HUNTER×HUNTER立志伝〜世界に追放された異能たち〜 作:ゆゆ式
静かな森の空き地で、炭火を焚く。パチパチと炎が弾け、周囲を照らした。周りには誰もいない。落ち着ける空間。そんな所でニシヤは、支柱を炎の四隅に立て、その上に網を置いた。
それで準備は完了。後は川で釣った魚を火の上に掛ければ……という所で、独特な音が遠くから近づいてくるのがわかった。まるで飛行機のエンジンの音のような響き。
それは間違いなく、このGIでは特殊な呪文によるものだった。アカンパニーかマグネティックフォースか。どちらも目的のプレイヤーの名前を指定すれば、そのプレイヤーがいる所に飛べるスペル。
一体誰がなんの用なのか。そう思いながら音の方を向くと、やはり空の彼方から光の球体が近づいてきているのがわかった。
ひとまず魚を焼いている場合ではないので、ニシヤは焚き火が着地の余波で台無しにされないようにその場を離れ、しばらく様子を見る。
空を見上げていると、光の球体はどんどんと近づいてきて、やがて近くの地面に着地した。このような時間帯にニシヤに用がありそうな人物など思い当たらないのだが。
若干迷惑に思いながらそう考えると、ほどなくしてすぐそばで球体が溶け始めた。そして中にいた人物の姿を露わにする。その正体は、正直予想外のものだった。
「ジン!?なんでここに!?」
「よお、呼ばれてはねーけど飛んできたぜ」
本当に呼んでいない。呼んでいないのに来た。まあGIの製作者は彼だからある意味当たり前なのだろうが、しかし。目に付くその特徴的な服装。どこかの探検家のような姿。間違いなくジンだ。
今度は何をしに現れたのか。
これまでの経験で彼が厄介な人物だと気づいたので、ニシヤは警戒しながら焚き火の元にまでジンを案内した。そして火の粉を見つめながら、隣に座ったジンに問う。
「一応聞くけど、なんの用?」
「へっ、そんな警戒すんじゃねーよ。ただまあ、お前GIのシステム引き継ぎたいんだってな。それなら……」
「それなら?」
「製作者として俺がそれを許可してやるから、お前が何考えてんのか全部話せ。いいだろ?」
「いや良くない」
反射的に拒絶を示す。それにジンは「いいだろ?」と迫ってくるが、これに関しては良くない。彼は良くも悪くも信用出来ないから、できるできない以前に話したくないのだ。計画云々など。
「なんでだよ〜。いいだろ〜?俺はGIの製作者だぜ?こう、何かあるだろ何か。こう、こんなシステム作ってすごい!私の計画話してあげるわ!みたいな!な!?」
「なんだそれ。何も無いよ。絶無です。強いていえばジンの無茶ぶりに応えてGIをずっと維持しているゲームマスター達はちゃんと尊敬してる。ゲームが終わったら相応の謝礼も渡すつもりだよ」
「なんっだそれ!おめーそれでも俺に世話見てもらったの忘れたか!?その恩今返せよ!おめーだけなんか楽しそーなことやってんじゃねぇ!」
「世話?何言ってんの?俺が記憶してる限りだと、忙しい時も平気で『お前の能力が必要だから』って駆り出された記憶しかないけど」
「グッ、クソ!じゃあどうやったら話してくれんだよ!」
どうもこうも、話すつもりは無い。これがまたガキみたいに。まるで子供がただ大人の姿になっただけの果てを見ているかのようだ。あまりにも幼稚でめちゃくちゃ。
それでも時折何か卓越した念能力者としての雰囲気を感じるから許さなくもないが、それがなかったら今頃どっかに吊るし上げられてボコボコにされてる。っていうかしたい。多分勝てないけど。
とにかくこいつをどうするか。長い戦いになりそうだ。
◆◇◆◇◆◇◆
本当は、こんな事をやりたかった訳ではない。本当は、こんな人生を送りたかった訳ではない。なのに、なんでこうなったのか。なんで俺は、このゴンとキルアという少年と今戦っているのか。
賞金首ハンターであり、自身もまた賞金首であるビノールトは、そう思った……何故こうなったのか。もう覚えていない。そう思考しながらも、自らの武器であるハサミを振るう。
