HUNTER×HUNTER立志伝〜世界に追放された異能たち〜   作:ゆゆ式

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章を追加しました。

ここまでは「世界追放転生編」です。


遊泳と応用

 

 

ドプンと、水に沈む感覚が体を走る。目を開けると、ゴーグル越しに海中の景色が見えた。まだ、水深が浅いからか、かなり明るい。差し込む光を見ると、それはまるでオーロラのようだった。

 

そして、そんな風景を見ながら、手で水を掴み、体を泳がせる。独特の浮遊感を伴いながら、ニシヤは移動した。かと言って遠くには行けないので、その場で遊泳しながらちょっと待つ。

 

しばらくして、海面の方で音が鳴った。それに目を向けると、音の鳴った方から人影が近づいてくるのがわかる。普通なら警戒するところだったが、相手が誰かわかっていたので、特に警戒はしなかった。

 

そして、相手の姿が露わになる。まずこぢんまりとした背格好。海では場違いな特殊加工がされた海の服といったものを着込んだ姿。栗色の髪に小動物を思わせる顔立ち。

 

最初に姿を現したのはヨノミチだった。

 

さらにそれに続いて、また僅かな音が海中に響く。ニシヤが泳いでいる場所からは少しずれたところで、モラウが海に飛び込んできていた。それを見ながら、ヨノミチと合流する。

 

水をかいてそばにまで寄ってきたヨノミチが、ニシヤを引っ張ってきた。どうやら、モラウの元にまで合流しようということらしい。それにニシヤは応え、水中で姿勢を整える。

 

そしてヨノミチに先導されながら、モラウの元にまで泳いだ。道中魚が視界を横切るのを見ながら、モラウとの合流を果たす。水中では、緩慢な動きをする分、モラウの体がさらに大きく見えた。

 

ちなみに例により、モラウも水中用に最適化された見た目普段着のような服装だ。タイトなシャツに流麗な形のズボン。水中での抵抗は考慮されているが、なんでそんな服装なのか。

 

答えは、なんでも、その方が調子がいいかららしい。これが、特殊な潜水服だと動きが阻害されて仕方ないそうだ。だからある程度のシーハンターになると特注の服を買う。これまた変な話だが。

 

そんなこんなで引率のふたりに合流すると、ふと、肩を叩かれた。振り向くと、水中で声を出せないヨノミチが親指で向かう方向を指差す。そして、先導するように泳ぎ出した。

 

巨体のモラウも、それに合わせてその体を躍動させる。

 

指導者ふたりが前に出たことで、ニシヤも自然とふたりが進む方向に泳ぎ出した。おそらく、この珊瑚礁がある海域にはそれほど長く留まれないだろうが……。

 

ともかく、ニシヤは海底の色とりどりな珊瑚礁を見つつ、指導者ふたりと仕事ついでの遊泳を開始した。とは言っても、やはりニシヤのやることなどほとんどないのだが。

 

道中では、様々なものを見ることができた。群体で回遊するアサミカジウオ。貝などからカルシウムを摂取する、珊瑚礁では害悪にしかならないワラクウミヘビ。

 

他にも波に揺られる海藻や、珊瑚礁に隠れ潜む亜熱帯魚など。やはりあまり長くはいられなかったが、実に良い海模様だった。そして、おおよそ船を出立してから3時間ほど。

 

信号により帰還の合図が出て、ニシヤは引率のふたりと船に戻った。元の少しは安定している船の上に立ってみると、そこそこの違和感を抱かざるを得ない。

 

そんな初めての感覚に戸惑いながらも、ニシヤは船員に迎えられて海水を流すためのお湯を浴びた。

 

海水を流し終えたあとは、どこが船員の琴線に触れたのか、シーハンター2人組に合流するまでかなりの数の船員に話しかけられることになった。

 

まあおそらく外見から親しみやすさを感じたのだろう。その点で言うとヨノミチも同じだが、どうもヨノミチはこの界隈では知名度がかなり別格らしいから、話しかけづらいらしい。

 

そんなふうに、船員から教えてもらった。もちろんニシヤもハンターと呼べる程度には仕事を行っている以上、侮られている訳ではないが、やはり話しかける時のハードルがだいぶ違うようだった。

