HUNTER×HUNTER立志伝〜世界に追放された異能たち〜 作:ゆゆ式
俺から読者たちへ送る
ニシヤの能力は、情報収集と戦闘を両立できるよう作った能力だ。故に本来はそこまでの即効性はない。あくまで準備を整えれば同格の肉弾戦が得意な強化系と渡り合える、とかその程度の能力。
事前に準備がない状況では、格下狩りにしか使えない。だがそれを覆す裏技もある。用意するのは死後5分以内の死体だ。それで、ニシヤの能力は戦う力を得る。
ちょうど今のように。
「おいおいおい!死体が蘇った!?蘇生!?どんな能力だ!?誰だよあのガキ放っておいたヤツ!」
前方のジェイト組とボナビ組が衝突するところから、怒声が響いてくる。それも当然で、ニシヤが仲間の肉片を持って能力を発動した瞬間、突然虚空からある人間が現れたのだ。
「ここは……そうか。俺は……ユズさん。俺に命令してくれ」
「OK。とりあえずジェイト組に合流して」
「ラジャー」
その男は、先程ボナビ組に頭を潰されたジェイト組のメンバーと同じ顔、同じオーラ量を持っている。
つまりほぼ蘇生に等しい荒業。だがその様子はほぼ初対面にもかかわらず、ニシヤに従順。操作されているのは明白だった。
そして、ニシヤが命令を下した瞬間、その死んだはずのメンバーが前線へと突っ込んでいく。高い思考能力を持っているのか、ジェイト組と合流すると、ニシヤの遠目に作戦を話し合っているのが見えた。
もっともジェイト組は混乱を隠せないようだが。しかしそれは向こうのボナビ組も同じ。誰もが、異常な事態に少なからず動揺している。その隙をつき、ニシヤもまたオーラを練り上げ、前線に向かって突撃した。
「おいおい聞いてねえぞ!?あのガキジェイト組の新入りか!?どう見ても俺たちより強えじゃねえか!?」
「うるせーぞ腕鞭野郎!お前は後方にいるんだからいいだろうが!ぐっ!?……てめえらもうぜえなぁ!ジェイト組ィ!」
空気を切り裂き、疾駆する。前線は操作している味方により持ち直すはずなので、ニシヤは前線を超えて、後方に向かって走った。
前線の目がニシヤの動きに向けられるが、ジェイト組もボナビ組もニシヤに構う余裕はない。となると必然的に残るのは前線の後ろに待機して、腕を鞭状に変化させて前線を操る鞭野郎だけ。
「うっそだろ!くそはええ!悪いがお前ら!俺は自衛に入る!援護は期待するなよぉー!」
「こなくそ!さっさと片付けろよォ!」
前線とのラインを切った鞭野郎が、雄叫びをあげながら走るニシヤに向かって腕鞭を振り上げてくる。様子見なしの、全力攻撃。鞭の軌道は完全に不規則で、見切ることは難しそうだった。
そのため、ニシヤは速いと言われた足で回避に専念する。そしてオーラを足元に集め、斜め前に跳躍した。その瞬間、元いた場所で空気が破裂する。それを恐ろしいと思いながら、鞭野郎に走り寄った。
だが近づくのは簡単ではなく、むしろ鞭による攻撃が、ニシヤを遠ざける。
飛んでくる鞭は完全に凶器そのもので、所詮容易に倒せるモンスターとばかり戦っていただけのニシヤでは、避ける以上の行為は難しそうだった。だからこそ、今は回避に専念する。
無論1対1では愚策中の愚策だが、集団戦であれば、ある程度の効果は期待できた。実際、鞭を避けることのみに切り替えたことで、ジェイト組とボナビ組が衝突する前線が見えてくる。
そうすると、6対3になったことで、明確な数の優位を得たジェイト組が、かなり押しているのが見えた。状況は、確実にジェイト組へ傾いている。このままであれば、勝つのも時間の問題だった。
「ちくしょ!おいガキィ!埒が明かねえ!正面戦闘だ!」
頬の近くで鞭が過ぎ去り、空気を切り裂く。標的を叩き損ねた鞭が、ニシヤの後ろでソニックブームを発した。そしてその後、鞭の根元で舌打ちをした鞭野郎が、啖呵を切ってくる。
それにニシヤは構え、迎え撃つ準備をした。どのみち、生き残る可能性や今後のことを考えれば、どのような形でも抑え込めるのは好都合。腕の鞭を戻して、拳を構え向かってくる鞭野郎に、ニシヤもまた戦う意思を高めた。
草原の大地を鞭野郎が踏み締め、高速で近づいてくる。凄まじい加速で、その体の動きに無駄がなかった。相当戦い慣れているのだろう。職種は警護とか賞金首ハンターとか、そんなところか。
とにかく気迫がすごかった。
それから程なくして、鞭野郎とニシヤのオーラが、衝突する。
「オラァッ!」
かなり素早い"流"を伴った打撃。それはニシヤの腹に向かって放たれ、かなりの威力を発揮した。
「グッ……!」
ガードはしたものの、体重の乗ったいい打撃に吹っ飛ばされる。そしてそこからさらに、鞭による追撃がニシヤを襲った。
「お、おぉおおお!」
