魔法使いアイリスと影の番犬   作:三文小説家

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 一人の少女が悪魔や怪物を倒していくだけの単純な話です。


第1話

 白昼の街中を、一人の少女が歩いていた。その少女は美しく長い黒髪に、見る者を怪しい空気感に包む切れ長の瞳(尤も、幼少期に『糸目』と馬鹿にされてからは本人は少し気にしているようだ)、整った鼻筋、色気を感じさせる唇。

 

 通りですれ違えば半数以上が振り返るであろう美少女だ。そんな彼女の内心はと言えば、

 

「~~♪」

 

 鼻歌を歌っていることからも察するに、頗るご機嫌であった。何せ、今日は学校の無い休日、それも、散歩日和な快晴なのである。週に二日の休日を満喫しようと意気揚々と家を出た彼女は、ワーグナーの『ワルキューレの騎行』を歌いながら街を散歩していた。

 

「良い天気ですね。そうは思いませんか? ポチ」

 

 彼女が話しかけたのは自分の影に対してであった。周囲の人間は自分のことで忙しいと少女を気にする者がいないのが幸いであるが、事情を知らぬものからすれば奇行であることは間違いない。

 

 ややあって、彼女の影に一つの目が映り、声が聞こえてくる。

 

『俺は明るいのは好かねえなあ……人生は歩く影に過ぎないとか言う割には、晴天で喜ぶのはどういう了見なんだよ』

 

 聞こえるのは男の声。少年ではなく青年程度の声の高さだ。そして、その声は如実に面倒だと言っている。

 

「強く輝く光があれば、それだけ強い影も生まれる。貴方にとっては過ごしやすい環境かもしれませんよ」

『物は言いようだなァ。確かに局所的には影は強まるが、光が邪魔であることは変わらねえ。俺が好きなのは、やっぱり夜か曇天だ。光が無く、有っても月明かり程度、心地よいのはやっぱりコレだな……それより』

「ええ、分かっていますよ。相手は音を消しているつもりなのでしょうが、私からすればバレバレです」

 

 散歩とは言っても、これはれっきとした任務の途中である。何せ、この町の警察直々に少女に依頼してきたのだから。

 

 人間の法を遵守し取り締まる警察だが、魔法や魔法生物に対しては殆ど無力と言っていい。なにせ、彼等を取り締まる法は人間界には存在しないのだから。最終戦争の後、人間と魔法生物たちがそれぞれの世界にて暮らすようになってからはそれ程経っていない。それこそ、数十年程度である。

 だが、魔法生物や魔法使いたちの存在は一般人には秘匿されている。そして、それは大半の警察機構の人間も変わらず、その存在を知るのは一部のみである。尤も、魔法生物と戦う兵力が無いというのも一因ではあるのだが。

 

 その結果、警察は(少なくとも普段は)単独の勢力である魔法使いの少女に監視を付ける程度のことしかできなかった。今回の依頼は、彼女の自由行動のペナルティと言ったところだろう。

 

〝町の各所で、脳髄を食いちぎられた遺体が見つかった〟

 

 死体の詳しい状況こそ伏せられているが、既にこの町のニュースにもなっている事件だ。当然、殺人事件という事で警察の出動となったわけだが、明らかに人間離れした殺害方法に、既存の人間界の生物とは一致しない噛み痕。警察は死因を犯罪から切り替えた。

 

 すなわち、何らかの魔法生物により殺されたのだと。

 

 少女が街を練り歩いているのは、謂わば囮だ。人喰いの魔法生物にとって、魔法使いほど美味い獲物は無い。遺体の見つかった場所から行動パターンを割り出し、次に現れるであろう場所を歩いていれば、向こうから襲い掛かって来るだろう。

 

 一応自分が狙われているであろう時に鼻歌を歌っていられる胆力は、この少女の経験と知識による自信からであった。警察がこの手の依頼をしてくるのは初めてではないし、少女自身が魔法生物に襲われた事だって何度もある。

 

 少女は人気のない場所へと行き、〝追跡者〟をおびき寄せる。そして、

 

「来ましたね」

 

 少女は敵の攻撃を回避する。背後からの攻撃であったが、少女には音が聞こえるだけで十分だ。

 

 現れたのは二足歩行の恐竜のような魔法生物。しかし、かぎ爪のついた両腕はいやに長く、第一勇猛を以て知られる頭部が無い。代わりに首の切断面に無数の歯が並ぶ口があった。

 

