HUNTER×HUNTER立志伝〜世界に追放された異能たち〜 作:ゆゆ式
ある平原で、十数人が顔を突き合わせていた。彼らには皆、独特の雰囲気がある。それぞれが念能力者として最高峰。これより上はあまり多くはないと言うほど。
そんな彼らが、何を話しているのか。それは、ゲームの攻略に関してだった。案外、普通の話題だ。しかし実情を知れば、それは実にとてつもない数の人間が関わり、そのほぼ全てが念能力者だったというとんでもない事実が明らかになる。
まずその輪の中で、ツェズゲラと言われる男前の男性が口を開いた。
「確認するぞ。まずもうわかっているとは思うが、俺達は指定ポケットナンバー80『浮遊石』、それと85の『身代わりの鎧』を独占している。つまりお前達はこれら指定ポケットを得ることは不可能で、GIのクリアもできないわけだ」
まるで優位に立っているかのように鷹揚な語りをするツェズゲラ。しかしそこに油断や慢心は見られない。それは強者ゆえ、ではなく、単純に自分だけがそうではないから。
周りにいるもの達もまた、それぞれ優位性を持つ何かがあった。
「では次は俺たちの組だな。俺達ゲンスルー組はナンバー17『大天使の息吹』とナンバー73『闇のヒスイ』を独占している。同じくこれらは俺達以外入手することは不可能で、君達はクリアをすることは現状無理な訳だが」
ゲンスルー組もまた、奇しくもアイテムふたつ分優位を築いている。だがそれではツェズゲラ組と同等。交渉の余地はあるがそれだけ。クリアへの道はまだ見えていない。
一方で最後の組。
「あたしたち雇用組。さながらビスケ組は、あなた達が所有してない『奇運アレキサンドライト』を持ってるわさ。でも独占はしてない。そこで私達が提供出来るのは、最後の未発見イベントの情報と、それに対するここにいる雇用組全員の協力だわさ」
平原に集まった全3組。一見するとビスケ組は新参でもあり格が劣る。しかしむしろ不利なのは残り2組の方。雇用組は全部で14人。その全員が念能力者として中堅とも言うべき確かな実力者達。そこに急遽参加したジンも入れると15人。
ちょうどレイザーと14人の悪魔のイベントに必要な人数分。つまり実質的にビスケ組は単独でもそのイベントをクリアできる。でも他の2組は違う。つまりビスケ組がその気にならなければゲームは永遠に終わらない。
独占カードなど、この状況では意味が無い。全て、最後はビスケ組の動向次第。こんな状況になってしまった上で、どうするのか。平原に彼らが集まっている理由は、それだ。
「OKだ。こうなれば共同戦線を張らざるを得ない。独占カードも全て手放そう。だがクリア報酬はどうする?まあ、結論はおおよそ決まっているがな」
「そうだな。俺達ツェズゲラ組も独占カードを手放す。そうなるとレイザーのイベントをクリアした瞬間ビスケ組以外が99種、クリア一歩手前に達する訳だ。それはもうほとんど同時クリアと同義」
立場で劣るゲンスルー、ツェズゲラ組が、論調を合わせて状況の見た目を整理し、盤面を同等のものに整える。そうすることで、クリア報酬の独り占めだけは防ごうという魂胆。それにビスケ組は、乗った。
「いいだろう。クリア報酬3枠のうち許された2枠。それはここにいる全員が使えるものにする。そしてその条件でもっとも優れているアイテムと言えば、持続性も考えつつ……」
「『もしもテレビ』と『リスキーダイス』!」
「それはまたなんで?」
「『リスキーダイス』は20面のダイスで、大吉の面が出れば幸運を使用者に授ける。でも1面だけある大凶を引けばおそらく死ぬ。でもそれを『もしもテレビ』でその時ダイスを使った時どうなるかを知れれば、幸運だけを選択できる。しかも『もしもテレビ』は単体でも使える!」
「そうだわね。『もしもテレビ』は、「もしも自分がこういう行動をしたなら〜」という仮定の結果を1〜30時間のドキュメンタリー形式で教えてくれるアイテム!現実世界で使えば世界一の大富豪も夢じゃないわさ!正直あんまり夢はないけどね!」
そう締めながら、会議の結論を形にするゴンとビスケ。ある意味茶番ではあるが、協調する意思があるという事を明確に示すことが重要だった。
