パ リ ピ 時 臣   作:融合好き

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一乗の法:B

 

「アーチャーよ! まだ疑惑の段階であろうに、このように派手に暴れていいのか?!」

「応とも!! 既にここはあたしちゃんの領域だぜぇ──どこに何があるかなんてまるっとお見通しよ!! ガンガンやっちゃってくれて良いよ!!」

 

良い訳がなかろうて、と口汚い罵倒が漏れ出そうになる。

 

如何に落伍者の制裁が主としても、仮にも聖杯戦争へ向けて重い腰を上げたこの身。襲撃を全く想定しなかったとは口が裂けても言えないが、流石にここまで大々的にされるのは予想外だ。

 

一つ一つが年単位の手間を有した仕掛けが、武器の一振りで十つ消し飛ぶ。雑に踏み締めた床に貴重な礼装が巻き込まれる。マスターを狙い進撃を止めようにも、遠坂の坊主らが乗る戦車はライダーの宝具なだけあり隙がない。そもそも戦車で家屋に乗り込むなど巫山戯ているのか。この固有結界のことといい、どこまでも破天荒な人物だ。

 

清少納言、とあのサーヴァントは名乗っていた。流石にその名を知らぬわけはない。平安期の歌人──特に人物に興味があったわけではないが、一度はその代表作を諳んじた覚えもある。春はあけぼの、夏は夜。秋は──はて、何だったか。その程度の認識。しかし、それはこの国の大多数の人間がそうであろう。名作の作者が具体的にどのような人物なのかなどを知りたがるのは、その手の趣味を持つ人種くらいだ。

 

「はっはっー! テンションいとあがりけりぃ! あたしちゃんのバイブスは、この程度では止めらんないぜ!!」

 

口惜しいがそれも事実。普段使いの工房程度で、聖杯に選ばれし英霊の進撃を止めることは叶わない。ならば弱点をと思い思案しても、よもや清少納言に武勇の逸話などあろうはずもない。

 

雁夜、と蟲を通じて不肖の息子の名前を呼ぶ。反応はない。既にこの固有結界に飲まれてしまったのだろう。所詮は急造の魔術師か、と吐き捨て、腕に仕込んだ蟲より遠隔で令呪を起動する。これで最低限足止めにはなるだろう。

 

「おおっと当然だねぃまっくろチャン! パァーリィはまだ始まったばかりだぜ!」

 

なんとも出鱈目なことに、物陰から現れたバーサーカーの攻撃を、あのサーヴァントは雑に捌いていく。バーサーカー故に無手が基本とはいえ、清少納言がこれほどの戦闘技能を有してるなどと誰が想像出来ようか。指示を出そうにも流石に雁夜の身体を通じてでは細かな指令は出せない。せいぜいが蟲を使い、バーサーカーの近くに扱いやすい棒状の物体を用意する程度か。

 

「あ、これやばいかも」

 

2手。小手に突き。たったそれだけのことであっさり戦況を逆転させるのは腐っても湖の騎士か。黒く染め上げられたハンガーに武器を弾かれ、額を小突かれたアーチャーは大きく後ずさる。これが或いは刀剣の類であれば勝負は決まっていたかもしれないが、狂戦士にそれを期待する方が酷か。

 

しかし無意識にも武器の良し悪し程度は認識できるのか、バーサーカーは床に転がる長めの麺棒を手に取ると、それが博物館に飾られる名刀であるかのように、まるで名画を切り取ったかの如く堂々たる構えを取る。

 

「ふっ、やるねぇ──けれど忘れてなぁい? あたしちゃんにはおっちゃんっていう頼もしい味方が……普通に負けそうだなこりゃ。しゃーない予定変更! 砕け、エモコア・ハンマー!!!」

 

一体何処に清少納言の要素があるのか、まるで理解の及ばぬ鈍器をアーチャーが振り翳すと、床下が濡れ紙のようにごっそり抉れ、真下に存在する地下室が露わになる。

 

大きく開いた地下への穴、その対面にそれぞれ立ち竦む二騎のサーヴァント。一方は息も絶え絶えで、もう一方の動きに翳りはない。誰が見ても優位は明白であるが、そもそも片方のサーヴァントは戦闘が本職ではないことを忘れてはならない。

 