素早い二撃目に、思わず声が漏れる。だが咄嗟の判断で、ニシヤは懐から護身用のナイフを取り出した。そしてそれをなんとか突き出し、腕の鞭に当てる。
ギャリギャリっ、という冗談みたいな音が鳴り、なんとか弾くことに成功した。鞭だから、ナイフを当てればそこそこやれると思ったのだが。
「おおすげえすげえ。これを防ぐか。それに見ろよ。腕にちょっと傷がついちまった」
腕鞭を手元に戻した鞭野郎が、感心しながら傷を確認する。そして腕をフラフラさせ、笑った。かなり余裕そうだ。だがこちらも、鞭野郎に傷をつけたことである程度余裕ができる。
「
ニシヤは、ナイフに付いている血を採取し、それを自分のオーラに混ぜて能力の発動を宣言した。それと同時に、オーラが高まる。そして手元にその高まったオーラは結集し、何かを形作った。
「は?まじか。限定的な蘇生能力じゃねえのか」
鞭野郎の見る前で、簡易的な具現化物を作成する。それはちょうど鞭野郎の10分の1ほどの大きさで、手に収まるものだった。
そして、その具現化物が言葉を話し出す。まだ朧気なシルエットだったが、それはよく見れば人型だった。
「よ……よ……よ」
不気味な声が、人形とでも言うべきそれから漏れる。何かを言おうとしているのか、口らしき部分がパクパクと動いた。突然生まれたそれに、鞭野郎は警戒して動けない。
正確には動かない。さすがに複雑な手順もなく、血の採取だけで何かが起こることはないと思っているのだろう。実際それは正解だ。ただ待てば待つほど、能力は進行していく。
ふと、人形が口を開いた。
「よ……ヨリゲツ=ゴップルは、サヘルタ合衆国で1958年に生まれた。誕生日は4月」
鞭野郎の個人情報が人形から語られる。それは事実合っていたのか、鞭野郎──ヨリゲツが驚愕の表情を浮かべた。
「……ッ!?時限式の能力か!?さしずめ時間と共に個人情報を読み取り、その読み取った情報が一定値を超えると、何らかの能力を発動する!そしてその能力は先程の蘇生現象からして……!」
言葉を切ったヨリゲツが、先程の攻防で開いた距離を詰めてくる。そして右拳にオーラを込め、殴りかかってきた。
「さしずめお前の能力は!敵の複製体の作成!先程の蘇生は例外的な能力の使用!厄介な能力だなァ!蘇生のレベルからして条件満たせば敵の能力完全再現か!?そこからの乗っ取りも有り得るな!どう見ても操作系だからなぁ!」
ヨリゲツの右拳が唸り、ニシヤとの間にある距離を踏破する。そして当たる、というところで、その拳が引っ込められ、代わりに左の拳がニシヤに叩き込まれた。それによって、持っていたナイフを落とす。
「ッ!?」
「生憎と俺は左利きなんだよぉ!」
まだ軽いニシヤの体が、オーラを伴った攻撃に飛ばされる。だが今度は、ニシヤもほぼ完璧にガードた。それによって吹き飛ばされる距離を最小限に抑える。そこから、格闘戦が始まった。
念での戦闘では欠かせない流を伴った削り合い。言うまでもなく高度な技術が要求されるもの。それはどちらが有利というものでもなかった。
オーラ量では相当な差でニシヤが、戦闘技術ではこれまた相当な差で、ヨリゲツが勝っている。
そして純粋な念の技術は、そこまで大差はない。ならばそう簡単につく勝負ではないだろう。しかし先程までの鞭による延々と続くような戦いよりは、勝敗がつきやすいのは明白だった。
「フン!」
無数の攻撃が飛び交う中、オーラで劣るヨリゲツが勝負に出る。全体の80程のオーラを拳に集中させ、突いた。
予想外の攻撃に、ニシヤは瞠目する。
戦闘経験のなさが、顕著に現れた。
それでも純粋なオーラ量が、ニシヤを守る。咄嗟の拙い流が、ヨリゲツの全開のうち80%のオーラを相殺した。
「げぇ!?反則だろそのオーラ量は。子供だから自由時間が多くてめちゃくちゃ修行が捗ったってかぁ!?クソが!」
「そっちこそ随分アコギな商売してるじゃん!真面目に修行してたらもっと強くなれてたんじゃないの!?どうなんだよ!?」
「うるせー!その背後の複製体どうにかしやがれ!」
念でど突き合う中で、ヨリゲツがふとニシヤの背後に目を向ける。そこには、戦闘が始まるのと同時に退避させていた具現化された人形がいた。
「……ヨリゲツ=ゴップルは、21歳の時、マフィアと接触し重要物資の護衛をしていたことがある。またそれからマフィアとは長い付き合いをしている」
念のような不可思議な世界では、そういうこともあるだろう。だがボナビ組のような戦闘に才能を割り振った者なら、もっと真面目にやっていればさらに強くなれていた可能性が高い。
にもかかわらず念使い4、5年目のニシヤにやられているのは、成長の限界的な部分もあるが、おそらく鍛錬を怠ったからだ。
