うちの庭めっちゃ猫くる。   作:じゅに

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3話目 風邪をひいた虫が来た。

 

 

 

 

 ごるごるごるごる。

 部屋中に薬研(やげん)を転がす音が響く。

 すり潰された薬草の匂いに、コリンクのリンタロウがぷしゅんとくしゃみした。

 

「部屋出てなよ。もーちょいかかるよ」

 

 そう促しても、リンタロウは頑としてわたしのそばから離れなかった。

 心細いんだろう。風邪をひくと弱気になるのは人でもポケモンでも変わらないらしい。

 

 リンタロウが体調を崩してもう三日になる。

 庭に来るポケモンたちもめっきり減った。どうやらこのタチの悪い風邪はかなり蔓延しているようだ。

 カンナギタウン全体が、ひっそりと静まり返っている。

 

 おかげで、漢方屋だったばあちゃんが使っていた薬研を引っ張り出して、えっちらおっちら薬を作る羽目になった。

 

 筆まめなばあちゃんは、どの症状にどんな薬草をどう使えばいいのか、ノートに完璧に纏めておいてくれた。それを見ながら調合を進めていく。

 

 やがて、丸薬が出来た。

 

「ほい、実験実験」

 

 リンタロウの口に放り込む。一瞬の間を置いて、リンタロウは全身から火花を散らした。

 

「きゅわっ、ぎゅわわわっ!」

 

「あー、言い忘れてたけど苦いよ」

 

「ぎゅるるるる!」

 

 リンタロウがこちらを睨みつけながら激しく身悶える。漢方はえてして苦い。とてつもなく苦い。その代わり効果は覿面(てきめん)だ。代償として受け入れてほしい。

 

 暴れ疲れてぐったりしたリンタロウをよそに薬を量産していく。丸薬が三十個ほど出来たあたりで、額の汗を拭った。

 

「ふぃー。たまの労働は堪えるね」

 

 とむとむ、と腰を叩く。

 リンタロウがむっくり起き上がった。口をちゃむちゃむさせた後、きゃんと一声鳴く。すっかり元気になったみたいだ。

 

「ほら、治ったでしょ」

 

 リンタロウは不承不承といった様子でわたしから目を背けた。うーん。漢方はよく効くけど好感度が下がるのがネックだわね。

 

 丸薬をまとめて袱紗(ふくさ)に包み、立ち上がる。村中を回って、風邪っぴきの人達に届けなければ。

 

「一緒に行く?」

 

「……きゃん」

 

 やや悩んでから、リンタロウはてちてち着いてきた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 わたし特製の風邪薬はおおむね好評だった。

 

「これを飲むか砂を食べろって言われたら砂を選ぶ」

「薬局で売ってたら店主を呪うレベル」

「むしろ毒って言ってくれた方が納得する苦さ」

「これが最期に口にするものだと思ったら死んでも死にきれない」

「オブラートをください」

「糖衣って偉大だね」

「薬? ほんとに薬? ちょっとした暗殺道具とかでなく?」

 

 ────などなど。

 

「これで明日にはいつもどおりのカンナギタウンだわ…………お?」

 

 家路を歩いていたわたしが足を止めたのは、郵便局の前だった。

 

 赤いポストにもたれるようにして、四角いうにうにしたポケモンが蹲っている。とりあえずスマホロトムで撮影し画像検索すると、どうやらデンヂムシというポケモンらしかった。

 

 しかし、出てきた情報と色味が違う。

 データでは緑色の体表なのに、こちらは真っ赤なボディをしていた。

 

「あんたも風邪っぴき? そんなに赤くなってめっちゃ熱あんじゃん。飲みなよ」

 

 いつもなら、野生ポケモンにむやみに餌を与えたりしないけど、病に苦しんでいるポケモンを見捨てていくのも気が引ける。ぽいっと口に放り投げると、デンヂムシは誰とも違う反応を見せた。

 

 ぴょんぴょんぴょん、とその場で飛び跳ね、ちゅきー! と鳴いたのだ。その声はどう聞いても、苦しんでいるというより喜んでいる声だった。

 

「ん? あんた苦いの平気なタイプ? やるじゃん」

 

「ちゅきちゅき」

 

 デンヂムシがずりずりと這い寄ってくる。わたしはその分後ずさった。あんまり馴れ馴れしくされたくない。わたしはこの子を手持ちに入れたいわけじゃないんだから。

 

「元気になったんならよかった。お大事に〜」

 

 ばあちゃんが言っていた挨拶を真似して、ひらひらと手を振る。それきり振り返りもせずその場を後にした。

 

 

 〇〇〇

 

 

 また庭に遊びに来ていたライコウを適当に構ったあと、畳の上でひっくり返っていると、ずりずりと何かを擦る音が聞こえてきた。

 

 寝そべったまま首を庭に向ける。さっきの赤いデンヂムシが庭に入ってくるところだった。

 

「ありゃ、辿り着いたか」

 

「ちゅき」

 

 デンヂムシはわたしを見つけると、嬉しそうに前進速度を上げた。ライコウが興味津々といった面持ちでデンヂムシを見つめている。

 やがて地面にぺったりと伏せ、お尻だけを高く上げた。あ、これは。

 

「がるっ!」

 

「ちゅぇえ!?」

 

 飛びかかってきたライコウにデンヂムシが悲鳴をあげた。あちゃあ。やっぱり猫の本能が働いちゃったか。

 すかさずリンタロウが飛び出して、ライコウにお仕置きしていた。リンタロウはこの庭のボスだ。リンタロウの言うことは絶対だし、逆らうものは庭に居てはいけない。

 

「がる……」

 

 ライコウは耳をぺったり伏せて、すごすごと退散した。さすが。リンタロウの威嚇は一級品だ。後でおやつあげようね。

 

 デンヂムシは半泣きになりながら、それでも健気にこちらに近づいてくる。とうとう濡れ縁のすぐそばまで来たので、わたしはひとまず、ここのルールを教えることにした。

 

「いーい? この庭にはいろんな子がくる。さっきみたいに襲われることもある。今回は助けてあげたけど、毎回助けられるわけじゃないからね。自分の身は自分で守って」

 

 デンヂムシがこくこく頷く。賢いな。

 

「……それにわたしは絶対にあんたたちに餌を出さない。水もね。ひもじかったら自分でなんとかするの。トイレもべつのとこで済ませて。ここにうんちとかしたら出禁だからね。おーけー?」

 

「ちゅき!」

 

 デンヂムシが元気いっぱいに返事する。

 まあ、今言ったことを理解ってくれるなら、来るのを拒む理由はない。

 

「ほいじゃ、好きにしな〜」

 

 部屋に戻ってごろんと寝転がると、デンヂムシはちゅきちゅき言いながら庭を散策していた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 カンナギで風邪が流行った。

 ちょっと苦めの風邪薬を配ったらみんな喜んでくれた。善行をすると気分がいい。

 

 帰り道に出会ったデンヂムシは、わたしの薬がいたく気に入ったらしい。ずっと追いかけてきて、とうとう庭を突き止められた。すごい執念。

 

 この地方のチャンピオンをやってる幼馴染に聞いてみたら、苦い物が好きなポケモンは賢い傾向にあるらしい。なるほど、道理で。

 

 飼うつもりはないけど、時々は薬の味見をさせてあげてもいいかもしれない。

 

 以上、日記おわり。

 

 

 




ポケモンに疎いので色違いの概念を知らない主人公。
デンヂムシ可愛いよデンヂムシ。
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