歌人である彼女にとって、言葉は万の刃にも勝る。虚飾、戯言、法螺話──一度耳を傾けて仕舞えば、それだけで他者を操るに足る。理性の有無など些細なこと。文字で言葉で所作で気迫で。あらゆる手段で感情を揺さぶる。

 

()()()()()()()()()

「Arrrr……」

「アンタはひたすらに強いだけで、その心はすっぽり抜けてからっぽのまま。そんなへっぴり腰で放つ攻撃なんざ、ウチにはちっとも響かない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()辞書(せかい)()()()()()()()

いつまでも駄々捏ねてんじゃねーぞ、こら!」

「…………!」

 

その強烈な言葉(ぶき)に。

 

如何なる理屈に因るものか──理性を持たぬ狂戦士であるはずの彼が、彼女の戯言に、まるで叱咤される幼子のような反応を示す。

 

彼は決して弱いわけではない。武力ではアーチャーを圧倒している。拮抗していると言えば聞こえはいいが、実態は無手の相手に巨大な鈍器を用いてようやく勝負の形に持ち込んでいるだけ。しかし、それでも。名実ともにこの場を支配しているのは、紛れもなく清少納言を名乗るあの女性であり──どこか精彩を欠く動きで、狂戦士は二騎を隔てる穴を飛び越える。

 

「甘いぜ、Now, go on!!」

 

よもや清少納言からの()()()のつもりなのか。その言葉を信じるなら純日本人であるはずのアーチャーが、何故か異国語で喚きながらハンマーを構え、下から叩きつけるように穴の中心に浮くバーサーカーへとぶん回す。

 

咄嗟の防御も宙に居ては虚しく、受けた衝撃を殺せないままに、天井を突き破って空を舞う姿はどこか滑稽で、ある意味では彼女に相応しい勝負の結末とも言えた。

 

「フッ……さらば強敵(トモ)よ。またいつか、この星空の下で会おうぜ」

「……あの様子では、さほど掛からぬうちに戻ってくるのではないか?」

「はいはーい分かってますって。鬼の居ぬ間に何とやら、ってね」

 

ひょい、と軽く穴の中心に飛び降りたアーチャーが、瓦礫を退けつつ、一直線にある方向を目指す。

 

天井から床下まで突き抜ける月明かり。主張が激しい場違いなミラーボールに照らされ、目的であろう幼子──桜へと手を伸ばした彼女は、先程の騒がしさは何処へやったのか、無駄に気取った色気ある口調でこう告げた。

 

「だれ……?」

「やれやれ、やんちゃな娘っ子だ。こんなドロッドロになるまで遊び呆けるなんて、トッキーの教育が全面的に悪いなこりゃ。

だけど、そろそろウチは門限なのさ。イケナイ遊びはほどほどにして、今日のところは帰ってひとっ風呂浴びようぜ?」

「かえ、る……?」

 

久々の月明かりに惑わされてか、あるいはミラーボールが単純に鬱陶しかったのか。

 

もはや言葉も届いて無かろうに、桜は無意識のうちに伸ばされたその手を握る。輝くような笑顔でその手を握り返すアーチャーは、またもや辺りを巻き込んで力強く跳躍すると、がははと豪快に笑いながら、控えていたライダーの戦車に乗り込み、周囲を巻き込んであっという間にその場から去って行く。

 

後に遺されたのは、無惨に荒らされた我が工房と、地下室の隅で梁に潰され、息も絶え絶えに悶える雁夜の姿。やれやれ散々な襲撃だった。見るからに悲惨な有様だ。これでは復帰にどれだけの手間を有するか。しかしどうしてかその惨状を見て、儂の表情には昏い笑みが浮かぶ。

 

「ク、カカ……!! 無様よのぅ、雁夜よ。舞台にも上がれぬ道化とは、落伍者に相応しい末路よ……!!」

 

あ奴は最初から言っていた。桜こそが間桐のマスターであると。確かに経緯を思えばその発想となるのは理解できる。そも、よもや成就すらしていない色恋の果てに命を狙われるなどと、その方が奴にとっては埒外の話であろう。

 