 

そんなこんなありつつ、ニシヤは同じくお湯を浴び終えた引率のふたりと合流する。道中では、専門職の船員に話しかけてもらったことで、かなり色々な知識を聞くことができた。ある意味収穫と言えるだろう。

 

そうこう考えつつ、ニシヤは一息つく。

 

 

「あー、なんか色々見て疲れた。いずれは海用の能力を作るのもありかもなー。今の能力はかなり趣味悪いし」

 

「ん?シーハンターに興味が出てきたん?ええな。うちは環境保全を主な活動にしてるけど、もっと細かく行くと海専門のグルメシーハンターなんてのもおるで。自由度では陸に負けるけど、おもろい仕事や」

 

「ヨノミチの言う通りだ。シーハンターになるなら歓迎するぜ。見た感じ素質は十分あるからな。とはいえまあ、今日は体験程度だ。とりあえずは自由にやろうぜ。追い求めるもんは別にすぐ見つけなくてもいい」

 

 

人気の少ない通路で、モラウに撫でられながら窘められる。まるで子供扱いだ。まあ実際子供なのだが。しかし「追い求めるものは別にすぐには見つけなくていい」か。

 

思えば、ニシヤが次を求めたのはそういうことなのかもしれない。どこか定まらない目標の定義。それを求めて色々やってみようと思っているのかもしれない。

 

もちろん鑑定や発掘という、一種のハンター然としたことはしているが、それはあくまでなんとなく。趣味であって目標ではない。となると、なにかあとひとつ欲しいのも人情だ。

 

それが海なのかは、わからないが。ともかく。3時間の遊泳から船に戻ったことで、船が再び動き出す。高性能なモーターの僅かな音が船内に響き、それを知らせてくれた。

 

今のところ、シーハンターが本格的に動く事態はないようだ。ふたりが動くまでに必要な要素はふたつ。

 

未調査海域に到達するか、危険な海獣が現れるかのどちらか。それまでは海を様子見しながら進んでいくことになるだろう。

 

船が進んだことを契機に、その場の空気が変わる。海の話から念などの話へ。やはりハンターと言えばこの話題、ということなのだろうか。

 

 

「しかしニシヤ。おめえさん見たところ俺を10としたところ7か8くらいのオーラ量があるんじゃねえか?なるほど。ヨノミチが"多分"俺の方がお前より上だって言うわけだぜ」

 

「とは言ってもこれ以上はなかなか伸びないんだよね〜。なんだかんだハンター業が多忙だから」

 

「いやいや、それでも十分だぜ。やっぱガキの頃から念を知ってるってのは大きいか。何歳くらいから修行したんだ?」

 

「6歳くらいやない?まともに念を扱うとなると。ニシヤくんは今12歳やもんな?」

 

「うん、6歳からだよ。それで今はちょうど12。最初から体に何かあるのは把握してたけど、掴みきれなかったから結構苦労した。と、それより次のダイブはどうするの?」

 

 

船が外海に出始めたからか、揺れが断続的ながらも続くようになる。その中で、ニシヤたちは上手いこと壁に寄りかかりながら話し合いを続けていた。そして話を変えるように、ニシヤは次の予定を聞く。

 

なんだかんだ、海の観覧は初めてのことで、疲れはありつつも、普通に楽しかった。なのでもっと見たいと思ったのだが。

 

 

「そやね。今回の調査船は海洋保護区の中でも荒れてるところを回ってるから、ダイブはあと数回。その後は深海の調査だからニシヤくんは連れて行けんね」

 

「えー、マジか。能力使うからダメ?それなら深海にも潜れると思うんだけど。ただ悪趣味だからあんまり良い能力だとか期待はしてほしくないけど」

 

「お前さん。悪趣味悪趣味言い過ぎだぜ……それだけ聞くと能力に対する自信持ちやがれ、とすら思える。しかしそれほど言うってことは、逆にやべえな。よし、とりあえずどんな能力か概要を話せ。細かいところは言わなくていい」

 

 

促されて、能力の概要を話す。詳細はもちろん言わない。開示するのは、「操作しているものを消費すると、その特性を自身に継承できる」といったところか。

 