 この魔法生物の名は〝ストーカー〟。悪魔と精霊の中間体のような存在であり、獲物と見定めた人間を這うように追跡する習性があり、不意打ちで脳髄を食いちぎる。魔法使いの間でも人間界で見つければ即討伐命令が出されるような危険な魔法生物だ。とは言っても、ストーカー自体は人間を喰わずとも生きていけるのだが。

 

『回避に失敗すれば頭からバックリってか。怖いねえ。さて、今回もいつも通りか? アイリス』

「ええ。秩序より外れし憐れな存在に、レクイエムを奏でましょう」

 

 食べる必要のない人間の味を覚えてしまった憐れな獣。人間と魔法生物たちの境界を侵す、秩序より外れしものを狩るために、アイリスと呼ばれた少女、小夜風アヤメは、魔法で作られた片手剣を構えた。

 

 動き出したのはストーカーの方からだった。鋭い爪を振り下ろし、アヤメを切り裂きにかかる。しかし、黙って切り裂かれるわけもなく、アヤメは剣でそれを受け流した。ストーカーは逆の手でアヤメを切り裂きにかかる。しかし、それもアヤメは受け流す。その後も、右手を左手をと攻撃するストーカーだが、アヤメは全ての攻撃を受け流した。

 

「っ!」

 

 ストーカーの攻撃が終わるのを確認したアヤメは攻勢に出る。

 

「Zuben es arco」

 

 横薙ぎの一閃という単純な剣技。しかしそれ故に汎用性が高く、今のような攻撃のとっかかりとしても使える。この攻撃によって大きく体勢をのけぞらしたストーカーは、アヤメの剣技に晒される事になる。斬り上げ、横薙ぎ、刺突、そして最後に振り下ろし。

 

 ようやく体勢を整えたストーカーは後ろに飛び、アヤメの斬撃から逃れる。そしてビルに飛び移り、壁を這ってアヤメを喰おうと飛び掛かる。

 

 アヤメはそれを回避すると、振り向きざまに一撃加えた。ストーカーは再び右、左と連続で切り裂き攻撃をするが、アヤメもそれらを全て受け流す。最後に一瞬の隙を縫ってストーカーの脇腹に深々と剣を突き刺した。

 

 そのまま切り抜き、ストーカーの鮮血が迸る。

 

『やるじゃねえのよ! そろそろ奴もくたばるんじゃねえのか?』

「いいえ、ダメージは与えましたが、討伐には程遠い」

 

 アヤメがそう言うな否や、ストーカーの方から飛び掛かって来た。アヤメは後方宙返りでそれを回避すると、魔法で生成した剣を二本飛ばす。その剣はストーカーに深々と刺さるが、続いて展開し、飛ばした剣は素早い動きで回避されてしまう。

 

 更に、ストーカーはその鋭い爪から刃を飛ばしてきた。アヤメは上体をそらして回避し、剣を振るう。

 

「Zuben el solo!」

 

 一振りで縦方向に無数の斬撃波を乱れ撃ちして敵を細切れにする技。一瞬のうちに前方の広範囲に放たれるこの斬撃は見切る事はおろか間合いの外に出る事すら困難という反則レベルの技である。

 

「————————ッ!」

「まだ倒れませんか」

 

 アヤメは剣を構え直してストーカーを見据える。アヤメの感覚的には今の技で倒せると思ったのだが、ストーカーのしぶとさを少し甘く見ていたようだ。ストーカーは生物離れした叫び声をあげると、アヤメに特攻、

 

「!?」

 

 してくると見せかけて逃げ出した。ビルの壁を伝い、人間の足では追いつけない速度で脱兎の如く逃げ出したのだ。これにはさすがのアヤメも面食らった。

 

「まさか逃げられるとは……」

『追うか?』

「ええ。新たな犠牲者を出すわけにはいきませんからね。ポチ、敵の臭いを追ってください」

『それは良いが、どうやら新たな客だぜ』

 

 アヤメはポチを呼び出し、追跡に当たらせようとするが、アヤメの進行を邪魔するように新たな敵が現れた。〝憤怒大罪:アンガー〟と〝憤怒大罪:レイジ〟である。姿は小悪魔のような姿で、見た目に違わぬ悪魔である。その中でも、七つの大罪の名を冠せられた悪魔達だ。目の前に現れた悪魔は小物ではあるものの、一般人には到底対抗できない強さを持つ。

 

「道を譲る気は……無さそうですね」

『…………』

 

 悪魔達はアヤメの言葉に答えるかのようにそれぞれの武器を以て襲い掛かった。

 

「速攻で倒します。ポチはストーカーを追ってください」

『へいへい』

 

