HUNTER×HUNTER立志伝〜世界に追放された異能たち〜   作:ゆゆ式

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終わりと始まり/暗黒大陸編
先の見えぬ未知から生じる暗闇


 

 

磯の匂いが鼻を突き抜ける。新鮮な魚介類がパチパチと躍動し、油が焼ける音を弾かせた。場所は料亭の少人数用の個室。ある港の近く。そこでニシヤたちは、打ち上げをしていた。

 

もう、ウバルトリコ号を降りて1日になるか。初めての航海にしては、随分長い航海だった。何せ初日の2回の潜水から、立て続けに休憩を挟みつつもどんどん深海に向かい、その間の潜水回数は実に10回。

 

深さを増していく分1日に潜水することのできる回数も減るから、最終的に調査を終えるのに費やした時間は18日。ほぼ3週間。

 

それでも船での旅はそこまで苦でもなかったから良かったものの、船から降りた時の開放感はかなりのもの。

 

もちろん途中からは体験のニシヤは海に入らなくてもいいと言われたが、ニシヤ自身調査の速度を落とす足手まといにはならないと自負していたので、海を体験するついでに毎回調査に参加。

 

深海での珍生物などを見るのは楽しかったが、さすがに疲れた。故の、打ち上げだった。

 

この料亭の部屋には、机を挟んだ目の前にモラウ、横にヨノミチがいる。彼らは美味そうに海の幸を食べていた。

 

シーハンターと言えども、陸での居心地はやはり違うのだろう。この機会にと、ふたりは食い溜めているのが見て取れる。

 

 

「磯の匂いに慣れると海鮮ってどれも美味しいね。そういえば、今のところ俺プロハンターじゃないけど、プロになるとなんかそんなお得な何かあるの?社会的信用はダンチらしいけど」

 

「んー、そうだな。まっ、早い話。その社会的信用のお陰で国や大企業から仕事を引き受けられるようになる。結構簡単にな。だからプロハンターは大金持ちが多い。その社会的信用が色々使い道あるって訳よ」

 

「でも注意しときや。ハンターになると世界の命令に逆らえんくなるで。どういうことかっちゅうと、いわゆるV5っているやん?近代五大陸同盟の。奴さんらがハンター協会の上客やから逆らえんねん」

 

 

モラウとヨノミチが、食い物をつまむ合間に色々教えてくれる。ヨノミチに関しては、かなりえげつないことを言っていた。しかし自身もプロハンターのはずだがどこか余裕はありそうだ。一体どこからその自信が来るのか。ともかく、そういうことらしい。

 

 

「あっ、これもうま。注文増やしとこ」

 

「そういえばニシヤくん。あんたヨリゲツ=ゴップルやったそうやね?あれが結果的にコトリタナ共和国のマフィア掃討に貢献したから、多分プロになればシングル目指せるで」

 

「ええー、やだよ。しかもV5って規模すごいから色々当たり外れありそう。そういうの知っちゃうとハンターの功績も国に無茶ぶりされた結果に見えちゃうなー」

 

「そんなことないで?でもニシヤくんはフリーでやった方が伸びるかもなぁ。それはそれとしてV5はヘッドハンティングもするだろうから、どちらにせよ魔の手からは逃れられへんけど。ぷっ」

 

「おいおいニシヤはまだ10歳だぜ?脅かしてやるなよ。まあ、なんか変なことやろうとすると常にV5様が見てるってこった!はっはっは!」

 

 

あまり笑い事ではないが、めちゃくちゃ不敬なオチをつけたモラウに、思わずニシヤも笑う。料理の良い匂いも相まって、場はよく温まった。そしてそれから幾許か。

 

ニシヤは似たようなくだらない話題でシーハンターのふたりと語り合う。年齢層で言うならかなりバラバラだろうに。ふたりとは不思議と気が合った。多分、どこかで価値観が噛み合っているからだ。

 

