うちの庭めっちゃ猫くる。   作:じゅに

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6話目 歌好きの烏が来た。

 

 

 

 

 どこからか歌が聞こえる。

 流行りの(ナンバー)だ。

 かなり上手い。

 

 ジジババだらけのカンナギタウンでこんなに上手い人がいたなんて。

 一体どこで歌っているんだろうと、濡れ縁に出て耳を澄ましてみれば、声の主は人ではなくて庭に降り立ったヤミカラスだった。

 

「びっくりした。あんたそんなに上手に歌えるの?」

 

 ヤミカラスは歌うのを止めて、ふふんと得意げに胸を反らせた。しょっちゅうゴミ捨て場を荒らす迷惑な鳥としか思っていなかったけど、これは認識を改めねばなるまい。

 

 我が家の庭はたくさんの野生ポケモンが訪れる。今日も色々な野良がいたが、みんなヤミカラスの歌声に聞き惚れていた。

 

 わたしも座布団を濡れ縁に敷き、聴衆のひとりとなる。コリンクのリンタロウも横に座った。

 

「ね。ほかのも聞かせてよ」

 

 ヤミカラスは嬉しそうに次の曲を歌い始めた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 数日後。

 いつもどおりやって来たヤミカラスは、酷いしゃがれ声になっていた。

 

 石が擦れる音というか、痰が喉に絡みついた音というか、そういう聞くに絶えないノイズまで付いていて、あの美しい歌声は見る影もない。庭にいた野良たちはみんな蜘蛛の子を散らすようにいなくなり、いつもハモリを入れていたマギアナはボール形態に閉じこもってしまった。

 

 明らかに喉の病気だ。歌いすぎて声帯をぶっ壊したんだろう。しょんぼり項垂れるヤミカラスを見て、リンタロウはわたしに小さな電撃を飛ばしてきた。

 

 お前が何とかしてやれと言っている。

 いや、気持ちはわかるよ。

 でもさ、野生ポケモンを治すってあんまり安易にやっていいことじゃなくてさ。

 

「ぎゃう」

 

 いってぇ電圧上げてきたコノヤロ! 

 いつの間にかデンヂムシも参戦してわたしに電気を飛ばしてくる。あんたは薬のおこぼれに与りたいだけだろ苦いのスキーめ! いでっ、いでぇ!! 

 

「あーもうわかったよ!」

 

 わたしは半分キレながら、ばあちゃんの薬草ノートを開いた。

 

 デンヂムシにやるのはめちゃくちゃ甘い薬にしてやる! 

 

 

 〇〇〇

 

 

 3時間かけて、薬湯が完成した。

 ヤミカラスが飲みやすいように、竹筒に入れる。

 嘴の先に持って行ってやると、少しずつ飲み始め──すぐに「アガー!」と絶叫した。

 

 苦いよね。わかる。

 でもほら、良薬口に苦しっていうし。

 

「すぐまたいい声だせるようになっから。

 頑張れほら」

 

 有無を言わさず飲ませ続ける。

 ばたばた暴れる翼が痛い。

 ようやく竹筒が空になると、ヤミカラスは目を回してぶっ倒れた。投薬のあとは安静にさせろって書いてあったし、ちょーどいいや、ほっとこ。

 

「ちゅきちゅきぃ」

 

 デンヂムシが物欲しそうに見てきたので、砂糖をたんまり入れた方を飲ませると、こっちも絶叫してぶっ倒れた。

 ふふん。二度とわたしに楯突くんじゃないわよ。

 

「はぁ疲れた。寝よ寝よ」

 

 畳の上に寝転がり、大きく背伸びする。

 ずーっと鍋を覗きながら煮ていたせいで、腰が痛かった。

 

 

 〇〇〇

 

 

「ごあー」

 

 耳元で鳴かれて跳ね起きた。外は既にとっぷりと暮れている。壁時計に目を向けると、もう夜の七時を回っていた。我ながらずいぶん長い昼寝である。

 

「……あんた誰?」

 

 わたしの耳元にいたのは、ヤミカラスによく似てるけど、もっとずっと大きくて、威厳に溢れた鳥だった。スマホロトムで撮影し、検索する。

 

「ドンカラス……ヤミカラスの進化系……へー」

 

 ドンカラスはたっぷりした羽毛を膨らませ、また「ごあー」と鳴いた。すると一斉に庭先で「があがあ」と答える声が湧き起こる。

 

 わたしはぎょっと目を見開いた。外がやけに暗いのは日が落ちただけじゃない。数え切れないぐらい沢山のヤミカラスで埋め尽くされていたからだ。

 

 その中から、一羽のヤミカラスが進み出た。

 たぶん、庭に何度も来ていた歌好きの子だ。

 

 ヤミカラスは嘴をゆっくり開くと、朗々と歌い始めた。

 

 それは喉を痛める前より、ずっと綺麗な声だった。

 

 歌い終わると、ぺこりと会釈して群れの中に戻っていった。ドンカラスが「ごあ」と鳴く。

 

 振り向くと、わたしの手元にピカピカする石が落ちていた。

 子供の頃、無意味に集めたビー玉そっくりだった。

 

「ふは。謝礼のつもり?」

 

「ごああ」

 

 ドンカラスが頷く。驚いたことにこっちの言葉がわかるらしい。高い知能の持ち主だ。

 わたしは有り難く受け取った。

 

「また喉壊したら、診てあげるよ」

 

「ごあ」

 

 ドンカラスはにやりと笑うと、開きっぱなしの障子から悠々と飛んで行った。

 無数のヤミカラスが後に従う。

 

「仲間意識が強いんだわね、カラスって」

 

「ぎゃう」

 

 リンタロウが相槌を打った。

 

 

 〇〇〇

 

 

 喉を潰したヤミカラスを治してあげたら、いいことが二つ起きた。

 

 ひとつは、ゴミ捨て場が荒らされなくなったこと。カンナギタウンは小さな限界集落だけど、それでも毎日ゴミが出る。それが漁られなくなったのだ。ジジババたちは、毎日掃除をしなくてよくなったとすごく喜んでいた。

 

 二つ目は、音楽好きなポケモンたちがわたしの庭でコンサートを開いてくれるようになったこと。

 あのドンカラスが声をかけたのか、それともヤミカラスの声に引き寄せられたのか。どんどん数が増えて、いまやちょっとした楽団レベルだ。

 

 長い緑髪の妖精みたいなポケモンが、空中を飛び回りながら踊ったりして、庭でやっているとは思えないぐらい華やかである。

 

 こんなに豪華な催しをわたしだけで楽しむのは勿体ない。

 チャンピオンをやっている幼馴染とか、ジムリーダーをやっている父さんと弟も呼んであげよう。忙しい連中だから、いつ来れるかは分からないけど。

 

 明日はどんな曲が聞けるかな。

 楽しみだ。

 

 そんなわけで、日記おわり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ビー玉とメガストーンて似てるよね。
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