そんなふうに伝えつつ、モラウとヨノミチに話す。反応はおおよそふたつに分かれた。と言ってもどちらも大袈裟な反応はしていない。

 

 

「なんや。普通にええ能力やん。内容はかなりぼかしてるんやろうけど、そこからうかがえる事実からして、操作系なら常道や」

 

「そうだな。悪趣味と言えるほどでもねえ。が、まあ、まだなんかあるんだろう。だから操作系ってのはそんなもん。否定も肯定もしねえよ」

 

「……まあそうだよねー。どうもモラウさんのディープパープル見てると自信なくしちゃって。戦闘力だけなら負けないとは思うけど」

 

「あっははは!他の奴の能力見て自信喪失なんてよくあることや!うちもノヴさんって人の能力見て萎えたことあるけど、今じゃうちの能力の方が上だと自負しとる!」

 

 

廊下にヨノミチの笑い声が響き渡る。

 

そのノヴさんという人をニシヤは知らないが、一度負けたと思った相手に対して見直して自分が上回っていると思えるのは凄まじい傲慢さだ。能力が変わる訳でもないだろうに。

 

あるいはそれがハンターとしての資質というやつか。なんとなく、ニシヤは感心する。

 

そんなこんな、人気のないところで3人たむろしていると、船の上部で再び周辺調査の合図が響いた。

 

それに、最初の時と同様3人で潜る準備を始める。調査船からのダイブもこれで2回目なので、ニシヤも特に戸惑うことなく準備を終えた。そして、海へと繋がる部屋へと入場する。

 

部屋の中には複数の船員がおり、何かシステムなどに問題ないかを見張ってくれていた。そんな彼らの視線を受けながら、ニシヤは引率のふたりと潜水準備に入る。

 

と言っても念能力者であればある程度の深さの水域までは素で適応できるから、軽い装備チェック程度だ。そしてそれが終われば、いよいよ潜水に入る。

 

まずはシーハンターとして最も歴の長いモラウが海へと潜った。その潜水は静かなもので、甲板からの潜水とはまるで違う。ついで、部屋での準備運動を終えたヨノミチが滑るように海の中へと入っていった。

 

残りはニシヤだけ。珊瑚礁があった水深20mほどのところより今回はかなり深いとのことなので、若干慄きながらもまた滑るように入っていく。

 

その瞬間ドプンという感触が体を走り、生温い温かさが体に広がった。とりあえず感じる感覚に身を任せ、周囲を見渡す。すぐそばには、水中に浮くモラウとヨノミチがいた。

 

彼らふたりは、既に能力を発動させているようだ。見ると、ふたりのそばにはそれぞれ、海面へと続く煙の管と、そばに侍る念魚の姿があった。煙の管がモラウの能力で、念魚がヨノミチの能力だ。

 

どちらも聞いた話ではかなり便利。特にモラウの能力は、管を通して空気を吸うことで、海中でも長期間活動できるのでシーハンターとしてはうってつけ。それだけで主能力になり得る素晴らしい能力。

 

そんな彼らの姿を見て、ニシヤも今持っている能力のうち海洋探索に有利な発を心の内で呟いた。

 

 

(おひとり様な年頃(ロンリータイム))

 

 

まずはお終いな年頃(ワンダーチェスト)で収納からある魚を出し、手のうちに収める。そしてそれを握り、オーラで覆い、能力発動。

 

手の中で水中を泳ごうとしていた魚がオーラに溶けていき、その代わりにニシヤの体が変質していく。手には魚鱗が生え、首の中ほどには海中の酸素を取り込むためのエラが生える。

 

これが海中でも通じる能力。ロンリータイムだ。ランゲージリンクで使役していた生物の特性をも取り込む。

 

その代わり取り込んだ生物は使用後消滅し、また能力発動中はランゲージリンクで使役している念獣を操作することもできない。貴重な生物を利用しない限りそこまでリスクは多くないから、便利な能力。

 