そんなこともあり、航海明けの1日は夜へと沈んでいく。やがて腹も満たされ、盛り上がっていた雰囲気も心地よい静寂へと変わると、場は自然と解散の雰囲気になった。

 

 

「あー、食った食った。かなり値段いっちまったか?しょうがねーからお前らの分まで含めて全部払ってやるよ。俺の奢りだ」

 

「おっ、モラウさんサンキュー。じゃあその金でまたご飯食わせてもらうわ!あんがとさん!」

 

「おめえまだ食う気かよ。まあいい。おいニシヤ。一応言っとくがプロとか考えるならパリストンて奴の口車には乗せられるなよ。あいつはかなりの曲者だ」

 

「うん、わかった。ヨノミチもじゃあねー」

 

「うちは相変わらず呼び捨てかい。まあ、またな」

 

 

警告を受け取り、席を立つモラウとヨノミチに手を振る。なんとなく最後まで残ったニシヤは、ゆっくりとふたりの背中を見送った。その後、天井を見つめる。

 

海の探索。なかなか濃い経験だった。特にほぼシングルのふたりと知り合えたのは大きい。

 

なんだか、家を出てからどんどんと世界観の規模が膨れ上がっている気がする。本来ならもっと手順を経ると思うのだが。

 

これもすべて、6歳から10歳までそのほとんどを修行に充てられたお陰だろう。両親には感謝しかない。

 

今までも定期的に連絡と共に仕送りはしてきたが、そろそろ何か気の利いたプレゼントをするのも良いかもしれない。何がいいか。と、そんなことを考えていると、部屋の時計がもう午後の8時を指しているのに気づいた。

 

ホテルのチェックインまではまだ余裕があるが、ちょっと危ない時間だ。故にニシヤはとりあえず部屋から出ようとすると、ふとあることに気づいた。

 

ニシヤが座る席の正面。部屋から出ようと顔を上げたところで、そこに、ひとりのある男がいた。

 

 

「よお、ニシヤ=フーズー。よくわかんねえネットワークに所属する、同好の志よ」

 

 

どこか温かさを感じる、穏やかな声。それとは反対に、底冷えする感覚。気づかなかった。実際に視界に入るまで。そこに人がいることに。おそらくとてつもない練度の"絶"。

 

それにしても……正面に位置するその顔。どこかで見たことがある気がする。長く纏められた黒髪。蓄えられた髭。十字の傷が入った顔。あまりニシヤとは関係ない人物のものではあるが……。

 

 

「俺のこの顔が気になるか?言ってもお前には関係ねえと思うがな。だがまあ一応名乗るか。俺はビヨンド=ネテロ。さっき出ていった、シーハンター共が所属するハンター協会会長。その息子だ」

 

「……つまり……すごい御曹司だ、ってこと?」

 

「ハハハ!まあそうとも言えるな。その通り。しかし俺はV5の犬じゃねえ。協会の会長の立場で燻ってる俺の親父殿とは一味違うのよ」

 

 

完全に意識の隙を突かれた意趣返しに、ほんの冗談を投げかけるが上手いこと躱される。先程の会話も聞いていたようだが。どこまでニシヤのことが把握されているのか。あまりにも不透明。

 

 

「それじゃあ、あんたはなんなの?教えてよ」

 

「俺か?まあそうだな。強いて言えば、ハンター。未知を追い求め、その最たるものである暗黒大陸を求める者だ」

 

「暗黒……大陸。それって外界のこと?」

 

「まあそうだが、会話をしようぜニシヤ。お互い有益な会話をしよう。今日俺はそれをしに来た」

 

「…………」

 

 

そんなことを突然言われても、何がなんだかわからない。会話をしようと言ったって、初対面で何を話す?暗黒大陸について?暗黒大陸の何を?わからない。あまりにも持っている情報量が違いすぎる。

 

 