ビノールトは、ある者に敗れ、荒野の一角の盆地に閉じ込められていた。しかもただそれだけではなく、目の前の少年達と戦うことを義務付けられて。
「ゴン!行くぞ!」
「おう!」
あまりにも純粋な雰囲気を纏った、少年達。彼らが同じくビノールトがいる盆地の中で、こちらに向かってくる。それをビノールトはハサミで遠ざけながら体勢を整えようとするも、少年たちは速く、多少の牽制にしかならなかった。
本当は、初めは、こうじゃなかった。もっとビノールトが有利だった。そう、初めは、ビノールトだってもっと何かあったはずだ。でも気づいたら、それすら目の前の少年達に崩されて。
本当はもうわかっていた。ビノールトは、彼らのようになりたかったのだ。どんなに辛くても、前を向けるような。強い彼らのように。
『だから嫌だったのよ。こんな貧民街を横切るのは!!』
『こっちの方が近道だって言ったのお前じゃねーか!!』
別に、その日通った通行人の財布を拾ったのに理由があった訳じゃない。ただ落ちてたから。人のものは、人のものだから。
なのに、ビノールトは理不尽に見舞われた。
何が悪かったのか?
分からない。
そもそもビノールトは、人としてすら認識されていなかったのか。それすら全て、もう分からない。ただなんでこうなったのかは、わかる気がした。
別に特別な何かがある訳ではなく、ただただ、ビノールトが弱かったから。理不尽を味わった時、その理不尽の味を底の底まで知ってしまったから。
ただそれだけの、話だったのだ。
そして結局、ゴンとキルアとの戦いにも、ビノールトは負けた。折れた先で積み上げた何かすら、意味のないものだったのだ。
「………ビノールトさんありがとう!おかげで俺達すごく上達しました!!」
言葉は出なかった。
ただそのゴンという少年の言葉に、少し、救われた気がした。そうしてビノールトは結局、自首をするという条件で見逃され、GIから離れていく。
きっと、これからも人生は変わらないのだろうが。ほんの少しだけ、罰を受けようという、ある種の罪の意識が芽生えたのだ。
そしてビノールトが去った後、周りに誰もいなくなった荒野で、その3人は顔を突き合わせる。
これからが、彼らにとってのGIの本番だった。
ゴン、キルア、ビスケ。
しかしまあゴンとキルアは将来性を見込まれてここにいるだけなので、まだまだ修行の身。故にその面倒を見るため、という訳ではないが、なんだかんだ面倒を見ることになったビスケ。
念を覚えて40年のベテランハンターのビスケが、ゴンとキルアの傍にはいた。ビノールトを盆地に閉じ込めたのも、彼女だ。
その可愛らしい容姿からは想像できないが。とにかく、彼らの修行は始まったばかり。むしろ、これからが本番だった。
「よーしあんた達!次はもっと修行をレベルアップさせていくわよ〜!」
「「押忍!!」」
金髪の可憐な○十代女性。その貫禄にゴンとキルアも、すっかり手懐けられて気合を入れる。
まず次の修行は、魔法都市マサドラという場所へ行くことだった。ただし、その道中にある障害物は全てシャベルで掘り進めるという条件付きで。
そんな事がありながらも、ゴン達は創意工夫をしながら修行を着々と達成していく。やがて、ゴン達はプレイヤーを試すかのようなモンスター達を相手に少しずつ適応し、倒すことができるようになっていった。
それは、凝をしなければほぼ無敵である、リモコンラット達のようなモンスターを相手にしても。
そして彼ら三人がGIに入って数ヶ月。そこそこプレイできるようになったビスケ率いるゴン組は、色々な情報が確認できるトレードショップでプレイヤーのランキングを確認していた。
「トクハロネ組75種。ハガクシ組78種。ニシヤさん84種。ニッケス組90種。ツェズゲラ組93種。うひゃー!」
「俺達まだ全然カード集めてないのに、これもうゲーム佳境の段階じゃね?やべーだろ」