もちろん『リスキーダイス』と『もしもテレビ』の組み合わせは、確実に自身を飛躍させる効果を持つという訳じゃない。
なんとなく幸運に物事を上手く運べる程度のものだ。それでもこの組み合わせは、困った時に使えばクリアに参加したメンバー全員を助けてくれる。それは間違いなかった。
故に、ゲンスルー組とツェズゲラ組も立ち上がる。
「よし、では合意も得られたところで」
「そろそろレイザーが守る指定ポケットナンバー2、『一坪の海岸線』を取りに行こう、と言ったところか。ハンター協会の補佐がいなければ全て独占できたはずだったんだがな」
「確かにな。そこは業腹だが、ここまでやって無報酬、と言うよりは余程良いだろう。条件も変わってクリア報酬も2枠手に入れられるしな」
「そう思うしかないか。おいサブ。アカンパニーを出せ。ソウフラビに行くぞ。それでイベントが始まるはずだ」
代表3人が中心に位置する中で、ゲンスルーが外側にいる仲間に指示を出す。その仲間はまあ、色々な事情もありまだ事態を飲み込みきれていなかったが、実に5ヶ月ほど純粋に攻略を進めた期間が彼らを順応させた。
もう5年以上前になるPK騒ぎの時からいる「ボマー」というプレイヤー。それが現れることは、少なくとももう無さそうだった。
そんな事もあり、イベントのクリアの為に共同戦線を張った彼らは、サブのアカンパニーによってソウフラビへと飛んでいく。飛翔音だけが、その平原に残った。
しばらくして、ゲンスルー、ツェズゲラ、ビスケ組の共同組は、空気を切り裂くような音を伴って港町のソウフラビにたどり着く。辺りを誰かが見回すと、そこは相変わらず辺鄙な港町だった。
そこでイベントのクリアを目指す訳だが、まずイベントにたどり着くまでにはこういう順序を経る必要がある。今回はゴンたちが2回目なので、前回の流れをなぞるだけだ。
1.「一坪の海岸線」を
キーワードに
地道に聞き込み
↓
2.「〜をしたら教えてやる」
と言う情報提供者が出現
↓
条件をクリア
情報の真偽確認
↙︎↓↘︎
真正情報 ガセネタ
↓ 。。。。。 ↓
入手条件を 聞き込み再開
クリア 1へ戻る
↓
アイテム入手
以上の条件を踏まえた上で、ゴン達は真正情報にまでたどり着き、海賊達、レイザーと14人の悪魔がいる場所まで案内された。
彼ら海賊がアジトとしているのは、スポーツ対決という事も踏まえた上で、体育館を模した大きな建物。一応酒場も併設されているが、本体はそっち。まさにイベントの会場そのものだった。
そんなところで、イベントの名前にもなっているレイザーという海賊が、ゴン達の姿を見る。そして余裕を見せながらも、確かな疑問を見せて言った。
「んん〜。なかなかの連中の集まりだねぇ。ところで………なんでそっち側にお前がいるんだい?ジン。このゲームの製作者のお前が、な」
案内された体育館で、レイザーが目を細める。その格好は体育着に短く切りそろえられた髪と、決して格好の良いものではなかったが、不思議と恐ろしいまでの気配があった。
だがそれよりも、集まったメンバーは、案内された体育館の照明の下で、驚愕を露わにする。
「なに!?」
「言われてみればだが!?普通製作者がノコノコ出てくるか!?」
ツェズゲラとゲンスルーを始めとして、さすがに困惑などを隠せないメンバー達。そんな彼らを置いて、レイザーと当事者のジンは声をあげた。
「まあ、構わないがね。そういう気なら俺も全身全霊でやるだけだ。多分何人か死ぬが、文句は言うなよ」
「冗談こくなよレイザー。ここじゃ誰も死なねーよ。さすがに俺のせいで死なせるとなるとめんどくせーからな」
「言うねえ。しかしそっちの、お前に似た奴はゴンか?気まぐれなお前のせいで約束がふいになっちまったな。まあ、本気で相手をするのが全力になっちまうだけだ。構わねえか」
目を見開いて、ジンの後ろにいるゴンを見詰めるレイザー。やる気になり始めオーラを滾らせたそのレイザーのオーラ量は、果たしてゴンの何倍か何十倍か。少なくとも数倍で済む差ではない。
