HUNTER×HUNTER立志伝〜世界に追放された異能たち〜 作:ゆゆ式
「いやー、どうも!ニシヤ=フーズーくんですね!?ぼく、パリストン=ヒルと申します!今日は突然押しかけて申し訳ない!」
受付正面から少し歩いたところにあるロビー。そこにたどり着いてみると、いかにも優男という風体の人間がニシヤに声をかけてきた。まだ背の低いニシヤに合わせてか、腰を折り曲げながらこちらを見てくれている。
かなり礼儀正しい印象だ。そこで、ニシヤも返事を返す事にした。しかしそこそこ前のモラウの忠告も覚えていたので、パリストンという人物には僅かに警戒を滲ませた。
「パリストンさん、ですね。なんでもシングルのハンターでとても優秀な方だとか。同じシングルのモラウさんからもいろいろ聞いています」
「優秀だなんてそんな。でもモラウさんからいろいろ聞いてるのか。いやー、あの人にもしボロクソ言われてたら傷ついちゃうなぁ。あの人、新人の僕にも優しくしてくれましたし」
「ああ、全然悪くは言ってなかったですよ?それじゃあとりあえずそちらの席で話しましょうか?ご要件はどういったもので?」
「パリストンには気をつけろ」という過去のモラウの警告を念頭に置きつつ、話半分に聞きながらも話し合いの場へと移る。立ちっぱなしというのも体裁が良くないので、そばのテーブルまで誘導した。
そしてお互い対面になるように席につき、テーブル越しに視線を交わす。見ると、正面のパリストンは常に薄い笑みを浮かべていた。
「それじゃあ僕の要件を話しましょうか。ニシヤくん、プロハンターになりませんか?君の能力。その鑑定の精度はプロのハンターの間でも話題になっている。だからどうです?プロハンターでないとできない仕事をしてみたくありませんか?」
「してみたいですけど、その前に。それはビヨンドの指令ですか?それなら受けてもいいですよ。彼には恩がありますから」
「ビヨンド……ビヨンドさんですか。いえ、違いますよ。僕の独断です。君の鑑定能力は凄まじい。だから純粋に、欲しいなと思って」
パリストンの話は、ビヨンドから聞いたことがある。彼もまた、暗黒大陸を目指す探検隊の一員だ。そう、あくまで一員。話を聞く必要はあまりない。もちろん不和を招くのはまずいが。
しかし、それはそれとして前からプロハンターには興味があった。今となってはV5との兼ね合いもあり、あまり直接は関わりたくはないが。
「……ビヨンドから俺のおおよその能力は聞いてますよね?ではお話しますけど、俺の能力は生物以外なら時間さえあればほぼ無条件に全容を解析できます。確実に。だから鑑定という分野では、信頼さえ築けばプロハンターでも受けられないような依頼も受けられる」
「つまり……プロハンターになることはできない、ということですか?いやー、残念です」
「いや、そういうことじゃなくて。要するに俺はプロのハンターになって受けられるようになる仕事には魅力を感じるけど、プロになるほどの決め手を感じてはいない。だから教えてほしいんです。プロハンターってやつを」
ビヨンドが関係ないなら、それとは別に口説き落としてくれということだ。彼の場合は暗黒大陸という札があったから喜んで能力の詳細も後に話したが、パリストンにはどのような札があるのか。結局それ次第。
「わかりました!では簡単に説明すると、うん!ないですね!空っぽです!ハンター協会にあなたが求めるような素晴らしいものは用意できないでしょう!なぜならあなたは単独でも十分な人脈を築き、ハンター協会の手助けなくして自立しているから!実に立派です!」
「えぇ?逆にそこまでわかっててなんで俺に声をかけたんです?断られるのわかってたでしょ?」
「そうですね。だって悔しいじゃないですか。あなたの活躍は素晴らしい。ハンター協会に所属してもいないのに。それってつまり、ハンター協会が真のハンターには必要ないということにならないですか?」
「……ならないでしょう。だって俺自身プロのハンター達の助けを得てここまで来た。多分ハンター協会か何がしかがなかったらここまでこれはしなかったと思いますよ」
「……なるほど。それを聞いて安心しました。なんでしょうね。僕もハンター協会に対する誇りみたいなのがあったのかな?だって、僕をここまで育ててくれたのも協会だもんなぁ。嬉しいなぁ」
テーブルを挟んで、パリストンが懐かしむように目を細める。そう言うということは、彼自身かなり情に疎いというか、あまり執着を持たないタイプなのだろう。