「クソ!うるせえぞ!ああそうだよ!軽々とマフィアに関わって陰獣様のひとりの目にかかっちまったから、抜けたくても抜けれねーんだよ!グリードアイランドの攻略急いでるのもそれが理由だ!」
その情報を恥部だと思っているのか、心理的に追い詰められたヨリゲツが色々と白状する。どうやら、マフィアにはヨリゲツのような戦闘特化の人間でもどうにもできない、恐ろしい存在がいるらしい。
同情とかはしないが、あまりマフィアには近づかないようにしよう。ニシヤは念による肉弾戦を繰り広げながら、そう決意した。そして、ある意味敵の無様な姿を見たことで、ニシヤの頭は少しずつ戦闘に適応していく。
余計な思考が排除され、流の精度が一段上がった。
「クソッ!なんちゅう頭してんだよ!普通てめえみてえなガキならもう少し同情心とかなんかあるだろ!」
「ないよ」
「チッ!それじゃもう、負けるしかねーだろがよぉ!クソォ!!」
もうやけくその域に達したヨリゲツが、攻撃の密度をあげる。本能に身を任せた念の運用で、爆発的な戦闘力を生んだ。
拳が、雨あられと降り注ぐ。だが同格に近い敵との戦闘で、ニシヤもそこそこ戦闘勘というものを会得していた。
そのためそれらの攻撃は容易にさばかれ、無力と化す。だが時折、鞭の能力を織り交ぜたような独特の打撃もあり、防御に徹したニシヤの腕は、そこそこのダメージを蓄えた。
「っつう……でもこれで俺の勝ちね」
「……あ?俺はまだ戦える……あ」
ニシヤは、ダメージを負った両腕をかばいつつ、疲弊して攻撃を一旦止めたヨリゲツから離れる。そして、戦いの最中ずっと温めておいた人形の隣に並び立った。
「クソ、でけえな。俺と同じくらいの身長か?そうなると俺と同じ能力があると?だがさすがに発までコピーできるとは思わねえ。とはいえ2対1」
「そう、詰みだよ。多分ね」
「そこは自信持てよ。俺ももう手札はねえ。終わりだ」
ニシヤが横を見ると、ヨリゲツとそっくりの人形がそばに立っているのが見える。どう見てもヨリゲツにしか見えないが、確かにニシヤが操る人形だった。
そしてヨリゲツの方に視線を戻すと、もうヨリゲツに戦う気がないのがよくわかる。丁寧に両手をあげて、降参のポーズをしていた。かと言って、見逃されるとは思っていないだろう。
何せランゲージリンクは……。
「殺せよ。ぶっちゃけ生き残ってもマフィアが怖えしな。まだガキの癖に強いお前なら楽に殺してくれるだろ。あ、ガキだからトンボの羽毟るみたいにやるのはナシな。俺もさすがにそこまでの罪は犯してねえ。クズなのは間違いないけどな」
「OK。じゃあ動かないでね。本当はハントする動物とかを使役するためのやつだったんだけど。まあここには警察もいないから仕方ないか」
すべてを諦めたヨリゲツに、ニシヤは道中落としたナイフを拾いながら、近づいていく。そして目の前にまでたどり着き、ナイフを眺めた。まさかこうも早く、人を殺すことになるとは。
「早くしてくれ」
「うん、わかった」
催促してくるヨリゲツに、了承を返す。もうここまで来れば、やることは決まっていた。
ナイフを、剥き出しの首に向かって一閃する。
ただそれだけ。
不思議と、不快感はなかった。そうするしかないから。ほんのそれだけで、ニシヤはそのまま振り切ることができた。
そして、本体が消えたことで、複製体がその本体の肉を奪い去り自分のモノにしていく。それがニシヤの能力の正体。
瞬間移動、量子もつれ。エネルギー操作、電線。そういう人間の営み。そこには摂理がありそれに従って世の中は動いている。
それと念能力は変わらない。ただ単に、個人が持ちうる可能性の中で、ルールを作り、誓いを立てる。
そしてその果てに能力を駆動させる。
ルールと誓い。
制約と誓約。念の根源。
どこまでも人本間の理屈で動く、機構。
そのうえでニシヤが敷くルールは合理的で暴力的な、勝者による支配。生命的な主権の乗っ取りというもっとも単純な摂理。
それは皮肉にも、この闘争の結末をまさに表していた。
・ヨリゲツ=ゴップル
20を過ぎた頃に関わったマフィアとの兼ね合いから、自然と裏社会との関係を深めざるを得なかったヨリゲツ。
間違いなくクズだが可哀想な奴である。GIで荼毘に付した。
カストロの考察を今後に影響ないよう変更しました。なお例によりカストロが強くなるとかそんな変更点はないです。
むしろカストロが如何に才能の無駄遣いをしていたかわかるようになっただけなようなくらい。
なんか後半AIくんが暴走してる事に気づいたので結局手動で推敲することになりそう。でも思ったより自分でも推敲はできそうです。ただその分言葉の誤用などが増える可能性はあります。