「まず俺からだが……とりあえず話しやすいところに行かねえか?ここじゃ制限時間が来たら追い出されちまう」

 

「あ、そんなこと気にするんだ」

 

「当たり前だろうが。人の社会で生きる以上常識は前提だ。んじゃ、適当なカフェにでも行くぞ」

 

「……その理論で言うならさ。常識的にあんたみたいな怪しい人とは一緒にカフェ行かないでしょ」

 

「ん?………はっ、こりゃ一本取られたな。だがいいのか?わからないって面してるぜ?俺の存在何もかも。何も知らんまま日常を謳歌して、それで満足か?お前はそんなたまか?」

 

 

何を知っているんだ、と言いたい。だがニシヤの本質をよくついている。結局、家を出た時もそうだった。念という何か面白いものがあり、その面白いものがまた別の社会では常識になっている。

 

だからそこに行きたい。それが1年ちょい前のニシヤの思考。そこから考えるとビヨンドの言葉も理解はできる。

 

 

「わかったよ。行けばいいんだろ?行くよ」

 

「そう来なくっちゃな。ま、ここら辺のカフェはあんまり知らねーから、味も雰囲気も期待すんじゃねえぞ」

 

 

そう言いながら立ち上がり、ビヨンドは先導するようにして部屋を出る。それにニシヤも渋々続き、綺麗な店内を歩き店を出た。そして、夜の明かりが照らす繁華街に躍り出る。

 

ビヨンドの容姿はなかなか特徴的なこともあって目立つはずだが、その卓越した念技術からか、移動中注目されることはなかった。それからしばらくして、一軒のあるカフェにたどり着く。

 

なんてことはない、普通の店だ。その店にニシヤはビヨンドと共に入って、店のウェイターに案内されながら席に座る。辺りを見回すと、いかにも夜のカフェといった、テカテカした光景があった。

 

 

「それでだ。ニシヤ=フーズー。未知について。話そうじゃねえか。仮にも、お前もハンターなんだろ?プロとか。そういうちゃちな話じゃなくてな」

 

「まあ、ハンターなのはそうだけど、プロがちゃちだとは思わないな。そこは価値観の相違って奴かも」

 

「そりゃ悪いな。言葉の綾だ。見ての通り言葉を取り繕うほどの者ではなくてな。それじゃあ、まずは何から話そうか。お前はどうしたい?何を追い求めたい?冒険か?財宝か?それともここにはない何かか?」

 

 

カフェの席の対面から、濃い顔立ちのビヨンドが、笑いかけてくる。確かに、あまりにも率直な言葉遣いだ。言おうとしていることは曲がりくどいが、ニシヤを見る目はあまりにもまっすぐ。いっそ紳士的に感じるほど。

 

 

「強いて言えば"ここにはない何か"、かな。でもだからなんだって言うのさ。それともビヨンドは俺にそれをくれるの?無理だろ?」

 

「ああ、無理だ。俺はな」

 

「俺は?じゃあ誰ならくれるの?」

 

「それは、言うまでもなくお前自身だろ」

 

 

問いに、ビヨンドがニシヤを指差して答える。言ってしまえば、確かにそうだ。欲しいものを得るためには自分で探すしかない。

 

だが、それは誰でも考えつく答えだ。正直、期待していたものじゃない。結局、何が言いたいのか。別に元々何かを期待していた訳じゃないが、あまりにも時間泥棒。結論がないなら消えてほしい。

 

 

「そう顔を顰めるなって。暗黒大陸だよ暗黒大陸。お前暗黒大陸がどんなとこか知ってっか?知らねーだろ?ならそれはここにはない何かってことにはならねーか?」

 

「確かに……って言ってもだからなんだよ!結局それだけでしょ?その暗黒大陸って奴なら俺でも時間をかければ多分行けるもんね」

 

「そうか。まあお前は得体のしれないネットに所属してるからな。だがそのネットの連中が暗黒大陸を目指してる理由は?そもそも行かせてくれるのか?わかんねえだろ?だが俺は行く気でいる」