「そうだわねー。そもそもゴンの言う父親探しの手掛かりはここにはなかった訳だし、ここからはいくらあたしが頑張ったところで巻き返すのは難しいかしらねぇ」
「諦めんなよ!ニシヤさんの話からして多分GIのアイテムを三個現実に持って帰れるのが報酬だぞ!?もの次第じゃ破格どころじゃねーだろ!」
キルアの言うことも間違いではないが、客観的に見て攻略するにしても期間が足りないように見えるのは事実だった。もちろん額面上はだが。事情は異なる。ゲームでは隠しイベントなど日常茶飯事。
そしてこのGIではその隠しイベントを何年も掛けて解いていくのが常道。まだゴン組にもきちんとチャンスはあった。故にこれはあくまでも戯れのようなもの。
ただ、この3人組の中で唯一、キルアだけがプロハンターではないので、彼だけは資格を取りに行くためにハンター試験を受けに行かなければならなかった。
だからその抜けた穴がどう響くか。今後の攻略状況はそれに掛かってくるだろう。と、とにかくそんな事もあり、ゴン達は道中情報をちょくちょく拾いながら、また修行とゲームプレイの日々に身を投じた。
マサドラ方面の岩石地帯のモンスターから始まり。
『H--800--リモコンラット(711』
『G--333--一つ目巨人(573)』
『D--80--マリモッチ(673)』
『C--50--バブルホース(585)』
またマサドラの西のかなり過酷な森の方では、Cランクで最大の体力と攻撃力を誇る群狼の長を倒したりと。
そのようにして歳月は過ぎていった。
そして来たるハンター試験。2001年の1月7日。キルアは速攻で試験を合格し、GIに帰還した。試験の内容は、キルアによってあまりにも無茶苦茶なものになったとは言っておこう。
そのような事もあり、いよいよ修行を完遂したゴンたちの組が、ここに来て快進撃を始める。最初の1週間程で指定ポケットを15種ゲット。その後交渉なども交え、破竹の勢いで7種を追加。
さらにそれから数週間、合計で1ヶ月。最終的には指定ポケット50種以上を達成した。上位陣が最後の指定ポケット数種に手間取っているのを見るに、本格的に攻略組に参入するのも時間の問題なのかもしれなかった。
そんな時期に、最初の指定ポケット集め数週間の時に交渉をしたカズスールというプレイヤーが、コンタクトというスペルカードを使用して通信してきた。
なんでも、彼らが言うには最前線のツェズゲラ組やニッケス組がいよいよクリアに迫るところまで来ているため、それを何とか阻止したいらしい。そのために集まらないか、というのが交信の趣旨だそうだ。
どうも情報交換などを定期的にしていた同期のニシヤによる雇用組も何人か参加するとの事で、ゴン達は言われるがまま指定された場所へと向かった。基本まだ攻略などは初心者なので。
場所は魔法都市マサドラからちょうど2kmの岩山地帯。そこでおおよそ18人程の人間が集会を開くことになった。議題はどうやってツェズゲラ組やニッケス組のクリアを阻止するか。
正面戦闘などは間違いなく無理。特にニッケス組は5年もの歳月を賭けただけあって構成人数が数十人いる。戦うのは得策ではない。そこで提案されたのが、カードの独占。
カード化限度枚数を利用した方法。これならクリアの阻止という点で最善手とも言える。
何故ならどれだけイベントをこなしてアイテムを手に入れたところで、カード化できないと真に手に入れたとはカウントされないからだ。
そしてカードを独占するために必要なのは手数。一組で独占できるのはごく一部のプレイヤー達だけ。だからこそ、その場で共同戦線が提案された。
もちろんゴン達は見た目が子供なので多少の揉め事はあったが、そこはニシヤ雇用組の確かな実力者達がゴン達の実力を証明することで場を収めた。
というのもゴン達自身は初心者だったので、舐められたりしたのだ。そこでキルアが応戦し、あわや乱闘騒ぎ直前までと。まあ結局は何とか丸く収まった訳だが。
