うちの庭めっちゃ猫くる。   作:じゅに

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7話目 カラーギャングがやって来た。

 

 

 

 

 その日は珍しく早起きだった。

 桜は散り、初夏とは思えない暑さがじりじりとにじりよってくる季節とはいえ、朝方はまだ涼やかな風が吹いている。おかげで気持ちよく目覚めることができた。

 

 朝食前に散歩でも行こうかな、と弾む思いで濡れ縁側の障子を開いたわたしは絶句した。

 目に映るもの全てが、ショッキングピンクのペンキに塗り潰されていたからだ。

 

「なんじゃこりゃあ!!」

 

 それはあまりに酷い光景だった。

 月に一度、丁寧に刈り込まれる生垣も、チラーミィたちが丹念に掃き清めた庭も、すべて穢されてしまっている。

 

 わたしの絶叫を聞きつけたチラーミィたちは、庭を見た途端気絶した。コリンクのリンタロウに至っては、尻尾を三倍ぐらい太くしたまま硬直している。驚きすぎた時の癖だ。

 

「ゆ……許さん」

 

 一体どこの誰がこんな馬鹿げた狼藉を働いたのか。

 絶対絶対絶対に、犯人をとっちめてやる! 

 

 わたしは、わなわな震える手を力いっぱい握りしめた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 まず始めたのは「最初に塗られたのはどこか?」を突き止めることだった。

 それが分かれば犯人ないし犯ポケの侵入経路が読める。いちばん被害の酷い庭を舐めるように見て回った。

 

 すると妙なことに気づいた。

 ピンクは二色使われていたのだ。

 どちらもどぎついカラーなのだが、比べてみると微妙に彩度が違う。ややくすんだピンクと、濃いめのピンクが、互いを潰しあうように塗られているのだ。

 

 それぞれの色味の良さを確認しあうためならこんな塗り方はしないだろう。ということは、これは単独犯ではなく、複数犯であると言えそうだ。

 

 そう思って見ていくと、犯人たちは背丈に大きな差があることも分かった。くすみピンクの使い手の方が背が高い。なぜなら、濃いピンクよりも高い位置に塗られていることが多いからだ。

 

 あちこちのピンクを指で触ってみる。乾き方にはバラつきがあった。庭の右隅は完全に乾いているのに対して、左隅はまだすこしぬっとりしている。塗りたくって間もない証拠だ。ならば犯人たちは、まだこの敷地にいるかもしれない。

 

「リンタロウ! 匂いで犯人追って!」

 

 まだ乾いていない箇所を指さしながら、わたしは名探偵のごとき鋭い指示を飛ばした。しかしリンタロウは呆れた顔で首を振るばかりである。考えてみりゃ全面ペンキまみれなんだから匂いもクソもねーわ! ガハハ! ちくしょう! 

 

 仕方ない。こうなりゃ人海戦術だ。

 

「家宅捜索すっぞ! 集まれるやつ集まれぇ!」

 

 天に向かって吠える。家にいたポケモンたちがわーっと集まった。

 

 みんなの顔をぐるりと見渡す。

 掃除中だったらしいチラーミィに、パンの香りを纏ったヨクバリス。目をぱちくりさせているマギアナと、また薬が貰えるかもとわくわくしてるデンヂムシ。歌が大好きなヤミカラスの隣で、事情をよくわかっていなそうな子犬兄弟がじゃれている。その横には白と茶色のパオジアン。みんなの後ろに、尻尾の先がピンク色の犬と、指先がピンク色の猿が並ぶ。

 

「……ん?」

 

 最後の二匹に注目すると、奴らはニッコリ笑って白いパオジアンにピンクを塗りたくった。一瞬の早業である。いかがわしい色に変貌したパオジアンが「ぐるるぁ!?」と喚いた。

 

「は……犯人確保ぉオオっ!」

 

 全員でわっと飛びかかる。

 怒号とピンクの飛沫が乱れ飛んだ。

 

 

 〇〇〇

 

 

「…………なんというか、エキセントリックなお化粧ね?」

 

 まだらピンクに染まったわたしの顔を見て、画面越しの幼馴染はおそるおそる感想を述べた。

 ぬるま湯に浸したタオルで拭き取りつつ、ジト目で反駁する。

 

「うちに来てくれたらおんなじ化粧してもらえるわよ」

 

「誰にされたの?」

 

 わたしは無言で二匹の首根っこを持ち上げた。犬も猿も、「自分は何もしちゃいませんが?」「濡れ衣です」と目をウルウルさせている。なんてふてぶてしい現行犯だ。

 

「ドーブルにタギングル……なるほど、お絵描き好きなポケモンが鉢合わせちゃったわけね」

 

 幼馴染いわく、こいつらはどっちも自分の縄張りにペンキ様の体液をなすりつけて主張するポケモンだそうで、より美しい色味を出した方が群れのボスになれるという。

 

 種族は違えど習性が似た者同士、カラーバトルが白熱して庭中が塗りたくられたのではないか、ということらしい。

 

「なんつーはた迷惑な」

 

「けど、もうやらないみたいよ? すごく満足そうな顔してるし、お互いを認めあったのね」

 

「ほんとかぁあ?」

 

 じーっと睨みつけると、ドーブルもタギングルもこくこく頷いた。

 ピンクパオジアンがすぐそばで冷気と殺気を放っているのも一役買っているだろう。

 

「……なら、掃除がんばんなさい。シミひとつでも残ってたらみんなで袋叩きにするかんね」

 

 ドーブルとタギングルはうへぁという表情で渋々立ち上がった。あんた達にその顔をする権利はないからな、まじで。

 

 

 〇〇〇

 

 

 結局、完璧に綺麗にするのに二日かかった。

 チラーミィの群れが鬼の形相で監視・監督したのもあって、ドーブルたちは二度と悪さをしようとしなかった。

 

 まあそもそも、悪いことという認識はないだろうけど。

 

 幼馴染に聞いたら、ポケモンには誰しも本能的に備わっている行動原理とやらがあるようで、それを無理に止めたりコントロールしようとすると心身に異常をきたすらしい。

 

 それらと上手く付き合ってこそポケモントレーナーなんだそうだ。大変だね世のトレーナーは。

 

 ドーブルたちがあまりに欲求不満そうにしてたので、物置から塗り絵帳を引っ張り出して与えてやったところ、朝から晩まで夢中で筆を振るっていた。どうせピンクオンリーかと思いきや色とりどりに塗っていたのでずっこけた。じゃあなんで我が家をピンクハウスにしやがったんだ。いや極彩色とかにされても困るけど。

 

 もうすぐ塗り絵帳が終わる。

 弟に買って来させよう。

 

 以上、日記おわり。

 

 

 

 




SVで最初に惚れたポケモンです>タギングル
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