うちの庭めっちゃ猫くる。   作:じゅに

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2話目 料理上手なリスが来た。

 

 

 

 

 独り暮らしになると食事の用意が億劫だ。

 どうせ食べるのは自分しかいないのだからと、どんどん手抜きになっていく。

 

 卵かけご飯や納豆ご飯はまだいい方で、下手するとコーンフレークの牛乳抜きとかパンの耳とかトマト丸かじりで終えたりする。

 

 火を使わずすぐに食べられるものがなによりありがたいのだ。

 

 というわけで寝転がりながらサク山チョコ次郎を貪り食べていたわたしは、ふと庭にやってきたポケモンに目を丸くした。

 

「よ、ヨクバリス?」

 

 それはポケモンに疎いわたしでも知っている大型の齧歯類だった。

 

 でっぷりと太った腹。短い手足。胴体と同じぐらい逞しい尻尾。

 鼻をひくつかせながら、庭を突っ切りこちらに近づいてくる。

 畳に寝ていたわたしは、思わず身を起こした。

 

 ヨクバリスはのしのしと濡れ縁にあがり、わたしのすぐそばまで来ると、じ〜〜〜っと観察しはじめた。

 なにをって? わたしをだ。

 わたしの全身を隅から隅まで眺めている。居心地悪いことこの上ない。

 

「……あの……なに……?」

 

 尋ねると、ヨクバリスはふんす、と鼻を鳴らし、家の奥へと行ってしまった。

 なんて図々しいやつ。面倒だが後を追う。家中のものを引っ掻き回されたり、柱に噛みつかれては堪らない。

 

 ヨクバリスが向かったのは台所だった。

 ばあちゃんが使っていた台所には、今風の家電は一切ない。

 なんとガスコンロすらなく、ガチかまどである。

 

 さすがに水道はあるものの、ご飯を作るとなるとあまりに面倒な設備ばかりの風景に、しかしヨクバリスはなぜか瞳を輝かせた。

 いたく感動しているらしい。なんで? 

 

「ヂュッ」

 

 ヨクバリスは尻尾から取り出したエプロンを腰に巻き、いそいそと鍋を手に取った。

 

「え、もしかして出来んの、料理」

 

「ヂュ」

 

 何を当たり前なことを、と言わんばかりに首を振られた。そして台所から追い出された。邪魔らしい。

おいわれ家主ぞ。

 

 台所と居間とを繋ぐ上がり(かまち)に腰かけて、ぼうっと見守っていると、コリンクのリンタロウがてちてちとやってきた。

 

 わたしの唯一の相棒は、ヨクバリスの料理姿をまじまじと見つめたあと、わたしを見上げてきた。たぶんこう思っている。ポケモンが料理できるのかと。

 

 わたしは肩を竦めた。

 

「知らん」

 

 リンタロウはわたしのそばに伏せて、飽くことなくヨクバリスの背中を見ていた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 出てきたのはドリアだった。

 オーブンもないのにどうやって上のチーズに焼き目をつけたんだろう。というかこのチーズどこから持ってきた? 我が家にはなかったはずだけど。

 

 自信満々のヨクバリスにスプーンを渡され、ひとまず一口。

 頬張った瞬間、チーズの濃厚な旨みとマカロニの食感、バターライスの香りが口いっぱいに広がって、わたしは天を仰いだ。

 

 美味い。

 美味すぎる。

 

「うんまい」

 

 一言だけ伝えて、あとはガツガツ平らげた。ものを言う時間が惜しかった。

 米一粒残っていない皿を見下ろし、ヨクバリスは何度も頷いていた。会心の出来だったらしい。いやほんとに美味しかった。

 

 皿を洗おうと立ち上がったら制された。グラタン皿が下げられ、代わりにプリンが置かれる。で、デザートまで。なんなんだこのヨクバリスは。

 

 たっぷりカラメルソースのかけられた真っ黄色のプリンは、わたし好みの固めなつくりで、甘さとほろ苦さのバランスが絶妙だった。これまた一瞬で胃袋に収まる。

 

 プリンの後は砂糖だけを入れたブラックコーヒーが供された。挽き立ての豆が醸し出す極上の薫り。胸いっぱいに吸い込んで、ひと口啜る。

 

「たまらんのう」

 

 ほ、とひと息つくと、ヨクバリスがニコニコしていた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 翌朝。

 やけにいい匂いがして目覚めると、台所に目玉焼きをのせたトーストとサラダがあった。ヨクバリスがあくせく働いている。どうも、庭に来ているポケモンたちに振る舞う餌を準備しているらしかった。

 

 餌付けはやめてくれと言いかけて、口を噤む。わたしは飼いもしない野生に餌を与えることを好まない。けどヨクバリスにとって、腹を空かせた者を見捨てるほうが嫌なんだろう。それはヨクバリスの自由だ。トレーナーでもないわたしが、とくに口を挟むことではない気がした。

 

 それよりも、このヨクバリス、このまま居座るつもりだろうか。

 気になったので聞いてみた。

 

「ここで暮らす感じ?」

 

「ヂュ」

 

 ヨクバリスはこっくりした。

 ああ、そうなの。

 

「家賃代わりに毎日のご飯、よろしくね」

 

「ヂュ」

 

 ヨクバリスはにっこり笑った。

 

 日課の昼寝をしようと庭に面した部屋にいくと、灰色のネズミっぽいポケモンたちが上がり込んでいた。スマホロトムのカメラアプリを起動し、写真を撮る。インターネットで画像検索すると、チラーミィという種族であることがわかった。

 

 二体のチラーミィはわたしをじーっと見つめると、やおら部屋を掃除しだした。尻尾を使って実に器用に埃を集めていく。

 

 うーん。既視感(でじゃぶ)

 

「ひょっとして掃除してくれちゃう感じ?」

 

「ちぃ」「ちぃ」

 

 可愛らしい声を上げる。肯定らしい。

 

「おけ。気の済むまでどーぞ」

 

 わたしは掃き清められた畳の上でごろりと寝転んだ。春の日差しに照らされた庭を眺めているだけで睡魔が襲ってくる。抗うことなく瞼を閉じた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 家事を担ってくれるポケモンがこの世にいようとは思わなかった。

 

 ヨクバリスの料理の腕は確かで、何を作らせても美味しい。どこから食材を調達しているのかと思ったら、ぶっとい尻尾の中からぽこぽこ取り出していた。あの中には異次元収納空間があるらしい。すごいなあポケモンって。

 

 チラーミィたちは仲間を呼んだのか、あれよあれよと数を増やして、いまでは十数体が家の内と外を綺麗にしてくれている。庭に溜まった枯葉や雑草まで完璧に片付けていた。

 病的なまでの綺麗好き。こちらとしてはありがたい限りである。

 

 でも、ヨクバリスもチラーミィたちも、どうしてこんなことをしてくれるんだろう。ひょっとして、鍼師のじいちゃんと漢方屋のばあちゃんが昔治してやったポケモンたちが、恩返しに来てるんだろうか。

 

 わからない。

 考えても分からないなら寝るに限る。

 日記おわり。おやすみ。

 

 

 

 




シェフバリス登場。
ぽこぽけやってる時から思ってたんだ。
ポケモンにお世話されてぇな……って。
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