魔術師にしては素直過ぎるのだろうか。しかし、例えば先程からアサシンから得た情報をこうも自然と己が功績のように扱うアーチャーのようになりたいかと聞かれるとそれもまた違う気がする。よもや朝の会話の時点では約束すら取り付けていなかったとは恐れ入った。あの手の誘導は私が私である限り会得できる気はしないのだが、結局は己で折り合いを付けていくしかない。尤も、今回に限ればその頼もしい味方が、私の側に控えてはくれているのだが。

 

「たのもう! おーい間桐さーん! あたしと一緒に遊びましょ〜〜!!」

 

そんな件のアーチャーはと言えば、もはや度胸があるとかそんな次元ではない呼びかけを真正面から実施する。女性は強かとはよく聞くが、彼女は心臓に毛でも生えているのだろうか。毛筆が所狭しと突き刺さっていようと驚かない。

 

「むぅ、ダメか……」

「当たり前だろ!!」

 

ウェイバー少年が先の声量にも負けない大声でツッコミを入れる。流石に牽制であると思いたいが、ここでバーサーカーに遭遇でもしようものなら確実に面倒なことになったので、むしろ反応が無くて良かったと言える。

 

「やっぱりトッキーには会いたくない感じかねぇ?」

「私に?」

「そ。あたしちゃんの予想だけど、間桐にいるマスターってのは過去にこの家へ養子に預けたっていうトッキーの娘ちゃんで、自分を捨てた恨みからあたしちゃんを襲ってる──ってのが最有力かなぁと」

「何……?」

 

そんな馬鹿な。何故彼女がそれを知っているかは置いておいて、あれは誰が見ても円満な方法だったはずだ。桜の有する希少な属性を無駄にすることもなく、ましてホルマリン漬けなどという悪趣味な結末からも可能な限り引き離した。間桐は我が家とも交流が深い名家が一つ。その養子となることに何の不満を抱くというのか。

 

「おいおい千年後だってのにウチらの時代の武家みたいな思考してんな。けどよトッキー、子ども(ガキ)ってのは理屈じゃないんだぜぃ? たとえ円満な離婚だとしても、引き離される子どもがどう思うかは別問題よ。ウチも最初の夫とは音楽性の違いで別れたけど、息子の扱いには悩みに悩んだモンさ」

 

突如として出てきたワードにギョッとする。彼女は晩年までの記憶があるように仄めかしていたため、ならば当然その手の記憶もあるのだろうが、しかし見た目には下手をしたら10代にも見える少女の口から、離婚だの息子だのと言った言葉が出ると流石に動揺もする。

 

「千年……武家?」

「おっといっけね。オジサマのうっかりがつい伝染しちまった。けど、事ここに来てもはや隠し立ては無用。ならば盛大に歌い上げよう! 我が名、我が詩歌、我が境地!

ピッカピカのキラキラに飾り立てて、過去から現代へ繋ぐ哀愁を永久(とわ)に!」

 

彼女を中心に風が舞い、不自然に光が重なっていく。木漏れ日が日差しが斜光が街灯がミラーボールがどこからともなく密集し、ただでさえ派手な少女の衣装を加工する。

 

地面から競り上がるスタンドマイク。アンプもないのに空間を反響する声。魔術を知らぬ彼女が歌人としてたどり着いた境地、固有結界。

 

「轟け!エモーショナルエンジン・フルドライブ!

ピカピカのアーチャーこと、その真名を清少納言! いざ参る!!」

 

その真名──清少納言によって塗り替えられた世界は、『いつか、どこかで見た懐かしい風景』となって、結界内に取り込まれた相手の心に侵食する。それは彼女の性格を示すように、どこまでも理不尽に強烈に。

 

しかし、決して侮ることなかれ。彼女の世界で心を乱され、ほんの一瞬でも戦いを忘れてしまったのなら。それは彼女へ白旗を揚げたのと同義。常に時代の最先端を駆ける少女は周回遅れに優しくはなく、一度置いて行かれると手痛い理不尽に襲われることだろう。

 

「……清少納言?」

「………ああ」

「……この国の、最初の女性作家とか、そういう……?」

「厳密には異なるのだろうが……良く勉強をしている。各地の伝承を随分と調べたようだね」

「それは当然──じゃなくて、あのアーチャーが、清少納言?」

「………。………うむ」

 

すう、と少年が息を吸う。すぐさま吐き出すと思えばそれから二度ほど深呼吸をして、やがてアーチャーが叩き壊した間桐邸のドアを見つめたと思えば、彼は万感の思いを込めてこう告げた。

 

「なんでだよ……!!!」

 

想いが力を持つ世界。彼の感情がありったけ載せられたその呟きは、どこからか湧いて来たミラーボールによってこれでもかと飾り付けられる。そんな彼の姿を見て、私は得難い理解者が側にいることに、並々ならぬ安心感を抱くのだった。






歌仙の詩歌:B

常に時代の最先端を駆ける彼女は、ルールに縛られる和歌を不得手とする。
それでも彼女の詠む歌は時に人々の心を打ち、時に不埒な男達を堂々と退けたのである。
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