 

 

それは、遠回しな勧誘、だろうか。しかしなぜニシヤを勧誘するのかが理解できない。それで言うならちょっと前に出ていったシーハンターのふたりでもいいはずだ。ふたりとも良い能力を持っている。

 

なのにニシヤを選んだ理由。考えられるとすれば、それはニシヤの能力を知っているがゆえ。ではどうやって能力を知ったのか。導き出せる答えは、密偵。

 

さすがに普通に監視されていればいい加減気づけるから、それが不自然ではない立場からの監視。あるいは諜報系能力による情報収集。直近で言うとシングルレベルのヨノミチとモラウのふたりが同行した船の船員が怪しい。

 

あまり疑うのも失礼だが、何か諜報網があればシングル相当がふたり集まるなどどう考えても不自然。当然何かしら情報は収集するはず。そしてその道すがらニシヤの能力を見たとしたら。

 

つまり、ビヨンドの目的はニシヤの『おひとり様な年頃《ロンリータイム》』。

 

 

「なるほど。もしかして俺の能力どこかで聞いた?」

 

「お、やっぱりわかるか。そうだ。お前の能力はすげえ可能性のある能力だ。だってそうだろ?ここにはない何か。それは本当に何かわからない、未知の塊だ。それはもしかしたら俺たちなんか及ばない危険かもしれない。だが!お前の能力があれば!」

 

「なんとかなるかもしれないってことね。わかるよ。俺も色んな状況に対応できるようこの能力を作ったからその重要性はわかる。念能力が再現性のない力だということも、わかる。でもさ、あんたやり方が自分勝手だよ」

 

 

本当に危機に陥れば、ニシヤだってやり方は問わない。多少は後ろ暗いことにも手を染めるかもしれない。だが常日頃から後ろ暗い生き方をするつもりはない。

 

それとも、その常識とは違う生き方がこの世界にはあるのか。なんにせよ、それがニシヤの今と昔を合わせた時の常識だ。

 

 

「そうか……それはつまり俺の誘いには乗れねえってことか?」

 

「いや、乗ってもいいけど?」

 

「はぁ?俺は自分勝手なんだろ?なら乗る理由なんてねえんじゃねえか。それともなにか?そんなに未知ってのが好きなのか?」

 

「まあ、両方だよ。乗る理由はないけどそういう暗黒大陸とかいうのは憧れる。だから条件を飲んでくれるなら乗るよ」

 

 

素っ頓狂な声を出すビヨンドに、言葉を突きつける。だいたい、目の前の男の性質がわかってきた。憧れのためならどの程度かはわからないが手段を選ばない男。そういう奴だ。こいつは。

 

 

「条件?どんな条件だ?」

 

「簡単だよ。たったふたつだけ約束してくれればいい。まず暗黒大陸は危険で、何があるかわからない場所なんでしょ?だから後始末はしてほしい。冒険して、あー楽しかったじゃなくてね」

 

「ほう、それでもうひとつは?」

 

「あとは単純に俺がV5とかに目をつけられないよう後ろ盾をしてほしい。どうせ俺みたいな結構使える駒を収集してる以上、守る準備もあるんでしょ?」

 

「要するに、責任を果たせってか?嫌だね。と言いたいところだが、まあ、カキンの忠誠心の篤い連中を見繕って育てれば後片付けができなくもないだろう。それでいいか?確約はできねえが」

 

 

保険はかけつつも、一応約束の履行を契約しながら、ビヨンドが正面から見つめてくる。そこに、嘘はなさそうだった。だから、ひとまずは手を差し伸べる。それが一種の答えだからだ。

 

 

「とりあえずまあ、よろしくな」

 

「うん、よろしく」

 

 

ひとまず、握手が交わされた。

 




ここからは超越時間(ビヨンドザタイム)
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