 すると、アヤメの影が蠢き、その中から単眼の黒い犬が現れる。そして、ストーカーが逃げた方向に駆けていった。

 

「私に襲い掛かった以上、貴方達を敵とみなします。覚悟は、出来ていますね?」

 

 アヤメは双剣で斬りかかって来たアンガーに、鍔迫り合いをしながら問いかける。平和な世になったとはいえ、一部の魔法生物、主に悪魔や妖怪が人間を襲う事は多い。それらと戦う事も魔法使いの仕事だ。

 

 アヤメは鍔迫り合いから脱すると同時に、レイジの銃撃から逃れる。アンガーがアヤメの動きを止め、レイジが銃撃する。中々見事なコンビネーションだ。しかし、アヤメには通じない。

 

「Zuben es staccato」

 

 急接近して刺突攻撃をする技である。アヤメはこの技でアンガーを出し抜き、レイジに攻撃した。アヤメはレイジを突き刺したままアンガーに剣を振るい、二体まとめて斬りつけた。

 

「まだ出てきますか……」

 

 しかし、闘いはまだ終わらない。先程の二体もそうだったが、何も無い空間から身体が構築されるようにして新たな悪魔が追加された。今度はアンガーが三体にレイジが二体。

 

「そんなに闘いが好きならば、地獄で好きなだけ戦っていればいいのに」

 

 地獄は悪魔の住処だ。一説によれば罪人とされた死者が送られる場所とも言われているが、それは間違いである。正確には、悪人や無法者の魂の一部が悪魔に変質すると言った方が正しい。まあ、何を以て悪とするかはその時代によって異なるし、法も然りだ。一人を殺せば犯罪者だが、百万人を殺せば英雄だという言葉もある。

ただ、悪魔に変質する魂の一例をあげるとするなら、人を殺したくて仕方の無い者や、悪意を以て人を陥れた者など。まあ、そういう素質を持った者が悪魔になる、こともあるというだけの話である。法則性を見つける方が難しいかもしれない。

 

 アヤメとて、悪魔が平和に暮らす事を否とするわけではないが、人間界にわざわざやってきて騒乱を引き起こすのならば剣を振るうだけである。

 

「ふ……」

 

 アヤメはレイジの銃撃を頭を傾けて回避する。後ろに人がいないのは確認済みだ。アヤメ達の周囲に結界が張られる。これでアヤメは出られなくなった。破壊するにしても時間がかかる。

 

「踊りましょうか」

 

 アンガーが双剣で斬りかかって来るが、アヤメは軽く剣でいなす。そのまま二回斬りつけて蹴りを喰らわせ、左右から襲い掛かって来たアンガー二体には回転斬りを喰らわせた。そして、レイジが二体銃撃してくるが、それも剣で弾く。

 

アヤメは飛剣を飛ばし、レイジを仕留めようとする。

 

「無駄に頑丈ですね……流石は大罪の名を冠する悪魔」

 

 《Zuben es staccato》で急接近し、レイジを一体討ち取る。更に、

 

「Mirzam」

 

 左手に炎を宿し、それを悪魔の群れに飛ばす。《Mirzam》は墓守犬(ブラックドッグ)であるポチと契約しているが故に使える魔法だ。効果としては単純で、炎を操るというものである。

 

「っ……!」

 

 アヤメは剣で風を起こし、その炎を更に強める。そして悪魔の視界を塞いだ後に剣で斬りかかった。銃撃をしてくるレイジをもう一体倒し、アンガー三体に攻撃を仕掛ける。

 

「Zuben es arco」

 

 三体に重撃をお見舞いし、悪魔達の体勢を崩す。

 

「Zuben es auftakt」

 

 瞬間、悪魔達の身体を無数の斬撃が切り裂いた。Zuben es auftaktとは、『剣を振らずに』斬撃を繰り出す技である。鍔迫り合いなどで止める事も叶わず、発動すれば防ぐのは限りなく難しい。

 

 その中でもアンガーはアヤメに双剣を振り下ろしてくる。アヤメはそれを回避して、刺突攻撃を加える。今度は二体目のアンガーが横薙ぎに剣を振るってきた。それも仰け反って回避して蹴りを入れる。

 最後に三体目が双剣を袈裟斬りに振り下ろした。それは受け流して、《Zuben es arco》で反撃する。

 

「終わりです。Zuben es portamento」

 

 剣を斜めに一閃し遠距離から複数の方向に地を這う高速の斬撃を数本放つ。さらに、地を這う斬撃の合間を埋める様にのうねる斬撃が伴っているという剣技。遠距離攻撃だけでなく、単純な物量攻撃としても使うことができる。

