うちの庭めっちゃ猫くる。   作:じゅに

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最終話 不思議な夢が来た。

 

 

 

 

 庭には白いものが降り積っていた。

 雪ではない。

 ワタッコの綿である。

 

 シンオウ地方は寒さの厳しい土地だからか、ワタッコ族が飛んでくるのは決まって四月も半ばを過ぎてからだ。

 そうしてやってきたワタッコたちは、遅れを取り戻そうと言わんばかりにこれでもかと綿を撒き散らす。

 

 カンナギタウンのじじばばたちは、これを綿日和(わたびより)と呼び、春の風物詩だと嬉しげに迎え入れるのだ。

 

 美しい綿は丁寧に集められ、半纏や布団の材料として使われるのである。

 

 それにしても、今年はその綿がやけに多い。

 よく見てみると、ワタッコによく似たポケモンたちが一緒になって綿を降らせていた。

 

「えー……と? ワタシラガにエルフーン?

 なにあんたたち、どっから来たの」

 

 スマホロトムで検索した名前で呼びかけてみるが、向こうはケラケラ笑うばかりで話にならない。

 まあ元々ポケモンと話せるはずもないのだけど。

 

「いやあ今年は豊作だぁね」

「んだんだ」

 

 道端ではじじばばたちが綿拾いに大忙しだ。

 聞けば、エルフーンの綿はもちもちしていて肌触りがよく、ワタシラガの綿はとき解せばよい糸が紡げそうだという。

 

「毎年来でぐれりゃ、ええ商売のタネになりそだの」

「んだんだ」

 

 限界集落ながら商魂たくましい。

 腰を痛めたら湿布取りにおいでよ、と声をかけて、わたしは家の中にひっこんだ。

 

 エルフーンの綿で枕でも作ったら気持ちよさそうだな、とか考えているうちにとろとろと微睡んだ。

 

 この時期は、とにかく瞼が重い。

 抗うことなく夢の世界にダイブした。

 

 

 〇〇〇

 

 

 ぽにょぽにょしたものが腹の上に乗っている。

 ゼリーというか、餅というか。

 夢うつつのまま、その手触りを楽しんでいると、ぷるぷる震えだした。

 

 ────笑っている? 

 

 うっすら目を開くと、紫色のスライムがニコニコしながらわたしを見つめていた。

 

「あー……なんだっけ、メタモンだっけ」

 

 笑みが深まった。合ってるらしい。

 

 庭に入ってきた野良ポケモンが家にまで上がりこむことはちょくちょくあるが、まさか腹に乗っかってくるとは。ふてぶてしいというか大胆というか。

 

 怒りは湧かない。

 絵に描いたようなノーテンキ顔を見せられては、怒る気力もどこかに失せる。

 

「あんたはどっから来たの」

 

 むにょん、と頬とおぼしきあたりを引っ張る。

 どこまでも伸びる。なかなか面白い。

 

 メタモンは答えた。

 

 ──分からない。気がついたらここだったの。

 

 わたしはおや、と訝しみ、すぐに納得した。

 なるほどね。これは夢の中なんだ。

 だからポケモンと会話ができる。

 

 世の中の多くの人が、ポケモンと話ができたらと夢想するらしい。わたしには理解できない願いだ。人間と話すのだって疲れるのに、ポケモンとも話せてしまったらますます疲れてしまう。

 

 そこそこに分かり合えてそこそこに理解不能なぐらいが、丁度いい。

 

 メタモンが言う。

 

 ──ニンゲンがね、居なくなっちゃったの。

 

「居なくなった? あんたのトレーナーが?」

 

 ──ううん。

 

 メタモンはそっと俯いた。

 

 ──ニンゲンが、どこにもいないの。

 

 わたしは無言で頭を撫でた。

 言ってることはよく分からない。

 人間なんかどこにでもいる。

 それがひとり残らず消えるなんてありえない。

 きっとこの子は、人類が消える怖い夢でも見たんだろう。

 

「そっか。そのうち帰ってくるんじゃん?」

 

 根拠のない励ましを贈ると、メタモンはぱっと瞳を輝かせた。

 

 ──ほんと? ほんとに帰る? 

 

「帰る帰る。あんたみたいな子、トレーナーだったらほっとけないよ」

 

 メタモンはくすくす笑った。

 

 ──早く帰ってこないかなあ。いつでも帰ってこれるようにね、道も直したしお家も建てたし、お花もたくさん咲かせたんだよ。

 ポケモンたちもいっぱい戻ってきたの。

 

「へえ。やるじゃん」

 

 ──いつ帰ってくるかなあ? 

 明日かな、明後日かな。

 

「それはわかんないけど、いつか必ず帰ってくるよ」

 

 ──楽しみだなあ。

 

 メタモンがぺっちょりとわたしの腹の上に伏せた。

なんとも言えない、生暖かい感触がむず痒い。

 

 だけど振り落とすのはなんだか気の毒で、わたしはそのまま二度寝をキメた。

 夢の中でも眠ることを、さて、なんと言うんだったか。

 

 考えていくらも経たないうちに、深い眠りに引きずりこまれた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 不思議な夢を見た。

 

 人類が消えたと嘆くメタモンとお喋りする夢だった。

 

 わたしは、ポケモンを飼うことにどうしても抵抗がある。

 豊かな自然のなかでのびのびと暮らす方が、ポケモンにとってよほど幸せだと思うからだ。

 

 コリンクのリンタロウは、子供のころ何の考えもなしに捕まえてしまったけれど、いまなら絶対に同じことはしないだろう。

 

 いまでも不意に、リンタロウに申し訳なさを感じることがある。わたしの幼稚な行いで、この子の幸せを歪めてしまったのじゃないかと。

 

 ところが、夢にでてきたメタモンは、人間に会いたがっていた。

 とても、とても、寂しがっていた。

 

 …………ひょっとしたら、人間がポケモンを好きなのと同じくらい、ポケモンも人間を好いてくれているんだろうか。

 

 人間に捕らえられ、育てられることに、窮屈さよりも喜びを感じているんだろうか。

 

 もちろん、個体差はあるだろうけど。

 

 もし、リンタロウもそう感じてくれていたら。

 

 わたしは、結構、いやかなり、嬉しいかもしれない。

 

 夢と違って、現実では喋れないのが残念だ。

 

 ワタッコたちの綿で、クッションでも作ってあげよう。

 

 以上、日記おわり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日は、どんなポケモンが来るのかな。

 

 

 

 

 

 




やろうと思えばポケモンの数だけ書けそうですが、長編の更新が滞ってるので一区切り。
ふと思いついたネタに感想や高評価いただけでとても嬉しかったです。
ラストはぽこぽけのメタモンで締めようと思ってました。

お付き合い下さりありがとうございました。
みなさまも良きポケライフを。
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