ともかくそんなデコボコパーティーで独占を目指すことになり、先行きも不安だったのだが、なんとここで驚き、偶然も重なりゴン達含めた連合パーティーは、未発見のイベントを見つける事となった。
しかし複雑な事をやった訳ではない。本当に偶然だ。15人以上で移動スペルを駆使してそのイベントが隠されている街、ソウフラビに飛んでくること。それが条件だったのだ。
とはいえ発見したのは事実。偶然とはいえ、ゴン達はそこら辺にありそうな港町の只中で喜んだ。
「よっしゃー!」
「これで10億ゲットォ!」
かと言ってイベントは見つけてからが本番。ソウフラビで発生したイベント。『レイザーと14人の悪魔』。これをクリアする為にゴン達は邁進した。
が、ここで当然の事態に遭遇する。
仲間の実力不足。これはもう未発見クエストなのだから、ある意味見えていた事だった。
ゲームの最後を飾るようなイベントが簡単なはずがない。そして最前線を行く実力者達が協力者でもないのだから、結果は言うまでもなく。
そんな事もあり、結局、ゴン達はイベント進行中、敗北した味方の姿を見てイベントのクリアを諦め情報収集へと姿勢を変えた。
イベントのクリア条件は港町を占拠しているレイザーと14人の悪魔達からスポーツなどの種目で8勝をもぎ取ること。
結果はまあ無理だったので、とりあえずその8勝分になる8種目をゴン達は見極め、その後順当に敗走した。
そしてそんなゴン達に課せられた敗北のリスクは、「二度と同じパーティーでは挑戦できない」というもの。
まあこれは妥当だろうという事で連合パーティー内でも決着がついた。ただし抜けるというものも現れたが。
その抜けるものたちの論調では、15人という数を集められるものがそもそもおらず、唯一その数を集められるニッケス組も烏合の衆、という事で。場は解散される事となった。
ただし、場に残ったものもいる。ニシヤ雇用組達だ。彼らは人数が足りなかったためイベントを勝利に導く事は出来なかったものの、平均して通常のプロハンターの中でもそこそこの実力を持つもの達となっている。
故にクリアできるならそれが最善。そのうえ、とりあえず、この件を副会長補佐に報告するだけでもひと財産。ここに残らない理由はなかった。
「よし!とりあえずは10億ゲット!ニシヤさんに連絡すればひとまず貰える!次はクリアを目指して!」
「オオ!」
雇用組はそんな感じで士気を向上させながら、ニシヤに合流するためにアカンパニーを取り出す。とはいえ、まさか、これがゴンにとって目的の達成までの最短距離だとは誰もわからなかっただろうが。
例の考察
※ビノールトのオーラ量判断
ビスケからはGIのランク付けに従うならDランク相当と言われた男。またその時のゴンとキルアは単なる纏以上のことをしていなかったと思われるので、顕在はそもそも堅状態から考えても400とかその程度。
実際纏っていたのは40とかそこらだろう。総オーラ量は4000とか。特質系であることからも才能があるのはわかる。武闘家としての矜持もある。ただ知らなかったのだろう。どう生きればいいか。それすら。
感謝が欲しかった訳じゃない。ただの常識。その程度は貧しい生まれでも理解はできた。だがそれを理不尽に否定された時、自分はその常識の中では生きられないのだと悟った。
要するに人間として見られていない。そんな中で生きるにはどうすればいいか。答えは知っていた。底の、さらに底で知った理不尽の味。容易く何者をも踏み潰す、無遠慮の暴力。
知ってしまったからにはもう戻れない。理不尽で贖うことでしか、自分を慰めることはできない。そんな男が最後に抱いたのは、僅かな感謝と罪の意識。
違う生き方は、きっと出来なかった。それでもどこか。救われたような。現実に引き戻されたような。ともかく、最後にビノールトは存在を認められたような気がした。それに価値があったかは、分からないが。