いつまでも戻って来ぬバーサーカーを見て、おそらくあのアーチャーはそれを桜が満足したからと認識した。実際はどうだ、この有様は。あの女は、バーサーカーの本来のマスターが誰であったのか、それこそ雁夜の懸想するおなごのように、既に過ぎたこととそれを気に留めることさえせぬだろう。強すぎる光は、陰に潜む生き物へ目を向けることはない。それ故の行動力なのであろうが、なんとも残酷な話ではないか。

 

ああ、此度の戦争は失敗だった。遠坂との同盟も危うい。アインツベルンもあの様子ではどうか。蟲もその大半が大打撃だ。資産も散々と。懸念点は尽きることはない。

 

しかし、それでも儂はまだ生きている。闇夜を祓う少女と対比するように、細く木霊する慟哭を糧に、陰でいつまでも嗤う儂であった。

 

 

☆☆☆

 

 

 

「おっはようオジサマ。今日も今日とてガンガン行こうぜ!」

「…………………」

 

その日の視線は常とは異なっていた。あれからべったりとアーチャーに貼り付いて離れない桜は、冷たいを通り越して冷酷な眼差しで私を見つめている。まあ間桐家では相当な修練を受けていたようだし、多感な年頃の少女が根を上げるのも無理はないか。よもや凛や葵にまで冷たい眼差しで見られるとは思わなんだが。

 

しかし、まさか間桐があれほどスパルタな家系だったとは思わなかったのもまた事実。肉親としての情なのか、私は如何にその方が効率的と理解はしても、どうしても凛に甘い面が出てしまうため、あるいは翁を見習った方が良いのだろうか?

 

「おいおいあの有様を見てそんだけかよ。魔術師ってのはこんなんばっかか?

まーそれは今後の葵チャンの課題として、今日はおっちゃんから提案があったから、いよいよ腰を据えて挑もうと思う」

「……ようやくか」

 

これまでは本気じゃ無かったのかと異を唱えたい気持ちでいっぱいだったが、アレを本気と言われる方が問題なので敢えてスルーをする。何やら課題などと不安な言葉も聞こえた気がしたが、最近葵はアーチャーの影響を受けてたびたびこちらを矯正してくるようになったので、出来ればお手柔らかに願いたい。

 

「それで、場所などは聞いているのか? あのライダーが相手となれば、果たし合いに相応しい舞台は──」

「果たし合い? おうおうそんなんじゃアクビが出ちまうぜトッキー。既に戦況は、誰がどれだけパイを分け合うかにまで来ちまってるんだぜぃ?」

 

どういうことかと問う前に、アーチャーが指をパチンと鳴らすと、どこからともなく黒い影が現れる。いつか綺礼と並んでいた人影より一回りは体格が大きいため、おそらくはそういう人格の個体なのであろうが、相変わらずこいつは他人のサーヴァントをまるで己が手下のように扱う。

 

「名付けて、聖杯問答──さて。我がマスターの願いは、或いは己が弟子が抱いた渇望や、かの征服王の夢を足蹴に出来るだけの“格”があるのかねぃ?」

 

その言葉を受けて、大柄なアサシンがまるで飴細工を扱うように大切に背負っていた人物を、書斎の机へと丁寧に置く。

 

あまりに見覚えのあるその白い女性。いつか倉庫街で見たセイバーのマスターである彼女の姿に私が目を見開くと、そんな私を見たアーチャーは、愉快そうにニヤニヤと笑うのだった。

 








ケイネス「?!」



一乗の法:B

「一乗の法」という言葉は、仏と成る唯一の教え、比類のない物事の例えとして用い、「唯一絶対のもの」という意味での揶揄とも言える。
陰謀蔓延る宮中は、しかし清少納言にとっては極楽に等しかった。たとえ敬愛する主人の一番にはなれずとも、側に仕えるだけで埒外の幸せであったのだ。

要するに勝ち馬に乗れるなら一番になれなくてもいいや、という彼女のスタンスを表したスキル。あるいは考え方。



追記

勝手な事情で申し訳ありませんが、スマホ不調により機種変更を行ってから、更新されたデフォルトのメモ帳アプリのUIにどうも慣れず、文字を打ち込むことさえ難しい状況です。
現在、代替のアプリを探してはおりますが、そもそもiPhone自体のUIがアレなのか、これまでの手癖のままではあまりに頻繁に書き込み位置がズレるため作業には難航しそうです。
お待たせしている方には申し訳ありませんが、しばらく更新が遅れるだろうことはご容赦願います。


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