だが不思議だ。あまり、思い出に浸っているがゆえに喜んでいるという風には見えない。むしろ何か、もっと無機質な確証を得たかのような。
「……ビヨンド」
「ん?」
「ビヨンドさんのためならあなたも動きますか?動きますよね?あなたは多分ビヨンドさんに恩はあっても従う気はないけど、ビヨンドさんのためになるなら、ってくらいのことならやる気がある」
「まあそうですね。ビヨンドのことはあまり好きではないですけど、恩は確かにある。その姿勢自体は好ましいものだ。だからビヨンドのためっていうなら多少のことはしますよ」
「ならちょうどいい。僕はね、誰かの力になるのが好きなんですよ……そしてあなたをハンター協会に引き込むことはビヨンドさんのためになる。なんでかわかりますか?」
パリストンの質問に、ニシヤは軽く思索を巡らせる。
ビヨンドの指令ではない。しかしビヨンドのためにはなる。要するにパリストンの独断で今ニシヤは勧誘されている。他ならぬビヨンドのために。
となれば見るべきは暗黒大陸関連。そしてハンター協会ともなればV5との繋がりも強い。必然、仕事を割り振られる可能性も高くなる。そのうえでビヨンドのやろうとしている行為。
それはV5にとっては明確な黒。許されないこと。だからV5はそれを見逃さず、ビヨンドのハントを協会に依頼するかもしれない。でもそこから、仮ににその時ニシヤが協会にいたとして何ができる。
いや、ビヨンドの背後にはカキン帝国がいるのだからハントして終わりとも考えづらい。まだ計画の全容は知らないが、とすると超大国同士がどのような化学反応を起こすか。
少なくともハンターによってビヨンドが捕らえられたとしても、処刑とか生涯幽閉とか、そんな簡単なことでは終わらない。ならばその時、ハンター協会にいるメリットは。
想像以上に思考が膨らんだが、つまり。
現状考えうる中で導き出せる答えだと、カキン帝国の後援を得つつビヨンドを協会の内部から拘束解除させることで、その不当な拘束の告発を交えV5の制御下から外れることができる。
あとは、いくらでも正当性を獲得しながら暗黒大陸探索に乗り出すことが可能だ。
ただしその場合、一線を越えてV5がやけくそに暗黒大陸の情報をばらまく危険性もある。しかしその場合は、むしろそれに相乗りして暗黒大陸脅威論を唱えることで、攻略の必要性を説ける。
というかニシヤの本命はむしろこちらだ。暗黒大陸なんて断片的な情報だけでも危険な場所がすぐそばにあるのに、ちまちまお金稼ぎなどをしている暇はない。
脅威的にも。興味的にも。暗黒大陸は放っておくべきではない場所だ。絶対に。間違いなく。
そこまで考えて、ニシヤは一息ついた。
「まー、とりあえずハンターにはなりますよ。そのうえで、そういうことなら俺、パリストンさんにある程度の期間師事します。まだパリストンさんシングルでしょ?俺が弟子になってダブルにさせますよ」
「お、話が早いですね。それなら僕はダブルに。ニシヤさんはシングルになれるから、手っ取り早く協会を掌握できちゃいますね。でもそれだと簡単すぎるなぁ。まあ、いいか。それじゃあよろしくお願いします!ちなみにシングルを確信している理由は?」
「ちょっと前にシングル候補の人になれると言われたからですかね。あとやっぱり酷い性格ですね。モラウさんが気をつけろって言ってたのちょっとわかったかも」
「えー、やだなぁ。簡単すぎるっていうのは……まあ!決して!協会の方たちを侮る意図はありませんよ!だって彼らは一流のハンター!簡単に狩れるなんて、そんなのありえないじゃないですか!」
パリストンの言うように、一流のハンターなら簡単に狩られることはない。つまり思い通りになるわけがない。酷い話だ。ハンターが人並み外れているのは事実だが。
しかし、ハンターでも人間は人間。
不可能なこともある。たとえばハンター協会だってV5には無力だ。協会自体が独立した国のようなものだが、所詮それだけ。近代五大陸の代表連中が囲んで叩けば、その地位も無に帰す。
それと同じで、政治劇を仕掛けてやればハンター達も門外漢。抗うすべは、そうない。ましてや念も交えた政治劇など、誰にとっても悪夢だ。
と考えるとハンターだろうがなんだろうが案外世界の一部にすぎず、決して無敵の超人ではないことがわかる。とはいえ超人なのは変わらないから、本当に退路を断ったらどうなるかわからないが。