 

 その攻撃によって、悪魔達は砕け散り、結界も解けた。

 

「さて、ストーカーを追わなければなりませんね。ポチの居場所は……」

 

 ポチとは契約しているが故にお互いの居場所は分かる。アヤメは彼の居場所を突き止めると、大きな飛剣に横向きに座って乗りその場所へと向かった。

 

 

 

 

 

『見つけたぜ。ハツカネズミちゃん』

 

 一方、ポチはストーカーを追って、先程の戦いの場から通りを三本跨いだ場所に来ていた。相手の臭いを追うのはブラックドッグの得意技であり、そうでなくとも血の跡を辿れば簡単であった。

 

 ストーカーは逃げられないと悟ると、ポチに襲い掛かって来た。

 

『おっと危ねえ』

 

 ポチは影に飛び込んで避けると、別の場所の影から出て、ストーカーに炎の弾を放つ。

 

『バーベキューの時間だ』

 

 ストーカーも爪で炎の弾を切り裂いて応戦するが、一発は被弾してしまった。

 

『今度は落雷の時間だぜ。避けられるもんなら避けてみな!』

 

 ポチは雷撃をストーカーに落とす。それは一度だけではなく、二度三度とストーカーを襲った。しかし、ストーカーは雷を避けながらポチに肉薄して爪で切り裂こうとする。

 

 しかし、またもポチは影に逃げ、ストーカーは攻撃を空振りする。一進一退の攻防が続く中、いきなりポチはストーカーから距離を取った。

 

 ポチの行動に一瞬、訝しむストーカーだが、その答えは頭上からやってきた。

 

 ————ズガァァァァン!

 

 上から人間大ほどの剣がストーカーに向けて降って来た。その剣は地面を陥没させ、間一髪で直撃は回避したストーカーの身体も切り裂いていた。

 

そして、先に乗っていた剣を飛ばしたアヤメが降りてくる。

 

「ポチ、お待たせしました」

『全くだ。けど、意外と早かったんじゃねえの? 結界まで張られてた割りにはよ』

「ありがとうございます。それでは、速攻で片付けましょうか。秩序の敵を」

 

 アヤメは飛剣をストーカーに飛ばすと、剣に炎を纏わせてストーカーに斬りかかる。飛剣を回避したストーカーは炎の剣を爪で受け止める。しかし、今度はポチが炎弾を飛ばしてきた。それも間一髪で回避したストーカーはビルの壁に飛び乗る。

 

「Zuben el chorus」

 

 Zuben el chorusは飛剣を飛ばす魔法だ。それをストーカーに向けて放つ。回避した飛剣はビルの壁に突き刺さり、幾つかはストーカーの身体にも刺さる。

 

「ふ……」

 

 ストーカーはアヤメに飛び掛かってくるが、アヤメは難なく回避する。ついでに飛剣を一本飛ばしておいた。その剣はストーカーに深々と突き刺さり、ストーカーは絶叫を上げる。その間にも炎の魔法《mirzam》がストーカーに放たれる。

 

 ストーカーは爪から風の刃を乱射する。しかし、アヤメは最初の二撃は身体の向きを変えて躱し、次の二撃は剣で相殺し、最後の三撃は跳躍して回避した。

 

「Zuben es auftakt」

 

 ストーカーを斬撃が取り囲むように襲う。アヤメの剣を振らない斬撃だ。回避はほぼ不可能といってもいい。

 

 アヤメは着地すると、ストーカーに《Zuben es arco》を喰らわせた。ストーカーは爪でアヤメを切り裂こうとするが、アヤメはスライディングで回避すると、ストーカーの背後に回る。そして、背中に剣を突き刺すと、そこから頭に向かって一気に剣を進めた。

 

 ストーカーの上半身は裂け、倒れる。それによってストーカーは絶命し、アヤメが剣の血を振るい落とした所で戦闘は終了した。

 

「それでは、帰りましょうか」

『へいよ』

 

 ストーカーの死体が砕け散るのを見届けた後、アヤメとポチは帰路についた。

 




 何やら壮大なあらすじからの、この単純な話。申し訳ないとは思っています。

 続きを書くかもしれないし、書かないかもしれない。マジでこのレベルの見切り発車です。まあ、書くとしての続きですが、次回は帰路で何かに襲われるかもね……後はアイリスことアヤメのキャラ紹介に一話使うかなあ……何も決まってなくてごめんなさい。
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