中堅と言われる周りの雇用組とも比較し得るようになったはずのゴンだが、正直、彼の感想としては、レイザーとはそもそも比べ物にならないくらいの差がある、というものだった。
だが少なくとも、8勝を争うスポーツ対決ではレイザーは出てこない。その事に、どこかゴンどころかビスケやジン以外の全員がその場で安堵した。
逆に言えば、ビスケやジンはまったく怯んでいないということを意味するのだが。それは一体どれほどの。
そんな事もあり、対決が始まる前に軽い話を交わしあったジンとレイザー達は、その後思い出したようにイベントの話を持ち出し、とりあえずはその開始の宣言がレイザーよりなされた。
「じゃあ、もう知ってると思うがルールは簡単だ。スポーツ対決。先に8勝した方が勝ち。そうすれば俺達海賊はこの街を支配することを辞め、出ていく。まあ、そういう設定だと思ってくれていい。もう製作者様がそこにいるからな」
なかなかメタい事を言いながら、話を満足そうに終えたレイザーが後ろへと退いていく。その代わりに、14人の海賊達が割と真面目そうな顔をしながら対決をするために出てきた。
若干1名は、雇用組のキルアに恨みがあるのか感情が深く込められた視線を見せていたが。とにかくそのようにしてスポーツ対決は始まり、まずはボクシング。ツェズゲラ組のバリーという人物が前に出て、勝利を収めた。
「やりい!」
「やっぱ前に共同戦線張った放出系のおっさんはただの短気だったな!ニシヤさんから聞いたヒソカの性格分析がその通りだったぜ!」
「それはもうヒソカの性格分析じゃなくないかな?」
「なんでもいーんだよ!血液型性格判断と同じで根拠はねーんだから!」
ゴンとキルア、主にキルアがとんでもなく失礼な言動をしながら、スポーツ対決の行く末を見守る。結局事前の情報収集と対策もあって、3勝目までは順調に積み上げることができた。
そして続く4勝目。そこでトラブルが起こった。途中キルアに妙な目線を向けていた巨漢の男。彼がレイザーの何事かの合図を始めとして、突如暴走を開始した。が、すぐにそれも終わる。
「小僧!表出ろ!てめえにやられた火傷が疼いて仕方ねーんだ!」
キルアに向かって、啖呵を切る巨漢の男。それにキルアは「土俵の間違いだろ」などと返して、さらにその男を怒らせた。その結果男はキルアに対して殺してやるなどと喚き始める。
だがそれは、ルール違反、と言うやつだった。
「そいつは契約違反だな。ムショに逆戻りだぜ?ボポボ」
「知ったことかよ!このクソゲーに付き合うのももう終わりだ!」
そんな事を言って、さらには周りにレイザーを殺してこのGIから脱出することを提案し始めるボポボ。彼は、やってはならないラインを超えた。要するに、用済みと言うやつだった。
所詮、彼は人間。
中でもクソ溜めの、囚人なのだから。
「よし、次は俺がやろう」
念を使って、もう必要ないボポボを始末したレイザー。後ろでゆっくりと構えていた遥か高みの念能力者は、茶番に飽きていよいよ自分で動くことにしたようだった。
だがボポボは次に共同組の誰かと戦う予定だった。これでは勝敗はどうなるのか。そんなものはレイザーにとってどうでも良かったのか、誰が勝敗を握っても良いと言った。
そこで1番弱い——と言っても一般的なチャカなどはあまり効かないぐらいの練度の——能力者に一勝が譲られる。これで4勝。実に順調だった。しかしそれも、レイザーが次に提案した競技によって特に意味の無い数字となった。
「さて、俺のテーマは、8人ずつで戦う……ドッジボールだ!」
その気合いの入ったレイザーの言葉と共に、彼の周囲にふと影が生まれる。そしてそれはやがて形となり、正真正銘、オーラのみで形作られた念獣をかたどった。
1人1勝。1度対決したらそれで終わり。8勝したら勝ち。つまり、最終的に8勝すれば、過程がどのようなものでもいい。なぜなら勝ち方まではルールとして決められてないから。
だから8対8。どちらかが勝てば8勝を手に入れ、イベントが終わるというのも成立する。実にゲーム特有で、実に現実らしい論法だった。
でも仕方ないだろう。このグリードアイランドというゲームは、現実で行われているのだから。
ゲーム!スタート!