とりあえずはまあ、その政治劇をパリストンと共にハンター協会に仕掛ける、という方向で良いだろう。随分ハイテンションなパリストンを見ながら、ニシヤは再び口を開いた。
「じゃあ、今季のハンター試験を受けてプロのハンターになるから、よろしくお願いします。とりあえず93年の1月に合わせて受験するから、そういうことで」
「はいわかりました。一応試験官のさじ加減で不合格になることはないようにしておきますね。それで手っ取り早く合格できるでしょう。プロになったら任せたい仕事もあるので、できるならとっとと終わらせちゃってください」
「OK。じゃあ暗黒大陸渡航までの生活は主にプロのハンター業務かな。そういえばジンって人知ってます?俺が昔遊んでたゲームの製作者らしいんですけど」
「ジンさんですか?あまり接点がないのであれですけど、結構な問題児としてハンターの間では有名ですよ。なんでも12歳の頃にハンターになってからいろいろな行事をすっぽかして………」
GIの製作者はかなりの問題児らしい。
しかし、GIと言えばそろそろゲーム内のPKも収まってきたころか。少なくとも初期のボナビ組による騒乱はもうないらしい。ただ上位ランカーが狩られたり狩ったりはまだあるようだが。
カード化上限枚数があるから、上位プレイヤーの争い自体はまだまだ続くだろう。それでもPKの規模は確実に減少しているから、いずれ本格的に復帰するのもありか。
そんなことを考えながらも、パリストンの話を聞く。ジンの話題から、自然とプロのハンターについての話題まで。しばらくはそのようなことを互いに話しながら、時間は過ぎていった。
そしてそれから幾許か、パリストンの用事もおおよそ終わり、連絡先を交換した後にそのまま別れる。
話を終えたニシヤは、ひとまず期日が迫っているハンター試験の志願用の用紙を用意することに決めあ。
しかし、昔はそれはもうハンター試験を人外魔境だなんだと思っていたものだが、今ではそれも嘘のようだ。
てっきり念能力者の巣窟で、そんな念能力者が毎年ふるいにかけられるようなところだと思っていたのだが。
どうやらそうでもなかったらしい。念能力者は想像以上に希少で強力。そのうえ質の違いも顕著。ハンター試験はあくまで、強さではなく資質を判断する場所。どうしてそれが念能力者の巣窟という話になったのか。
我ながらなかなか穿った思考だった。まあ、いいだろう。もう終わったこと。ホテルの一室で志願書を書きながら、ニシヤはそう思った。
そして翌日その志願書を郵送し、ハンター試験に備える。
荷物をまとめ、予定も白紙にし、試験会場に行くための準備をした。そしてそれを終えれば、すぐさまホテルをチェックアウトし、空港へと向かった。
ハンター試験運営委員会によると、試験会場は平和記念も兼ねてコトリタナ共和国とすることに決定したようだ。なのでニシヤはそこを目的地に飛行船に乗り、空の旅へと移っていく。
しかし、どこか作為的なものを感じなくもない会場だ。コトリタナ共和国。ヨリゲツ関連のものだが。
まあおそらくこれはパリストンによる計らいだろう。どの程度関与しているのかはわからないが、とりあえず。そのようにして、ニシヤは試験場所であるコトリタナ共和国に降り立った。
詳細な受験場所はコトリタナのピエロカ市とのことだったので、ニシヤは空港からそこに向かって歩き出した。道中は、まあいろいろあったと言えよう。
特にピエロカ市に入ってからは、なんだかよくわからない、腕相撲をして勝ったら試験会場への行き方を教えるとかいう人に遭遇したり。
職人によって彫られた木彫りフクロウが混じる中で、本物のフクロウを当てられたら試験会場へ案内するとか。
それらをニシヤは何とか順当にクリアしていき、ようやく会場への切符を手に入れた。
そしてなんだかんだあって会場にたどり着き、そこを真正面から見物する。コトリタナ国際競技場。オリンピックなどでも使われる最大規模の施設。
たどり着いてみると、そこが今回の試験会場となるようだ。あまりにも大それている。一体何をしようとしているのか。
純粋な体力測定とかだろうか。まあ、なんでもいいだろう。とりあえずニシヤはその試験会場に向かって、一歩踏み出した。
試験会場の外観は、さすがの一言だったと言っておこう。
それから、数週間後。
ニシヤは無事試験を終え、合格の結果を手に試験を後にした。
遊びたい盛りのパリストンさん。なんかこいつ便利すぎて邪魔だなぁと思いつつも一応ビヨンドの手足という立ち位置なので頑張る。