そのニシヤの能力に、同じく海中にいたモラウとヨノミチは目を見張った。結構驚いているのがゴーグル越しでも見え、ちょっとしたサプライズに胸を張る。そしてしばらく、感心しながら近づいてきたモラウとヨノミチが、水中にオーラで文字を書いて話しかけてきた。

 

 

『それなら初見で深海も行けそうやね?どや?行きたい?』

 

『俺たちはどっちでもいいぜ。実力があるなら拒むほどじゃない。本当は深海ってーとシーハンター特有の身体操作技術が必要なんだが……まあお前にゃ必要ねえだろ』

 

『お、いいの?それなら俺も行きたい。いやー、やっぱり俺の能力って普通に便利』

 

『えー?悪趣味やなかったんか?現金な奴やなぁ』

 

 

ニシヤも変化系修行である程度進めていた文字作成技術で答え、水中で会話する。本来ならそんな時間の余裕はないのだが、そもそもモラウの空気供給管があるし、ニシヤ自身呼吸できるようになったので、特に問題はなかった。

 

そうして話をしながら、今後の予定として深海へのきっぷを手に入れる。まあそれはそれとして、まずは目の前のこと、というのがハンターとしての当然だった。

 

だから、ニシヤは引率ふたりに連れられながら、調査などのため先刻の珊瑚礁の海域よりも深い場所へと降りていく。

 

海中でも適応できる能力も見せたので、特に遠慮されることはなく、ほの暗い海へと引き摺り込まれていった。

 

そして当たり前だが、海は深く潜るほど周囲の光量が減る。そのため、水深50m、海底付近ともなれば明るさもだいぶ変わっていた。

 

ニシヤは、それを、実際に海底に潜って実感する。もっとも、自身は魚を取り込んだことによって独自の探知器官を得ているから問題はないのだが。引率のふたりはどうしているのだろうか? そんな疑問をふたりにぶつけると、かなり人間離れした答えが返ってきた。

 

 

『そりゃ海の流れや振動からなんとかしてる感じだな。大気中と違って海は音とかをよく運んでくれるから、それをオーラで感知すりゃなんとかなる。ガチで水中特化の奴は、もっと能力的な機能を持ってるがな』

 

『うちもそうやな。あとはこのそばの念魚が色々情報収集してくれるから、そのおかげもあるで。いちいちそんなのに能力使ってたら何もできんやろ?"それもできる"っちゅう能力じゃないと』

 

 

言われてみればその通りだ。ニシヤもこうして能力によって探知手段を得ているが、それはあくまで能力の一端の効果としてのもの。それが能力の主体ではない。

 

どれだけ能力に応用を持たせるか。それは誰もが最初に考えること。そうすると、ただの念で海での探知手段を確立しているのは実に合理的。そんなふうに納得しながら、ニシヤは海底を進む。

 

もちろん引率のふたりに連れられながらだが、独自に能力を使っている分、数時間前のダイブよりはかなり自由に動くことができた。

 

 

『しかし、何も起きないね。いつもこんなもんなの?これはこれで景色を楽しめるからいいけど』

 

『そりゃあまあ、今回はあくまで定期的な環境調査やからね。それともなんや?初回から何か鬼畜な事態が起こるところにうちがニシヤくんを放り込むと思ってたん?』

 

『そうじゃないよ。ほら、噂あったじゃん。遠くの海で時速160kmで泳ぐ軟体生物がいたって。あれはどうしたの?』

 

『ああそら……』

 

『ああ、それはな。とっくに討伐されてんのよ。こいつ、ヨノミチが討伐しててな。どうだ?シーハンターになるならこいつの弟子になるのもありだぜ?』

 

 

薄暗い海中で、モラウがヨノミチを大きな指で指し冗談交じりに言う。だがしかし、時速160kmの軟体生物を動きにくい海で討伐したとは、凄まじい話である。

 

弟子になるかどうかはともかくとして、ニシヤはすぐさまヨノミチに尊敬の眼差しを向けた。それに、ヨノミチは素直に胸を張る。感情に率直な彼女らしい仕草だった。

 




気狂いピエロ(クレイジースロット)劇場

いい目がでろよ〜!

ドルゥゥゥゥゥ!

13!


────次回

『終わりと始まり/暗黒大陸編』


突入

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